Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「祝勝会」


75 Un parti de vainqueur

「皆様、お疲れ様でした」

 

 エリーさんが宴の席で中央のテーブルに立って挨拶をしています。

 宴、というよりもも、なんと言えばいいのか分かりませんが……祝勝会?

 まぁ、おおむね、そんな感じです。

 

「はい、あーん」

「ぱく……ん、これは?」

「アイスバインっていう豚肉を煮込んだ料理だって」

「なかなか美味です」

 

 外では未だにドイツ陸軍の方々が無人機の破片などを撤去していますが、活躍したシュヴァルツェ・ハーゼ、および客人である私たちにはこのような会が用意されました。

 用意されたといっても急なことでしたから少し豪勢なホームパーティのような雰囲気ですけどね。

 

「この度は見学に来てくださった客人の面々に迷惑をかけてしまいましたが、かえって私たちシュヴァルツェ・ハーゼのことをよく理解していただけたのではないでしょうか、と参謀役である私は考えます」

 

 確かにそうですね……

 あの戦闘がなければ彼らの凶暴性も見ることはできなかったでしょうし。

 ……シュヴァルツェ・ハーゼの皆さんはあれです。寂しくて死んでしまうウサギではなく、一撃で首を斬り落とす方のウサギ。

 あまり一緒に戦わなかった私でさえ、彼らの捉え方をそこまで逆転させられてしまったのです。きっと同じ戦場で戦った皆さんは、

 

「あーん」

「ぱく」

 

 彼女らのことを随分頼もしく感じたのではないでしょうか。

 まぁ、それよりもっと驚いたこともあるんですけどね。

 

「アリサ、クランベリージュースだって!」

「……うっ!? すっぱぁ……」

 

 戦闘が終わって間もなく軍用ヘリがシュヴァルツェ・ハーゼの基地に着陸、中から壮年の男性が現れたのですが……なんと、シュヴァルツェ・ハーゼの隊員たちが怪我をしていないかが気になって文字通り飛んできたお偉いさんでした。

 どの程度お偉いさんかというと……

 

「ラウラ、あーん、だ」

「っ!!? お、お断りします!」

「なんだと、儂の言うことが聞けないのか!? お祖父ちゃんの頼みだぞ!」

「いえ、私は試験管ベビーなので血縁関係は、」

 

 あのラウラさんにあーん、を強制することができる程度の、

 

「ええい、ならば国防大臣としての命令だ! ラウラ、口をあけよ!」

「っく……こ、これは職権濫用もがぁ!?」

 

 国防大臣(お爺ちゃん)でした。

 つまり陸海空、それに加えて戦力基盤軍とIS部隊の総てを統轄する軍部のトップです。

 なので、やってることがどんなにウザくても何やってんだお前とツッコミをいれられる人なんていません。

 というかあのラウラさん相手に隙をついて肉を口の中に放り込むことが出来る辺り達人に違いありません。何の達人かはわかりませんけど。

 

「アリサアリサ! 仔牛のカツレツだって! はいっ! あーんして!」

「あーん…………それにしても、ラウラさん、愛されてますねぇ」

「「「「「お前が言うな!」」」」」

「ひゃっ!?」

 

 え? え? えぇ!?

 なんで皆さん私に怒鳴るんですか!?

 え、私なにか失敗しました?

 いえ、そもそも今はパーティーなので失敗するもなにもありませんし……

 あっ!

 シャル、イチゴがありました!

 確か、好物でしたよね……

 

「シャル、んー……」

「え、えぇ!?」

 

 は、早くしてくださいよ!

 結構、唇でイチゴを挟み続けるのって疲れちゃうんですから!

 

「しょ、しょうがないな……ん」

「ん、んぅ!?」

 

 シャルがイチゴの先端をかじり取って、残りは舌で私の口の中に押し込みました。

 も、もう……大胆ですね……舌先がちょっと触れちゃいましたよ?

 

「あの、シャル……イチゴって先端の方が美味しくてですね……」

「あ、ごめん……えっと……」

 

 あ、違うんです!

 ズルいとか言う訳じゃなくて、その、えと、分からないならいいんです!

 

「アーリサ、はい、んー……」

 

 今度はシャルがイチゴを咥えて、ウィンクをパチリとしてから私に突き出してきました。

 はぅ……シャルは私のことなんでも分かっちゃうんですね……

 

「は、はぁふー(はやくー)……!」

「あぁ、ごめんなさい! ……ん」

 

 今度は私が先端を食べて残りを舌でシャルの口に……

 

「ん、美味し」

「……シャル」

 

 スパァン! スパァンッ!

 

「ひゃん!?」

「うわっ!?」

 

 シャルと見つめあっていたらハリセンで制裁されました。

 後ろを振り返ってみると……

 

「あ、鈴ちゃんにセシぃ……」

 

 楽しんでますか……?

 お顔がなんだか笑っていませんけど、イライラしてるときは美味しいものを食べて機嫌直しましょうよ。

 私のおすすめは向こうにおいてあった、

 

「はい、アリサさんはこちらに」

「はい?」

「で、シャルはこっちねー」

「え? え?」

 

 ちょ、ちょっとセシぃ?

 押さないでくださいよ!

 というかシャルと私を引き離すなんてどういうつもりですか!

 さすがの私も怒っちゃいますよ! ぷんぷん

 

「ちょ、鈴ちゃんもどういうつもりですか!」

「あのねぇ……舞い上がるのも仕方ないと思うけど、少しは人目も憚りなさい」

「なんの話ですか?」

「シャルロットさんと好き合うことができて嬉しいのは分かりますが、さすがにいちゃいちゃしすぎで腹立たしいですわ」

「「え!?」」

 

 思わずシャルと顔を見合わせます。

 ど、どうして気付かれてるんでしょう!?

 は、恥ずかしいからしばらくは隠しておこうってシャルと相談して決めたんですけど!?

 おかしいです。

 私たちの偽装は完璧だったはず……!

 だって、あれからまだシャルとは一度も話してませんし!

 ちょ、ちょっと見つめ合っちゃったりなんてことはあったかもしれませんが……それでも気付かれるほど長い時間ということもありませんし……というわけで、

 

「「付き合ってませんよ(ないよ)!?」」

「いや、アンタ達キスしてたじゃない」

「「へ?」」

「してましたわね」

 

 ……して、ましたか?

 え?

 してました!?

 

「しゃ、シャル……してたんですか?」

「えっと……あれ、そう言われてみれば確かに……したかも?」

「ちょ、ちょっと、二人とも無意識でしたの!?」

「キスだけじゃなくて、あーん、までしてたわよ。普通に」

「いやいやいやいや、そんなバカな。私がそんなバカップルみたいな真似……」

 

 あれ、言われてみれば確かにいつの間にかお腹いっぱいになっている気がしますよ?

 どうやらシャルも同じことに思い当ったようで……

 うわ、うわぁ……!

 そんなの、そんなのまるで、凄い仲がいい恋人みたいじゃないですか!

 バカップルですよ、バカップル!

 ……えへへ

 

「無意識でもいちゃいちゃするなんてよっぽどねー……ごちそうさま?」

「あぅ……シャルぅ……」

「な、なんか恥ずかしいね……」

 

 鈴ちゃんがチェシャ猫のような笑みで私たちを見ています。

 ど、どうしましょう!

 すごく……すごく恥ずかしいのに、なんだか凄く嬉しくて……うわぁ!

 

「二人とも、顔赤いですわよ?」

「い、言われなくても分かってます!」

 

 だって、頭の中キャー! ってなっててわけ分かりませんもん!

 

「しゃ、シャル……どうしましょう?」

「えと、僕に聞いちゃう……?」

「だ、だって、私、人とお付き合いするの初めてで!」

「僕だって初めてだよ!」

「知ってます!」

 

 だって、ずっと見てたんですから……

 いえ、ストーカーとかそういう訳じゃなくてですね……!

 近くにいられなかったので、でも凄く好きだったので遠くから見ちゃってましたけど、決していやらしい気持ちがあったわけではなくてシャルの身に危険が迫った時にすぐに守れるようにというか!

 

「お姉様? 何の話をしているのですか?」

「エリーさん!?」

「なにやらお顔が赤いですけれど……体調がすぐれないのですか?」

「えっ!? あ、いえ、そんなことはなくて、えと、その、えーっと」

 

 え、エリーさんはまだ十二歳。

 男女の仲どころか女女な仲の私とシャルの関係を教えるのはさすがにまだ早いです……!

 というか子供は純真がために時として悪魔になるとも言いますし……

 何が言いたいかというと本当のことを言ったらキモチワルいとか言われるかもとか……なんだか懐いてくれているエリーさんにそんなことを言われてしまったら立ち直れそうにないです。

 

「や、やっぱり体調がすぐれないのですね! なるほど、だから彼女もお姉様を戦わせないようにと」

「へ? あの、エリーさん?」

「こちらに休憩できる場所を作りますのでついてきて下さい!」

「え、あれ、ちょっと、」

 

 グイグイとエリーさんに引っ張られてしまいます。

 抵抗しようと思えばエリーさんくらい簡単にポイ出来ちゃうのですが……一応、私のためを思ってくれているわけですし……

 

「そこ空けてください! 隊長と大臣殿もいつまでやってるんですか!」

「あの、エリーさ、」

「お姉様、もう少しですからね?」

「あ、えと……はい」

 

 まぁ、いいです。

 

 ◇

 

「どうすんの? とられちゃったわよ?」

「べ、別にとられただなんてそんな……」

 

 そんなこと言ってるけど……さっきからシャルが連れていかれたの気にしてるじゃない……

 それにしても、まさか本当にくっつくとはねぇ。最終的にアリサが身を引くとばかり思ってたから少し意外だったわ。

 もちろん、アリサが泣かなくて済むに越したことはないけどさ。

 

「それで、どちらがどのように想いを告げたんですの?」

「セシリア、そんなのアリサに決まってるじゃない。あの子、ずっと前からアリサのこと好きだったんだから」

「あら、鈴さんもまだまだですわね。アリサさんが相手を苦労させることになると分かっているのに自分が幸せになろうとするわけないでしょう? ねぇ、シャルロットさん?」

「えと……うん……」

 

 へぇ……まぁ、言われてみれば確かに……え、じゃあシャルロットから?

 つまり、アリサはこの子を落としたってことなんだろうけど……ついこの前までシャルロットは女の子が女の子のこと好きになるなんて有り得ないよ、なんて言ってたんだけどな。

 アリサもやるわね……私も、一夏のこと、惚れさせられるのかしら……?

 

「それで?」

「へ?」

「なんて言ったの?」

「いや、えと、その……ひ、秘密!」

 

 残念。

 ちょっと参考にしようと思ったのに……まぁ、シャルロットが恥ずかしがって教えてくれないのは予想できてたし、あとでアリサに聞こうかしらね。

 あの子ならむしろ聞かなくてもウザったいってばかりに惚気てくるでしょ。

 

「だ、ダメだからね!」

「へ?」

「アリサにも、聞いちゃダメだよ!? アリサは隠し事できないし……」

「……先程の様子を見ていますとお互い様としか言いようがないですわね」

「そ、そんなこと、」

 

 あるわよ。

 むしろアリサはただボーっとしてたのにシャルロットが甲斐甲斐しく美味しそうな料理見つけてきては食べさせてたじゃない。

 多分、シャルロットがアリサに近付かなければ気付かれることもなかっただろうにね。

 アリサの周りにいた人たちはきっと全員気付いちゃってるわ。というかキスしてたから気付かない方がおかしいわね。

 

「まぁ、付き合っているのが発覚したのはシャルロットさんが原因といえば原因ですわね」

「ぅ……」

「あんだけお世話してればねぇ……」

「だ、だって、美味しいもの見つけたからアリサにも食べてもらいたくて……」

 

 あーはいはい、ごちそうさま。

 まったく。この調子でのろけられたらデザート食べる前に胸やけ起こしちゃいそうね。

 早いとここの話も終わらせて、

 

「ですが、どうしてシャルロットさんはアリサさんを……? アリサさんが女性を好きというのはわたくしも存じておりましたが貴女までそうだとは知りませんでしたわ」

「やっ! 僕は別に女の子が好きってわけじゃないんだけど! ……アリサが好きなだけで……」

 

 セシリア、どうして話を長引かせちゃうのよ!

 確かに、シャルロットがいつアリサを意識するようになったかは気になるけど……これを聞いたらもう離れられない気がするわ。

 そりゃ、私だって女だし人のことだとしても恋愛話にはごにょごにょ……

 

「えとね……その、僕達監禁されたでしょ?」

「えぇ、そうですわね」

 

 あ~!

 悩んでる間に始まっちゃったし!

 ……こうなったら腹くくって大人しく聞くしかないわね。

 シャルロットがアリサのこと好きって気付いた時の状況を再現すれば一夏ももしかしたら私のこと好きになってくれるかもしれないし……どうやって一夏を監禁させるかが問題ね。

 

「それで、監禁された時に?」

「えとね、ISも奪われちゃって監禁されて真っ暗で……普通なら怖くて仕方ないと思うんだけど……」

「……まぁ、さすがのわたくしも肝が冷えましたわ。ISが無ければわたくしなんてほんの少し普通より格闘術を嗜んでいる程度の婦女子ですから」

 

 私は何とか逃げ切ったけど……ISが無かったら確かにヤバいかもね。

 アリサとかラウラほどじゃないにせよ私だって素手同士でならそこらへんの男には勝てる自身もある。でも相手が装備してたらそうもいかないし……女尊男卑みたいな世界になっちゃってるけど、生物としてはまだ男の方が強いから、数で囲まれたらアリサレベルの達人じゃない限り負けるにきまってるし。

 男に囲まれた女がその後どうなっちゃうかなんて想像するのも無駄よ。

 

「でもね、全然怖くなかったの」

「え?」

「それどころかアリサの心配ばっかりしててね。アリサのことだから捕まることはないだろうって思ってたけど、逆に下手に抵抗しちゃって酷い目にあってないかとか……なんか、僕がどうこうされるって言うのよりも怖く感じちゃって」

 

 自分でも変だなぁとは思ってたんだけどね、なんて舌を出しそうな気軽さでシャルロットが笑う。

 なんだろう。

 本来なら自分のことを心配すべき場面でアリサのことだけを心配してたって言うシャルロットはなんというか……

 

「出征した騎士(ナイト)の帰りを待つお姫様(プリンセス)って感じね」

「なるほど、それは確かに言い得て妙ですわ」

「えぇっ!? ……まぁいいけど」

 

 お姫様って部分になのかしら? なんだか満更でもないような顔を一瞬してシャルロットが俯いた。

 まぁ、最初は男装してたわけだけど、本人はそれだけで男に見えちゃう自分のことを随分気にしてたみたいだし、女の子なら一度は夢見るお姫様なんて配役(キャスト)を与えられて照れてるのかもね。

 それでも私は騎士(ナイト)の隣で戦う女戦士(ヴァルキリー)の方がいいけど。

 相手の帰りを待つだけだなんて窮屈で仕方ないわ。

 

「それで、自分が心配してる恋心(りゆう)に気付いたってこと?」

「うーん……多分そうだったんだろうけど」

「はっきりしませんわね?」

 

 照れかくしで言葉を濁してるのかと思いきやシャルロット自身もなんだかよく分からなかったみたい。

 首をひねって考え込んでる。

 何この子。自分がいつアリサのこと好きになったか分からないってこと?

 

「うーん、正直なところ、いつ好きになったかっていうのは……多分、学年別トーナメントで庇ってくれた時だと思う」

「ってなにそれ、二カ月以上前じゃない! ……全然気付かなかったわ」

「そりゃそうだよ。僕だって気付いてなかったもん」

 

 あはは、なんて笑いながら食堂のおばちゃんみたいに手を縦に振るシャルロット。

 ……?

 好きになってたのに、その時は気付いてなかったっていうの?

 

「じゃあ気付いたのはいつですの?」

「ん、さっきだよ? だから……その、好きって言ったんじゃん」

 

 気付いたから告白した……?

 なんてこと!

 シャルロットって乙女心の欠片もないわね!

 言いたい、でも否定されるのは怖い! そんな恋する乙女の機微ってものがこの子にはないの!?

 ……羨ましいわね。

 私だって、今すぐにでも一夏に告白したいけど……あいつったら、キスだって簡単に流しちゃうんだからどうしたって臆病になっちゃうわよ。

 俺も幼馴染として好きだよ、なんて言われたら立ち直れない……そこで、満足しちゃうから。

 

「アリサが僕のことを助け出してくれた瞬間……あぁ、無事で良かった、助けに来てくれた……って……そしたら嬉しさが爆発しちゃって抱きしめてて」

「あれ? 押し倒されてなかったっけ?」

 

 私達が付いた時にはむしろアリサがシャルを押し倒して、その指を咥えてたわよね。

 だから、てっきりいつも通りアリサが暴走してただけだと勘違いしたわけだけど。

 

「いや、まぁ、そうなんだけど……その後アリサが僕に思ってたこと全部言ってくれて……それで、かな?」

「ふぅん……? じゃあ、もうラブラブなんだ?」

「ら、ラブラブってそんな……」

 

 顔真っ赤じゃない。

 思わずニヤニヤしちゃうわ。

 

「もう、笑わないでよ! ぼ、僕、アリサのとこいってくる!」


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