Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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64. Un mariage heureux heureux.(4)

65. Un mariage heureux heureux.(4)

 

「ってことで、連れてきたわよ?」

「あ、リン!」

 

 私と鈴ちゃんが部屋に入ったとたん、それに気付いたシャルが駆け寄ってきました。

 シャルは鈴ちゃんを挟んで私の向こう側に並んで立ちます……むぅ。

 でも、あんな格好を見られたあとで自分から近づくのも恥ずかしいですし……もしかしたら気を使われているのかもしれませんね。シャルは気遣いさんですし。

 ……私としてもワンクッションあってよかったかもです。

 でも……名前、呼んでくれませんでした…………

 

「あ……えと……アリサも、もう調子いいの?」

「あ、はい! バッチリです!」

「そ、そっか……えと、じゃ、またね! リン、行こ!」

「え、あ、ちょ、シャルロット!? あんた、あ、もう、引っ張らないでよ!」

「あ、あれ……? シャル? わ、私は連れてってくれないんですか……?」

 

 やっぱり、避けられてます?

 そう、です、よね……

 あんな、変態さんみたいな……しかも被虐に傾いたところを見られたら、ああなりますよね。

 話しかけてくれたのも、気にしてないよっていうポーズだったのかもしれません。

 鈴ちゃんは慣れたって言ってくれましたけど、シャルがどうかはシャルにしか分かりません……

 心が、きゅんと切なく痛みます。

 シャルと仲良くなってからはいつもこの痛みが私を(さいな)むんです。

 痛いけど、少し虚ろな……それでいて甘みもあるような、そんな痛みです。

 もしかしたら、気付いているからなのかもしれません……私とシャルは交わらないということに。

 ……私の夢は存外に少ないんです。

 まずはケーキ屋さんになって人々に笑顔を分けてあげることです。やるならやっぱり日本がいいですね。たくさんの人に来てもらいたいですから。

 失恋しちゃった子にただでサービスして笑顔にしてあげたりしたいです。

 もうひとつは……シャルを守り、支え続けることです。

 シャルは周りに気を遣って自分のことを後回しにしちゃうので、私はシャルだけを優先するんです。その結果、シャルが守れるなら私はどう評価されても我慢します……例え、シャル本人に酷評されたとしても。

 そして、最後はシャルと共に在るということです。

 ……これが一番望ましいですけど一番障害も多いです。

 性別の問題もありますし、なによりシャルが望んでくれなければ叶いません。

 私だけが思っていても仕方ないんです。

 ……それに、シャルを選んだらいずれ国家代表になるシャルと一緒にフランスに戻るので、どちらにせよ日本でケーキ屋さんを開くことはできません。

 ケーキ屋さんはどこの国でもできますが、ケーキで人を笑わせるには日本くらい甘味が人気なところでないと……

 だから……シャルの気持ちもですが、私の気持ちも本当は定まっていないんです。

 シャルのために生きるなら、小さいころからの夢を諦めなければいけません。私にとってはどっちも一番なのに……

 

「はぁ……」

 

 これはいい機会なのかもしれませんね。そろそろ脈がないことを認めろと神様が言っているのかもしれません。

 それで、違う人に恋をして日本でケーキ屋さんを開くのもいいかもですね……

 なんて……思いもしないこと考えてしまったりしますけど。

 本当に、どうして私ってこうなんでしょう。

 少し仲良くなれたと思ったら、また、失敗して離れちゃいます。

 ……って、そうだ! 唯華さんに謝らないといけません!

 出来ることから少しずつ、です!

 

「ゆ、唯華さんいまひゅかっ?」

 

 う、うぅ~~~~っ!

 舌、噛んじゃいました。

 裸よりも恥ずかしい格好を見られたと思うとどうしても体が固まっちゃって、呂律も怪しくなっちゃいます……

 

「んぁ~? って、おぉ、起きたか」

「はい! あの、ごめんなさいでした!」

「え?」

「その、ですから……あんなことさせてしまって……」

 

 その瞬間、ぼひゅっと唯華さんの顔が染まりました。

 

「いや、ぉ、お前、私も忘れるから、お前も気にするなよ。あれは不幸な事故だ、な? 気にするな」

「え……気に、しないんですか?」

「いや、そりゃまぁ、流石に、な? でもあれだけであんたのことを評価する気もないよ……怒られちゃったしな」

 

 そう言って唯華さんは視線を私からはなしました。

 見ているのは……シャルと話している鈴ちゃんでしょうか?

 私のために怒ってくれたなんて……

 

「それより、あんた、あの金髪のこと好きなんだろ?」

「ふぇっ!?」

「なんか、うまくは言えねぇけど……頑張れよ。他からどう見られるかなんて気にする必要ない……ヤクザの娘だってこと隠してる私じゃ説得力ねぇか」

「いえ! あの、ありがとうございます……そう言ってもらえるだけで、私……」

 

 ……それにしても、初対面の人にまで気付かれてしまうなんて。

 ですけど……うん!

 私、頑張ってみます!

 とにかく向こうでこそこそしている二人に突貫です!

 

「シャルー、鈴ちゃーん! なに見てるんですかー?」

「あ、アリサ……えと、えと……」

「んー? あぁ、ここのドレス借りて結婚式挙げた人たちの写真よ。どんなの着たいか聞かれても答えられなかったから」

「あー、見本ってことですか?」

 

 なるほど、自分と体型(スタイル)が似ている人もいるでしょうし、自分が着たらどうなるかってのが予想しやすいですしね。

 気になったので私もひょっこり二人の間に頭を突っ込んでみました。

 

「おー……やっぱり白が大多数なんですねぇ」

「あ、アリサ……」

「そりゃ、結婚式といったら白でしょ?」

 

 そうですかねぇ?

 私は黒もいいかなぁと思ってるんですけど……三色くらい着たいのでお色直しを繰り返すのもいいかもです。

 まぁ、それでも白は外せませんけどね!

 

「どんなのがいいかなぁ……?」

「えっと……シャルはこの薄いオレンジ色のクラシックタイプがいいと思います。それでコルセットとヘッドドレスの刺繍はこっちので……あ、裾にも入れるといいかもですね!」

「え? え、あ……ほんとだ。可愛いかも……」

 

 ……!

 シャルが、笑ってくれました。

 さっきからずっと避けられているような気がしていたんですけど…………よかったです。

 

「あ! ……えっと、アリサ、ありがとう」

「い、いえ……」

 

 でも、どこかぎこちないですね……

 どうも嫌われているわけではなくて、なんというか……距離感が掴めなくなっているような?

 そんな印象を今のシャルからは受けます。

 私が近くにいることに戸惑ってる、とかでしょうか?

 

「あ、私はこれにしようかしら。アリサ、どう思う?」

「おー、シンプルで……うん、似合うと思います」

 

 鈴ちゃんが選んだのは少しチャイナドレスのようにも見える赤みがかった細身のドレスです。それでも足元が広がっているのでウェディングドレスらしさは失われていません。

 身体のラインがきれいに出るので腰回りがきれいな鈴ちゃんにはちょうどいいかもですね。

 この手のドレスは胸が小さい方が見栄えもいいですし。セシぃのように胸が大きい人がこういうのを着たらだらしなく見えてしまうんです。

 私はどうしましょうかね。

 

「あ、これスゴい……」

 

 むむむ、シャル、なにか見つけましたか?

 見せてください!

 

「あ、アリサ……近く、ない?」

「わぁ……全面レースですか……高そうですね」

 

 シャルが目をつけたのは頭から爪先までをレースで覆った豪奢なドレスでした。

 スカートは裾に向かうにつれて裏地の量を減らしているのかだんだんと透き通っています。

 さらにふんわり感を出しているフリルや腰元の大きなリボンまで全てがレース編みで作られてます……

 これ一着作るのに何年かかったんでしょうね?

 

「でも白いから着れないね」

「ま、アリサなら四年遅れても問題なさそうだけどね」

「むむ、それは私の見た目が幼いからってことですか!?」

「だいせいかーい」

 

 むぅ!

 婚期を逃すのが問題じゃなくて結婚が遅くなるのが問題なんじゃないですか!

 好きな人と一緒にいられる時間が減っちゃうってことなんですからね!

 

 ◇

 

「どう? どれ着たいか決まった?」

 

 突然、僕たち三人に後ろから声がかけられた。えっと、堀之内さん……だっけ?

 この人の両親がこのお店のオーナーらしい。それで僕達と唯華さんを宣伝のモデルにしたいとか。

 僕としてはドレスが着られるなんてスゴい嬉しいけどね。

 綺麗な洋服には昔から憧れてたけど、そういうものとは縁がないなんて思ってたから。

 そういう意味では……うん、僕を候補生って言う立場にしてくれたあの人には感謝かな……?

 

「私はこれね。平気?」

「そのアルバムの中で着られてるやつならどれでも平気。じゃ、あっちの部屋にメイクさんとか待機してるからー」

「はいはい。んじゃ、行ってくるわ」

 

 リンがさっさと着替えに行っちゃった。

 どちらかといえば、とか中途半端な態度だったけど実際には楽しみだったんだね……照れ隠しかぁ。

 ……アリサと二人きりになっちゃった。ちょっと、気まずいかも。

 僕は……アリサが進めてくれたやつにしようかな。自分で言うのも変だけど、確かに僕に合う気がするし……

 でも……唯華が言ったこと、本当なのかな……?

 アリサが、私のことを……好き?

 アリサのことを抱き締めたこともあるし、慰めてあげたことも叱ったこともある。それに臨海学校では溺れていたアリサを助けたし……

 そういうのが積み重なって、僕のことを?

 でも、それでも、女の子同士だよ?

 一松さんと二木さんみたいな例があることは知ってる……でも、自分がああなれるかと言われたら僕は首を横に振ると思う。

 実際、僕もたまにアリサのことを抱きしめたりするけど、あれもアリサに対して恋愛感情かあるってわけじゃないし……だから、別にアリサが嫌いって訳じゃない。

 守ってくれてたってのもあるし、それを引いても優しくて、いつも笑顔を向けてくれるアリサは年齢より少し幼めだけど素直に可愛いと思う。

 酔った時のアレはさすがに勘弁だけど……

 でも、それだけなんだよね。

 仲良くしたいとは思ってる……でも恋愛対象かってなると言葉が出てこない。

 って、アリサがそうだって前提だけどまだわからないよね!

 なにか遠回しに確認できそうなものは……あっ、これがいいな。

 

「アルバムに写ってる人、みんな笑顔だね」

「……? 相手が好きで好きで仕方がないから結婚するんですよ? 笑顔なのは当然じゃないですか」

「……そうだね。でもさぁ、」

 

 こっからの、アリサの反応で分かるはず……

 こうやって騙すみたいなことはしたくないけど……今の僕には重要だから。

 アリサがどっちだとしても、判断つかないとちゃんと対応できないし……

 

「僕も大人になったら好きな“男の人”と結婚するのかって思うと楽しみだよ」

「そうですねー」

 

 なんだ……やっぱり唯華の勘違いだよ。

 男の人ってところ強調してもアリサはニコニコしたままだったし。分からないけど、僕が男の人と結婚する気だって言われても不自然な反応がなかったってことはそういうことだよね?

 

「じゃあ、僕も着替えてくるね!」

「はい。私は選んでますね」

 

 よかった。

 アリサとはまだ友達でいられる……

 うん、気を取り直して着替えちゃおっと。気になってたこともなくなったし、せっかくのドレスなんだから楽しまないとね。

 

「……でも、最初の内はアリサのこと避けちゃったりしたし悪いことしたかな?」

 

 アリサが僕のことをどう思ってるかが分からなくて、変なこと言っちゃいそうだったから距離を置いてたんだけど僕の勘違いだったんだから、当のアリサにとってはいきなり避けられたように感じてたかも。

 着替えたらその分だけ構ってあげないとね。

 アリサは同じフランス出身だし、卒業してからも友達でいたいから……

 

「あ、鈴」

「ん? あ、次はシャルロットなのね」

 

 フィッティングルームの前で丁度リンと鉢合わせした。

 リンが髪の毛おろしてたから一瞬誰だか分らなかったけど……

 

「なんて言うか鈴のお姉さんとかって言われたら普通に信じちゃいそう。似合ってるね」

「普段の私のイメージじゃないって言われてるみたいですごい不本意だけど……ありがと」

「そんなことないよー。もー、照れちゃって、可愛いなぁ」

 

 大人っぽいなぁって思ったけど照れて唇を尖らせる仕草はやっぱり鈴だった。

 うーん、僕もこれくらい変身できるかなぁ?

 いや、ウェディングドレスなんだし少しは印象も変わるよね。

 

「というかやけに嬉しそうじゃない」

「そりゃ、ドレスが着れるんだもん。仕方ないよ」

「男装してた割にシャルロットって可愛いもの好きよね」

「もう、あれは仕方なかったんだから……僕だって女の子なんだし可愛い服とか着たいよ」

 

 まぁ、可愛らしすぎて着るのが恥ずかしくなるような服もあるけどね。

 ああいうのはアリサが似合うんじゃないかなぁ……

 

「そういえば、アリサって全然女の子っぽい服着ないよね」

「ん? あぁ、確かに。あの子、服にだけは無頓着っていうか……」

 

 だよねぇ。

 精々がワンピースみたいな質素なものだし、普段はティーシャツにショートパンツとかボーイッシュな服装だもんね。

 

「ん? 服だけは?」

「シャルロットもアリサの下着くらい見たことあるでしょ? 気合入ったのばっかよ? それに二週間に一回は髪の毛染め直してるし」

「……えっ? あれって地毛じゃないの?」

「地毛じゃないわよ? 私も地毛が何色なのかは知らないけどね」

 

 十三歳の時、要するに初めて会った時からアリサはピンク色の髪の毛だったから生まれつきなんだと思ってた……

 そう言えばアリサのお父さんのステファン博士は金髪だったし、アリサのお母さんも日本人だから黒髪なんだよね。

 そっか。

 考えてみればアリサってハーフだったんだ……すっかり忘れてたけど苗字も不破だもんね。

 

「入学してきた頃は女の子らしい服も着てたけど……シャルがきてからは制服以外でスカートなんて数えるほどしか着たことないんじゃない?」

「ふーん……なんでだろうね?」

「あれじゃない? アリサって子供っぽいし学園は逆に大人っぽいのもいるっていうか……だから可愛い服着て可愛がられたりするのが恥ずかしいとか」

 

 あ、確かにそれはありそうだね。

 アリサって何かと背伸びしたがるし大人の女アピールしようとするし。

 ……そんなことしなくても、たまにスゴい大人っぽい表情の時あるけどね。

 

「それじゃ、私は一回アリサに会ってから写真撮ってもらってくるわ」

「うん、あとでね」

 

 ◇

 

「……痛い、ですね」

 

 キュッと、思わず胸の部分の布を掴んでしまいます。

 普段からあのようなことを言われる時もあるだろうって、そう意識していなければシャルに変な態度をとっちゃってたかもしれません。

 でも、息すらのまなかったのは褒めてほしいですね!

 ……ほんと、自分でも驚いてしまうくらい心が痛くなったんですから。死んじゃうかもって思いました。

 シャルったら罪な女ですねっ!

 

「……はぁ」

「えっと、不破さん、だっけ?」

「え?」

 

 後ろからかけられた声に振り返ってみれば堀之内さんが困ったような顔をして立ってました。

 

「そろそろ決めてもらわないといけないんだけど……カメラマンさんの予定もあるし。でも、もしかして嫌だった? それだったら、」

「あ、いえ! 嫌じゃないです! 嫌じゃないですけど……」

「けど?」

「いえ、何でもないです」

 

 シャルが男の人と結婚するって聞いたら心が痛くなってしまったんです、なんて言っても困らせるだけですもんね。

 ……ですけど、シャルがそう望むなら私には邪魔できませんし、する気もありません。

 私は確かにシャルと一緒に幸せになりたいと思っていますけど……一番大事なのはやっぱり私の幸せじゃ無くてシャルの幸せです。

 シャルが男性と結婚するなら……私はケーキ屋さんにもなれるんですから、どっちにしたって……

 そう、どちらにせよ私も幸せになれるはずです……

 さっきまではどっちかしか選べないなんて思ってましたけど、どっちかは叶うって考えてみればこれほどいいこともありません。

 ……これでいいんですよね?

 そうと決まれば、私が着るドレスはこれ以外にはありえません。

 

「堀之内さん。私はこれが着たいです」

「……いいの? だって、」

「いいんですよ」

 

 決めてしまえば、楽なものです。

 

「だって、私は一生結婚しないですから!」

 

 ◇

 

「アリサ、遅いねぇ」

「着替えるのに時間かかったんでしょ。髪長いからヘアメイクも大変だろうし」

「堀之内……私はいつまでこれを着てなきゃいけないんだよ」

 

 まったく、不破ってやつ時間かかり過ぎだろ!

 私は写真も撮ったし一刻も早くこれを脱ぎたいんだよ!

 こっちの高校生二人と並ぶと恥ずかしい……別に我ながら似合ってないとは思わないけど、なんか二人の方が大人っぽく感じられるというか……

 

「大丈夫、唯華も素敵よ。あともう少しで個人撮影も終わるはずだから」

「……十分で来なかったら脱いじゃうからな」

 

 私が着てるのは黒のウェディングドレス。

 真っ黒だってことを除けば金髪の方がきてるのと形は似てる。

 私の肌が白すぎるから白っぽいドレスだと少しくすんだように見えるかも、なんていう堀之内の有り難くない助言に従って黒いドレスにした。

 ……ありがたくないってのは、だって、要するにあれだろ? 私には純白のウェディングドレスは似合わないって言われた訳だし……

 

「あ、来たわ」

 

 裾を踏まないように恐る恐る歩いてくる不破を見ると、やっぱり純白のドレス着たいなぁ、なんてことを思っちまう。

 フリルとレースがふんだんに使われたドレスは子供っぽい不破のために作られたようにすら見える。

 

「「「って白っ!?」」」

「ひゃっ!? み、みなさん、どうしたんですか!? 事件ですか!?」

 

 婚期がどーのこーの教えてくれたやつが白いウェディングドレス着てるっていう大事件が起きてるだろ!

 しかも好きな人、いるんだろ?

 訳がわからなくて不破を見ていたら目があった。

 

「お……?」

 

 なんか、あの目は見たことがある。

 ……前に、私のために無茶をしてくれた宗助と同じ目。

 あの時、アイツは確か……護るべきものが何かは分かっているからって……そう言ってくれた。

 私は、無茶なんてしてほしくはなかったけどあんなこと言われたら止められねぇし……

 いや、今はそんなこと関係無いな。

 とにかく、不破の目は人のために自分を犠牲にすることを覚悟したような目……

 

「って、アホらし」

 

 冷静になってみりゃ私関係ねぇな。

 偶然、一緒になったやつのことまで気にしてられねぇよ。

 当人同士の問題だしな……まあ、その片方はニコニコニコニコ、全く気づいてなさそうだけどさ。

 

「唯華さん。ありがとうございます」

「あ?」

「一瞬でも気にしてくれたみたいなので……」

「……別に、私は」

 

 勝手に親近感感じてただけだ。

 そう言おうとしたけど不破はさっさと視線を逸らして二人の方に行っちまった。

 

「ねぇ、唯華。あの人、なんで白にしたんだと思う?」

「……さぁ」

 

 ……本当は結婚する気がないんじゃねぇの?

 

「じゃ、四人で写真を撮るので並んでくださーい!」

 

 ◇

 

「結局、それなんだ」

「シャルが気に入ってたみたいなので」

「婚期、遅れちゃうかもしれないよ?」

「問題ありません」

 

 ……シャル以外と結婚する気はないですから。

 だから、シャルが男の人と結婚すると考えているなら、私は結婚しません。

 このドレスは、私の覚悟の証明で……

 

「このドレスを着ることで……」

「ん?」

「いえ……」

 

 そして……私が一生シャル以外のものにはならないと……いえ、私がシャルのものだっていう誓いになるんです。

 ……そのことは神様に誓ってもいいです。

 健やかなときも病めるときも、シャルと一緒にはいられないかもしれませんし、片方が一方的に想っていることを“共に”と表現していいのかも分かりませんけど……

 私にとっては、今日、シャルのものになったんですから、今日が私の結婚式です。

 我ながら、なかなか支離滅裂ですね……

 でも、胸は痛いですけど……幸せなのも確かなんですよ?

 例え、愛されなくても……私はシャルのものになれれば幸せなんです…………

 

「本当は……」

 

「はーい、とりまーす!」

 

 ぱしゃっ!

 

 ◆~~~~~~~~~~~~~後日譚~~~~~~~~~~~~~◆

 

「しっかし、お嬢。この前の三人娘はなにもんだったんでしょうね」

「さぁな……」

「まぁ、あの子たちに無理矢理手渡されたブツも良質だったもんでさっさと売り抜けましたが……総取りでいいんですかい?」

 

 ほんと、わけわからない連中だったよな。

 外人のくせに日本語うまいし、一人は酒乱な上、体にでかい傷があって、しかも同姓愛者だ。

 おまけに顔もいいしな。

 最初はどっかのモデルかとも思ったけど、そうかと思えば粉もんの処理頼まれるし。

 

「渡すにもどうやって会えばいいんだよ」

「おや、携帯の番号は交換してないんですか?」

「むやみやたらとカタギを身内にするわけにもいかねぇだろ……」

 

 ……今日は写真ができたから受け取りに来いって堀之内に呼びつけられた。

 今は銀二の運転する車の中だ。

 結局、連絡先もなんにも交換しなかったけど堀之内には私の友達ってことにしてたから私がまとめて渡す、みたいな感じ。

 まあ、写真なんて何枚あってもいいもんだしな。

 ……あのちっこい女は、どうしてんのかね。

 良くも悪くも三人の中で一番印象に残ってる。

 

「お嬢、付きましたよ」

「おう」

 

 店の中にいた堀之内に軽く手を降るとパタパタとかけよってきた。

 手にはすでに写真が入ってそうな封筒を持っている。

 ん、そういえばあいつらが個人個人でとった写真も渡されるのか?

 普通にいらねぇけど受け取らないのも変だよな……雑誌に載せるらしいから売ることもできねぇな。

 組内で売るか。

 小遣いくらいにゃなるだろ。

 

「はい、これ」

「ありがとうございます」

「お茶でもしてく?」

「……それでは、お言葉に甘えさせてもらいますね」

 

 ……お嬢様お坊ちゃん学校だとこういうのが割りと頻繁にある。私としては受け取ったらさっさと帰りたかったんだけどな。

 ただ、皆育ちがいいからか仮に断っても後腐れがないってところはいいことだな。

 

「で、唯華。この前の三人、本当は友達じゃないでしょ?」

「え……その……」

「まぁ、助かったから別にいいんだけどさ」

 

 なら気づいても言うなっての……!

 

「ねぇ、あの人が白着た理由、やっぱりわからない?」

「えぇ……」

 

 本当は知ってる。

 本人に聞いたからな。

 ……私は好きな人とは一生結婚できないみたいですから、そう言ってた。

 それが女同士っていう法的な制限って意味なのか、それとも私が知らないところでなにか――失恋に似たような――があったのかは分からない。

 

「あの、どうしてそんなことを?」

「ん? んー……この写真、見て」

 

 堀之内が取り出したのは不破がピンで写ったもの。

 純白のドレスには不釣り合いな無機質で無感動、そんな玲瓏な表情が写っていた。

 

「……これは?」

「あの人のNG写真。すぐこういう顔しちゃうの……ドレスを着たら照れたり嬉しかったり、お客さんはみんな必ず笑うのに」

 

 自然には笑わなかったから気になってるってことか?

 ……まぁ、不破が言ったように好きな人との結婚ができないってことは、ウェディングドレスは自分の恋の限界を象徴するものかもしれないからな。

 笑えないのも仕方ないかもしれない。

 

「ううん、私が気になってるのは一人ではこうだったのに、皆で撮ったときだけは本当に幸せそうに写ってるってこと」

 

 もう一枚、写真がテーブルの上に置かれた。

 そこに写っている不破は確かに満面の笑みではないものの満足しているように、薄く微笑んでいた。

 でも……

 

「これ、幸せなのでしょうか?」

「え?」

「いえ、なんでも……」

 

 これは、満足してるけど幸せじゃない。

 いや、違うな。

 自分が今以上に幸せになるのを諦めて、そこで満足しちまった顔だよ……

 ……バカだな。

 手を伸ばせば、届くことだってあるのに……


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