Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「さて……えー、ここからはドイツ特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼのための設備が揃っている。宿舎も兼ねているが機密事項も多いため黙って探検とかはしないでくれ」
「いや、子供じゃないんだし誰も探検なんて、」
「私は入隊直後に探検して遭難したぞ?」
「それって、ただの迷子じゃない……」
ラウラさん、というよりドイツが用意した私達の宿泊場所はシュヴァルツェ・ハーゼのための訓練施設でした。
なんでも他の隊員もここで暮らしており、さらにはIS用の新装備などの開発・実験もここで行われているとか。
その為に用意された敷地はIS学園とほぼ同等です。
……歓迎されているようですけど、こうも堂々とスパイになりえるメンバーを招き入れてしまうなんてドイツ軍部は何を考えているのでしょう?
「あぁ、しかし見学は私かクラリッサ……おい、クラリッサ!」
「はっ! シュヴァルツェ・ハーゼ副隊長、クラリッサ・ハルフォーフ大尉です」
「うむ。私かクラリッサに言ってくれれば便宜を図ろう」
って、見せちゃうんですか!?
機密って言葉がドイツの辞書になかったりしますか!?
「隊長の御学友の皆様、私のことは気軽にクラリッサお姉様、もしくはただ単にお姉様とお呼びください」
……本当に、ドイツは大丈夫なんですか?
いくらライバル国だとはいえ友人の国ですから心配になります。
「あぁ織斑一夏、貴女は私ではなく必ず隊長に申し出てください。必ず、ですよ」
「あ、あぁ」
……なるほど、クラリッサさんはラウラさんの応援ですか。
せっかくのドイツなのでラウラさんのために鈴ちゃんを織斑君にぶつけるのは控えてましたけど……ふふふ
「鈴ちゃん、遠慮はいらないみたいですよ?」
「……なんのはなし?」
「いえ……クラリッサさん、それぞれ応援する相手は違うみたいですが仲良くしましょうね?」
鈴ちゃんとラウラさんをそれぞれ動かして、正々堂々と織斑君争奪戦をしようではありませんか……!
先手は譲りますよ。
学園では鈴ちゃんがリードしてましたからね……
「なるほど……貴女がアリサ・フワですか。生身での戦闘においてはあのタテナシにも負けないという……いいでしょう」
「しばらくはお好きにどうぞ。後からでもひっくり返せますから」
「……あとで泣いても知りませんよ? これでも副隊長ですから味方だけでなく敵でさえも思惑通りに動かすだけの経験はありますからね」
「あまり織斑君の鈍さを見くびらない方がいいですよ、とだけ言っておきます」
「貴重な助言、感謝します」
「……私達の滞在期間は三泊四日。三日目に織斑君とデートを達成した方が勝者としましょうか」
「いいのですか? それでしたらドイツに詳しい隊長の方が有利ですよ?」
「だからこそ、他の人も出掛けるときにラウラさんを誘うでしょうね?」
「ふふ、アリサ、貴女とは仲良くしたいですね」
「こちらこそ」
これは、楽しくなりそうです。
癖の強いことで有名なシュヴァルツェ・ハーゼの隊員たちを纏めてきた手腕、見せていただきましょう。
「アリサ……って、なに笑ってるのよ?」
「いえ、鈴ちゃんは大船に乗ったつもりでいてくださいね?」
「や、意味わかんないし」
分からなくていいですよ。
自分の恋が勝負の対象になってると知ったら怒っちゃうでしょうからね。
「で、だ。みんなが泊まる部屋なんだがあいにくと十分な部屋数がなくてな。学園と同じように二人一組になってしまう。部屋の希望があればいってくれ」
「むむむ……」
好きな人と……ですか。
正直……困ります。
シャルと同じ部屋がいいといえばそうなのですが……酷いことを言ってシャルを傷つけない自信がありません。
自分でも分からないくらい、シャルに対して怒ってるんです。
……いえ、違いますね。
私だけがシャルに諭されて、裏切られた気になってるんです。
……不安になったら抱き締めてくれるって、言ったじゃないですか……
「アリサ、僕と、」
「ラウラさん! 同じ部屋にしませんか? そうしましょう!」
「え? あ、しかしシャルロットが……」
「あぁそっか、学園だとラウラさんはシャルと同じ部屋ですもんね……」
「いや、そうではなくて――」
「せっかくのドイツなのでラウラさんに話を聞きたいんです。シャル? 譲ってくれますよね?」
「う、うん……」
……ごめんなさい。
今は同室なんて絶対に無理です。
きっと、同じ部屋にいる方がシャルを悲しませちゃいますから。
好きなのに……好きだから、私だけを優先してほしいなんてワガママですよね。
シャルと私は、ただの、友達……それが、シャルの望むものなんでしょう?
「シャルロット、同じ部屋でいい?」
「うん……」
今だって……シャルが悲しそうな顔じゃなくて戸惑ったような顔をしているのを不満に思ってるんですから。
なんで私だけが振り回されないといけないんですか……そう、思ってます。
「アリサ!」
「……シャル?」
「あ、あとで……よければだけど、二人で観光しない?」
おそるおそる……まるで毒蛇を捕まえようとしているかのような雰囲気でシャルが誘ってくれました。
「……そうやって」
……私の気持ちを考えないままに機嫌を直させればいいなんて考えて……!
「私の気持ちを利用しないでくださいっ!」
自分でも驚いてしまうくらい、私の声には怒りが含まれていました。
身を竦めたのはシャルだけではありません。
……ちょっと優しくすれば仲直りできるなんて、思わないでください。
私は……シャルの言うことならなんでも聞くわけじゃないんですから……!
シャルも、もう私なんていらないんでしょう?
もう誰も、シャルを損なうようなことはしないんですから……シャルを守る私は、もう、いらないじゃないですか……
友達なんていう中途半端な誤魔化しでは、もう我慢できないんです……
だから……シャルなんて……
「もう
「ぇ…………そっか。アリサ……ごめんね? あと、今まで、ありがとう……本当、ありがとう」
……なんで?
なんで、怒ってくれないんですか……?
どう考えても、私が怒りすぎているのに……!
そんな顔で、謝られてしまったら……
そんな声で、お礼を言われてしまったら……
もう後戻りできないじゃないですか……!
「……大嫌いです!」
走り出した私を追いかけてほしい、腕を掴んで引き留めてほしい。
そんな、調子のいい願いは――
「…………ぐすん」
――叶いませんでした。
……当たり前ですよね。
◇
「……どうして?」
どうして、こうなっちゃうんだろ?
僕はアリサと仲直りしたかったのに……アリサは優しいから、僕が仲直りしたいっていうのが分かってくれてると思ったのに……
もちろん、謝る気だった。
でも、皆がいる場で謝ったら、アリサはなにも言わずに許してくれちゃうと思ったから……だから、部屋でゆっくり話して、アリサが言いたいことを全部聞いて……僕とアリサが真正面からぶつかるチャンスだと思ったのに……
そうすれば、今まで以上に仲良くなれると思ったから……
「なんで、離れちゃうんだろう……」
僕が、アリサに甘えてたから……?
アリサは我慢してくれるって、どこかでそんなズルいことを考えてたから……いらないって言われて当然だよね。
だって、友達だったら普通はそんなことしないもん。
今までもアリサに負担をかけてたのに、それを感謝するどころか当然だと勘違いして……自分からなにかをしてあげることはなかったのに、なにかをしてもらうことだけは笑顔で受け入れて……嫌われちゃうのも、当然。
「シャルロット、大丈夫?」
「リン……もう、アリサの笑顔を見れないかもしれない……」
「そんなこと……」
「いらないって言われて、最後だって、だからありがとうって……なんで私」
言いたいことすら素直に言えなかったんだろう……本当はあんな別れの言葉みたいなこと言いたくなかったのに……!
嫌だって言って抱きつきたかったのに……でも、アリサが本心から言ってるのが感じられたから……もう駄目だと思ったら……
沢山のことをしてもらって、返せたのが結局は感謝の一言だけなんて……僕って、本当に酷いね。
そもそも本当に感謝してたかだって怪しいよ……
「僕は、アリサの近くにいない方がいいのかな……?」
「シャルロット! あ、アリサだって少し興奮しちゃってるだけだから……ね?」
「ううん……いらないって……言われちゃったもん……」
「はぁ……あれが本心なわけないでしょ ! 少し考えればわかるでしょ!」
「分からないよ!」
アリサが、僕みたいな人間を必要とする理由なんて……
「優しさだけを求める僕だよ? アリサの負担にしかならない僕なんだよ? そんなお荷物いらないに、決まってるよ……」
「そんなわけっ、」
「なんで、言い切れるの!?」
「それは……だって、アリサはあんたのこと……その……」
ほらね、やっぱりアリサが優しいから友達でいれたんだよ。
そのアリサが僕を必要としないなら……僕ができるのは、アリサの視界に入らないようにするだけかな……
きっと、僕を見たらアリサの方が気にしちゃうからね……
アリサが許してくれるまで、いつまでも、そうしよう。
アリサが僕を嫌っても、僕にとってのアリサは大切な友達だから。
……アリサは初めて僕のことを本気で守ってくれた人だから……
「シャルロット」
「なに、ラウラ……?」
「アリサと話しにいかないのか?」
「行けるわけないよ……いまさらどんな顔していけっていうの……?」
「そうか……なら、アリサを正式にシュヴァルツェ・ハーゼにスカウトさせてもらう。確か、アリサがシャルロットを守らなければいけないからスカウトしてはいけないだけだったはずだな?」
「…………僕には、関係ないよ。アリサが選ぶ問題だもん」
……僕の顔を見なくてすむなら、アリサにとってシュヴァルツェ・ハーゼに属するっていう選択もいいかもね……
◇
どうして、あんなことを……
シャルはなにも悪くないのに……きっと、嫌われちゃいました。
「当然の罰ですね」
あんな、別れの言葉を言われても仕方ありません。
シャルは私のことを受け入れてくれているのに、私だけを優先してほしいなんて思うから……
だいたい、シャルは男の人と結婚したいって言ったんです。
なのに、シャルのことを諦められずにズルズルといつまでも引き摺っていた私が悪いんです。
私の気持ちが知られないで、否定されないで、友達のまま失恋できただけでも運がいいと思わないといけなかったのに……
……そもそも私がワガママ言える人間ですか?
体には醜い傷痕があって、人も沢山殺していて、その上、嫌われたくないという不純な動機だけで周りを優先していた私がワガママを言うことなんて許されるわけないじゃないですか……
シャルに見てもらえる……触れてもらえる……それすら身にあまる幸せなのに欲張ってしまったから……
それなのにいらないとか大嫌いとか……本当に、人としての価値すらない私がなにを傲慢な……何様のつもりですか。
本当なら、私みたいな人間から好意を持たれることすら嫌なはずなのに……シャルは、私を受け入れてくれて……
「自分は悪くないなんてことに拘って……私が我慢するのは当然じゃないですか」
だって、それしかできないんですから。今までも、そうやってきてそれなりに上手くいってたじゃないですか。
シャルは優しいから気にしてくれているでしょうけど……こんな私が近くにいたら、これからもシャルに迷惑かけてしまいます。
だから、仲直りしたいという気持ちも、シャルの笑顔を見たいという気持ちも全部封じ込めて我慢しましょう。
シャルを煩わせないために、シャルに会わないようにしたほうがいいかもしれませんね……
それでも、もしシャルが許してくれるなら……
「アリサ、入るぞ?」
「はい」
「………………」
部屋に入ってきたラウラさんが私の顔を心配そうに見つめてきます。
「なん、ですか……?」
「あ、ああ。アリサ、お前を正式にシュヴァルツェ・ハーゼにスカウトしたい。席もすぐに用意できる……どうだ?」
ドイツの軍部に……それなら、シャルから距離をおけますね。
シャルだって、私みたいな恩知らず、これ以上は顔も見たくないはずです。
それならいっそのこと……
「あの……シャルは、何か言ってましたか?」
「お前の問題だ、と」
……やっぱり、引き留めてはもらえませんか。
シャルにとって私は便利な道具にすらなれなかったんですね……そう思うと心が痛みます。
私にはシャルが必要だったけど、シャルは私じゃなくてもよかったってことなのでしょうか。
……神様。
……罪深い私のお願いなんて聞いてはくれないでしょうけど……
どうか、これからシャルに幸せな人生を与えてください。
「それで、アリサ、どうする?」
「前向きに……検討します」
さようなら……ごめんなさい……