Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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63. Un mariage heureux heureux.(3)

「アリサ、本当に酔ってるの……?」

「そんなの、自分じゃわかりませーん」

 

 ですが、ちょっぴり、ほーんのちょっぴり、いつもより世界が輝いてますー。

 視界の中に可愛い子しかいないからですねぇ……にゅふふ。

 

「だめだこりゃ、こいつ完全に酔ってるよ。まぁ、量は飲んでないだろうし大人しくさせておけばいいだろ」

「……大人しく、ですかぁ?」

 

 そうですか……私、大人しくしてなきゃいけないんですね……んぅ? それとも私を大人しくさせたいんでしょうか?

 

「唯華、だっけ? そうは言うけど酔ったアリサを大人しくさせるなんて骨折れるわよ?」

「ん、暴れだすのか? それなら、」

 

 大人しくさせる、と鈴ちゃんは言いましたよね?

 ということは私に大人しくしてほしいのではなくて、私を大人しくさせたいということですよね。

 だとしたら……

 

「いや、暴れだすというより……あーあ、遅かったわ。見て……今回は何が引き金だったのかしら」

「多分大人しく、って下りじゃないかなぁ?」

「ん……あぁ!? ちょ、おま、なにしてんだよ!?」

「ふぇ?」

 

 なにって、服脱いでるだけですけど……?

 そんな大きな声出されるようなことしてないですよね……?

 

「なんで!?」

「だって、暴れる人を大人しくさせるには縛るしかないじゃないですかぁ?」

「いや……そこはまぁ、置いておこう。なんで脱いだ?」

「ん? ……縛るなら脱ぐに決まってるじゃないですか」

「待て、少し考える時間をくれ」

 

 あ、そっか、さっきちょろっと聞きましたけど、唯華さんはまだ中学生らしいですしね。

 知らなくても仕方ないかもしれません。

 それならお姉さんである私が二木さん直伝の技を伝えましょう。

 

「唯華さん、まずはこれを」

「……荒縄?」

「それで私が言った通りに私を服の上からでいいので縛ってください」

 

 まずは脇の下を通すように……次は胸の下に……そこは首の後ろ側から前に通して……これで、

 

「亀甲縛りの完成です! ん……あ、あとは手拭いを私の口に……あふぅ……擦れて、痛いんですけど、ん、これはなかなか……」

「……っは!? 私は何を!?」

「亀甲縛り? ……まぁ、アリサのタチの悪さは分かったと思うわ。なぜか、のせられちゃうのよ」

 

 んぅ……動きすぎると少し痛いですね。でも、ぴりりとした感触がアクセントに……

 あ、これくらい……これくらいならちょうど……しっくりきます。

 

「ふぁ……」

「でもアリサをこのままにしておくわけにもいかないよね……」

「あぁん、しゃるぅ、そんなに見つめられたら……からだ、おかしくなっちゃいますよぉ……っ!」

「…………とりあえず、アリサの酔いが覚めるまで放っておこうか」

 

 あん、シャルのいけずぅ……

 放置されたらされたでやっぱり私、ダメになっちゃいますよぅ……

 って、えー、ほんとに行っちゃうんですかぁ……?

 

「しゃるぅ、私、さみしがり屋のうさぎちゃんなんですよ? 死んじゃいますよ?」

「ぅ……」

「ぴょんぴょん、ぴょこぴょこ……?」

「アリサ! …………やっぱり、置いてく! ごめん!」

 

 えー……一瞬、駆け寄りかけたじゃないですかぁ!

 なんで、亀甲縛りを差別するんですかぁ……?

 ……ふわぁ……おねむです。

 

「おやすみなしゃぃ……」

 

 ◇

 

「良かったのか?」

「ん、何が?」

 

 いや、何がって……

 こいつら変わり者だな……普通、酔っぱらいを亀甲縛り……だっけ? とにかくあんないやらしい縛り方のまま放置したりしないだろ。

 

「いや、今までは寝たらパジャマに着替えさせてベッドに突っ込んでたんだけど……そろそろあの子も酔ったときの自分を知るべきだと思ったのよ」

「ん? じゃああいつ、酔ってる間のこと覚えてないのか?」

「そうね。そうなのよね、シャルロット?」

「なっ!?」

 

 話を振られた金髪の方が一瞬で真っ赤になった。

 

「あんたも何かやられたのか? 抱き締められたり?」

「え? いや、えっと……裸のまま抱き締められて、そのまま……」

 

 あの女、抱き方が情熱的すぎるからな……腰と尻に手を回して体密着させてくるから……

 あの時はいやらしさを感じなかったから嫌悪感なかったけど、今さっきの状態でこられたらさすがに……

 

「というか、よく友達やってられるよな。私だったらまず無理だ」

「あー、いつもは全然違うのよ。周りに気を遣って空回りする子なのよ。私たちが見てないところで無茶するしね」

「そうそう。アリサ、いっつも無茶して、しかも強がって逆に倒れちゃったりするんだから」

 

 そういえば……背中と脇腹、それに太股に酷い傷跡があったな……あれも無茶の結果なのか?

 ……こいつら、軍の特殊部隊とかだったりしてな。

 

「でもよ、周りの奴に気を遣ってるって言うけど、それって他人のこと信用してねぇんじゃねぇの? 自分一人でなんでもできるって……私はそんな奴、無理だ」

「違うよっ!」

「は……?」

 

 …………びっっっっくりしたぁっ!

 大人しそうだと思ってた金髪の方がいきなり怒鳴るんだもんなぁ……でも、違わないだろ。

 周りを信頼してるなら協力してもらう。

 うちの組の奴らだってそうだ。

 そんな初歩もできない奴、どうしようもねぇじゃねぇか。

 

「違うよ……確かにアリサは周りを心の底からは信用しないけど……それはどうしようもなく臆病だからなの。アリサ自身が嫌われて当然だと思ってるから、嫌われたときにショックを受けないように殻を纏ってるんだよ……」

 

 ……あいつ、過去に瑕でもあんのかよ。

 確かにそういう奴らもうちの組にはいたな……宗助だって最初は自暴自棄になってたし……

 

「悪かったよ。さっきのは撤回させてもらう。私にだって、あんたにとってのあの女みたいな存在はいるしな」

「そっか……ありがと」

 

 でもなぁ……ひっかかる。

 普通、友情なんかであそこまで相手のことを思いやるか? ましてやキレるか?

 私の場合は宗助が私の大事だから怒るけど……もしかして、

 

「シャルロット、だよな? お前、あれの恋人?」

「は!? え、なに、違うよ。違う違う!」

「あぁ! “まだ”ってやつか」

「違うってばぁ! アリサも僕も女なんだから!」

「またまたー」

「……そりゃ、今までずっと僕のこと守ってきてくれてたし、トーナメントの時とか、海でのあれとかかっこよかったけど…で、でも、違うからね! ……僕は、アリサが心配なだけだもん」

 

 なるほどな……

 

「でも、向こうは完全に熱あげてるよなー。お預けしたままなのか?」

「え?」

「あっ、バカ……」

 

 なに、言っちゃまずかった?

 当然気付いててスルーしてるんだと思ってたんだけどな……

 金髪が同姓から恋されることを嫌悪してなかったわけじゃなくて知らなかっただけなのか……

 どうしよう。

 これで金髪があの女の子と気持ち悪いとか言って拒絶したら私のせいだ……

 

「熱って……アリサが僕に? ……そ、そんなわけないじゃん……! そんな、だって女の子同士だよ? そんなの変だよ。うん変だよ……ありえない」

「っ、待てよ」

 

 ありえない、って、なんだよ……

 あの女にとっては大事な恋なんじゃないのかよ。

 それくらい、見てれば分かるだろ?

 酔っててもあんたの名前を呼ぶときだけは照れてただろ?

 それをありえないなんて言ったら可哀想だろうが……

 

「っと、まぁ、私の知ったこっちゃないけどな……何マジになりかけてんだ私は」

 

 空回りしてる恋なんて本人は辛いだけで、周りから見てても痛々しいだけなんだからな……

 

「リン……アリサは本当に、」

「あれ、唯華まだ着替えてないの?」

 

 げ、堀之内……!

 

「早く着替えちゃってよ。写真とるんだし……って、そっちの二人は?」

「こほん……成り行きで御一緒することになりましたの」

 

 ……急にお嬢様言葉で話し始めた私を外人組が奇妙なものを見る目をしている。この二人には最初から地の話し方を聞かれちゃってたしな。

 私だって好きでやってるわけじゃねぇってのに。

 まったく、親父が私のことをオジョウサマ学校なんかに入学させなければこんなことにはならなかったのに。

 おかげで学校のやつにはこうして口調を変えなきゃいけない。

 まぁ、堀之内は外部受験組なだけあって話しやすいまだマシだけどな。

 

「ふーん……唯華ったら、こんな可愛い子、知り合いにいたならちゃんと言ってよ。まぁ、連れてきてくれたからいいけど」

「は?」

「え?」

「……その、お二人は私たちより一つ年上なので」

 

 でたよ……

 こいつの悪い癖なんだよなぁ。全部自分に都合のいいように解釈するの。

 そもそも、今回だってなぜか私がブライダルイベント用のイメージ写真のモデルになることになってたし。

 大方、こっちの二人も巻き込もうって魂胆だろうな。

 

「あ、それじゃ先輩なんだ。えっと……二人はウェディングドレスとかに興味あります?」

「まぁ、女だしそれなりにはあるわね……シャルロット……?」

「……すっっっごい、好き!」

 

 うわー、目が輝いてるよ……

 

「じゃあ、うちでやるイベントの写真モデルとか頼めます? ドレス、着れますよ?」

「まぁ、私は構わないわ」

「僕も問題ないよっ!」

 

 ……まぁ、本人たちがいいならいいか。

 

「唯華もとーぜん着るわよね?」

「……白以外なら」

「もうっ、ジンクスなんて信じちゃって可愛いんだからっ!」

 

 悪いかっ。

 婚期が四年も遅くなったら嫌だろ……!

 

「ま、私が最高に似合うのを、」

 

「ぅみゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「「!?」」

「あ、アリサだ」

「やっと起きたわね」

 

 ……いや、そこの二人、いくら友達だっていっても落ち着きすぎじゃないか?

 まぁ、向こうも向こうで叫んだってことは自分の格好に驚いたってことだから酔いは抜けてるんだろうな。

 

「それじゃ、私が説明してくるから三人は先に言ってて」

「一人で平気?」

「人が多いとややこしくなるでしょ」

 

 ◇

 

 痛っ!

 なんなんですか!?

 なんで私が亀甲縛りされてるんですか!?

 う、うぅ…動くと擦れますよぉ。痛いですよぉ。

 

「誰かぁ……あ、でも見られたくないです」

 

 ど、どうにかして一人で抜け出さないと……

 でもなんで亀甲縛り?

 ……もしかして身売りじゃなくてポルノ画像が目的なんでしょうか?

 そうなると、私が目を覚ましたら男の人がたくさん出てきて……り、リンカーン大統領なことに?

 叫んだのは失敗でした……!

 

 ガチャ

 

 扉が、開きました。

 ……怖い。

 今までは……シャルと仲良くなるまでは私自信の貞操なんてどうでもよかったのに。

 わがままになってるのがわかります。

 私はシャルが守れて、その上で他の人も満足できるなら私がどうなってもいいと……それこそ使い潰されてもいいと思っていたのですけど……

 もう、そんなの嫌です……

 私も、幸せがいいです……

 シャルを守ることだけじゃ、もう我慢できないのにっ……!

 開いた扉の陰からでてくる鈴ちゃん。

 

「え、鈴ちゃん……?」

「なに意外そうな顔してるのよ?」

 

 ……だって、ここは男の人たちが出てくる場面じゃないんですか?

 それで、私はシャルを想いながら組み伏せられて……それで途中からは精神的に壊れてシャルとしているという幻覚に現実をすり替えちゃうんです。

 そうして悦んでいるところをシャルに見られ気持ちも知られてしまい、次の日から汚物を見るような目を向けられるんです。

 そして卒業式の放課後に呼び出されるんです。

 ドキドキしながら待っていた私にシャルが女の子なのに女が好きだなんて変だよ、間違ってるよ、って言うんです。

 それでも弁明しようとしたら、男に抱かれて喘いでたくせに、と……悲惨な末路を迎えるのです。

 ……来たのが、鈴ちゃんでよかったです。

 

「あの……シャルは……?」

「私だけよ」

 

 こんな姿、見られたくありませんし……いえ、本当は誰にも見られたくないんですけど!

 

「で、なんでそんなことになってるか覚えてる?」

「いえ、まったく」

「まぁ、簡単に言うと……酔った勢いってやつ?」

「……えー」

 

 いや、まさかそんなわけが……

 ですが酔った勢いで大浴場を破壊したこともありますし……あれ、なんだかうっすらと記憶が……

 …………

 …………………

 

 ぼひゅっ

 

「思い出した? やっぱ量が少なかったからかしらね」

「ええ……そのー、唯華さんは?」

 

 まさか亀甲縛りを強要していたなんて……!

 というかシャルに見られてますし!

 もう、お嫁にいけませんっ……!

 

「まぁ、変態扱いはされただろうけどそれだけね……ヤクザの娘って知ったときは驚いたけどいい子よ」

「そんなの最初から分かってましたよ。だって中身も可愛らしい子でしたから」

「……最近のアリサの判断基準がわからないわ」

「かわいいは正義です」

 

 可愛い子には旅もさせない、むしろ離さないが最近のモットーです。

 ……でも、シャルに見られちゃったんですね……どうしよう……ドン引き確定です。

 

「あれ?」

「どうしたのよ?」

「なんで鈴ちゃんはドン引かないんですか? 正直、私、ヤバいと思いますよ?」

「あー、まぁ、慣れね……先輩、自分で酒飲ませるなとか言ってるくせに率先して飲ませるんだから……しかも真っ先に襲われて逃げ出すし……」

「はい?」

 

 なんだかブツブツ呟く鈴ちゃんの周りにどんよりした空気が見えます。

 

「というか私だけじゃなくて、もう一夏以外の専用機持ちは大方慣れてるわ。まぁ、セシリアだけは受け入れたくないようだけど」

 

 あぁ、いったいわたくしはどこで間違ってしまったのでしょうか……とか呟いてそうですね。

 

「でも、私は普段からそんなに迷惑かけていたんですね……」

「いや、迷惑って言うわけじゃ……まぁ、エロい時は二木と一松に丸投げしてるけど」

「エロい時て……」

「いや、ただの従順モードの時は可愛いのよ。でもちょっとしたきっかけで変態になるというか……」

「はぁ……」

 

 なんでしょうね、そのギャグ人格。

 でもそういうことならシャルもいつものことと思ってくれているわけですね?

 それに、ある程度は仕方ないことだってことも理解してくれていると思っていいのでしょう。

 まぁ……慣れられている時点で末期だとも思うんですけどね。

 

「ま、じゃあ行くわよ」

「へ? どこにです?」

「んー、ドレス着に?」

 

 ……ドレス??


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