とんでもクロスですが、読んで楽しんでいただけると嬉しいです。
一応、週一投稿ぐらいを目安にしていますが、諸事情で不定期になったり間隔が空くかもしれません。
そうならないように頑張るつもりですが、そうなってしまったときは温かい目で見ていただけると嬉しいです。
では、どうぞ。
目の前に光が迫ってくる。
私を…私たちを解放してくれる光だ。
それが近づいてくる中、二つに分かれてしまった身体同士で目を合わせ、私たちは軽く微笑んだ。
ふと、迫ってきている光の後ろ…弟が乗っている機体に目が行った。
ここから見えるわけがない。それはわかっているのだが、何故かあいつが大泣きしているのがわかってしまった。
(大きくなっても相変わらず、泣き虫な奴だ)
死がもう目の前に迫っているのにそれがおかしくて…それ以上に自分たちのために泣いてくれるのが嬉しくて。
『ありがとう、ドモン…』
ほぼ同時に二人でそう呟くと、私たちは光に飲まれて消えていった。
そして私たちは…『キョウジ=カッシュ』と『シュバルツ=ブルーダー』はその生涯を終えた…はずだった。
時間も空間も異なるどこかの地球。
マナという万能の力がほぼ全ての人に備わり、その力を持たない極少数の人間は『ノーマ』という詐称で差別され、『人間』を護るために異世界からの侵入者であるドラゴンと否応なく殺し合いをさせられる…そんな歪んだ世界のノーマたちの唯一許された生存場所…アルゼナル。
生憎の雨が朝から降り注ぐその日、そのアルゼナルの総司令官であるジルは目の前のモニターに映る資料に目を通していた。
「これが、今日来る新入りですか。監察官どの」
「ええ」
話を振られ、監察官ことエマ=ブロンソンはかけている眼鏡を上げながら首肯した。このアルゼナルでの唯一の『人間』である。
「アンジュリーゼ=斑鳩=ミスルギ。ミスルギ皇国出身、十六歳…か。ミスルギは今頃天地が引っくり返っているでしょうな」
「ええ。ミスルギ皇国という国自体が滅亡の危機らしいです」
「それはまあ…予想通りというか何と言うか…」
頭をガシガシと掻きながらジルはタバコを咥えると火を点けた。
「ま、仕方ありませんよね。皇族からノーマが出たんですから」
「…ですな」
一瞬言葉に詰まりながら、ジルはエマの言葉に同意した。しかしすぐに頭を切り替え、
(こいつが我々が待ち望んでいる『モノ』だといいんだがな…)
と、一方的な期待を寄せていた。何にしろ『お客さん』が来るまではまだ暫く時間がある。今のところドラゴンの侵攻もないことだし、少しゆっくり出来るか…。
そんなジルの考えを嘲笑うかのように、突如警報が鳴り響いた。
「何事だ!」
「基地周辺に次元震反応!」
彼女たちが居る司令部のオペレーターの一人、パメラがそう反応した。
「奴らか!?」
「いえ、シンギュラーの反応ではありません! しかし何かが…」
「来ます!」
もう一人のオペレーター、ヒカルがそう告げた直後、アルゼナル全体を大きな振動が包んだ。
「な、何!? 何!?」
「くっ、震源はどこだ!?」
パニクるエマを尻目に、ジルは情報を求める。
「座標特定…裏口の砂浜付近です!」
オペレーターの最後の一人、オリビエの報告をを聞くとジルはすぐさま通信用のマイクを手に取った。
『司令官のジルだ、総員聞け。今の振動は何かが落下してきたことによるものらしい。落下位置はアルゼナル裏口の砂浜とのことだ。こんな天候の中ご苦労だが、座標位置近辺の者は数人で確認に向かってくれ』
矢継ぎ早にそう指示を出すと通信を切り、振動で落としてしまったタバコの代えを咥えるとすぐに火を点けた。
(一体何なんだ)
原因不明の振動の理由に思いを馳せながら、ジルは紫煙をこゆらせた。
「…しっかし、見れば見るほどわけのわからない機体だねぇ」
雨避けの簡素なレインコートを羽織りながらゾーラは呟いた。
あの直後ジルからの司令を受け、座標位置の近辺にいた職員数人が用心しながら確認したところ、遠目から黒いパラメイルと思しき機体を発見。その報告を受けたジルは彼女たちを退かせ、改めてパラメイルの一個中隊であるゾーラたち第一中隊を派遣したのである。
場所が場所だけにパラメイルを禄に展開できないため、彼女たちは白兵戦の装備を用意して注意深く少しずつ目標に近づき、そして今ようやく目標付近に到着して調査を開始したのであった。
「ここでクイズです! この機体は何なんでしょうか?」
「それを調べるために来たんでしょ、ヴィヴィアン」
「あ、そーだった」
「ったく…」
やれやれといった感じでヒルダが額に手を当てた。
「…でも、本当に何なんでしょう。こんなパラメイル、見たことありませんよ」
「さあねえ。そこらへんの調査はメイたちに丸投げするしかないだろうねぇ」
エルシャに答えるゾーラの脳裏に浮かんだのは、自分たちの機体の整備に奔走する幼いながらも超一流のメカニックの姿だった。実際、餅は餅屋である。機械に関してわからないことは彼女たち整備班に任せるのが一番適切であった。
「な、なあ。あれ、いきなり動いたりしねえよなぁ…」
「こ、怖いこと言わないでよぉ…」
遠巻きにおっかなびっくりといった様子でその機体を見ているロザリーとクリス。と、
「隊長!」
『ヒッ!』
恐怖を感じていたからか、いつも聞きなれているサリアの声に驚いて二人は軽く悲鳴を上げてしまった。サリアは一人皆から離れてこの機体の周囲をグルッと一回りしていたのだが、
「どうした? 副長」
「こっちへ来てください!」
「あぁん…?」
珍しく切羽詰ったような声を上げるサリアに、急いで彼女の元へと向かうゾーラを始めとする第一中隊の面々。そう距離は遠くないからすぐに合流できた。
「どうした?」
ゾーラが訊ねる。すると、
「あの…あれ…」
と、近くの砂浜を指差した。サリアが指で指し示した先をゾーラ以下の全員が目で追う。するとそこには、ある意味この機体以上の衝撃的な『モノ』の姿があった。
「はぁー!?」
「ほえー…」
「あらあら」
「な、なあ、あれって」
「う、うん」
隊員たちが『それ』に向かって思い思いの感想を上げる中、ゾーラだけは一人冷静に呟いていた。
「男だと…」
そう、そこには気を失って倒れている男の姿があった。その、ここではありえない状況にさすがのゾーラもすぐには動けずに遠巻きに見ている。
そんな状況下にあるなどとは男は知る由もなく、ピクリともせずにただ冷たい雨にその身を打たれていた。
彼女たちは知らない。知るわけがない。
その機体の名が、とある世界で『ガンダムシュピーゲル』と呼ばれていたことを。
男の名が、そのとある世界で『シュバルツ=ブルーダー』という名だったことを。
知る由もない。
そしてこの出逢いが、本来これから彼女たちが辿るべき運命をどう変えていくのか。それこそ誰も知っているはずがなかった。