Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「シャルロット・デュノア、貴女のISです」
「あ……私の。取り返してくれたの?」
「えぇ」
……あれ?
でも、エリーさんはシャルだけ助ければよかった私と違って、セシぃと織斑君の二人を助けなきゃいけなかったんですよね?
その上、皆さんの分のISも取り返すなんて……いくらなんでも早すぎじゃないですか?
「お姉様、急ぎましょう。そろそろ隊長たちも苦戦し始める頃です」
「へ? でも相手は無人機ですよね?」
「鳳鈴音と隊長は模擬戦をしていたのでエネルギーは殆どないはずです。副隊長もいますが恐らく戦闘機を食い止めるだけで精一杯でしょう」
なるほど。
でも、ここから外に出るまでには結構な時間が……
「お姉様、私の指差す方向に向かってお姉様の超大型ガウスカノンを撃ってください」
「えと……
砲身だけで数メートルありますし、そもそもカゲロウを完全展開するだけのスペースも……
「それならお任せください。私はこの基地と繋がっているので。こほん……Code : Schwarzer Faden……区画権利の掌握……完了。警報機器類、停止。ブロックF43区域の隔壁開放……」
エリーさんのISが……基地自体と繋がっている……?
エリーさんの声に反応して廊下の壁が次々と開いていきます。
数秒のうちに私たちの周囲には十メートル四方の部屋が出来上がりました。
驚きはしましたが、ここは戦場なので冷静にカゲロウを完全展開、続いて
「エリーはこうやって俺たちを助けてくれたんだ」
「なるほど、確かに基地の構造自体をいじれるなら最短距離で進めるから私よりも早く……」
「今は内部にいるテロリストの殆どを閉じ込めています……思ったより簡単で拍子抜けでしたが……」
何かに集中しながらそう言うエリーさんの横顔には愉しくて仕方ないというような微笑。
もしかして、私も戦っているときはあんな顔なのでしょうか……?
「当該区域の生体反応ゼロ……お姉様、どうぞ」
「いきます……!」
必要なのは、ただ撃つという意思だけ。
そして、覚悟がないと安全装置が発動して射てないのです。
「発射!」
光の速さにも届くかもしれない砲弾は壁に大穴をあけ、床と天井を削り取りました。
音速を超える破壊のため、破壊音の方が遅れて響きます。
「これが……第二世代型兵器の最終到達点ですか……」
「まだ五割ほどの充填率でしたけどね」
「つまり、威力はまだ上がると……?」
「そんなところです」
とはいっても、威力が高すぎて一定以上の充填率になると違いが分からないんですけどね。
まぁ、この穴の大きさならISを展開しても十分通れますよね……ですが、この基地の修理費とかどこからでるのでしょう……?
もし国税からなら……ドイツ国民の皆さん、ごめんなさい。
「今ので戦車も随分と壊せましたね」
「ん、見えるの?」
「ええ、私は今はこの基地と同一のものになっていて、この基地は衛星画像も見れますからね」
「へー……エリーちゃん、でいいかな? すごいね!」
「それほどでも」
視界の向こうではシャルとエリーさんが話しています。
……エリーさん、ろりまぞのくせに、なんで撫でられて満更でもなさそうなんですか! いえ、本当は、エリーさんは優しくされるということを知らなかっただけなのは分かってますけど……
もちろん人工生命という特殊な生まれと軍隊という特殊な環境のせいでその考え方が歪んでしまっていたことも……
そのことは可哀想ですし、だから私も抱き締めましたが……
「また……誉めてくれないんですね……」
私もシャルに撫でてもらいたいです!
確かに、エリーさんが指示した方向に
でも、少しくらい私を贔屓してくれたって……
「エリーちゃん、じゃあ、こういうのって……」
「……ええ、まぁ。ですが……」
「残りでも……」
「お姉様は……」
「でも、そもそも僕たちは……く」
「……分かりました」
あぅ……内緒話まで……
誉めてほしいって、近くにいたいって……拒絶されるかもしれない怖さを我慢して、頑張って、言ったのに……!
「では、行きましょう」
仕切るのはエリーさん。
いつもなら、それは私の役目なのに……エリーさんに、シャルも、リーダーの役目も取られちゃいました。
でも、私はシャルのために戦うって決めましたからね。
「じゃあ、私が先頭でっ!?」
がんっ!
横からの衝撃に対処できず、そのまま吹き飛ばされました。
一体、何が……?
なにかに、のしかかられているようですが……?
「エリーちゃん!」
シャル!?
……なんで?
どういうことですか?
私は、戦わないと……シャルが誉めてくれるくらい、活躍したいのに……
どうして、そのシャルが私の邪魔をするんですかぁ……
「……ブロックF43区域の隔壁閉鎖。セシリア・オルコット、篠ノ之箒、織斑一夏、彼女たちは戦闘に参加しません。行きますよ」
ちょっと怒った表情のエリーさんと、困惑している三人。
やがて、その顔も隔壁によって隠されてしまいました。
あぁ……もう、戦えません。
「シャル……? なんで、戦わせてくれないんですか?」
私の四肢を抑えているシャルに問いかけます。
「アリサは……戦いたいの?」
「質問に質問で、」
「答えて」
……なんでですか?
今は戦うべき時で、私は戦いに行こうとしているのに……どうしてそれを邪魔するシャルが真剣なんですか?
「あの、こんなこと、してる場合じゃ……」
「答えて。アリサは、戦いたいの?」
そんなの……だって、シャルに誉めてもらうには、見てもらうには私にしかできないことをしなきゃいけなくて……
それで、もう私には戦うことしか残ってなくて……それしかできないから。
だから、誉められるには戦うしかなくて。
誉められたいから、戦いたくて……
「戦い、たいです……」
「嘘つき」
「え?」
嘘つき……?
……そんなことはありえません。
だって、戦うことしかできない私ですから、戦うことこそが私のレゾンデートルで……だから戦うことを放棄したら、私にはなんの価値も残らないんですよ?
それなのに、戦いたくないなんて思うわけが。
「まぁ、アリサが本当に戦いたいんだとしても、僕は行かせないけどね」
「なん……で?」
「簡単だよ。僕がアリサに戦ってほしくない。特に、今回は絶対に……」
「どうして、ですか?」
「……アリサは、戦うこと以外にできることはあるでしょ?」
そんなこと……ないです。
勉強なんかは誰だってやればできることで、お化粧だって鈴ちゃんは誉めてくれますけど三好さんの真似っこです。
「戦うこと以外で唯一の特技だったケーキ作りも……もう作れません……」
「……人を殺した自分が、誰かを喜ばせていいのか分からないから?」
「っ!?」
……なんで、分かっちゃうんですか……?
誰にも話したことないのに……どうして?
「可哀想。気にしてないふりしてても、やっぱりトラウマにはなってたんだね……?」
「トラウマ……なのでしょうか? ただ、人殺しの作ったケーキなんて血の臭いしかしないんじゃないかと思ったら……」
そしたら、考えてしまうんです。
ケーキを作っているこの手で、また誰かを殺してしまうのではないかと……
それが怖くて……手が止まってしまうんです。
「人を殺すことには、もう躊躇しません。でも……だから、ケーキも作れませんし、他の取り柄だって……」
「大丈夫、きっと作れるよ」
「っ……作れません!」
なんで、そういうことを言うんですか……!
もう、ケーキ屋さんになることは諦めているのに……一生、戦っていこうって思っているのに……いくらシャルでも、酷いです。
「作れるよ……今、作れなくても絶対にまた作れる。一人で作れないなら、アリサが一人で作れるようになるまで僕が手伝うから……アリサを戦わせてたのは、僕みたいだしね」
「違っ……! 私が勝手に!」
シャルは、一回も私に戦えなんて言ってません……だから、シャルが責任をとるみたいな言い方……
私が、勝手に戦ってただけなんですから。
半分以上は私の自己満足で……
「じゃあ、今度は僕が勝手にアリサを助ける。アリサが戦わなくていいように。ケーキを作れるようになるまで……ずっと、一生ね?」
あ……ぅ……
そんな……プロポーズみたいなこと言わないでくださいよ……勘違いしちゃうじゃないですか。
そんなこと言っても、結局、シャルは男の人と結婚してしまうんですから……!
「それに……アリサは、戦闘機とか戦車とかと戦ったんだよね?」
「はい……」
また、話が飛びましたね……?
「だから、余計に戦わせたくないの。今回は無人機だけど……思い出しちゃうかもしれないし。それで、またアリサがなにか嫌な思いするのは……嫌だよ」
「シャル……でも、私は専用機持ちなんです。海で、私達は篠ノ之さんを戦わせました。彼女が専用機持ちだったからです。あの時、篠ノ之さんは戦ったのに、私が戦わないのは……筋が通りません」
「そうだね。アリサならそう言うと思ってた。だから……」
だから……?
シャルが私の上からどいて、正面に立ちました。戦場に背を向けるように……
そこまで分かっているなら、私が絶対に心変わりなんてしないことも分かっているはずです。
だって、戦わなくていい理由がありません……
「ここで、僕がアリサを倒す。気絶させてでも、ここは通さないよ?」
「そんな……」
「戦いたいなら、邪魔する僕を動けなくなるまで痛めつけるしかないよ? アリサ、どうするの?」
……ズルいです。
私はシャルのために戦おうとしてるのに、そのシャルを倒さないといけないなんて。
勝っても負けても……私にメリットがないじゃないですか!
「シャルは……」
「うん?」
「シャルは、これから同じことがあるたびに私の前に立つつもりですか……?」
「ううん。今回止めて、それでおしまい」
「へ?」
馬鹿に……してるんですか?
私、物覚えはいい方ですけど、物分かりは悪いですよ?
それに、一度止められても、シャルのためなら何度だって、
「アリサは、戦えないよ」
「……っ!?」
「だって、今回戦わなかったら、戦場にアリサの居場所はなくなるから。一夏と箒がいればどんな戦争だって止められる。確かにアリサはIS同士の戦いなら一番強いけど、ISより脆い戦闘機とかが相手なら誰でもいい。アリサじゃないといけない理由なんて……どこにもないよ?」
それは……私がいらなくなるってことですか?
皆が、私のことを必要としないで……いてもいなくても同じと……そう捉えるようになるってことですか?
戦場に居場所がなかったら……
「私の居場所は、どこですか……?」
「どこでもいいんじゃないかな?」
「そんな無責任な!」
「そうかな?」
「そうです! だって、居場所がなくなったら、私、どこにいけばいいんですか? 私は、どこで必要としてもらえるんですか? 私なんて……戦わせる以外の使い道ないのに……」
……ケーキも作れないですし。
ううん。
鈴ちゃんがいなければ、きっと料理も作れません。私が作らないと鈴ちゃんのお腹が減っちゃうから……そういう義務感で作ってるだけで、誰かを喜ばせるためだと……作れません。
人殺しが誰かを喜ばせていいのかわかりません。
人を殺して喜ばれるのは、戦場でだけですから……
「なら、アリサの居場所は僕が作るよ……だから、もう戦わないで?」
その言葉と一緒に、シャルはラファールを引っ込めました。
まるで、もう私に戦意がないと思っているみたいに……
でも、シャルを怖がらせたくないので、私もカゲロウを簡易状態に戻します。
どうして……?
なんで、そんなことを言うんですか……!
シャルだって、いつまでも私といれるわけじゃないのに!
そうして、戦うことを忘れた頃に……シャルが男性とお付き合いしたら……私、捨てられちゃうんですよね?
そんなの……一番、辛いです。
「わかりました……なんて、言えるわけないじゃないですか! 今、確実にある居場所を放棄して、あるかも分からない新しい居場所を探すなんて! それで、結局……そんなものがなかったら、私、死ぬしかないじゃないですか……」
誰にも必要とされないのは、本当に、辛いです。
そんな世界で生きられるほど、私は強くないんです……だから、必要とされるなら、そこが戦場だとしても私は行きます。
認めてもらえるのは嬉しいことですから……
「じゃあ、アリサは……世界平和を食い止めるためにアリサの力が必要だって言われたら力を貸すの?」
「それはっ、」
「世界が平和になったら戦場もなくなるよ? やっぱりアリサは力を貸す方が正解なんじゃない?」
「そんなこと……」
私は……自分の居場所のために人を殺したりなんて……!
ですが、確かにそういうことになりますね。
シャルは、私をどうしたいんですか……?
こんな風に、私の矛盾を突きつけられても……
私、独りぼっちになっちゃうだけじゃないですか……
「……えと、まだ、戦いたい?」
「……はい。だって結局、私の居場所は戦場にしか……」
シャルの言うように、世界が平和になったら居場所もなくなりますが……そうなったら、諦めます。
少なくとも、平和になるまでは私を必要としてくれる人はいるでしょうから…
「じゃあ……居場所ができたら、戦わない?」
「それは……」
でも、戦うのをやめるのは……
他の人はみんな戦っているのに。
それに……シャルの言った通り、今回戦わなかったら、多分私は戦えなくなっちゃいます。
「迷うってことは……やっぱり戦いたくないんじゃない……? さっきの、僕のため以外には戦いたくないって言ったのも、本当は……」
「……いえ、そんなことは、」
もう……やめてください。
お願いです。
これ以上、私を悩ませないでください……!
戦える人が戦う……それで、いいじゃないですか!
私は戦うって言ってるのに……どうして、止めようとしてくれるんですか……?
私のことなんて……気にしないでいいですよ……私が、勝手にシャルのために動きますから、シャルは、たまに私のことを誉めてくれれば……
「アリサの居場所は……すぐに作れるよ」
「ぇ……と。どういう……意味ですか?」
「こういう意味」
シャルが、一歩私に歩み寄って腕を取り……私を引っ張りました。
予想外だったので、転びかけてしまいましたがシャルが支えてくれたのもあって、なんとかこらえられました。
なんだか、抱きついているみたいな感じです……シャルも、抱き締めてくれればいいのに……
ぎゅぅ……
「ふぁ!?」
あ……れ?
「シャル……?」
なんだか、いつもと様子が違います……?
いつもは、包み込むように優しく抱き締めてくれるのですが……今は子供みたいにがむしゃらな感じがします……
「あの……少し、苦しいです……よ?」
シャル……?
どうしちゃったんですか?
ど、どうしましょう……?
えと、とりあえず……抱き締めかえしてみようと思います。
……なにがしたいのかは分かりませんが、私はシャルを拒絶したりしませんよ。
だから……思うところがあるなら……話してほしいです。
「シャル……」
「ごめん……僕、またズルいね」
「……え?」
「アリサのことだけ追い詰めて……僕自信は安全を保ってて……でも、怖いから……」
あの、シャル?
さっきから全然、まったくこれっぽっちも意味が分かりませんよ?
どうして、シャルが辛そうな顔をしているんですか?
……シャルが辛そうにしているのをただ見ているのは辛いです。
私がどうにかできるなら……言ってくださいよ……
「アリサ……嫌だったら、跳ね除けてね?」
「え? シャル? それはどういむぐっ!?」
「ん……」
はぇ?
シャルの顔がアップです……
目も閉じているので、シャルの睫毛の長さどころか本数まで数えられそうで……
その整った顔立ちにため息をはいてしまいそうになりますが……シャルがそれを許してくれません。
だって……シャルの唇が、私の口を塞いでますから。
シャルの唇……熱いですね。
もしかしたら、緊張しているのかもしれません。少し乾き気味です。
リップ塗ってなかったんですね……女の子の身嗜みだって、いつも言ってるじゃないですか……
ねぇ、シャル…………どうして……キスなんて、するんですか……?