Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「反撃」


70. Une contre-attaque

「アリサ、それは認めない」

「……え?」

 

 そんな……ラウラさんたちは私が欲しかったんじゃないんですか?

 それじゃ、困ります。

 フランスを助けられないじゃないですか……

 

「でも、私が、」

「アリサ。一人で全部を背負う必要はない」

「ですが、できることがあるなら……それをやらないことは罪深いと思いませんか?」

 

 少なくとも、できることをやらずに後悔するなんてこと、私は嫌です。

 

「もちろん、できることはすべきだ。だがアリサのそれはフランスを守ることじゃないだろう?」

「え……?」

 

 私が……言い方は悪いですけど身代わりとしてシュヴァルツェ・ハーゼに入れば、少なくとも仏独戦争は回避できますよね?

 それなら私がすべきことは、

 

「はぁ、ったく……世話が焼けるわね」

「鈴、ちゃん?」

「今は、シャルロットを助ける方が大事なんじゃない?」

 

 もちろん他の三人もだけど。

 鈴ちゃんがニヤリと笑いながら言いました。

 

「私とクラリッサ、そして鈴で外の無人機軍を殲滅する。アリサは捕らえられたやつらを救い出してくれ」

 

 殲滅って……激しいですね。

 私がすべきはシュヴァルツェ・ハーゼと協力して、内部にいる歩兵たちを無力化しつつ皆を助け出すこと……ということですか?

 途中で全員分のISを奪還できればなお良しでしょうか。

 

「ですが、ドイツとフランスが、」

「ここが襲撃されていると言うことは未だに報告されていない。まぁ、報告できないと言った方が正確だがな」

「アリサはこの部屋に来たばっかだから心配するのも仕方ないけど、通信機類が全部ジャックされてるみたいなのよ」

「……つまり、私たちが自力で解決し亡国機業からの襲撃だったと言うことはまだ可能だ」

「ですが……」

 

 どうして、そんなことを?

 私自身にどれだけの価値があるかはおいておくにしても、私が必要なら私を引き入れてからでも……

 

「アリサが自分の意思で来ないなら意味がない」

「…………」

「それこそフランスと戦争になったときに裏切られてはたまらないからな」

「…………では、行ってきます。シュヴァルツェ・ハーゼの皆さん、私についてきてください」

 

 ……というか、誰か一人先導してください。シャルたちがそれぞれ囚われているところに着く前に迷いそうです。

 ゲームではないので迷った末の行き止まりに宝箱なんてこともあり得ませんし、レベル上げも必要ないので最短ルートを行くべきですし。

 

「アリサさん。私が先導します」

「はい、お願いします」

 

 今まで防犯カメラからの情報を画面に写し出す役目を任せられていた女の子が私の前に進み出てきました。

 まだ幼く見えますけど……十二歳くらいでしょうか。名前は……エリーさんですか。

 ……大人数の敵と戦うことになったら全員を守れるか分からないですね。

 

「……怖くないですか?」

 

 少しでも恐怖心があれば、それが足を竦ませてつまらない死に方をするかもしれません。

 私は人が死ぬところを見て愉しむ趣味なんて持っていないので、そういう人をつれていく気はないんです。

 

「生まれたときから兵士ですから、覚悟はできています」

「あぁ、あなたも……」

 

 ラウラさんと同じ試験管ベビーなんですね。

 ……正直、これだけはどうしてもすんなりと受け入れられません。

 

「では行きましょう。皆さん、ぼさっとしてると置いてっちゃいますよ」

 

 もちろんラウラさんや目の前のこの子が、ということではなくて試験管ベビーというものを産み出したドイツ軍の所業が、ということです。

 ある意味、材料は同じなんですから、産み出され方が違う程度のこと、気にする必要もないと思うのですが……それでも、人工的に子供を造り出すのは違うと思います。

 キリスト的な神のみぞ許される行為だとか言うわけではないですけど、人が踏み込んでいい領域だとも思えません。

 

「アリサさん、誰から助けますか?」

 

 敵が侵入してきた際、十分にISを展開させないよう狭く設計された廊下を走りながらエリーさんが聞いてきました。

 だいたい人が三人横に並んだら道を塞いでしまうくらいの細さです。

 

「近い人からお願いします」

「でしたら、篠ノ之箒、セシリア・オルコット、織斑一夏、そしてシャルロット・デュノアという順番になってしまいますが……?」

「それがどうかしましたか?」

 

 最高効率で全員を救い出すんですから当然の順番です……助ける順番に優先順位なんてありません。

 それは、私情を挟んだとしてもです。

 

「……次、右です」

「ありがとうございます」

「曲がって左手側の四番目の部屋に、」

 

 篠ノ之さんがいるというわけですか。

 彼女自身、ISがなくても十分に戦える人なので一番最初に合流できるのは嬉しいですね。篠ノ之さん次第では二手に分かれることも……

 あれ、これは……?

 

「皆さん、止まってください」

「……敵ですね」

 

 エリーさんが私の隣まで戻ってきました。

 私のちょっとした一言でここまで看破するなんて……もしかして彼女も気付いていたのでしょうか?

 

「右、後方、前方……三方向からの挟撃です。数もそれぞれ三十人ほどでしょうか」

 

 まだ距離は離れていますが……ハイパーセンサーで複数の足音を捉えました。

 ですが、三方向となると少し厳しいですね。相手のほうが数も多いわけですし……

 

「指揮官代理、反転して後方からの敵にぶつかってはいかがでしょう。この三叉路から離れれば少なくとも三方向からの挟撃という展開は防げます」

「し、指揮官代理?」

 

 わ、私のことですか?

 いえ、確かに私は彼らのことを率いていますけど指揮官だなんてそんな。

 

「あの、私、これでも戦いのことは門外漢なので、あの、指揮官代理なんて……」

 

 そんな偉そうな肩書きつけられちゃうと実力が無いのも相まって恥ずかしいですよ……

 

「照れることはありません。率いることができる人が指揮官なのです。それに何のために私がいると思っているのですか」

「へ?」

「……これでもシュヴァルツェ・ハーゼのナンバースリー、参謀役です」

 

 ……なるほど。

 通りでラウラさんが躊躇いもなく送り出すはずです。

 いくら軍人だからといって、あのラウラさんがまだ十二歳程度の子供を戦わせるとは思えなかったんですよね。

 ラウラさんがエリーさんを信頼しているのは彼女がクラリッサさんに次ぐ実力者であるということですね。つまり、シュヴァルツェ・ハーゼの所有する三台目のISの操縦者ということなのでしょう。

 

「エリーさん、後方は任せます」

「え?」

「ですから、前方は私に任せてください」

 

 カゲロウのように最初から狭い場所での対人戦を想定した簡易展開という機能が搭載されていない限り行動は大きく制限されるはずです。

 それなら私が一番働くのが道理というものでしょう。

 

「いえ、いくらISを纏っているとはいえ囲まれてしまったら……それに装備はどうするんですか?」

「問題ありませんよ。簡易展開というのも便宜的なもので、これも一種の戦闘形態なんです。なので……」

 

 細い鎖に吊るされたいくつものナイフがジャラリという音を立ててドレス状態のカゲロウにぶら下がるようにして現れます。

 

「当然、この状態で戦うための装備もあるということですよ」

 

 踊り子のナイフ(キリング・ダンス)という名称がつけられたこれは嵐才流による高速歩法・疾歩に殺傷性を持たせると同時に、一つ一つが刃先に重心を置かれているため投げナイフとしても機能します。

 それぞれの刃の表面にはチタンコーティングが施されていて光を殆ど反射しないので暗殺にも便利だとか。

 なんでこんなもんをISに装備してるかって言うのはうちの武器開発担当者に聞いて下さい。

 

「敵は制圧用のゴム弾ライフルを装備しています。私にはなんともありませんがこの至近距離でもらえば頭蓋骨程度余裕で潰れますので気をつけてください!」

「こちらは本職の軍人ですからご心配なく……本当に任せていいんですね?」

「ええ、一人も殺さないで捕虜にする程度の余裕はありますよ」

 

 聞きたいことはたくさんありますからね。

 

「手を上げろ!」

 

 来ましたね……では、行きましょうか。

 

「お前たちは完全に挟まれている。おとなしくがぁっ!?」

 

 戦闘で銃を構えていた男の人を接近してから腹部への打撃で前のめりにさせて、さらにその頭を蹴り上げます。

 

「き、貴様ぁ!」

「……なんてことを言ってる間に引き金を引けばいいと思います」

 

 ナイフを一本、鎖から引き千切り慌てたように銃を構えた人の太ももに突き刺してひねります。

 

「ぐぁぁぁぁあああ!?」

「あ、動いちゃ駄目ですよ」

 

 ゴキン、という音を立ててナイフの刃が太ももの内部で折れました。

 あくまで投げナイフ用なので変に力がかかると簡単に折れちゃうんですよね。

 

「あらら、先っぽだけが折れちゃったみたいですね。これじゃ抜けないかも……ご愁傷様です」

 

 痛みにしゃがみ込んだ相手の傷口を躊躇無く踏みつけます。

 動脈が傷ついたのか傷口から断続的に血が噴出しましたが気になりません。

 ……敵ですから容赦しませんよ。殺しもしませんけどね。

 

「くす……痛いですよね? 砕けた刃に内側から切り刻まれるなんて経験、なかなか無いですよ?」

「あっ、あがっ……」

 

 あまりの痛みのためか泡を吹いて気絶してしまいました。

 あらあら、情けないですねぇ?

 

「……二人目、と」

 

 この細い通路だと二、三人ずつしか相手にできなくてキリがないですね。

 もちろん、囲まれて一方的に攻撃されないという利点もあるのですが、これだと私のほうが飽きちゃいますよ。

 それに、ここで時間をとられるわけには……

 

「ぎゃぁ!?」

 

 私に銃を向けた人の腕に――正確には前腕骨にある二本の骨の隙間にナイフを突き刺し、そのまま壁に縫い付けます。

 ……もう少し。

 両手に三本ずつナイフを掴み不破の投擲術・雹の要領で投げます。

 それぞれが肩や膝、手の甲を砕き相手を無力化していきます。

 

 

「……もう少し手荒にしてもいいですよね?」

「ひっ」

 

 向かってくる相手の顔面をナイフの柄で叩き潰し、比較的、死につながりにくい部位にナイフを突き刺し、直に掴み掛かってくる腕を叩き折り、時には相手を後頭部から壁や床に叩きつけます。

 大丈夫……まだ殺してしまうほどではありません。

 腎臓なら片方が潰れても死にはしませんから……ね。

 

「……エリーさん達の方は大丈夫そうですね」

 

 そう呟きながらナイフを投げつつ、また新しいものを量子化領域から喚び出して相手の後方に投げました。

 そして数秒のうちキィーンという耳を(つんざ)く超高音が響き、それに遅れて私の目の前にひしめいていた人たちが次々と倒れていきます。

 

「いやー……さすが、使用禁止レベルすれすれのものは威力が段違いですね」

 

 高周波グレネード・乙女の慟哭(バンシー)

 その名の通り耳から直接人間の三半規管に作用して自律神経を麻痺させる代物です。

 十メートルより近くで破裂した場合、立っていられなくなるどころか失神するレベルのはずですから多少は楽になりましょう。

 何より音が反響しやすい造りの狭い廊下ですからね……効果は抜群のはずです。

 

「ぅ……おえぇぇ!」

「あれ、吐く程度にまで我慢できる人もいるんですねぇ。大した根性です」

 

 まぁ、蹴飛ばしますけど。

 ……でも、何か引っかかるような?

 とりあえずエリーさんたちのほうを援護しに、

 

「指揮官代理……?」

「……あ」

「あんなものを使うなら事前に言ってください! たまたま私たちが敵のグレネード対策として耳栓をしていなければ全滅していましたよ!」

「ご、ごめんなさい」

 

 ……チームワークって難しいです。

 

「とりあえず、篠ノ之さんを迎えに行きましょう」


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