Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
どの二人のことなのかはご想像にお任せします……
十日ぶりでごめんなさい・・・
今回はシリアスに見せかけたただの笑い話です(
「はぁ~……スッキリしました」
「したねぇ」
大臣さんとの会合のあと、軽くお湯をいただき、今はシャルと並んでマッサージチェアに座ってのんびりしています。
私たちの目の前では鈴ちゃんと篠ノ之さんが卓球をしています。その向こうで織斑君はお茶をすすり、そのすぐ近くでセシぃとラウラさんがビリヤードをしています。
いえ、温泉旅館じゃないです。シュヴァルツェ・ハーゼのためのプレイルームです。
なんでも大臣さんが日本の温泉旅館が大好きなのだとか……まぁ、どうでもいいことですけどね。
「というか、アリサ?」
「はい? どうかしましたか?」
「いや、えっと……ね? わざわざ同じお風呂に入ることはなかったと思うんだけど……」
「入れたじゃないですか」
「うん、入れたけど……うぅー」
「シャル? のぼせちゃったんですか? お顔が真っ赤ですよ?」
なんて。
部屋についていたバスタブは一人で入るには十分な広さがありましたが、二人で入るのはギリギリでした。
つまり、不可抗力的に……さらに言うならば合法的なシャルのスベスベな素肌の感触を楽しませてもらったのです。
シャルはすごく恥ずかしがっていましたが……だって、離れたくないんですもん。
「シャルは、私と一緒にいたくない時間はありますか……?」
我ながらズルい質問です。
私がシャルに同じことを聞かれたら答えはひとつでしょうし、シャルもきっと同じでしょう。
さぁ、シャル!
早く私にいつでも一緒にいたいと聞かせてください!
「うーん……トイレとお化粧中は嫌かも?」
「あぁ……確かにそうですね」
思わず納得しちゃいました。
って違います!
私、こんなのじゃなくてもっと……えっと、なんていうか……そう! 聞いてる人が恥ずかしくなるような会話をしたいです!
…………よし!
「シャル」
「うん?」
「あいらぶゆーです!」
金糸のように煌めく髪の毛も、ちょっと垂れてる目も、紅い唇も、もちろんその綺麗な心も全部まとめて大好きです!
好きな人に好きって言えて、受け入れてもらえるのって、とても幸せなことですね……
「ふぁい!? ……あ、いや、うん。僕もアリサのこと、好きだよ?」
「相思相愛ですね! ……ちゅーしませんか?」
「っ~~!? も、もう! ……目、瞑って?」
顔を真っ赤にして叫ぶシャルに私は素直な態度で目を閉じて顎を上げます。
ん~
ちゅっ
「えへへ……♪」
「もう……恥ずかしいなぁ」
「私も照れちゃいます」
よーし、今度は私から……
すこんっ……ばごんっ!
キスをしようとしたら私とシャルの間をなにかが通りすぎて壁を破壊しました。
「って、みゃぁああああ!?」
そのなにかが飛んできた方向を振り替えった私が見たものは赤や黄色、青に緑といったカラフルな球体。一色で塗りつぶされたものと白色のラインが描かれているそれは間違いなくビリヤードの球です。
叫びながらもなんとか全てを防ぎましたが……
「あ、危ないじゃないですか!? ラウラさんですか!? それともセシぃですか!?」
「わたくしですわ。強く打ちすぎたのかもしれませんわね」
「私は手が滑っただけだ」
「両方とも!?」
わ、私とシャルの愛の語らいを邪魔するなんていい度胸です……ここは私自ら彼女たちを教育、
「あぁ、そうだ、私を騙したお仕置きしてなかったわね」
「鈴ちゃん!?」
「ほれほれ」
「あぅ!?」
マッサージチェアに座った状態で両足を持ち上げられてしまい身動きがとれなくなりました。
……って痛い痛いです!
そんなに人間の腱は伸びな……うみゃぁぁああ!
「痛いです! 鈴ちゃ、筋、切れちゃ、」
「お風呂上がりのストレッチよ? さらに……」
ぽちっとな。
鈴ちゃんがマッサージチェアの設定を変更しました。
『背中・指圧・最強』
ちなみに私の足はいまだに鈴ちゃんに持ち上げられ、筋が痛いです。前屈を無理矢理させられているような状態とでも言えばいいのでしょうか?
そして、その痛みから逃れようと、私は背中をできる限り椅子に押し付けているわけで……
うぃんうぃんうぃん……ゴリゴリゴリゴリ
「みぎゃぁぁああ! 痛! 強すぎ……! というかツボじゃなくて骨! 骨押されてます!」
「そー、ゆっくり骨休めするのよ?」
「これ、休まるどころか骨折れちゃぅ……」
機械のボコボコが容赦なく私の背中を押し、潰し、抉ります。
い、言いすぎだって、思うかもしれませんけど……わ、私だって痛いものは痛いんですからね!というか、ま、まだやめてくれないんですか……? 私、泣いちゃいますよ……?
……そうですか、やめてくれないんですか……もう、いいです! こうなったら最終手段です!
「できればこれは使いたくありませんでした……!」
「アリサ、いったい何する気よ!?」
「……ふふ、鈴ちゃん知ってますか? 最近のマッサージチェアには、リクライニング機能がついているんですよ……!」
按摩椅子流秘技! 『倒す』ボタン!
…………あれ?
『倒す』ボタン!
……え、なんで?
なんで反応してくれないんですかぁ……!?
もう、痛いんですから許してくださいよぉ。
「アリサ、ごめんね」
一心不乱に『倒す』ボタンを押していた私にかけられた甘い声に耳を疑います。
今の声は……
「シャル? ……もしかして、裏切ったんですか……?」
「今回だけね……」
シャルの右手にはマッサージチェアの操作パネルのコード。その先端部分が握られていました。
コードが本体に繋がっていないなら、リクライニング機能が反応しなかったのも不思議ではありません……でも、どうして……?
さっきだって、互いに想いを確かめあったばかりじゃないですか!
「なのに、どうして、」
「も、もう……照れちゃうからそういうこと言わないでよ! ……じゃなくて、僕だって、怒ってるんだからね!」
「……え?」
私がシャルを怒らせた……?
まったく思いあたる節がありませんよ?
……というか、シャルだって現状赤い顔をしているわけで怒っているようには見えないのですが。
「えっと……なんで怒ってるんですか……?」
「う、うぅー! 来て! リンもいつまでアリサで遊んでるの!」
「わわ!」
「ちょっとシャルロット!?」
……あれ?
もしかして私だけじゃなくて、鈴ちゃんにも怒ってます?
んー……ますます分かりませんが聞いてみるしかなさそうですね。
このまま嫌われちゃうのは嫌ですから。
「シャル……? あの、本当にどうして怒っているんですか?」
「いいから、来て」
「ぁ……」
シャルは振り返りもせずに私の腕をぐいぐいと引っ張っていきます。
……自分で考えろってことですか?
えっと、少なくとも今現在、私がシャルに嫌われているということはないはずです。
しかも鈴ちゃんに対しても怒ってるとなると……うーん、やっぱり全然分かりませんね。
「あ、もしかして私と鈴ちゃんがじゃれあっていたからですか?」
嫉妬だなんてそんな……えへへ。
もー、シャルってやっぱりすごく可愛い女の子です!
もう大好き!
一生離してあげません!
「違う」
「あれ?」
……嫉妬、してくれてないんですか?
それはそれで、すごく寂しいです……
「あ、でもでも、それだけ信頼されているって、」
「真面目にして!」
失敗です……怒鳴られちゃいました。
でも、本当にシャルが怒ってる理由が分からないんですもん。だから、せめてシャルに笑ってほしいなって……別に、誤魔化そうとかは思ってないんですよ? 本当ですよ?
だって、我慢させるより怒ってもらえる方が嬉しいですから。いえ、マゾとかじゃないです。どちらかといえば……とか、そんなのはどうでもよくてですね。
本当、どうして怒られているんでしょう?
「アリサ、入って」
「は、はい……」
鈴ちゃんとシャルの部屋に通されました。
こう、正式に恋人同士となると相手の部屋に入るのにもドキドキしちゃいます。
……違う部屋にしていてよかったと思いました。同じ部屋で寝るなんて、ドキドキしすぎてきっと心臓が疲れちゃいます。
「……いきなり怒鳴って、ごめんね?」
「へ? あ、いえ……理由があるんですよね……?」
「うん」
部屋の中央に備え付けてある丸テーブルに紅茶が注がれたカップが二つ向かい合わせに置かれます。
……隣り合って楽しく話すような話じゃなくて、真正面を向いて話す真面目なことなんでしょうか……?
も、もしかして、将来のこととかでしょうか?
私たちは全うな方法では子供が産めませんし、養子のこととか……あとは結婚自体の娘ともそうですよね。
フランスでは残念ながら同性婚は認められていませんから……婚姻関係より権利が制限されるPACSはありますけどね。
でも養子ももらえないんですよね……いっそのこと二人で孤児院を始めるのも、
「なんで、ラウラの邪魔をするの?」
「へ?」
「へ、じゃないよ……アリサは、ラウラが一夏のこと好きなの知ってるよね?」
「もちろんです」
「じゃあ、どうしてラウラを応援してあげないの? 友達なのに……」
あぁ……こういう話だったんですね。
シャルは、ラウラさんと同じ部屋ですから相談を受けたりしているのかもしれません……ちょうど私と鈴ちゃんみたいに。
そして、シャルはラウラさんが織斑君と付き合えたらいいと思っているのでしょう……
「……じゃあ、逆に聞きますけど」
「なに?」
私から反論があるとは思っていなかったのかもしれません。シャルは少し面食らったあと、キッと顔をしかめました。そんな表情も素敵です。
……もしかしたら、シャルと喧嘩することになるかもしれませんけど、でも、シャルが気付いていないのなら言ってあげないといけません。
「どうして、シャルは友達である鈴ちゃんや篠ノ之さん、もしかしたらセシぃもですが、その三人のことは応援しないんですか?」
織斑君はなんと四人から好かれています。だらしのない人ですね。
……シャルの言い分では、その四人すべてを均等に応援しなければいけません。ですが、そんなの逆に不誠実です。
「そ、それは……ラウラは、自分がしたいことをしていいのかって悩んでるから……」
「と、いうと?」
「その、ラウラってなんていうか……その……生まれ方が……」
「はい」
生まれ方が特殊……つまり、ラウラさんが試験管ベビーであることをシャルは言いたいのでしょう。
シャルは優しすぎるので、そういうことを口に出して言うのを嫌がります。なので、シャルが言わなくていいように、理解したということだけを短く伝えました。
「それで、ラウラは真っ当な人間じゃない自分が一夏に恋をしてもいいのかって……一夏の迷惑になるんじゃないかって不安に思ってるの」
「まぁ、試験管ベビーとして
「アリサ! ……そういうこと、言わないでよ……」
「……ごめんなさい」
……でも、事実です。
きっと、ラウラさんが言っているのもそういうことなのではないでしょうか?
仮にラウラさんが織斑君と生きることになって、自分が実は酷く短命であることが発覚したりしたならば……それは、好きな人の時間と気持ちを、無駄に浪費してしまったと考えるかもしれません。
……私以外を選んでいれば、もっと幸せな人生だったのかもしれないのに……というように。
「ラウラがそんなこと気にしてるんだから……幸せになってもいいって教えてあげないと……」
「だから、鈴ちゃんじゃなくてラウラさんを応援して……ですか?」
「そ、そうじゃないけど……」
「……シャルの希望は、叶えたいです。でも、私は鈴ちゃんにも好きな人と一緒になる幸せを知ってほしいんです。最初から一人しか幸せになれないなら、私は鈴ちゃんに幸せになってほしいです」
「アリサ……」
私の決意も固いです。
こればっかりはシャルにも譲れません。だから……
「シャル、クラリッサさんはラウラさんを応援しています……詳しくは、彼女に聞いてください」
「え?」
「ドイツにいる間は……私達、敵対関係かもですね」
ニコッと笑いかけてから部屋を出ます。
私にとって鈴ちゃんは一番仲良しのお友達で、シャルにとってのラウラさんもそうだっただけ。
少し、楽しくなってきました。
そう、この時はまだ。。。