Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「お、お姉様っ……あーん、してください……!」
「あ~ん♪ んー、美味しい!」
「そ、そうですか。これは私も好きな料理なんですよ」
イライライライライライラ……………
調子乗ってくれちゃって……どうしてくれようかな。
そうだな……彼女の料理にさりげなくタバスコでも振りかけてみようか……それともスープに死ぬほどはちみつを溶かし混もうかな……
もちろん彼女――エリーちゃんもそれくらいの覚悟があってアリサに近付いてるんだよね?
……もう、別れちゃったけど……それでも別れたことは皆に言ってない。
だからエリーちゃんはアリサがフリーになったからモーションをかけてるんじゃない。僕から奪い取るつもりなんだよね……?
……泥棒猫は毛皮を剥いで三味線にしようかな……
「ふふ、ふふふふ……!」
「しゃ、シャルロットさん? な、なにか面白いものでもあったんですの?」
声につられて振り返ってみればセシリアがいた。
ん? セシリア、どうして僕の顔を見て怯えたような声を出すのかな?
「別に? ただ、アリサが可愛いなぁってね……ふふっ」
「そ、そうですの……それなら直接言ってあげればよろしいのではなくて?」
「……うん」
僕も……言いたいよ。
でも、僕がアリサを好きだって気持ちは、僕のことを好きじゃなくなっちゃったアリサにとって重荷になるから……
アリサが嫌がることは……したくないんだよね。
どうして、別れちゃったのかな?
やっぱり、アリサの理想に僕が追い付けなかったから?
それとも、僕がアリサのことを怒っちゃったからかな……僕がアリサを恨んでた頃を思い出して、冷めちゃったのかもしれない。
どうしてアリサを恨んじゃったんだろう……転校してくる前にアリサがやったことを中途半端に調べたから……もっとよく調べてれば……父であるあの人に聞いてみていれば……
でも、そうしなかったから……見当違いな恨みをアリサに向けて、アリサが苛められても気にしないで……むしろ喜んで……あのときのことがなければ、今もアリサと付き合えてたかもしれないのに。
「因果、応報……かぁ」
人になにかをすれば、それが良いことでも悪いことでも自分に返ってくる。アリサを恨んだから……今度は僕が嫌われたんだね……
エリーちゃんと仲良くしているアリサを見ているだけで心がきゅうっと……痛いくらいに縮む。
僕に恨まれていたときのアリサは……もっと辛かったのかな……?
……好きな人に目の敵にされてたんだから当たり前だよね。
でも、僕なら……アリサに嫌われててもいいから、僕に対してだけの感情を向けてほしいかもね。
例え、大嫌いっていうものでも……
「今日は目も合わせてくれないからな……」
気まずいんだろうけど……友達としての付き合いもできなくなっちゃうのかも……
でも、アリサに無理をさせたくないし嫌がることをしたくないから……アリサから近付いてきてくれるまでは何もできないよ……
自分から友達みたいに話しかけるなんて……別れたことを認めちゃうみたいで怖い。
僕は別れたくなかったのに……どうして……
「僕たちは好き合えてなかったの?」
あの時、アリサが友達に戻りましょうって言ったときに理由を聞いてれば……こんなに引きずることもなったのかも。
それを教えてくれれば僕だって変われるように努力するのに……でも、アリサが理由を言わなかったってことは、きっと言いたくなかったことがあったからなんだと思う。
僕かアリサが傷つくことだから……
僕が傷つくことなら別に構わない。そんなことがどうでもよくなるくらいアリサが好きだから。でもアリサが傷つくのはいやだから……だから聞けなかった。
……僕が自分で理由を見つけないと。
「お姉様……」
「なんですか、エリーちゃん?」
アリサは……エリーちゃんを受け入れてるみたい。人見知りなところがあるのに初日から一緒に仲がよくなってた。
……エリーちゃんはアリサのことをどう思ってるんだろう。
普通に姉的な存在として見てるの?
それとも……好きなの?
僕の時はすごく時間かかったのに二人はすぐに距離が近付いてて……アリサ、ドイツに行っちゃったりしないよね?
デュノア社を守ってくれるって言ってたもんね……?
「嫌だな……」
アリサを引き留めるために、他のものを理由にするなんて……アリサには、僕がいるからフランスにいるって思っててほしい。
◇
……シャルロット・デュノアもこちらのことを少しは気にしてくれているようですね。
お姉様と話すのは楽しいので目的を忘れそうになりますが、これは作戦なんです。お姉様と仲良くしているところをシャルロット・デュノアに見せ付けて嫉妬心を煽り行動を起こさせる。
そうすればお姉様も誤解をしていたことに気がついてシャルロット・デュノアの手を握るでしょう。
いろいろありましたがドイツ旅行の終わりには皆に幸せを感じてほしいです。
シュヴァルツェ・ハーゼの隊員にも、IS学園からきた代表候補生にも……もちろんお姉様とシャルロット・デュノアにも。
そして、帰ってしまったあとにドイツが楽しかったと言ってもらえば、それが私の――
――――私の、幸せ?
そんなのが、私の幸せ……?
い、いえ……なにを考えているんでしょう。どうせ私はこの基地から出られないのですから私の幸せなんてどうでもいいんです。
大事なのは私と関わった皆が幸せになること……そう、今はお姉様が再びシャルロット・デュノアの隣で笑えるようになればいいんです。
「それが、私の幸せのはずです…………!」
「エリーちゃん? どうかしましたか?」
「い、いえ……気になさらないでください」
私の役目はお姉様とシャルロット・デュノアの間にある誤解を解くことだけです。
余計なことは考えてはいけません。
「それを言うのは、気にしてることがあるって……いえ、気にしてほしいってことになりますよ?」
「そ、そんなことは……」
私の、ことなんて……どうでもいいんです。お姉様の幸せが、私の幸せです。
例え……お姉様から遠く離れていても……私の近くにお姉様がいなくても、シャルロット・デュノアと一緒にお姉様が幸せなら……
「そんなの……嫌、です……!」
「エリー、ちゃん……?」
嫌です……
私の近くにはお姉様がいてほしい……誰よりも近くで笑っていてほしいです。
基地から出られない私に外のことを教えて欲しい……
遠くで幸せになられても……私は幸せになれません。お姉様が近くにいないと寂しいままです。
お姉様の優しい声も、抱き締めてくれた体温も……失いたくないです!
もう、独りなのは嫌なんです。
私に優しくしてくれるのはお姉様だけだから……私が優しくできるのはお姉様だけだから……シャルロット・デュノアなんかに、お姉様を渡したくないです。
「お姉、様」
「はい?」
……酔っている時のお姉様はなんでも言うことを聞くそうです。今なら……お姉様を手に入れられます。
だから……だから…………
「お姉様、座ってください」
「ん? うん……」
少し、訝しげにされましたが……酔っているなら平気なはず。
……ごめんなさい、皆さん。
私のせいで作戦は失敗に終わります。
……ごめんなさい、シャルロット・デュノア。
あなたからお姉様を奪います。
ごめんなさい、お姉様。
……もう、シャルロット・デュノアと仲直りすることはさせません。
「お姉様、私のこと、好きですか?」
「はい、好きですよ?」
「妹のように……ですか?」
「はい。エリーちゃんも私のことわお姉様って呼んでくれますし」
「私も、本当のお姉様のようにお慕いしていると……思っていました」
「え……?」
お姉様のキスが怖くて突き飛ばしてしまったから、私はお姉様に恋愛感情を覚えているわけではないのだと思いました。
私は純粋にお姉様のことが気に入っているのだと…
「お姉様、もう一度、言わせてください」
「え、エリーちゃん……」
「私はお姉様のことが好きです。お姉様が真っ当な人間として愛されるのが嫌なら造られた私があなたを愛します。全て、お姉様の望むようにしましょう。だから、シャルロット・デュノアのことを忘れて……私を愛してください……」
あとは、このままお姉様にキスを……
がしっ
◇
……はぁ、やっぱりこうなるのね。
このままエリーが自分の気持ちに気付かなければ、と思ってたけど無理があったか……
……どうして自分がアリサを助けたいか。それに気付いたのね。
普通の友情とか親愛とかだったら出逢って一日の相手にここまでしてあげようとは思わない。
一目惚れ……アリサも罪な子だわ。
「まぁ、こうなることを予想してた私も私だけどね」
アリサに告白してキスを迫ったエリー……酔ってるアリサ相手なら拒まないこらこれで決着ね。
……酔ってるアリサなら。
「お姉様……?」
「ごめんなさい。私は嘘をついていました」
キスをしようと顔を近づけたエリーをアリサが止めた。
…………だって、アリサは素面だから。
私がアリサに全部話して、それでもシャルロットとアリサの間に誤解があることを認めたがらなかったから……本当のことが知りたかったら酔ってるふりをしなさいって伝えたの。
こうならなければいいと思ってたけど……結果的にエリーは気付かない方がよかったことに気付いて、シャルロットはアリサに試されてたということを知った。
……アリサのせいで。
そして、一番傷付いたのはエリー。
アリサとシャルロットは喧嘩をしないはず。シャルロットは短絡的じゃないし……多分、試されたことを怒るよりも先に話し合うはずだから。
でも、エリーの方はどうかしら。
「嘘を……?」
「はい……私は、酔っていません」
本当にアリサを酔わせてればエリーは傷付かなかった。
それ以前にアリサを殴ってでもシャルロットと仲直りさせてればこんなことにもならなかった。
エリーが自分の気持ちに気付いちゃうのは予測できたから……だからアリサを酔わせなかった。
でもエリーが自分の力でアリサを幸せにしたいって言ったから……それを叶えてあげたかった。
もしかしたら、私はエリーに気付いてほしかったのかもしれない。
恋は素敵だから……ここに閉じ込められてるって言ってもいいエリーに、それだけは知ってほしかったのかも。
どっちにも優しくしようとして、結局皆を傷付けた。
「はぁ……分かってましたよ、お姉様。もうちょっとだったのに……」
「え?」
ん?
「もう……あと数秒、お姉様の反応が遅ければシャルロット・デュノアが動いたはずだったんですよ? ……まぁ、私も少し感情を込めすぎましたかね」
「ほぇ?」
「ですよね?」
エリーがシャルロットに問いかけると……
「な……え、あれ? ……え?」
「お姉様はまだあなたのことを愛しています。今朝方のは別れの言葉にも聞こえますが……本当はあなたに嫌だって言ってほしかったのではないでしょうか?」
あれ?
「そ、そうなの?」
「いや、あの、私は……」
あー……れ? この子の方が一歩上手だったのかしら?
しっかし、よくアリサが酔ってないって分かったわね。私から見てもアリサの酔ったフリは見事だと思ったんだけど。
「そうですよね、お姉様? それなのに身を引かれてしまったから……」
「ぼ、僕は、アリサが嫌がることはしたくなくて……」
「分かってますよ。ただお姉様も勘違いしてしまって……ね、お姉様?」
「えと、その……はい」
おぉー。見事に納めたわね。
これって結局作戦どおりってことになるのかしらね?
シャルロットは嫉妬したわけだし唯一の問題だったシャルロットがアリサのことを許せるかってのもエリーが上手くやってくれたし。
「これで、お二人とも仲直りですね?」
「う、うん……」
「はい……」
「ではキスでもしたらいかがでしょう? 皆、心配していたんですよ? ですから仲直りしたってことを示すために口づけを」
「「…………」」
う、うわー。もうここからはただの悪戯よね。
……まぁ、一件落着ってことでいいのかしらね?
「さーて、私はラウラとの勝負に勝たないとね」
一夏はどこ行ったのかしら。