Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「よーし……全員揃ったな。それじゃ搭乗始まるまで待つぞ!」
うぅ~……眠いです。
ねむねむです……
今日は朝早くからの飛行機にのってドイツまで飛ぶということで……夏なのにまだ日も昇ってません。
いえ、搭乗時刻よ一時間くらい早くに空港についていないと余裕をもって行動できないのは分かってますけど……最低でも搭乗時刻の三十分前にはいないと迷惑かけちゃいますし。
あぁ、私たちはドイツからの招待ということでVIP待遇? そんな感じみたいです。
もう公的な立場を持っていない私の分までお金を出して招待してくれるなんて太っ腹ですね。
「あ、搭乗始まりましたよ。行きましょうか?」
「……アリサさん、あちらの列はなんですの?」
セシぃに言われて隣の搭乗口を見てみれば確かに長蛇の列がありました。
……なんなんでしょうね?
「んー……限定品でも売ってるんじゃないですか?」
「あぁ、なるほど! 確かにそう考えると納得ですわね」
「日本人はミーハーらしいですから限定品とかキャンペーン中という言葉に弱いんだとか」
でもこちらの方が空いてるんですし、ああまで極端に偏るものですかね?
「二人とも……恥ずかしいから静かにしてなさい」
「む、鈴ちゃん、いきなり何ですか? 失礼しちゃいます!」
「あのねぇ、私達は招待されてるんだから普通の人たちと同じゲートを使うわけないでしょ。ドイツの見栄よ」
なるほど……貴賓席、みたいなものでしょうか?
確かに招待客に普通の一般人と同じところを使わせるなんてことは貴族的な考え方がまだ多少残っているヨーロッパにはありそうですね。
うちの国はいち早く貴族文化を覆したからそういうところが無かったのでしょうか?
「リン、嘘教えちゃダメだよ」
「いやいや、いくらなんでも信じたりは……」
「してるよ?」
ん?
何で鈴ちゃんとシャルは私とセシぃを残念そうに見るんですか?
「あのね……こっちがファーストクラス用で、向こうがビジネス・エコノミークラス用の搭乗口ってだけだよ」
「エコノミークラス用――」
「ほら、エコノミークラスはファーストクラスとかビジネスクラスと比べて人数が多いから、」
「――ってなんですか?」
シャルが困ったような顔のまま、ピシリと固まってしまいました。
飛行機って仕事する人のためのビジネスクラスと、それ以外の人のためのファーストクラスしかないんじゃないんですか?
それに
「うわぁ……もともとは貧乏だった僕には一生言えない言葉だね……」
「まったくね……」
しゃ、シャルが怖いです……助けて鈴ちゃん! まで怖い顔してます!?
……わ、私、なにか二人を怒らせるようなことを言ってしまったのでしょうか?
「わ、私が主催だというのにお前たちは……」
あれ、ラウラさん……ごめんなさい、忘れてました……
口に出していったらいじけそうなので言いません。
「まぁ、いい。それよりも向こうの二人をだな……」
「鈴ちゃんに任せます」
「私はセシリアに任せるわ」
「ならわたくしはシャルロットさんに」
「じゃあ僕はラウラに任せるよ」
「「「「「…………………じゃーんけーん、」」」」」
ぽんっ、と出された手は私を除いてみんなグーです……殴るために固く握りしめられた
……私達がじゃんけんをしてまで人に丸投げしようとしていたものは、ここにいない人たちのことを思い出せば一瞬でわかります。
つまり、私たちの少し後方で、
「お、おお、俺、ファーストクラスなんて初めてだぞ!」
「い、一夏、大丈夫だ、私も
「え、なに!? 何で箒が怒ってるんだよ!?」
おのぼりさん状態と言いますか……できれば他人のフリをしたい織斑君と篠ノ之さんです。
だいたい二人とも飛行機は初めてじゃないでしょうに……
織斑君はヨーロッパで開催された第二回モンド・グロッソで一度誘拐されてるんですから少なくとも飛行機に乗っているはずですし、篠ノ之さんも束さんと行動を共にしていたときは国内便くらいなら乗っていたはずです。
というか初めてでも子供じゃないんですから分別をですね!
「……早く行きなさいよ」
「これなんて罰ゲームですか……?」
鈴ちゃんに背中を押されて(極めて物理的に)歩を進めます。
あと四歩、三歩、二歩……一歩……!
「あ、あのっ、ふたりともっ!」
「おお、不破さん! 不破さんはファーストクラスは初めてじゃないんだよな?」
「え、ええ……?」
「そいつはよかった……そういう人がリードしてくれると戸惑わなくてすむからな」
うん、実はさっきから気付いてたんですけど、織斑君は緊張はしていてもマトモなんですよね。
問題は……
「一夏ぁ!? まさか、
「あの、篠ノ之さん……?」
篠ノ之さんが壊れすぎてます。
……どうしてこんなことに?
「落ち着いてください」
「落ち着けるか! だいたい不破! お前、処女じゃないのか!? ヤリ●ンなのか!? ビッチ!? がばがばなんだな!?」
「ふぇっ…」
お、おおおお、大声でなに言ってるんですかぁ!? しかもこんなに人の多いところで!?
ち、違いますからね!
私はビッチでもヤリ●ンでもがばがばでもないですからね!
あぁ、オバサン、あんなに若いのに、今の子ったらやぁねぇ、とか言わないでください!
そっちの男二人組もどっちが声かけるかでじゃんけんしないでください! 私は尻軽じゃないんですから!
「初体験はいつなんだ!? 相手は!? や、やはり、痛いのか? 血とか沢山でたのか?」
「あぅ、あぁぅ~……」
「そ、その、初めてでも絶頂に達することができるというのは本当か……?」
「ふぇ……し、知りませんよぉ!」
もう、恥ずかしすぎて泣けてきちゃいます。
なんで私が周りのお客さんからビッチ扱いされるんですかぁ……私は、まだ乙女です……失恋したばかりなのに、この仕打ちはあんまりです……
「お、思い出すだけで泣いてしまうほど痛かったのか!? す、すまなかった……それほどだとは予想していなかった……」
そうじゃないって言ってるじゃないですか!
もう……誰か助けてくださいよぉ……
「とりあえず、箒は黙っておけ。いいな?」
「一夏? これは大事な、」
「いや、ここでする話じゃないだろ……」
おぉ?
織斑君が惨状に気付いてくれたみたいです。
篠ノ之さんも訳のわからないくらいぶっ飛んでましたからね。よかったです。
……というか、皆さん見て見ぬフリなんてみんな酷いですよ?
だから、おかえしです……
「では、二人とも行きましょうか!」
「ふ、不破さん? 聞こえてるからそんなに大きな声で、」
「早く行かないと、ファーストクラスの搭乗口で待っているセシぃとシャルと鈴ちゃんとラウラさんがくたびれちゃいますからね!」
びくっ、と四人が竦んだ気配がしました。
私を迷惑になるから、と注意しようとしていた織斑君も私の意図に気がついたようで、
「そうだなー! 皆はどこだ? 茶髪でツインテールの鈴はともかく、金髪のセシリアとシャルロット、銀髪のラウラは目立つからすぐ見つかるはずなんだけどなあ!」
びくびくっ、とさらに動揺した気配が伝わってくると同時に、周りの搭乗客の皆さんが四人を見つけ始めたのが分かります。
ふんっ、薄情な皆さんは私の恥ずかしさを思い知るといいんです!
ほんとに、ほんとーに! 恥ずかしかったんですからね!
でも、
「……満足しているはずなのに、どことなく虚ろな気分になるのはなぜでしょうね」
「……結局、俺達が同じ目で見られるのは変わってないからじゃないからかな?」
無駄に被害を広げただけですからね……
二人で溜め息をついていると篠ノ之さんが先頭にたって歩き始めました。
「おい、二人とも何をしているんだ? 早く他の四人に追い付くぞ……心配するな、二人とも見失っていたみたいだが私が四人の居場所を見つけておいた」
私には篠ノ之さんが何を言っているのかが一瞬理解できませんでした。
この人はさっきの私と織斑君が周りに聞こえるように話した内容を本当のことだと思っていたようです。
篠ノ之さん……残念すぎます。
「箒を置いていけばいいんじゃないか、と一瞬でも思った俺は怒られるべきかな?」
「私も同じこと思ったので当然のことなのでしょう」
私と織斑君を憮然とした表情で待っている篠ノ之さんを見て溜め息を吐かずにはいられませんでした。
◇
「もう……アリサのいじわる。乗り込むまでずっと見られちゃったじゃん……」
「いじわるだったのは皆さんの方です……私、泣きそうになっちゃうくらい恥ずかしかったんですからね」
「う……それは、ごめんね?」
「……私も、ごめんなさいです」
飛行機での私の隣の席はシャルロットでした。
隣といっても間に何人か座れるだけのスペースが空いてますけどね。
ちなみに他はラウラさんと織斑君、鈴ちゃんとセシぃ、そして篠ノ之さんがぼっちです。
もともとはラウラさんがぼっちになると自分で言っていたのですが、強制的に篠ノ之さんを反省させるためにこうなりました。
私達が進行方向から見て右側の後ろから三列分、篠ノ之さんだけ左側の一番前なのできっと寂しいことでしょう。
親切なおじさんに頼んで席を交換してもらってまでして篠ノ之さんのぼっちを演出しました。
国際線が初めてな篠ノ之さんはキョロキョロと不安そうで、まさにざまぁみろ、というやつです。
「でもアリサも怒りすぎだよ? さすがに席を一番遠くにすることはなかったんじゃない?」
「う……それは……」
確かに、ほんのちょっぴり罪悪感を感じます。人前で辱しめられたので容赦はしませんけど。
「でも、人前で非処女だとかヤリ●ンだとか言われたんですよ……?」
「まぁ、そうだけど……少し意外かな」
「え?」
「アリサって他人からどう見られるかなんて気にしてないと思ってたから」
「ええ、気にしません……でも……」
シャルが聞いてたじゃないですか……私、そんなに淫らじゃないのにシャルにそう思われたらって思って……
失恋しても、シャルのことは好きなんですからね?
それなのに、あんなこと言われたら恥ずかしくて……
「……よく分からないけど、箒に謝らないとダメだからね?」
「篠ノ之さんが悪いんですよ……? シャルだって、言われたら……」
「でも箒に悪気はなかったでしょ。でもアリサは悪気があったんじゃない?」
ありましたよ……あるに決まってるじゃないですか。
あんなことがあったら……あんなことがあっても、私は怒っちゃダメですか……?
「……傷ついてるのは、私もなんですよ?」
「それでも、だよ」
「………………分かりました」
篠ノ之さんが謝ってこなくても謝りましょう。
私が泥を被って、篠ノ之さんをいじめた悪者になりますよ。
別に気にしたりなんかしません。私が悪いのも知ってますし……それに、私が我慢すれば全て丸く収まるのもいつものことですし。
「アリサはいい子だねー。傷ついた分はあとで僕が慰めてあげるから!」
「……しゃるのバカ」
「ん?」
「なんでもないです」
好きと言うことも我慢しなければいけないのにシャルに慰められたって、辛くなるだけですよ。
それなら、いっそのこと突き放してくれればいいのに……同じ辛さならそっちの方が諦められるかもしれないだけ随分マシです。
ぽんっ
「あ、シートベルトのマーク消えましたね……」
「アリサ、トイレ?」
「いえ、篠ノ之さんと席を交代しようと思います」
「えっ……と、そこまでしなくてもいいと思うけど……」
それは、私に隣に座っていてほしいということでしょうか?
例え、さっきの篠ノ之さんと比べたら、という前提があったとしても嬉しい……
ですが、
「いじわるを謝れ、と言った割にいじわるをやめるのは止めるんですね」
「あ……あの、アリサ、違くって……その……」
私の皮肉にしどろもどろになるシャルを見て、少しでも気分が良くなった自分に自己嫌悪します。
シャルは私と篠ノ之さんを選んだ訳じゃなくて、私が一人になってしまうことを気遣っただけなのに……
でも……いっそのこと、シャルが転校してきたときくらいまで関係を壊滅的にできれば、未練もなくなる気がします。
実は、もう私がシャルを守る必要すらありませんから。
束さんのお陰で光学迷彩の解析も進みましたし、あと数ヵ月もすれば正式にフランスの第三世代型のプロトタイプが組み上がるでしょう。
その時にフランス唯一の代表候補生であるシャルロットはVIPになります。
もう誰も手が出せなくなるような立場になるので、私は晴れて
だから、私がシャルの近くにいる理由は友達だからというものだけです。
でも、私はシャルと友達でいるのは我慢できません。そんな中途半端な宙ぶらりんの状態では私が壊れてしまいそうです。
……シャルが友達より進んだ関係を望んでいなくて、私が友達であることを拒絶するなら、答えは一つだけです。
「篠ノ之さん、いじわるをしてごめんなさい。席を交換しましょうか」
私から、距離をおくだけ……
「あ……」
「む? あ、そうか……ん、気にはしていないが、確かに心細かったので代わってくれると助かる」
気にはしていない……ですか。
どうして……これではまるで私だけが悪いみたいに……いえ、やめましょう。
せっかくラウラさんが計画してくれたドイツ旅行なのに、私が不機嫌でいたらラウラさんも気にしてしまいますし、他の皆さんも楽しめません。
篠ノ之さんだって悪気はなかったんですし……えぇ、あったらこの程度では……
「……はぁ」
移動中は寝ていましょう。
いい夢が見られれば優しくすることもできると思いますから……
◇
「ん、箒、席換えすんの? ならシャルロット、セシリアと席交換してくれない? ちょっと相談事があるから」
「え? うん」
「って、わたくし聞いておりませんわよ!?」
いーから、いーから……
セシリア、あんたは箒に説教する係よ。
私はシャルロットを反省させるから。
全く、どいつもこいつも世話が焼けるんだから……別にドイツとどいつを掛けたりなんかしてないわよ!
…… はぁ、アリサもシャルロットも不器用なのよ。
アリサが失恋したーなんて顔してるのもシャルロットが余計なこと言ったからだってことも知ってるわよ。
シャルロットはあのヤクザっ娘の言ってたことを確かめるために何かしただけってのもね。
もう、落ち込んだアリサって何から何までしてあげないとダメなんだから自重してほしいわ。丸一週間、母親になったような気分になったのよ?
あんたそんなんで一人暮らしできるの? って何回言ったんだろうなんて真面目に考えたわ。
「それで、相談事ってなにかな? 僕じゃ役に立たないかもしれないけど……」
「相談事があるからってのは嘘。聞きたいことがあったの」
「……うん。それで?」
一瞬、シャルロットが私の顔をぽかんと見つめたけどすぐに私からシャルロットに話したいことがあったからこその嘘だったって気付いてくれたみたい。
こういうところは鋭いのに……
「アリサのこと、好き?」
「……友達としてって意味なら」
「私たち専用機持ちの中だと上から何番目?」
「いや、順番なんて……」
「何番目?」
「……多分、一番大切な友達。でも、それは国が同じだし」
「理由はいいのよ。別に順番をつけたことに言い訳なんかも要らない。私だって一夏を除けばアリサが一番よ……それでいいの」
一番大切だって思ってるなら……まぁ、まだいい方ね。
でも、それならどうしてアリサを優先してあげないのよ。別に贔屓しろってわけじゃないんだけど……うーん、
「そう、もう少し……アリサのことも考えてあげてよ」
「か、考えてるよ……! だから、沈んでたアリサも最近ちょっとずつ笑うようになったし……」
考えられてないって……そう伝えられたらどんなに楽かしらね。
でも、そんなこと言えない。
そうすれば、またアリサがシャルロットに恋してるってことを理解させないといけないし、そうなったら二人の関係はさらにぎこちなくなるのは分かりきってるし。
アリサは、もうシャルロットに嫌われようとしてるみたいに見える。
だから、シャルロットを非難するようなことを言って席を動いた。
「シャルロット……あんた、初めてアリサにキツいこと言われて動揺してるでしょ?」
「……うん」
さっきのアリサはシャルロットの矛盾を捉えて責めていた……ううん、自分の身勝手さも含めて全部
行動事態はよくないことだけど……
「アリサも、やっと自分の思ったことを言えるようになったのよ」
「でも、酷いことを言うアリサなんて……」
「自分勝手」
「え?」
どうして、アリサに謝らせたのよ……なんで、我慢させるのよ。
また、自分だけが痛みを堪えれば全部がうまく回るなんて勘違いしちゃうじゃない。
「我慢させるつもりは、」
「させたじゃない」
「でも、なにも分かってない箒を謝らせるよりアリサに謝ってもらった方が……アリサだって旅行中の空気が悪いのは嫌だと思ったし……」
確かに、それが一番うまく回るわね。
でも、アリサは不必要に傷付いた……それも、あの子が大好きなシャルロットに心を抉られて……
「シャルロット、あんたがアリサに言った謝りなさいは誰のため?」
「それは、箒とアリサが早く仲直りできるように……」
「嘘ね。あんたは空気が悪いのを嫌って手っ取り早く払拭しようとしてただけよ」
「ちが……!」
「だって、それなら箒をどうにかしてからでもよかったでしょ?」
箒も謝る形にすれば時間はかかっただろうけど円満に終わったと思うんだけどね。
まぁ……誰が悪いとも言えないのも分かるのが辛いところよね。
私としてはラウラのためにもあんまりギクシャクしてほしくないけどさ。