Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「イチリンカ」


76. Une fleur

 さて、シャルロットも行っちゃったし、あたしは……し、仕方ないから暇そうな一夏の相手でもしてあげないとね。

 まぁ、どうせ女の子に囲まれて鼻の下伸ばしてるんだろうけど……うわ、考えただけで腹が立つわ。

 ……別に、あたしは一夏の恋人じゃないから怒る筋合いなんてないのも分かってるけどさ。

 

「少しは私のことも気にしろっての……もう、鈍感なんだから……」

 

 唐変木の朴念仁!

 そもそも一夏は本当に男なの?

 どうしてハーレム状態の学校で何もしないのよ……あ、あたしなんて手近にいる幼馴染なんだから手軽でしょ……?

 いやいや、襲って欲しいとかそういう意味じゃなくて!

 ……それとも何?

 やっぱり、あたしには女としての魅力が足りないっての?

 そりゃ、胸はないし……言葉遣いとか一夏に対する行動も荒っぽいかもしれないけど……

 

「それでも、あたしほど一夏のこと好きな女の子なんていないのよ……?」

 

 興味と恋心の間で揺れてるセシリアはもちろん、ラウラには当然負ける気はしないし……

 あたしより早く一夏と知り合ってた箒は厄介だけど、それでも私の気持ちが負けてるとは思わない。

 微妙に警戒してたアリサもあの調子だしね。

 もう、一夏にはあたしの初めての内の一つをあげたんだから……少しくらいは気にしてくれたっていいじゃない……

 

「初めてだったんだから……キスだって、勇気いるのよ……?」

 

 それなのに、夢だなんていう風に流されたみたいだし……しかも、その後でもあたしのことを意識するような素振りもなかったし……やっぱり、脈なしなのかな……

 薄々、勘付いてはいたけど……これ、キツいわぁ。

 もう、なにされたって許せちゃうくらい好きなのに……愛してるのに……形にすることも許されないなんて……

 アリサもこんな気持ちだったの?

 ……それなら、成就したのも羨ましいというより、本当によかった……あの子、いろいろ大変なのに、その上こんな想いまで続けてたらパンクしちゃいそうだし。

 ほんと、よかったわ。

 うん……あの子に負けるわけにもいかないわよね。

 

「……一夏、ちゃんと楽しんでんの? こんなの盛り上がらなきゃ損よ?」

「鈴か。まぁ、ぼちぼちやってるよ」

「なによ、お皿空っぽじゃない。分けたげよっか?」

「ん? あぁ、いや、自分でとってくるから構わないぞ?」

 

 ……なんか、変ね。

 まぁ、もとから遠慮したりしなかったり行動が一貫しないところもあるけど……なんか、今日のは違う。

 うーん?

 心ここにあらずというか……なんだろ?

 どことなく、ネガティブ入ってるアリサにも通じるというか……ほんと、なんだろ?

 

「一夏……どうしたのよ?」

「えっ? や、別に、」

「大したことない?」

「まぁ、そんな感じだな」

 

 ふぅん……

 

「それなら言えるわよね? 大したことじゃないんでしょ?」

「あぁ!? 鈴、はめたな!?」

「なんのことかしら? ま、一夏はとにかく私に悩みを打ち明ければいいのよ」

「いや、別に悩みなんて……」

 

 はぁ……この男は往生際の悪い……

 

「一夏、これでも、あたし、あんたの幼馴染。ドゥユアンダスタン?」

「や、ヤー……?」

「だからあんたのことくらい顔見りゃ分かるって言ってんの! ほら……話しなさいよ」

 

 なにを、自分で幼馴染なんて言っちゃってるかなぁ……?

 そんな意図は無かったけど、変に距離意識しちゃって……心、痛いなぁ。

 でも。

 それでも一夏のこと分かってあげられただけでも気分よくなっちゃうんだから、あたしも大概お子さまなのかもね。

 あーあ……まぁ、今は一夏に元気出させないと。

 あんたが沈んでちゃあたしまで気分悪くなるっての。

 

「なんて言うか……俺はダメだなぁって思ったんだよ」

「は?」

「鈴とか不破さんとかさ、しっかり自分の身の安全を確保して、しかも解決に協力してただろ?」

「そんなの、一夏だって戦車薙ぎ払ってたじゃない」

 

 あたしなんて足止めで精一杯だったわ。

 しかも一夏はああいう複数の敵を相手取る戦闘は初めてだし、あれだけ働けたなら十分だと思うけど……良くも悪くも初めてだから自分の力量を掴めてないのかもね。

 

「いや、そうじゃなくてさ」

「なによ?」

「自分のことも守れないくらい弱かったのかって思ったらな……俺には、周りを守るくらいの力はあると思ってたけど、隙を突かれて白式をとられたら無力だった」

「それは……」

 

 しかたないわよ。

 少しは箒のところで古武術をやってたみたいだけど、一夏はついこの前まで一般人だったんだから。

 年単位でISを効率よく動かせるよう体術を鍛えてたあたし達より弱いのは仕方ないわ。

 

「白式に乗っても、不破さんに触れないし……だから、俺が皆を守ってやれる、なんて楽観的に考えてた自分が情けなくてな……」

「なに言ってんのよ。カウンター以外でアリサに触れる人の方が少ないわよ。そんなんで自信失ってちゃ後が大変よ?」

「不破さんが強いのは知ってる……でも、女の子を守るのは男の役目だろ? 捕まった皆も、下手したら酷い目にあってたし……だから、俺にもっと力があれば……」

 

 相手が目的を忘れて箒達で快楽を得ようとしていたら……多分、どうしようもなかった。

 一夏はその可能性があるのになにもできなかった自分が嫌なのね……バカなんだから。

 

「一夏、聞いて」

「…………」

「あたし達は……まぁ、アリサはまた別の意味でだけど、自分を女扱いして貰おうなんて思ってない。ISに乗ることを決めた時点で女である前に軍人なの」

「それは、」

「もちろん、普段は甘いもの好きだし、可愛いものも好き。恋だってしてる普通の女の子よ?」

 

 でも、戦いになれば別。

 女だから捕まればどうなるかなんてこと理解してる。

 それでも、あたし達には責任があるから……例え犯されても自分の悲運を呪ったりなんてしない。すごく、嫌だろうけど……心のどこかでは納得してると思う。

 少なくともあたしはISの操縦者に選ばれたとき、それを覚悟するように言われた。

 

「分かる? 戦場であたし達を女だからって理由で気にしなくていいの」

「でも……嫌なんだろ? だったら俺は……」

「ありがと……でも、だからって一夏に限界以上のことなんてしてほしくないの」

 

 あんたがどうにかなっちゃ、元も子もないんだから……

 

「あたし達が戦う理由、分かる?」

「は……?」

「好きな人達のためよ」

「…………」

 

 皆がそうかは分からないけど……アリサはシャルロットを守るためだし、箒は一夏についていくためだから、あながち外れてないんじゃないかしら?

 あたしは一夏の横に並ぶため……かな。

 

「一夏の不足はあたしが埋めてあげる。だから、無理なんてしないでいいわよ」

「でも、他はどうするんだよ……俺と鈴が良くたって、」

「あたしは、それで構わないわよ?」

「は……?」

 

 一夏さえ、側にいてくれるなら……結局、皆のことを見捨てると思う。

 私は一番弱いから……皆を守るなんてことはできないのよ。

 あたしってバカね。

 

「それに……アリサもラウラもシャルロットもいるわ」

 

 現時点でのスリートップ。

 セシリアと箒も同じくらいの実力があるし……あたしだけが落ちこぼれ……

 

「大抵の敵は五人がなんとかしてくれるから、あたし達が頑張る必要なんて……」

 

 戦うのが怖いから、楽したいから……そういう利己的な打算からじゃなくて、それはれっきとした事実。

 だから、あたしは皆を守れない。

 一夏を助けてあげること以外に興味がない。

 

「鈴は……皆が強いから任せきりにするのか?」

 

 想像以上に冷たい一夏の声。

 そりゃそうよね。

 きっと、あたしに失望したんだわ。

 だって、学校では周りを引っ張って、なにかと姉貴分な風を吹かせてるのに、いざ戦闘になったら自分ことしか考えないんだか当たり前よ。

 でも……

 

「違うわ。あたしは一夏のことは、もう、誰にも任せない」

「は?」

「一夏のことだけを守りたいから、他を守る余裕なんてないの」

「鈴!? ちょ、ちょっと待て!」

 

 待たない。

 せっかく、ここまで状況を作り上げたのに待つわけないじゃない。

 抜け駆けだろうがなんだろうが構わないわ。

 

「一夏のこと、好きよ? ずっと前から……」

「それは……えっと、恋、か?」

「うん。ちゃんと男として一夏を愛してるわよ?」

 

 こういうのは言い過ぎってくらい言った方がいい。

 言い残しがあって振られたら悔やんでも悔やみきれないもん。

 

「鈴、俺はお前のことを女の子として意識したことはあんまりない。だから、鈴に恋愛感情も、」

「他に誰か好きな子いるの?」

「え? ……あ、いや、いないけど」

「そ、じゃあ付いてきて」

 

 そう簡単に振らせないけどね。

 ……覚悟もできてる。

 

「私を女の子として意識させてあげるから……ね」

「ちょ、鈴!?」

 

 あとは無言で一夏の手を掴んで引っ張っていく。

 都合のいい場所ももう確認してあるし……

 

「鈴? どっかいくの?」

「シャルロット……」

「シャル、野暮ですよ? ……鈴ちゃんが通った後は誰も通さないので安心してくださいね?」

「アリサ……ありがと」

 

 なによ。

 この子、やっぱり今日だってこと勘づいてたの?

 ……本当に、親友がいがあるんだから。

 

「これは、結局お姉さまの一人勝ちなのでしょうか?」

「どうでしょうねー。じゃあ鈴ちゃん、思う存分やっちゃってきてください」

 

 一人勝ち、の意味が分からなかったけど気にしない。

 というか気にしてられない……あたし、これから一夏と……

 拒絶、されないわよね?

 今、手を振り払わないってことは……期待してもいいのよね?

 

「お、おい、鈴!?」

「うっさい! 黙ってついてこい、バカ!」

 

 もう!

 恥ずかしいんだからあんまり話しかけないでよ……!

 今、あたしの顔見たら承知しないんだからね!

 ……でも、ラウラと箒に見られてなくてよかった。抜け駆けするのは躊躇わないけど、さすがにその場を本人に見られるのは決まりが悪いわ。

 この扉を開けたら仮眠室。

 後戻りは……できない。

 

 バタンっ!

 

「UNOですわ!」

 

 ……は?

 

「ドロー2」

「ドロー2だよっ」

「ドロー2をぉ……なんと三枚♪」

「セシリア、すまん。ドロー4だ」

「に、し、ろ、や……じゅ、十四枚ですって!? ……あら鈴さんに一夏さん。混ざるのでしたらわたくしが四枚ずつ恵んで差し上げますわよ?」

 

 あぁ…………なるほど……そうきたかー。

 仮眠室にはセシリアと箒を含む五人がカードゲームに興じていた。

 いや、何となく邪魔が入らなさすぎだと思ったのよ。都合がよすぎるなーって。そりゃ会場に皆いないなら邪魔なんてされるわけがないわ。

 アリサが扉の前にいたからてっきりサポートしてくれてるんだと思ってたけど……

 

 ――……鈴ちゃんが通った後は誰も通さないので安心してくださいね?――

 

 “後は”……ねぇ。

 最初から、こうなること分かってて通したのね……あの子、あとでお仕置き。

 もう、せっかく勇気出したってのに……まぁ、これはこれで良かったのかもね。どうせなら、強引に好きにさせるんじゃなくて、自然に惚れてほしいしね。

 

「はぁ……セシリア、四枚ちょうだい」

「どうぞ」

「あっ! セシリアずるいぞ!」

 

 いいわ。

 一夏も勝ちも全部奪い取るわよ。


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