Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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60/SP. Arisa dans le pays des merveilles.(2)

「きょ、教官! 遅れて申し訳ありません!」

 

 やっぱり、女王って言ったら織斑先生ですよね。

 目つきとか態度とか……そんな織斑先生も従えられる私って……あぁ快、感♪

「教官ではなく女王だ。黒ウサギ……ボーデヴィッヒ、その子供はなんだ?」

「子供です」

「何の子供だ?」

「人間です」

「そうか、ならあとで裁判だな。では、その格好はなんだ」

 

 っは!

 織斑先生が普通に役になりきってます。となると首を切れ! とも言うのでしょうか?

 やっぱりこの人が女王でファイナルアンサーですね。

 

「支給されたバニースーツが食い込み、体に力が入らなくなったので脱ぎ捨てました!」

「着ているではないか」

「これは異邦人(アリス)からの貰い物です」

「なに……異邦人(アリス)だと?」

「はい、出勤中に尾行けられていたらしく……」

「ふむ……連れてこい」

「っは!」

 

 あれー?

 私の知らないところで何かが暗躍しているようですね。

 このままでは物語がちゃんと終わりません。

 ……まぁ、面白ければいいとも思うんですが。

 

 ◇

 

「どうだった、アリサ?」

「え? あぁ、気持ちよかったですよ?」

「……そ、そう。外でなんて初めてだったから緊張しちゃったよ」

「そうですか」

 

 こ、こほん。

 そこの二人。ピロートークはちょっと……いえ、野外だったのに(ピロー)というのもおかしな話ですけど。

 というか、それどころじゃないんですよ!

 

「アリサ、ん~」

「え……あぁ。シャルも甘えん坊ですね……ちゅ」

 

 だから、そこのバカップル! 甘い空気出してないで話を聞いてくださいってば!

 なんかアリス役が危険そうなんですよ!

 今のところシャルロットさんが!

 

「ん、僕?」

「へぇ、シャルが……詳しく聞かせてください」

「それはアリス……つまり異邦人が狙われているという話ですわね? それならわたくしが。あの女王には借りがありますから」

 

 あ、あれ……そういえば、なんだかシリアスですよ?

 本来なら笑いあり、エロコメありのちょっとした小話になるはずだったのですが……

 

「……気になることが。セシぃ、シャルを狙ってるのは女王様なんですか?」

「ええ、マーチヘアであるアリサさんは識っているでしょうが先代であるブルーム女王がなくなって今の千冬様に……十中八九、彼女が深く関わっているでしょう」

「その人がどうして黒幕だと分かるんですか……?」

「二度目、だからですわ」

 

 ど、どうしましょう。

 ストーリーテラーである私でさえ知らない情報が出てきてますよ?

 というか、スケール広げすぎじゃないですか? 風呂敷たためます?

 

「二度目……」

「女王は異邦人の持っている常識が不思議の国に持ち込まれるのを恐れているのです。現在の不思議の国では女王と王は最高権力者。彼らが望めば時間すらも思い通りですわ」

「まさか……」

「では、この時計をご覧になってくださる?」

 

 セシリアのぷるんとした胸元から懐中時計が抜き出されました。

 アリサは不機嫌そうにその胸を、シャルロットは興味深そうに時計の文字盤を覗き込みました。

 

「この時計、数字が一つしかない……」

 

 セシリアの時計は十二個の数字の全てが六になっていました。

 六時から一時間で六時、二時間でも三時間でも六時です。

 

「ええ、ですから私はいつまでも午後六時(ティータイム)でなければならないのですわ」

「ここは三月ウサギである私の家なんですけどね……」

「固いこと良いっこなしですわ。そのお陰でためになる話を聞けているのですから」

「でも、どうして僕を?」

 

 シャルロットがわき道にそれた話を本筋に戻します。

 

「それは異邦人(アリス)だからですわ……不思議の国を治める王族。その僕として作り出された住人と違いかれらの命令を真っ向から跳ね除けることができる存在。それが異邦人(アリス)。つまりシャルロットさん、貴女です」

「あぁ、なるほど……配役変更から体が重くなったのは何かを制限されたからですか」

「そう考えるのが不思議ですわね。何が制限されているかはわかりますの?」

「いえ……」

「そうですか……全ての住人はなにかしらを制限されているはずですわ。例えば、私は時間。ヤマネは活動。チェシャ猫は存在。トランプの兵隊は思考ですわ」

「なるほど……だからセシぃはお茶会を続け、鈴ちゃんはいきなり消えてしまったのですね」

「ヤマネが寝ぼすけなのも兵隊が女王の手足なのもそのためですわ」

 

 ……そんな理由があったんですね。

 私はてっきり変人色を出すためなのだとばかり思ってましたよ。

 

「あら、貴女だって例外ではないはずですわ。(ストーリーテラー)さん?」

 

 へ?

 

「おそらく、前回と同じなら貴女が奪われたものは良心。主人公(メインキャスト)である異邦人(アリス)に感情移入しないためですわ」

「そういえば、優しい言葉の裏にも悪意がありましたよね……写真のネガ、どうしましょう……」

 

 そ、そんなことはぁ……

 

「では蘭さん。これからシャルロットさんが複数の強姦魔に襲われたとします。助けますか?」

 

 え? えと……あれ?

 助けます、と言うべきなのでしょうが興味がわかないです……なるほど、なんだかんだで私も女王の操り人形というわけですか。

 皆さんのお手伝いをするということもできそうにないですね。

 ということで頑張っちゃってください。私はおとなしく高みの見物をしてます。

 

「蘭ちゃん、悪びれもしないなんて……でも、どうしましょうか? 私たちは女王様の意志に従うお人形さんということですよね?」

「いえ、それは性格ではありませんわ。女王はわたくしたちからひとつしか奪えないんですの。ですからわたくしたちがこれ以上どうこうなる、ということはないですわね。ただ、女王がトランプの兵士を使って間接的に首を切ろうとしたときはまた別のことですが」

「なるほどね……でも、アリサは何を奪われたんだろう? 体とか大丈夫?」

「さぁ……? 体にも特に問題はありませんけど……ただ、なにか大事なものが欠けているような気がします」

「大事って……まさか!」

「シャ、シャル? どうしました?」

「えと……アリサ、僕のこと……」

 

 

「好き?」

 

 

「え? それは、もちろん……嘘です。そんなわけが、でも、さっきキス……義務……? え、あれ? 嘘……そんな、」

「まさか……アリサさん、落ち着いてくださいませ」

「シャル、どうしましょう」

「…………」

「私、シャルのこと……好きじゃ、なくなっちゃいました」

 

 アリサさんが奪われたのは恋心ですか……女王様もなかなか酷い人ですね。

 気付いてしまえば確かに納得です。

 普段なら自然とシャルロットさんを見つめているアリサさんですが三月ウサギになってからはそんな様子がまったくありませんでした。

 いちゃついてましたが、その時も心ここにあらず、というような。

 あの時点でシャルロットさんを拒まなかったのは……発情期の兎(マーチヘア)だったからですね。

 

「ご、ごめんなさい! シャル……ごめんなさい……私は、嫌われたくないとすら……思えません」

「アリサさん……」

「悲しいとも……思ってません。ごめんなさい」

「……そっか」

「あぁ! 納得ですわ。恋ができないから発散できずにずっと発情してるんですわね」

 

 ……セシリアさん。少しは空気を読みましょう。

 いえ、実際私も今ので思わず手を打ってしまいましたけど!

 

「……許しません」

「アリサ?」

「奪われたのなら取り返す……消えてしまったわけではないのでしょう? なら力尽くで奪い返します」

「アリサ……」

 

 恋心がなくてもアリサさんはアリサさんなんですね。

 

「セシぃ……女王の城はどこに?」

「この先に扉の木がありますわ。その扉をくぐると四方に扉がある部屋に出ます。そこの西のカーテンの陰に金の鍵で開く小さな隠し扉が。体が小さくなる魔法の薬を飲んでそこを通ったあとに体が大きくなるキノコを三口。大人の足で数分歩けば城が見えますわ」

「……では、行ってきます」

「何をおっしゃっているのやら……わたくしもついていきますわ。久しぶりに夕食が食べたいですわ」

「僕もいくよ。僕の、アリサの恋心が奪われたんだしね」

 

 立ち上がるアリサに続いてセシリアとシャルロットも立ち上がりました。

 二人を危険に巻き込むわけにはいかないとアリサは一人で行けると強がろうとしましたが、結局こまったように笑うだけで何も言いません。

 たった四人による蜂起の始まりです。

 これって王家に対する反乱……つまりクーデターということになるんでしょうか?

 

 ◆

 

「大きなクロッケーフィールドですねぇ」

「まったくですわ。まったくトランプの兵士を操ってこんなものまで作らせているんですから……」

「とりあえず、この人たちどうしようか?」

 

 彼女たちの足元にはトランプの兵隊――通称『ダイヤ隊』の十三名が横たわっています。

 トランプの兵士と言ってもそれは隊の特徴からでしっかりとした人間です。A(エース)を頂点とし、K(キング)Q(クイーン)を抜いた十一人による小隊が四つ。城を守る『ダイヤ隊』、秩序を守る『クラブ隊』、裏切り者を討つ『スペード隊』、そして王家を守る近衛隊である『ハート隊』です。

 

 ダイヤ隊は防御力なら随一とも言われているんですけどねぇ……まぁ、アリサさんがいる以上、勝てないということもないと思っていましたけど。

 

「とりあえず武器になりそうなものを全部借りていきましょう。銃はセシぃとシャルが、ナイフはシャルと私が使います」

「そうですわね。確かにそれが一番適当ですわ」

「とりあえず目立たないように隠していこうか」

 

 それぞれが体に武器を隠し、余った武器は遠くに投げ捨てました。

 そんな時、不意に足音が聞こえてきます。

 

「む、客人……いや、裁判の傍聴人だな?」

「ら、ラウラさん……天羽はどこですか?」

「女王とともにいる。女王は裁判の準備をしている。行きたければ行くといい……私にお前たちを止めることは許されていないからな……」

 

 そのまま、ラウラは歩き去ります。

 戦いになるのか、と警戒した三人は肩透かしを食らったような顔でお互いに見つめ合っています。

 

「……どういうことでしょう?」

「彼女もまた女王に奪われたものの一人と言うことですわ……彼女が奪われたのは自由。あらかじめ決められた時間割(タイムテーブル)に従うことしかできない哀れな歯車ですわ」

「……戦う理由が、増えたかな?」

「ですね……裁判が行われる法廷はどこでしょうね?」

「そうですわね……あら、ちょうど兵士さんが一人だけ気付きましたわ」

「なら、優しく尋ねようか?」

 

 三人は、気絶から覚醒した兵士が泣いてしまうくらい優しく法廷の場所を聞き出しました。

 

 ◆

 

「これより、裁判を始める」

 

 黒兎――ラウラの厳格な声によって場内が静まりました。

 傍聴席にはガチョウやアヒル、コウモリ、魚、ドードー鳥までいます。

 アリサ、セシリア、シャルロットは傍聴席の一番前。ちょうど女王が座っている高そうな椅子の真正面です。

 

「異邦人(アリス)……」

 

 女王・千冬の低い声にシャルロットがぶるりと震えました。

 

「裁判を始めよ!」

 

 女王の声を合図に被告人であるハート隊の第二位(ジャック)が連れてこられました。

 その顔は……ってお兄!?

 え、なにやらかしたの!? ……まぁ、なにやらかしてても不思議じゃないか。

 場内の環境が整ったことを確認したラウラは巻物を広げ、その内容を朗々と読み上げました。

 

「先日、女王様が蜂蜜酒を作った、とても暑い日に。先々日にハートのジャックが飲み干した、辛くて辛くて火を吹いた」

「有罪か無罪か、すぐ決めよ」

 

 王が言いました。

 王様いたんですね。

 

「バカもん、証人を呼んで調べるのが先だろう。ボーデヴィッヒ」

「っは……第一の証人、ここへ」

 

 第一の証人は誰でしょう。

 誰かが出てくる気配はありません。

 それはそうでしょう。

 第一の証人は先程三人が倒したダイヤ隊の面々なのですから。

 

「代わりの証人、ここへ」

「シャル……私がいきます」

「アリサ!?」

 

 シャルロットが止める暇もなく、アリサがポーンと傍聴席の仕切りを軽く飛び越えました。

 

「お前は……?」

「アリサ。マーチヘアのアリサです」

「ふむ。では証言を」

 

 うーん。

 アリサさん、何を証言するんでしょうか……? あんまり無茶なことはしないでほしいのですが……

 まぁ、アリサさんに無茶をするななんて、生物に息をするなというようなものですから諦めていますけど。

 でも本当にどうするんでしょうね。

 

「先日、女王様が蜂蜜酒を作った、とても暑い日に。先々日にハートのジャックが飲み干した、辛くて辛くて火を吹いた。と言いましたね?」

「ああ」

 

 アリサの問いにラウラが答えました。

 

「ねえ、セシリア、時系列がおかしくない? 作る前に飲み干すなんてこと、誰にもできないよ」

「それはシャルロットが異邦人(アリス)で常識を知っているからですわ。この国では常識なんて重要視されません」

「じゃあ、ジャックは蜂蜜酒を飲み干したの?」

「さぁ……誰が飲み干したのかなんて重要ではないんですわ。重要なのは女王の蜂蜜酒が無くなったことですわ」

 

 嘘でも本当でも罪を認めさせてしまえばいいと言うことでしょう。

 不思議の国では被告人は守られません。

 

「女王様は蜂蜜酒を作ったんですよね?」

「うむ」

「それはどんな味がします?」

「甘くて舌がとろける極上の味だ」

「ですよね。ですがジャックが飲み干したのは火を噴くほど辛いものですよ?」

「う、む……では飲み干したのは誰だ。今すぐ連れてこなければ首をちょんぎるぞ!」

 

 織斑先生って、学校の外だとこんな感じなんですね。

 ちょんぎる、ちょんぎらないは別として偉そうな態度は女王様にぴったりです。

 

「そんなの女王様に決まってるじゃないですか」

「なに?」

「そんなことより、茶番は終わりにしませんか……? 早いところ返すもの返した方が身のためですよ?」

 

 あー!?

 アリサさん、やっぱり証言する気なんて無かったんですね!

 投げナイフを構えてニヒルに笑っている場合じゃないですって! 囲まれてますよ!?

 

「クロッケーよりも楽しい遊びをしませんか?」

 

 アリサは女王を挑発するように手をくいくいっと動かしました。

 争乱の予感を感じ取った動物たちが一目散に逃げ始めます。

 残ったのはアリサたち三人と女王と兵士たち。

 ……あれ、王様とお兄も消えてますね。

 

「異邦人(アリス)側についたか……愚かだな。異邦人さえいれば不思議の国を悩ませている全ての問題が解決するというのに」

「え……? 国の、ため?」

 

 女王の意外な言葉にアリサは一瞬思考が止まります。

 彼女のイメージでは女王は暴政を働き、国家を私物化している悪人だったのですから仕方ありません。

 

「なんだ? 私が常識を恐れて異邦人(アリス)を亡き者にしていたとでも思っていたのか?」

「ですが、貴女は私たちから大事なものを奪いました……」

「異邦人(アリス)を呼び寄せるためだ……それの知識は不思議の国を発展させ、安定させる。国の頂点に立つものとしてそれを手にすることは義務だ!」

 

 女王が至極まじめな顔で言い放ちました。

 確かに現在の不思議の国は揺れています。エネルギー不足に不十分な法律、さらに増えすぎた人口など。

 

「このままでは不思議の国が崩れてしまう!」

「それでも! それでも…………くそ喰らえ、です」

 

 アリサが小さくつぶやきました。

 

「……なに?」

「私から恋心を奪って、シャルを道具のように使う……そんなことをしなければ崩れてしまう脆い国なんて滅べばいいって言ったんです!」

「ならば無辜の民が苦しんでもいいというのか!」

「国が無くても人は生きていけます! 国は人のためにあり、人は国のためにあらず……自分から幕を下ろせないのでしたら、私が……私達が終わらせてあげます」

「……ふん、マッドハッターと異邦人(アリス)の三人で何ができる。それに、お前の弟が人質になっているんだぞ?」

「……三人じゃ、ないですよ?」

「なに?」

 

 そうですねぇ。三人じゃないです。

 こんなのはどうでしょう。

 こほん、えーと……

 何の前触れもなく、衰弱したヤマネがアリサの目の前に落ちてきました。アリサがヤマネを拾い上げ、それを女王に突きつけます。

 ……というところでしょうか。

 

「これで、弟が人質になっているのは貴女もですよ? 人質交換します?」

「っく、ストーリーテラーか……! しかし何故だ……良心のないあれが誰かに味方するわけが、」

 

 いえ、アリサさんたちに味方しているわけではなくてですね……なんと言いますか、女王に敵対しているんですよね。

 どちらかといえば悪意的な行動ですよ?

 それに、女の子は優しくないとモテませんし。

 

「天羽は返してくれますよね?」

「ふん、勝手にしろ」

「では、織斑君も返しますよ……キャッチしてくださいね?」

 

 アリサは、ひゅぅという風切り音が聞こえるほどの速度で腕を振り、ヤマネ一夏を投げました。

 コースはど真ん中ストレート!

 対する女王は手近に立っていた箒をとっさに掴みフルスイング。

 打球は窓を突き破り場外へ! ……緑の平和とか海の猟犬とかから抗議はこないですよね?

 

「っは!? しまった、一夏ぁぁぁああ!?」

「……蘭ちゃん、余計なことを」

 

 自分で打ち返しておきながら女王はこの世の絶望の全てを知ったような顔をしています。

 いや、面白そうだったんでつい……

 ほら、今の私には良心とか無いですから。

 

「言い訳しないでください……まぁ、とにかくこれで条件は同じです。その程度の兵士たちが何人いても変わりませんしね……天羽、壁際で大人しくしていてください」

「分かりました! お姉ちゃま!」

「っく」

 

 既に大半はアリサの後ろにいたセシリアとシャルロットによって打ち倒されています。

 あ、ちなみに今の「っく」は女王のものではなくて、素直な天羽君をつい抱き締めそうになり、それを我慢したアリサさんの声です。

 一人、また一人と兵士たちは倒れていき、とうとう法廷にはアリサたち三人と、女王としてラウラだけになりました。

 

「さぁ、観念してください。さすがに二対三では辛いですよね?」

「っく……くっくっく……甘いな。お前等が倒したのはなんだ?」

「トランプの兵士たちですけど?」

「そうだな。ならば切り札(ジョーカー)もいるに決まっているだろう?」

「なっ……!?」

 

 それは、上から落下し華麗に着地しました。

 

「ふふーん。ジョーカーその一、束さんの出番だね」

「えー、私はその二? まぁいいや、アリちゃんよろしく★」

 

 現れたのは篠ノ之束と更識楯無でした。

 そこにラウラと女王が加わり、アリサたちの数的優勢はものの見事に崩されてしまいました。

 ただし女王が再び椅子に座ったのでまだ劣性にはなっていません。

 

「私は楯無先輩を! セシぃは束さん、シャルはラウラさんをお願いします!」

 

 アリサは瞬時にそれぞれの相性を判断して他の二人に指示を出しました。

 

「……ボーデヴィッヒ。手は抜くなよ?」

「っ! ……はい」

 

 女王がラウラに命令します。

 ラウラは少しやりづらそうな顔をしましたが、自由を奪われているため命令されるとその通りにしか行動できません。

 ……ラウラさんはシャルロットさんと特に仲が良いですから、余計に戦いにくいでしょう。

 

「……これは、采配をミスったかもしれません。でも、私にも余裕ないのでシャルはシャルで頑張ってください! 先輩、いきますよ?」

「お風呂では決着つく前にアリちゃんが倒れちゃったからね……学園最強を見せてあげるよ」

 

 たっちゃん先輩……メタすぎます。

 

「あはっ♪」

 

 楯無がすごいスピードでアリサに接近、右の拳を側頭部に叩き込みます。

 がんっ、という音はするもののアリサは微動だにしません。

 

「先輩、生徒会長代わってあげましょうか?」

 

 アリサは殴られたように見えて、実は左手でしっかりと楯無の拳を受け止めていました。

 そこから楯無の右腕を捻り、さらに跳躍。伸びきった肩を両足で挟み、空中で十字固めのような形に極めたあと、楯無をうつ伏せに床に叩きつけました。

 

「痛ぅ……油断しちゃった★」

「極ってますけど、どうします?」

 

 ◆

 

「ラウラ……」

「シャルロット。悪いが手は抜けない。行くぞ!」

「気にしなくて良いよ……」

 

 ナイフを抜いて低い体勢でラウラがシャルロットに肉薄します。

 しかし、ラウラの突進はあたることなくシャルロットにいなされ、さらに空中に放り投げられました。

 

「僕も虫の居所が悪くって……ちょっと手加減できそうにないかなぁ、なんてね」

 

 そんなことを言いながら、受け身をとったばかりのラウラに向けて銃弾を放つシャルロット。

 ゴロゴロと転がるようにしてなんとか立ち上がったラウラですが、すぐに弾雨が降り注ぎ一息もつけません。

 ……容赦のないシャルロットさんもですが、銃弾をナイフで斬り落とすラウラさんも大概ですよね。

 

「ふん、ならば気兼ねなく戦えるというだけのことだ」

「だねっ!」

 

 シャルロットが投げたナイフをラウラが紙一重で避け、空中でキャッチ。ノンタイムで投げ返しました。

 その刃をなんなくかわしたシャルロット……互いに一歩も譲りません。

 

 ◇

 

 一方、束と対峙しているセシリアは睨み合うだけで動きがありません。

 

「取引をいたしませんこと?」

「……どんな?」

「わたくしは動きません。なので貴女も動かないでいただけません?」

「……お互いに相手の戦力を一人分ずつなくすってことだ? うん、いいよ」

 

 二人は平和的な話し合いで解決しました。

 拳で語り合うことが全てではないのです……一応、もとは童話なので寓話的な要素も必要ですよね。世の中、武力が全てではないですよ!

 

「いやー、よかった。私、そこまで乱暴じゃないからさー」

「奇遇ですわね」

 

 ◆

 

「痛たたたたたっ! あ、アリちゃん……少しは油断しない?」

「先輩じゃなかったら油断するんですけどね」

 

 最初の状態から動いていないアリサと楯無。今もアリサは腕を捻りあげています。

 緊張のため、動いていないのに汗が垂れています。

 

「そういえば、アリちゃん」

「油断させようとしても、」

「その衣装、生地薄いね。形が分かっちゃうね★」

「な、なんのことやら……」

「えー? 分からないなら仕方ないね。お姉さんが教えてア・ゲ・ル♪ まぁ、△△△と□□□のことだけどね?」

 

 かーっと顔が、そしてジャケットので隠せていない肌まで紅く染まっていきます。

 アリサの目は羞恥心から涙目になりますが、それでも腕は極めたままです。

 

 

「うーん、手強い……まぁ、奥の手!」

 

 こきん、という軽い音がした瞬間、楯無は拘束をといて立ち上がりました。

 驚いて見上げたアリサが目にしたのは右腕がだらんと垂れている楯無の姿。

 

「自分で抜きましたか……」

「そういうこと……よっと。私にここまでさせる人なんて早々いないよ?」

 

 ゴキリと自ら抜いた右肩の関節を再びはめ直した楯無の手には、いつの間にか広げられた『見事』と書いてある扇子があります。

 その表情は楽しくて楽しくて仕方が無い、それだけを完璧に表現したらこうなるのではないかというように嗤っていました。

 

「ふふ……やっぱり、そうでなくては愉しくないですよね……?」

「あはっ。そうこなくっちゃ!」

「いきますっ!」

「かもーん♪」

 

 今度はアリサが攻めます。

 朝峰嵐才流という速度だけを特化させた古武術による高速移動によって楯無は刹那の間アリサを見失いました。

 ……多少のブレはあったものの序盤はちゃんと童話らしく始まっていたのになんで私は格闘描写をしているんでしょうね。

 

「わわっ……っほ、お、えいっ、とうっ、よっ、ふっ、おぉーっ……と」

 

 気の抜けるような声を出しながら高速の拳打を次々と避ける楯無。

 目で追い切れない程の速度で戦う二人は何者なのでしょうか……? 今なら改造人間と言われても信じられそうです。余りの速さにアリサさんの手が空気を裂く音まで聞こえます。あんなのクリーンヒットしたら画面に映せない顔になってしまうのではないでしょうか……?

 

「なかなかっ、やりっ、ますね!」

「いやー、アリちゃんもなかなかの鋭さだよね。でも、私の、おっと、知ってる圓明流とは、よっ、違うなっ」

「そりゃ、今のは、違いますからねっ!」

 

 一瞬たりとも同じ場所に立ってはいけないと定められているかのように二人は縦横無尽に動き回ります。

 アリサが拳打を放てば楯無が伏せ、楯無が跳ね罠のような蹴りを放てばアリサが後方に宙返りします。

 アリサが跳躍のついでに投げたナイフが楯無の扇子にはたき落とされます。

 

「ってぇ、影苦無!?」

 

 陰に隠れていた二本目は一本目に比べて速度が遅いため、楯無がとっさにつき出した扇子に挟まれて止まりました。

 

「それも、囮ですけど、ね!」

「っ! アリちゃんもなかなか器用だねぇ」

 

 一本目の数倍の速度で投げられたナイフは服だけを引き裂き大理石の壁に当たって砕けました。

 

「今のまで避けられるなんて……そうこなくては面白くないです」

 

 さらにアリサの猛攻が続きます。

 独楽のような左右二連続の回転蹴り、さらに二撃目を引き戻し逆回転の踵を叩きつけようとしますが、避けられ、いなされ、防がれます。

 

「うーん……テンポが掴めなくて反撃が……おっと」

 

 下段蹴りと見せかけて蹴りの軌道を変化、頭を蹴り飛ばそうとするものの紙一重で楯無に避けられます。

 鎚のような踵落としを跳び退きよけた楯無がアリサ程ではないものの鋭い速度で貫手を放ちました。

 ……速度ならアリサさん。技術なら楯無さんというところでしょうか?

 一撃の重みは同じくらいでしょうか。

 両者ともに暗器を使うことを躊躇わないので見ていてハラハラします。

 

「っ! 危なっ」

 

 目を狙っての一撃を間一髪で避けたアリサ。

 ここまで動き続けても未だに息は上がっていません。

 

「対暗部の頂点と言われているだけあってエグいことしますね」

 

 髪の毛が何本か抜けちゃいましたよ、なんて言いながらもアリサに隙はありません。

 

「うーん……アリちゃんの攻撃の拍子が全然分からないな。無拍子とも違うし」

 

 拍子というのは数多ある古武術の全てに共通するといってもいい考え方です。

 相手の攻撃の拍子を読み取り、意図的に自分の拍子をずらして攻めにくくさせる『打ち拍子』、逆に拍子をあわせて相手の行動すら支配するのが『当て拍子』。

 さらに、自分の拍子を相手に感じさせず、その上で相手の拍子の隙間を使う技術が無拍子です。

 

「……まぁ、拍動に呼吸、筋肉の収縮運動、全部のテンポをある程度まで変えられますからね。相手の拍子とか気にしないで拍子を変え続けているだけですよ」

「どおりで体以上に思考が混乱するわけだ」

 

 人間は色差や温度差などを勘違いしやすい動物です。真冬の凍えた手にはぬるま湯すら熱湯に感じられるのと一緒です。

 アリサは攻撃の速度に緩急をつけることで予想以上に速い、もしくは遅い攻撃を繰り出し対応させていないのです。

 

「それに……」

「ん?」

「私は二つの古武術を使い分け……いえ、同時に使えますから特に戦いにくいはずです」

「ふーん。変幻自在の拍子に二つの古武術、か。愉しさなんて忘れて真面目にやらないとね」

 

 ここにきてようやく構えた楯無から今までよりも鋭い、刃のような気配が放たれました。

 

「なら、私も不破圓明流の業を思う存分、」

 

 二人の気がはりつめだした瞬間、全てを止める声が響きました。

 

「全員、止まりなさい!」

 

 ◇

 

 時間は少し戻って再びシャルロットとラウラの戦いです。

 ナイフとナイフがぶつかる澄んだ音が連続して響きます。

 しかし特殊部隊用のラウラの肉厚なナイフに比べてシャルロットが持っているナイフはトランプ兵が使っていたごく普通のものです。

 

「っふ!」

「遅い!」

「くぁっ……!」

 

 シャルロットが両手に持っているナイフの片方がラウラによる重い一撃で砕けました。

 

(ラウラの得物の方が重量があるから打ち合いになったら不利だね……やっぱり手数で攻めるしかない、か)

 

 ガガガガッガギンガギン、と火花が立つほどの剣戟が連続で交わされます。

 打ち込むたびに刃が毀れるのがわかっているシャルロットはあまり強くナイフを振るえません。

 しかしラウラは精確に、しかし力加減など一切しないで全ての斬撃を潰していきます。

 それでも手数がシャルロットに比べて少ないため、形勢逆転とはいかないようです。

 

(でも、ラウラが先に僕の武器を壊そうと考えてるなら勝機はあるかも)

 

 再び高速の剣戟が交わされますが、攻撃をしようというよりは互いに時間を稼ごうとしているようです。

 数十回の打ち合いにシャルロットのナイフがまた一本折れました。

 残る右手の一本を横薙ぎに振るいましたが、ラウラはナイフを交差するように当てて防ぎます。

 

(ここだ!)

 

 刃がぶつかりあった瞬間にシャルロットはナイフを放し、身体にかかる慣性を殺さずにラウラを突き飛ばしました。

 予想外の攻撃にラウラも驚きましたが、着地は安定しています。

 

「まだまだ!」

 

 シャルロットは相手に休ませる暇も与えずに背中から取り出した二丁の拳銃を連続で撃ちます。

 こればかりは堪らないとラウラが回避に専念します。避けたと思った弾丸が大理石の壁に当たって跳ね返ってくるのですから避けるだけでも精一杯です。

 跳弾を使うことでラウラの正面からだけでなく、三百六十度からの擬似的な包囲網を完成させたシャルロットの顔は、しかし険しいものでした。

 弾丸も無限に用意されているわけではないからです。段々と弾幕の密度も薄くなっていっています。

 そして、ラウラの越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)もそのことを正しく捉えています。

 

(やっぱり、越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)相手に生身での戦闘は苦しいね……アリサなら……ううん、頼りっきりじゃダメだから)

 

 シャルロットは銃撃をやめ、新しく取り出した拳銃をラウラの頭に向けました。

 

「そろそろ、終わりにしようか?」

「望むところだ」

 

 走り込んでくるラウラを迎え討つつもりなのでしょう。

 低い態勢で疾駆するラウラとは反対にシャルロットは動かずに一瞬の隙を探しているようです。

 

「全員、止まりなさい!」

「えっ、」

 

 気配すら感じさせなかった鈴の声に気をとられたシャルロット。

 その脇腹にラウラのナイフが突き刺さりました。

 

 ◆

 

「シャル!」

「アリサ、まだ動かないで! ……やっときたチャンスだから」

「鈴、ちゃん……? いつのまに?」

「っく……チェシャ猫め……!」

 

 突如として現れた鈴が女王を締め上げました。

 絵面的には織斑先生を締め上げる鈴さんなので、見てる方も怖くなります。

 鈴さんも少し青い顔だったり。

 

「自分が奪ったものが仇になったみたいね? 存在が消えている間に忍び込ませてもらったわ」

「ふん……それで、何が、望みだ?」

 

 ギリギリ落とさない程度に首を締められている女王が苦しそうにしながら鈴に尋ねます。

 

「私達から奪ったもの全てよ」

「……それらを奪ったことで生まれた空白が異邦人(アリス)を不思議の国に縛っているんだ……そんな馬鹿げたことをするわけがないだろう?」

「なんですって!?」

「ボーデヴィッヒ、この場にいる私と異邦人、切り札以外の人間の首を落とせ」

 

 女王は自分の首にまわされている腕を気にしないでラウラに命令します。

 自由というものがないラウラは命令と同時に動き出しました。

 まずは一番近いアリサへと。

 

「首、折るわよ!? 嫌なら今すぐ、」

「ふん、今人質になっているのはお前らだぞ? マーチヘアも随分と手練のようだが更識とボーデヴィッヒ二人を相手に立ち回るのは至難の業だろう? 私を解放して、おとなしく家に帰ると言うなら止めてやろう」

「……クーデターに、犠牲は付き物よ」

「失敗するにせよ成功するにせよ、だな……既に異邦人(アリス)があの状態だ。生きていたとしてもここで時間をかければ死ぬだろう。あぁ、そうなったらマーチヘアには恋心を返そうか。そして牢屋の中で後悔させ続けるのも面白いだろう?」

 

 ちらりと床に臥すシャルロットを見る二人。ピクリとも動かない身体は死んでいるのか生きているのかも定かではありません。

 

「最低……」

「為政者に人間性を期待するのは酷というものだぞ。今が選択の時だ。諦めて異邦人(アリス)を置いて帰れば今まで通りの日常が待っている。不変の世界は幸せだぞ?」

「……嫌よ。ここで諦めたらアリサは大事なものを亡くしたまま……可哀想じゃない。待ってなさい。私がラウラを止める。それであんたに全部を返させてシャルロットも助ける!」

「やってみろ。ボーデヴィッヒ! 先にこの女だ!」

 

 アリサに向かって歩いていたラウラが方向を変え、鈴の方に向かいます。

 決して格闘が得意と言うわけではない鈴ですが、決死の覚悟で拳を握り立ち向かいます。

 そして、ラウラがナイフを振り上げた瞬間、

 

 ズガンッ

 

 ラウラがうつ伏せに倒れました。

 その後ろには二本の足でしっかり立っているシャルロットがいます。

 

「シャル!? っぐぅ!」

「あ、ちょっと、アリちゃん!?」

 

 楯無と戦っていたアリサが立ち上がったシャルロットに気を取られ、その隙に楯無の拳がお腹に突き刺さり、吹き飛ばしました。

 殴った当人でさえ驚いています。

 

「シャル……? あの、怪我は?」

「アリサ……」

「……貴女のことを好きでもないのに心配されても悲しいだけかも知れないですけど……それでも私が貴女を好きだったのは知ってます」

「アリサ、大丈夫。これが守ってくれたんだ」

 

 そう言ってシャルロットは懐から取り出したものを床に投げました。

 それはアリサがアリスの際に服の中にしまったもの。

 ……未だにどうやって入っていたのかは理解できませんけど。

 

「あっ、僕のろっぽーぜんしょ投げないで!」

「あらら、天羽君のだったんだ。ごめんね?」

「いいよ!」

「ふ、ふふ……なんなんですか、このおバカな展開は……もう、どう転んでも大好きなシャルと一緒にいることはできないと思っていたのに……おかしすぎて泣けちゃいそうです……」

 

 だから言ったじゃないですか。

 天羽君が分厚い本を読んでいたことが唯一のハッピーエンドに繋がる道だって。

 ……女王様、いえ、公爵夫人。こんな感じでいかがでしょう?

 

「え?」

「そうだな。もう十分だろう。異邦人(アリス)、この国の新たな女王になってくれないか?」

「え? え。え?」

「この非常識な国(ワンダーランド)の慣習法では女王だけは常識人であることが決められているんだ。だが連れてきていきなり女王就任というわけにもいかないからな。これまでのは女王の資質を見極め、そして女王自身に不思議の国を好きになってもらうための期間だったんだ」

 

 アリサさんが異邦人(アリス)から降ろされたのは、天羽君を助けたらさっさと帰りそうだったからです。

 

「蘭ちゃん……つまり貴女は最初から女王、いえ、この公爵夫人の味方だったということですか? 騙しましたね?」

 

 いえ、クーデターを起こすのが四人とか言いましたけどそこに入ってるのは私じゃなくて鈴さんですし。

 

「実際、違和感あったんですよ。いくら女王に対する悪意だとしても結果的に私たちを助けるような行動をとるんですから。最初から騙されていたなら全部が良心からの行動ではなくなりますからね」

 

 真相を知ったアリサは腰を抜かしてしまいました。

 その顔は苦笑以外のなんでもありません。

 

「それで異邦人(アリス)、どうしたい? 女王にならなくても、こいつらから預かったものは返す。だから好きにしろ」

 

 奪った、ではなく預かったと言った公爵夫人に奪われた皆がジト目を向けます。

 これには公爵夫人も堪らず、目を逸らして小声ですまなかった、と謝りました。

 

「うーん、そうだなぁ――

 

 ◇

 

 ちゅん、ちゅんちゅん

 

「っん……あれ、僕、寝ちゃってたんだ」

 

 小鳥の鳴き声で目を覚ましたシャルロットは、辺りを見回します。

 柔らかな光がやさしく大地を暖め、小鳥たちが春を詠う。そんな穏やかな午前中。

 なんだか不思議な夢を見た気がしましたが、結局いつもの川の畔のいつもの木の影でした。

 

「すぅ……すぅ」

 

 そしてシャルロットの隣には当たり前のようにもう一人が眠っています。

 

「アリサ、起きて……そろそろ時間だよ?」

「ん……んぅ? シャル……? ……って、今何時ですか!?」

 

 シャルロットの声に目を覚ましたのは、桃色の髪の毛を輪っかにしてウサギの耳のように結わえた少女でした。

 

「そろそろ午前十四時。もう、しっかりしてよね、アリサは僕の白ウサギ(タイムキーパー)なんだから」

「あぁ、もう! ごめんなさい! でも遅れちゃうから急ぎましょう! シャル」

「む、公私混同だよ?」

「あぁ! じゃあ行きますよ女王様!」

「うんっ」

 

 今日は大事な会議の日。

 常識と非常識のバランスを決めるための法律を作るための議論が白熱しすぎてもう三ヶ月も同じ議題です。

 唯一の常識人の女王様が遅れるわけにはいかないと、二人は早速走り出しました。

 

「大変、遅れちゃいます!」

 

 ここは非常識な人がたくさん住んでいる不思議の国。

 興味をもったらパスポートを片手にお近くのウサギ穴に飛び込んでください。


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