Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「偽造される本物」


8. Ne contrefaites pas mais dissimulation.

「えーと……ということでクラス代表になってしまった不破アリサです」

 

 ぱちぱちぱちぱちぱちぱち!

 

 あれ? おかしいですよ。

 クラスの皆さんの拍手が私の想像よりも激しいですよ!? 

 私の予想では、なんで織斑君じゃないんだー! ってなるはずだったんですが。

 大体、私は皆さんにとってあんまり近づきたくないとんがった子だと思われているはずですし。

 

「えっと、その、目立ちたくな……じゃなくて、織斑君はもっとISに乗って慣れるべきだと思うのでクラス対抗戦は彼に出てもらおうと思っています」

「お、俺!?」

「もともと代表候補生である私やセシぃが戦ってはクラスの成長度の指針にならないという建前(こと)からです。もう織斑先生から学園側に話を通してもらうことになっています。ということで挨拶終わります」

 

 ぱちぱちぱちぱちぱちぱち!

 

 だからなんで皆さん嬉しそうなんですか!?

 というかこっち見ないでくださいよ! 恥ずかしいんですってば。

 しかも自分で見ておきながら、私がしかめっ面してるから目を逸らすって失礼ですよ! だからって、こっち見ないでください!

 しかもどうして皆、こう、ニヤけているんでしょうか?

 

「それは不破ちゃんが可愛いからに決まってるじゃん!」

「二木さんは基本的に信用ならないので静かにして下さい」

 

 私が着席して考え込んでいると……無意識に独り言でも呟いちゃったんでしょうかね。二木さんが右後ろから身を乗り出して話しかけてきました。

 うん、織斑先生がすっげぇ睨んでますから自重して下さいね。

 

「でも、私はふたちゃんの言ってること間違ってないと思うけどな」

 

 さらに追い討ちのように隣からは一松さん。

 そのさらに向こうにいる三好さんもニヤニヤしながら私を見てます。というか私と目があった瞬間にウィンクしないでください。ドキドキします。

 

「一松さんまで……それはあなた達が女の子を性の対象として見てるからで」

 

 今日も朝からいちゃラブってましたからね。公衆の面前であんな、昨日にもまして人に言えないようなことするなんてなかなか肝が据わっています。

 

「失礼な。私は女の子じゃなくてイッチー一筋だよ! ……あ、でも不破ちゃんのその慎ましやかな胸も大きくしてあげたいなぁ」

「というか私は男の子の方が「私との関係は遊びだったんだ!?」あ、もちろんふたちゃんのことも嫌いじゃないからね!?」

 

 そんなですから信用できないって言ってるじゃないですかっ!

 まったく、私が可愛いだなんて……いえ、まぁ、ほら、外人の血もいい感じに混ざっているみたいですし、上中下で分けたら上クラスに入る自信はありますけど? それでもこのクラスにはセシぃとかいますし、他にも上の上クラスの子もいるのになんで私かな、っていう疑問ですよ。

 というか慎ましやかな胸とか大きなお世話です!

 

「でもさ、不破ぁ。実際昨日と一昨日の戦い見て惚れたって女子も多いと思うよー? それに不破って遠くから見てる分には仔犬みたいだしぃ」

 

 おそらくクラスの日本人の中でダントツに可愛い上、垢ぬけているサバサバ系女子代表の三好さん。

 いえ、それより惚れたって……見惚れたの間違いですよね? 私、シャルロット以外の女の子には多分興味わきませんからね?

 大体セシぃと戦ってた時なんてほとんどいい動きできなかったじゃないですか……勝てたのも私が突然動けるようになってセシぃが勝負のテンポを掴み損ねたからですし。

 それに織斑君は専用機持ってるとは言えまだまだ素人ですから勝てて当然ですしね。私としては最後に一撃貰ったことも予想外だったんです。

 

「不破、そういうことでお前がクラス代表になることに文句のある奴はいない。織斑を代わりに対抗戦に出させるという条件ものんでやるんだ。しっかり励めよ?」

「はい……」

 

 最後に織斑先生がやっぱりニヤニヤしながら言ってきました。

 もともと誰か一人でも不服そうな人がいたら織斑君をクラス代表にするという条件だったんですよ。まさか拍手喝采を貰うとは思っていませんでしたし……対抗戦に出ないでいいだけマシですかね。

 

「それではSHRは終了だ。山田先生」

「は、はいっ! それでは一時間目始めますね!」

 

 ふぁ……眠い。

 昨日はクラスからの反応が不安であんまり眠れなかったんですよね……ですがクラス代表になった以上居眠りするわけにはいきませんし。

 ……あ、そうだ。

 

「一松さん……あなた達って確か演劇部だったんですよね?」

「え? うん、私もふたちゃんもみぃちゃんもそうだよ。どうして?」

「いえ、後で、ごにょごにょごにょ……できますか?」

「え、うん。出来るけど……」

「理由は聞かないでください」

 

 私にとって、とても大事なことなんです。

 私の真剣な空気を察したのか一松さんはコクリと静かに頷いてくれました。

 この3人とはまだ知り合って間もないですが……他に手もないですし、信用できそうなので大丈夫でしょう。

 

 ◇

 

「あ、あの、山田先生っ!」

「不破さん? どうかしましたか?」

 

 授業が終わって昼休み。すぐに山田先生へと駆け寄って話しかけます。

 一応は悪だくみなので織斑先生に見つからないように祈るのも忘れていません……効果は不明ですが。

 

「その、先生に頼みがあるんです」

「えっ……分かりました! 何でも言って下さい!」

 

 流石、のせやすいことに定評がある山田先生。見事にやる気を出してくれました。

 先生以外には言えないことなんです、な感じの空気に弱いところがあり、頼りになる先生に憧れているのも分かっていましたから当然の結果ではありますが。

 

「ここじゃ、少し……トイレまで来てもらっていいですか?」

「はい! 人目が気になるのでしたら教員用のトイレを使いましょう!」

 

 それにしてもこの教師ノリノリです。いえ、有り難いんですけどね。

 早速二人してこそこそ教員用トイレに向かいます。この間にさまざまなドラマがありましたが……言う程のことでもないので割愛します。あえて言うならば、私と先生の新密度が多少上がったという程度でしょうか。

 

「それで、話というのは?」

「その、これを見て下さい」

「えっ、ちょっと不破さんなにしてるんですか!?」

 

 先生に背中を向け、おもむろに制服を脱ぎ出した私に山田先生が慌てふためきます。

 私だって恥ずかしいんですからあんまり騒がないでください……

 腰から肩甲骨までを露出させると先生が軽く息をのみました。私の右肩辺りから腰の中ほどにかけて大きな刀傷があるのを見たからでしょう。

 

「それ、は?」

「昔、ちょっと事故で……あの、先生にはお願いする手前見せたのですが他の人には……」

「もちろん言いませんよ! その、それで頼みというのは……?」

 

 先生にも私が言いたいことの半分くらいは伝わっているのでしょう。いろいろと考えているのが見て分かります。

 

「その、私だけ大浴場を使える日をずらしてもらえませんか……?」

 

 ゆっくりと制服を正し、少し潤み震える瞳で山田先生の目を見つめる。

 それでも先生は何も言いません。まぁ、先生が独断で出来るようなことじゃないのでここまでは予想済みです。私が先生にしてほしいことは山田先生経由で他の先生に私のことを伝えてもらうこと。

 山田先生は嘘をつかない先生だというのが他の先生も分かっているので、先生が訴えてくれれば他の先生達も私個人での大浴場の使用を認めてくれるでしょう。

 えぇ、当然、私の背中にある刀傷は一松さん達に頼んだ特殊メイクによって造り上げたものです。お人よしの山田先生を騙すことは心苦しいですが……背に腹は代えられません。人に見られての入浴が無理だというのは事実ですから。

 

「そう、ですよね。ごめんなさい。無茶なことを頼んでしまって……先生なら、と思ったんですけど迷惑な話ですよね」

 

 さらに、先生を追い込むために両手を胸の前で握りしめ一度俯き、その上で無理をして作ったような笑顔を先生に見せる。私、女優になれるかもしれません。

 

「……分かりました」

「先生?」

「私だけの力ではどうにもできませんが、他の先生方にも話をしてみます。安心して下さい。これでも他の先生方からの信頼は厚いんですよ?」

「お願いします……私はもう一度制服に乱れがないか確認してから行くので、先生は先に行って下さい」

 

 ふぅ……うまくいったかな。

 先生の真剣な目を見た限り本気で取り組んでくれると思いますが……

 

「見ーちゃった、聞いちゃった」

「っ!?」

 

 教員用トイレから出た私を待っていたのは悪戯が成功した子供のような声と共に笑う、学年が1つ上の生徒――更識(さらしき)楯無(たてなし)生徒会長。IS学園生徒の頂点に立つ女生徒でした。

 なにを考えているのか判断がつかない笑みは、本心を隠す暗部特有のもの。母様(ママ)が他人に見せる顔と良く似ている。親近感はわくけど信用はできない。

 

「……何の用でしょうか、学園最強さん?」

「まぁ、積もる話は生徒会室でしましょうよ、学年最強さん?」

「……私より強い人はたくさんいます」

「ISではね。でも生身だったらどうかしら?」

「……ここはIS学園です」

 

 さすが更識家の当主……海外に移り住んだ不破もしっかり監視しているということですか。まぁ、暗殺を生業にする不破圓明流は更識家と相対するものではありますからね。

 

「そんな警戒しなくてもいいのよ? 私は今の話に興味があるだけなんだから」

「何のことですか?」

「んふ。大浴場を一人占めできたら気持ちいいでしょうねー。私も混ぜて?」

「……はっ?」

 

 えーっと?

 先生を騙したことを怒られるわけでもなく、日本に戻ってきた不破に忠告をするわけでもなく、私も広いお風呂に入りたいってことですか? 本気?

 原作通り、本当にハチャメチャな人ですね……

 

「とりあえず、ようこそ生徒会室へ」

「……失礼します」

「あぁーん、他人行儀ね……私と不破さんの仲じゃない」

「私と先輩の仲ってなんですか!? 少なくとも実家はどちらかといえば敵対関係のはずですよね!?」

「い・け・ずぅ」

 

 だめだ。この人には勝てません。というか勝負にならない。

 直接どうしたいのか言えばいいのにわざわざ遠回りに絡め手を重ねてくる人の対処法なんて知りませんよ!?

 というか、なんでしょう。えーっと、取り敢えず大浴場の話でしたよね。

 

「えっと。先輩には悪いですけど、私は誰かと一緒にお風呂は入れないんです……大浴場は入りたいんですけど」

「それは、さっきの刀傷が見られたくないから?」

 

 やっぱり盗み見ていたんですね。

 しかも私の刀傷が作り物だということに気付いているのでしょう。

 ニヤニヤ笑って私が本当のことを言うのを待っているようです。

 扉を見るも布仏(のほとけ)(うつほ)先輩が私を逃がさない、というように立ちはだかっています……いいでしょう。話してあげましょう。

 

「えっと、あの、布仏……本音(ほんね)さん、濡れタオルとかありませんか?」

「あー私の名前知ってくれてるんだー。嬉しいなー。えーっと、濡れタオルというかウェットティッシュなら……はい、ふわわー全部使っちゃっていいからねー」

 

 ふわわー……なんというか、さすがのほほんさん。不破という苗字の固いイメージを見事に崩されました。

 取り敢えずのほほんさんからウェットティッシュを受け取って、そのまま更識先輩に手渡します。

 

「私?」

「えぇ、背中は自分では拭きにくいので頼めませんか? あと、すいませんが布仏さん達は少し席を外してもらってもいいですか? ……そう怖い顔しないでください、なにもしませんよ」

「虚、この子は大丈夫よ」

 

 ニコリとして更識先輩に笑いかけるとニヤリとチェシャ猫のような笑みが返ってきました。多分、今この部屋の中で一番分かり合えているのは私と先輩でしょう。

 更識先輩はある意味で暗部の最も深いところにいる人ですからこれから私が見せる事実にも慣れているでしょう。むしろ何バカなことで悩んでるんだってレベルかもしれません。

 恐らく、更識家に仕えているわけですから暗部と関わりのある布仏姉妹に出て行ってもらったのは単純に恥ずかしいからです。2人が同席されていたとしても余り困ったことにはならなかったでしょう。

 

「あの、更識先輩」

「楯無」

「え?」

「楯無って呼んで?」

 

 ん……このタイミングで来ましたか。

 若干、楯無先輩からの視線に怯えている私に優しく微笑むなんて卑怯です。

 ただ、今回怯えているのは人見知りのせいではなく……身の危険? 生徒会室という密室で2人きりになるのは早まったかもしれません。

 それにしても本当にこの人は他人の心の隙間を突くのが上手いですね……しかもその隙間に自分の存在を入れてくるんですからタチが悪いです。人たらし、というのもこの辺りが関係しているんでしょう。羨ましい。

 

「……その、楯無先輩。あんまり、乱暴にしないでくださいね?」

「……不破さんもなかなかやるわね」

「な、何がですか? それと私のこともアリサでいいですから」

「本当……かーわいー」

 

 ゾクリ、と背中に冷たいものが流れた感触がしました。

 目の前には猫、というより女豹のような目つきで紅い唇をぺろりと舐める楯無先輩。

 蠱惑的というか妖艶というか……あれ、例えとして食べられちゃう感じですか!?

 

「ちょ!……まって、おちついてくださっ! ……ヤーーーーー!」

「よいではないか、よいではない……か?」

 

 先輩がガバッと私の飛びかかり一気に制服をはぎ取って……って乱暴にしないでくださいって言ったじゃないですかぁ!

 といっても力加減はしているのか私の背中を思いのほか優しい力で拭いた瞬間に先輩の動きが止まった。

 ……気付きましたね。

 

「……先輩のばか」

 

 こんなお茶らけた雰囲気で見せられるようなものじゃないんですよ?

 

 ◇

 

「アリサさんは、どこにいるんでしょう?」

 

 前日の試合について本人(アリサ)に聞きたいことがあったセシリアは学園中を歩き回って探していた。

 聞きたいことは一つ、織斑一夏とはどういう人物だったのか。

 

(昨日の試合……アリサさんが勝ったのに気になることが多すぎですわ)

 

 傷一つ付けることが出来ずに投げ飛ばされ続けたにも拘らず最後まであがいた男子生徒。

 実力差は明白なのだから早々に諦めればいいのにと冷めた目で見ていたが、結局、彼は最後まで戦い抜いた。

 しかも、最後に自分より格上の相手に一太刀入れるという結果を残して。

 あれは紛れもなく諦めなかったために生まれた結果だろう。

 何度もアリサに向かっていく彼は、女性――母に対していつも遠慮した態度を取っていた自分の父とはまるで違った。

 男だから女より下、そういった現在での世界的な共通理念をまるで無視して突撃する彼は自分の中での男性像――女性に媚びへつらう情けない人――を根底から覆した。

 

(ですから、アリサさんにあの男と戦ってどうだったのかを聞かなければ)

 

 自分との試合の中で何かが変わった旧知の友人。

 一昨日は素早く動き結局引き分けにされてしまったもののどこか動きにぎこちなさが残っていた。

 しかし、昨日の試合ではそのぎこちなさも消え、何度かの訓練試合で目にした万全のアリサと同じように見えた。

 その上で、格闘戦では随一である彼女が手加減も何もせずに最後の人たちを受けたのだとしたら……

 

(織斑一夏……気になりますわ)

 

 彼のことをよく知るのに代表候補生という肩書は非常に便利だ。

 戦闘に慣れていない彼に特訓を付けることでその距離を縮められる。そうすることによってさらに見えてくるものはあるだろう。

 恋愛感情とはまた違う、ただ知りたいという純粋な好奇心が彼女の中に渦巻いていた。

 

 ◇

 

「なるほどね、そういうことだったの」

 

 事実を見た先輩はあの後丁寧に背中を拭いてくれました。これで一松さんたちが施してくれた特殊メイクは落ちているはずです。

 今は布仏さん達を交えた4人で一服……タバコじゃなくて紅茶を飲んでいるだけですよ?

 

「アリサちゃん」

「はい……なんでしょう」

 

 本当のことを軽く説明をして静かになってしまった生徒会室に楯無先輩の声が零れる。

 その瞳からは、やはり何の感情も見て取れません。

 

「さっきはごめんね。それと、大浴場の件、私も協力してあげるわ」

 

 まったくですよ。もうお嫁にいけません。だからシャルロットのお婿さんにしてもらいます……えへ。

 なんてことは口にも表情にも出さず、かといって裏がありそうなので感謝の言葉でもないことを先輩に言うことにしました。

 

「……お詫びに、ということではないですよね」

「あは」

 

 私の指摘が図星だったからでしょうか。楯無先輩の申し訳なさそうな顔がだんだんとニンマリとした笑顔に変わりました。その顔もすぐに扇子で隠されてしまいましたが……あれ、扇子なんてどこから出しました?

 まぁ、お詫びじゃないなら私にも何かしらの条件が要求されるのであって、その条件というのも分かりきっているのですが。

 

「お風呂は……誰かと入る時は必ずママと2人きりだったので、2人で入る分には我慢出来ると思います」

「つまり、私と2人っきりでの入浴がアリサちゃんの希望なのね」

「えー。私もふわわーと入りたいー」

「順番を決めればいいのではないですか?」

 

 私の一言に残る3人がそれぞれ反応を示します。

 というか楯無先輩、私はできるだけ1人でお風呂に入りたいですし誰かと入る時の相手が先輩だとも言ってません!

 あぁ、でもさっきのを知っているのはこの中では楯無先輩だけなので結局そういう意味になりますか。

 

「というか、そもそも先輩に協力してもらわなくても……」

「んーそれはどうかな? やまちゃんに頼んだのは確かに効果的だけど、アリサちゃんみたいな立場の子は他にもいるし、結局個室のシャワーを使ってもらうってことになりそうよ? ……私ならそれなりの実力があるから協力してあげられると思うなー」

 

 チラッと私を見て微笑む先輩。

 そもそも最初から先輩の協力は必要だったということですか……なら先輩に見つかったのは幸運だったと考えるべきかもしれませんね。

 ここは意地を張らずに協力を頼みましょう。

 2人でのお風呂も……訓練だと思えば……多分、大丈夫です。

 普段ならいいんですけど裸って言うのが落ち着かないんですよね。誰かと入ったことが無いので案外平気だったりするのかもしれませんけど。

 

「じゃあ、よろしくお願いします」

「まっかせて」

 

 再び楯無先輩が開いた扇子には『一件落着』の文字……不思議な扇子です。

 

「それでは、そろそろ教室に戻ります」

「ん、またねー」

 

 ニコニコしながらヒラヒラと手を振る楯無先輩とのほほんさん。虚先輩は、やっぱり家的に対立しているから友好的な態度を取ることはできないんでしょうが目礼だけはしてくれました。

 

「失礼しました」

 

 さて、早いところ教室に戻ってお弁当を食べちゃわないと間に合いませんね……きょうはハンバーグー♪

 洋風の――と言っていいのかは分かりませんが――料理を作るのは久しぶりなので美味しければいいですね。

 味見もしましたが出来たての時と冷めた時では味も変わってしまいますし。

 あ、美味しければ一松さん達に特殊メイクのお礼として分けるのもいいですねー。

 

「あっ不破さん!」

 

 教室に入るなり一松さん達三人娘が寄ってきました。

 だんだんと彼女達に話しかけられるのに抵抗を覚えなくなっていることを感じながら私の席まで一緒に歩きます。

 セシぃにも言われたことがあるのですが、私は一度仲が良くなった相手にはすぐ心を開くらしいです。確かにまだ話すようになってから1週間ほどしか経っていないのに信用し始めちゃってますし、間違ってはいませんね。

 

「それで、不破ちゃん大丈夫だった?」

「まぁ、うまくいったと思います。思わぬ協力も得られましたし」

 

 得られた、というより押し付けられたに近いですが、わざわざ彼女達に話すことでもないでしょう。それに楯無先輩も人気がある人のようですから、下手に口に出してしまえばまた周囲から嫉妬の視線が向けられるかもしれませんし。

 

「ふぅん、じゃあ1人風呂計画は成功しそうなんだ」

「そうですね、これも三好さん達のおかげです」

「いやいや、私達は好きなことやっただけだしぃ……それより不破ぁ、なんで私達には見せたのかな? ん?」

 

 当然、特殊メイクを施した彼女達は楯無先輩と同じことを知っています。

 今から考えてみれば、隠したいことを彼女達に教えてしまっている時点で意味がないですね……まぁ多分、

 

「私が皆と仲良くなりたかったから、じゃダメですかね?」

「いやいや、全然オッケー」

 

 隙を見ていちゃラブっていた一松さんと二木さんもこっちを見て親指を立てていました。

 ……二木×一松、三好×私なんてことにはなりませんよね? 三好さんはノーマルですよね?

 

「ふふん、それはどうかな」

 

 私に関わる人はみんなそっちもいけちゃう人ですか!? 楯無先輩もそこらへん無頓着そうでしたし。

 ……セシリアがいるから大丈夫ですよね。もう大丈夫の意味も分かりませんけど。


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