Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「なにごとですの!?」
いえ……こういうときは落ち着くことが大事ですわね。
シャルロットさんがアリサさんのもとへ向かった途端に鳴り響いた警報。
思わず慌ててしまいましたわ。
警報と共に流れたアナウンスによればテロリズム対策室に向かえとのことでしたわね。
「わざわざ逆らうこともありませんし大人しく……っ! 誰ですの!?」
………………
後ろからの気配に振り返りましたが怪しい人物はいません……どうやら、わたくしの勘違いだったようですわね。
だいたい何が起きたかもまだ明らかになっていないのです。
他人様の庭だからと警戒しすぎているだけなのかもしれませんわ。
「では、対策室とやらに行きましょうか」
バチっ!
「っ!?」
今の音はまさか……スタンガン?
ですが、確かに怪しい人物は……
バチンッ!
「っく! ……油断、しましたわ。そういうことですのね」
首筋から全身に走る痺れ。
ですが腐っても代表候補生です。これくらいならまだ耐えられますわ……!
しかしどうやって……まさか!
もう既に……外ばかりに目を向けていては……!
バチンッ!
「あぐぅっ…………」
「……イギリスの代表候補生を確保しました」
◇
がしゃぁん!
「ここに一人いるはずだ! 探し出して捕まえぐぁっ!」
「なにがっ、ぐふっ……」
「ナット! ネイル! ……全員、警戒しろ!」
とりあえず、先遣隊よろしく突入してきた二人は潰しました。
それにしても警報とほぼ同時に飛び込んでくるなんて……中に入り込まれるまで誰も気付かなかったんですか!?
それに、全員が銃を構え始めましたね……大きさ、構造的に暴徒制圧用のゴム弾ライフル?
ちぇっ……全員、ここで引導を渡してやろうかと思ったんですけどねぇ……!
……少し、クールダウンの必要がありそうです。
とりあえず今の攻撃に乗じてカゲロウの
まず、状況ですが、シャワールームには私一人。他の個室には誰もいないはずです。自分のことだけ考えればいいというのは楽ですね。
それにしても……私の邪魔をするだけでなく、裸のレディがいるシャワールームに窓と扉からの二面攻撃をかけるなんて……極刑です。
しかも、先頭の二人を攻撃したことで警戒されてますし……ざっと見て十人ほどでしょうか?
声からすると……男性のようですが身体全体を隠しているのでイマイチ分かりませんね。
ただ、
「どうせ隠すなら、特殊装甲でも着てくるべきでした、よっ!」
カゲロウの簡易展開状態――黒の夜会用ドレスを身に纏いシャワールームの個室の扉を蹴破って飛び出します。
ああもう!
下半身が
「このっ!」
「あったりーませーん、っと!」
銃身を掴んで腕ごと捻りあげ、銃口を相手の腹部につきつけます。
「この至近距離ですと腎臓とかなら破裂するかもしれませんねぇ?」
「ひっ!」
「……容赦しません」
パァンっ
崩れ落ちかけた相手の腕に私の腕を絡みつけ肘を極めます。
そして襟首を掴み、肘を折りながら投げる……この感触は馴れませんね。
「はふぅ……」
どうしても、体の芯から熱くなっちゃいます。
受け身をとらせずに背中から地面に叩きつけたため呼吸困難に陥っている人がいますけど気にせず蹴り転がします。
たかだか十五歳の少女による暴力に動揺しているのでしょうか。
誰も手の中にある銃を放ったりしません。
……まぁ、簡易展開とはいえ既にカゲロウを身に纏ってますし、そんなおもちゃのゴム鉄砲なんて気にしませんけどね。
「私がここにいることを知っていることや、裸の時を狙うにもかかわらずこの大人数ということは……貴方たち、私のこと調べてきました?」
生身での戦闘力は私が一番ですからね。
ハイパーセンサーも扱え、スラスターも普段の三割程度とはいえ使える現状なら誰にも負けませんよ。
「……あぁ、もしかして無闇に人を傷つけない、とか書いてありました?」
それなら訂正しないといけませんねぇ。
「無事に帰れたら書き直しておいてください。私は、シャルを守るためならなんだってします」
本当に必要なら、人だって殺めてみせますよ?
「シャルも今襲われてますよね? なら、邪魔しないでくださいよ」
当然、動く気配はありません。
仲間の一人が一方的にやられても動揺しない……プロの軍人さんでしょうか?
もしそうなら……他国からの侵略、およびIS技術の強奪?
そんなことをする理由がある国なんて……あります、ね。
唯一ではありませんが最も可能性が高い国は……フランス。
いえ、第三世代型の計画も本格的に始動しているので本当はそんなことはないのですが、肝心なのは他の国からどう見られるかということです。
第三世代型の開発ができないにもかかわらずイグニッション・プランに執着を見せるフランスは……動機十分と判断されるかもしれません。
フランスが疑われることを想定してのテロですか。真犯人はどこの国でしょうね。
なんて……
「こうしてはいれませんね」
戦って、全員を戦闘不能にしてもいいのですが……シャルのこともありますし、時間をかけたはくありません。
……逃げましょう。
「退いてくださいね? 邪魔するなら……喉笛噛み千切りますよ?」
疾歩での縮地法を使って扉側を塞いでいる四人に肉薄しての一言。
ウサギっぽいとか言われることもありますが、自己診断では狼さん……群れに手を出すなら容赦しないような……
私が動き出した瞬間、各々がゴム弾を放とうとしますが……
「遅いですよ」
一瞬押して、思いきり引っ張る。
先程の組手の時と逆のことをして扉側の人たちを窓側に立っている人たちに向けて投げます。
どうせなので全員投げちゃいましょう。
「では、失礼します」
腰をきゅっと締めることでウエストを強調する大きなリボン……のように見えるイオンスラスターを起動させて、さらに疾歩を併用。
対策室に急ぎましょう。
鈴ちゃんを効率よく織斑君に遭遇させるためにカゲロウに内部の開放区画の地図をインプットしていてよかったです。
「……シャル。無事でいてください」
襲撃を受けているためISコアによる居場所の情報の共有は行われていません。
敵方にもISがいる可能性を考えてです。
それなら、会うためには対策室に行くしかない……こんな状況で、まだ仲直りもできていないのに会わなきゃいけないのは不安ですけどね。
「ここを、右!」
多分ですけど! なんで地図ってこんなに読みにくいんですか! 私いまだに学校でも迷うんですからね!
まぁ……幸い、対策室は遠くありません。今の私の足で一分もかからないでしょう。
シャル以外にも誰かと合流できればラッキーです。
「っ!」
また、います……いったい、どれだけの人員がここに?
こうなると十人と相対する羽目になったのは私だけじゃないかもしれませんね……
とにかく、回り道はできません……昏倒させましょう。
◇
「ここ、ですね……」
妨害されるわ道に迷うわでずいぶん時間かかっちゃいました。
とにかく対策室の中に……ちょっと待ちましょう。
警報であれだけ派手に対策室に集まれー、なんて言ってたわけですから……普通に考えてテロリストたちも来ているのでは?
……とはいえ中を確認しないわけにもいきませんし……
よし、行きましょう!
「失礼しわわっ!?」
ドガッと黒い塊が飛んできました。
というか人です。
これは……テロリストの一人でしょうか?
「アリサ……? 早く入って!」
聞き覚えのある声に従って素早く部屋の中へ。そして静かに扉を閉じます。
中にいたのは鈴ちゃん、ラウラさん、それにシュヴァルツェ・ハーゼの面々です。クラリッサさんを始めとして見覚えのある顔もいくつかあります。
「鈴ちゃん……無事でしたか」
「ラウラもいるけど……他の四人は捕まったわ」
……シャルも、ですか。
部屋にはシュヴァルツェ・ハーゼの人たちはいますが……私がシャルから離れなければ……
いえ、ここで怒っても意味がありません。冷静さを失う必要はないでしょう。
「捕まっていると分かっているのはなんでですか?」
それに直接見たにしてもこの二人が見捨てるとは思えません。
となると相手側から連絡でもあったか、もしくは……
「四人がそれぞれ囚われている部屋にはカメラが仕掛けられている。当然、この部屋からも確認できる」
ラウラさんが手近にあったキーボードを操作すると備え付けられていた液晶画面がそれぞれシャル、セシぃ、織斑君、篠ノ之さんを映し出しました。
四人とも目立った外傷がないのは不幸中の幸いですかね。
「なるほど……やはり別々の場所ですか。どうします?」
「……正直、こちらから出向くのは危険だ。助けにいくとしても複数人でないと……」
……敵の戦力は未知数。
ですがこちらは既に消耗している状態……
「せめて、もう少し動ける人がいれば助かるんですけどね……」
「「「「…………」」」」
「え? なんで私を見るんですか?」
「アリサが若いのをいじめたりしなければ、あと十人はいたのだがな……」
「……あぅ」
だって、あのときはこんなことになるなんて予想できませんでしたし……
「ま、まったく。素人に負けるなんて歯応えのない人たちですねっ!」
「副隊長として隊の名誉のために言わせていただきますが、貴女に勝つにはシュヴァルツェ・ハーゼの上から十人ほどを集め、装備も十全にし、作戦を立ててやっとというところでしょう。もちろんIS戦であればその限りではありませんが」
「うぅ……すみませんでした」
クラリッサさんにピシャリと言われてしまうと私も言い返せません……
ですが、本当にどうしましょう。
私としては一刻も早くシャルを助け出したいんですけど……
「今は、敵が誰かなのを明らかにした方がいいですね。ラウラさん、襲撃を受ける覚えはありますか?」
「……IS研究施設が襲われる覚えか? あるにきまってるだろう」
「……まぁ、十中八九『亡国機業』でしょうねぇ」
数世紀前から死の商人的なことをしているらしいですが……最近はISを戦争の道具にしようとしているようです。
「隊長! 無人戦闘機と戦車の大群が……! 規模はそれぞれ約五十!」
「……方向はどっちだ?」
「南西方向です!」
「アリサ……標的は
「はぁ、やっぱり……」
なるほど……狙いはここに集まっている五体の第三世代型IS。
そして、仏独戦争の開戦ですか。
敵は確かに亡国機業のようですね。
ここぞとばかりに兵器を輸出しようというわけですね。
「ラウラさん。正直、ドイツはこれに乗じてフランスに攻め込むと思います?」
ISの研究施設の襲撃となると、立派に戦争の大義名分となります。
しかもその大義名分を持っているのが戦力的に有利なドイツとなると……亡国機業の仕業だと分かっても攻めてこないとは限りません。
ラウラさんに限っては、そんなことを望まないでしょうが……その上層部は……
「学年別トーナメントの時、私になんて言って勧誘したか覚えてます……?」
「は? おい……アリサ、まさか……」
あの時、ラウラさんが見返りとして提案した、イグニッション・プランとはまた別のフランスとドイツの二国だけの共同防衛協定……実現させられれば戦争は確実に回避できます。
もし、ドイツが本当にIS操縦者としての私に価値を感じているのならば、もしくはフランスと友好関係を築くことに意義を持っているなら……今回の友好的な招待もそのためだと考えたら、それもありえると望んでしまうのはバカでしょうか?
それでも、もしそうなら……ドイツも戦争は避けるかもしれません。
正直、今のフランスを攻め込む大義名分があったとしても、ISの技術が遅れているわけですからそこまでの魅力はないはずです。
戦争特需による経済効果は生まれるかもしれませんが……EUとしての全体的な旨味はないはずですし、戦争ではなく私を選んでくれる可能性もゼロでは、ないと思いたいです。
「アリサ、早まるな」
「ですけど……」
今、この瞬間にもフランスに攻め込むことを話し合っているかもしれません。
私とシャルという人質もいますし……
「だから……私はシュヴァルツェ・ハーゼの一員として……戦います」
優先すべきは私ではなくシャルの安全です。
シャルだけは……必ず無傷で助けます。