Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「夏夜の花火」


58.Les feux d'artifice de nuit de l'été

「まったく、お前たちは。事前に一言残していくことも思いつかないのか」

 

 おー……織斑先生がお怒りです。

 

「たまたま織斑が戦線復帰できていたからよかったものの、そうでなければ福音は逃げだしていたぞ!」

「ち、千冬姉、結局勝ったんだからいいじゃん。な?」

「先生だ……そういえば、織斑、お前も目が覚めてすぐに行かせろとか言っていたな? しかも許可がもらえなくても勝手に行くとか……」

「げ……」

 

 迂闊ですね織斑君。

 こういう時は黙っているに限りますよ。

 ……というか、ですね。

 どうして私だけなんでしょう?

 織斑君は元気だからいいとして、ほかの皆は疲れているだろうからということで後日、臨海学校が終わってからお説教だと言ってませんでしたか?

 私、一番ボロボロだったんですけど……風邪も引いてますし。

 

「どうした不破? まさか不満でもあるのか?」

「いえ、冷静になってみればですね……あ、言ってもいいですか?」

「ああ、言ってみろ」

「あー……私、命令違反なんてしてないですよね?」

「なに?」

 

 一度撤退している皆さんと違って、私はずっと継戦状態でしたから戦闘は禁止されてませんし。

 だから、私が怒られる理由は無いんですけど……帰還命令も出てませんしヘリクツではないですよね?

 

「ん? ああ、そうか。なるほど」

 

 え、あの、織斑先生は何を納得してるんでしょう……?

 

「不破、そもそもお前を残したのは怒るためじゃない」

「……怒られてましたけど?」

「あれは愚痴だ」

「そですか……」

 

 これが大人の汚さってやつですね……!

 でも、ならどうして私は呼ばれたのでしょう?

 

「まぁ、簡単に言ってしまえば軍事衛星を借りた代わりにアメリカからお前の身柄を要求されている」

「……はい?」

「いや、実際にはアメリカ軍部へのオファーだが……私の予想では恐らく……と、織斑、出ていけ。それと今のことは他言無用だ。言ったら――分かってるな?」

「え? あ、ああ。分かった。それじゃ、不破さん、またな」

 

 ……人に聞かせられない系の話ですか?

 というかアメリカに目を付けられるって……私、何かしましたか?

 うーん。覚えがないですねぇ。

 もしかして知らない間に軍事衛星から重要な情報を盗み出してしまったのでしょうか? ISのことですから有り得ないとも……

 

「それで本題だが……アメリカがお前を身柄を確保したい理由は恐らくお前の戦い方が原因だ。アメリカの第三世代型、ファング・クエイクの特徴を知っているか?」

「ええ、公表されているだけは……」

 

 たしか四基のスラスターによる個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)……私のようなアナログ入力ではない真正の……ってもしかして、

 

「気付いたか。アメリカがフランスに対して技術盗用の疑いをかけている。だがアメリカはセキュリティー大国だ。彼ら自身、盗まれるわけがないと考えているんだろう」

「なるほど……確かに私のはあれと同じですからね」

 

 ISは軍事機密として開発されているので異なる国で同じような装備が偶然できあがることもまぁあります。

 アメリカもまさかフランスが本当に盗んだとは考えていないでしょう。

 ただ問題は常に超高速戦闘が可能となる個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)はアメリカの虎の子であり、さらにそれがイメージ・インターフェースを用いた第三世代兵器であるにも拘わらず、フランスの第二世代型が同じことをアメリカより少ないスラスターで可能としているということです。

 

「私がアメリカに赴いた場合、どうなりますか?」

「そうだな……不破はISごとアメリカ軍部に所属。フランスには代わりのコアと優秀な技術者が送られ、もしかすると共同防衛協定などもありうるな」

「随分といい条件ですね……」

 

 私の連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)は私にしかできない固有技能だと知ったらどうなりますかね。

 まぁ……逆にそれを証明すれば何事もなくこの事件も解決するのでしょうが……どうせなら何か手に入れたいところです。

 とはいえ私が切れるカードは多くないですから……さすがに私の並列処理(マルチ・サーキット)調べるためにを解剖されたりはヤですしね。

 ちょこちょこっと関係だけでも欲しいのですが……今回は自重したほうがよさそうです。

 

「分かりました。夏休みに顔を出して正式にお断りしますよ。あれは私だけにできる固有技能だと言えば平気でしょう。食い下がるようなら実演しますし」

「そうか。あぁ、この件、学園は関与していないからな」

 

 という建前ですよね。

 とはいえアメリカ相手を相手取っても強攻策を採らせないんですからIS学園もなかなか強い立場を持ってるんですねぇ。

 それにしても夏休みの予定がどんどん埋まります。

 ラウラさんとのドイツツアー。フランスに戻ってデュノア社主催のパーティー。そしてアメリカですか。しかもドイツとアメリカからはラブコールが届いてますし……まぁ、ドイツの方はラウラさんが言っているだけですけどね。

 私のどこにそんな価値があるんでしょうね……貧乳はステータスでも希少価値でもないですよ?

 まぁ、鈴ちゃんの方が私より小さいですが。最近、成長期です。いえ、正確には性徴期でしょうか?

 

「まぁ、もう部屋に戻っていいぞ」

「はーい」

「不破」

「はい?」

「うちのひよっこどもが世話になったな」

「ん? それは、私は織斑先生の生徒じゃないと?」

「馬鹿者」

 

 えー……まぁ、お礼と労いくらいは素直に言いましょうよ。そんなだから彼氏も、

 

「なんだ?」

「いえ、なにも」

 

 先生、怖いです……

 えーと、今が午後五時二十分なので……夕食まで二時間休めますね。それで私達専用機持ちはその後で体の検査、場合によっては精密検査の後、入院なんてことも……入院するとしたら私ですよねぇ。

 

「痛たた……うー、お腹、痣になってますよ……」

 

 福音のタックルを受け止めたときのものですね。

 手も殴った反動で少し腫れて熱を持ってますし……ホント、ヤになっちゃいます。

 はぁ……

 

「あ、不破ちゃんおかえりっ!」

「二木さん……何してるんですか?」

 

 部屋には入ってみれば既にお布団が人数分……より一組少なく敷いてあって、そのうちのひとつに二木さんが潜り込んで亀のように頭を出しています。

 ……でも、膨らみすぎではないでしょうか?

 

「ふ、ふたちゃん、暑い!」

 

 あ、一松さんもいたんです……ね?

 

「い、一松さん……その格好は?」

 

 なんでショーツに浴衣だけなんですか!? というかブラと帯はどうしたんですか!?

 

「何か変かな? ふたちゃん、私何かおかしい?」

「うーん……? イッチーは可愛いよ?」

「そっか」

 

 ……あ、あぁ。

 なるほど。

 深くは聞かないことにします。

 他の人も部屋にいるのによくできますね……

 というか昨日は病院から戻ってきて割と早くに寝てしまいましたから気付きませんでしたが、私の部屋、変な人ばっかです。

 一松さんと二木さんは……まぁ、そういうことしてますし、三好さんと原田さんはその隣で普通に将棋してますし。

 

「やった飛車角取り!」

「あ、リカぁ、それ動かすとあんた詰むけど」

「え、ちょ!? 待った!」

「えー、どうせなら最初からやろうよ」

 

 お互いによく気が散らないですね。

 というか三好さん将棋強いんですね……お菓子咥えながらやってるのがやけにかっこいいです。

 

「じゃ、イッチー、続き続き!」

「う、うん……」

「その、そういうのはほどほどにお願いしますね……?」

「もー、不破ちゃんは堅いなぁ」

 

 いや、同じ部屋でそういうことされる私たちの身にもなって下さいよ……

 あ、三好さんが立ち上がって……ティッシュケース?

 鼻でもかむのでしょうか……そのまま将棋台まで戻って……二木さんたちの布団の隣に置きました!?

 いやに気が利いてますね!

 

「ん、不破ぁ。いつまでも立ってないでこっちきなよ? ……あぁ、こいつらは気にしなくていいから」

「気になりますよ!」

「……じゃあ、覗く?」

「そういう気になるじゃ……! ……えと、ちょっとだけ」

「うわー、不破も女の子だねぇ。なに? 思春期?」

「もう! 三好さんオヤジっぽいですよ! さて、失礼しまーす……」

 

 どれどれ。

 ん……うわ……お、おぉ………え、そんなことまで? うわ、舐めて…うわぁ…………

 

「いつまで見てるの?」

「っぷはぁ!?」

「で、どうだった?」

「いや、あの、なんというか……鼻からきました」

「あー、こもってるし匂いもすごいだろうね」

 

 夏ですから蒸れますしね……

 あんなに強い匂いがするんですね……

 

「さーてっ、不破の具合はどうかなぁ……?」

「え? 具合って、」

 

 ってなに触……っ!? ……!!!

 

「とっ、トイレっ! トイレ行ってきます!」

「っぷ! 不破ぁ、乙女だねぇ」

「う、ううう、うるさいですよ!」

 

 じゅ、純粋なんです!

 それなのに、あんなの見ちゃったら仕方ないじゃないですか!

 で、でも、二木さんが弱々しくて意外でしたね……あれが本当の昼夜逆転性活でしょうか?

 ……私、なに言ってるんでしょうね。

 とりあえずトイレで身だしなみを整えましょう。

 

「おー……見事な内股。ぷるぷるしてる」

「っ! ……うるさいですって!」

「ごゆっくり~」

 

 そ、そういうこと言われると気になるじゃないですか!

 まったくもう。

 三好さんは人のことをからかいすぎです!

 ……でも、ああいう人に限って好きな人の前では従順……じゃなくて素直になるんですよね。想像つかないですけど。

 

「さて、と…………う、わ、意外と……」

 

 ……よし。

 全部忘れちゃいましょう!

 これから私は身だしなみを整えて仮眠をします。その前後において変わったことは何一つ起きませんでした!

 そして起きたら織斑先生に怒られる! それで今日は終わり!

 

 ◇

 

 ――私の大事に、なにをしてるんですか……?――

 

「どういう意味だったんだろ?」

 

 友達として……にしては大袈裟すぎるよね。

 じゃあ、保護者的な感じ……? いや、でも義母(ぎぼ)さんの嫌がらせから守ってくれてたとはいえ、そこまで飛躍するかなぁ?

 というか、私の大事って少し恋人みたいだよね。少女マンガみたいな……うん、僕も女の子だし少し憧れる、かな?

 まぁ、アリサがそんなこと言うわけないけど。

 

「私の……あぁ! 私の友達って言おうとして途中で言い換えたんだ。うん。きっとそうだね」

 

 ……ちょっとだけ、からかってみようかな。

 アリサ、慌てて弁解するんだろうなぁ。

 

「と……そろそろ織斑先生の部屋に行かないと……まぁ、怒られに自分から行くのも変な気分だけどね」

 

 行かなくても怒られるんだし関係ないんだけど……首の痣だけ隠して行こっと。

 痕は残らないらしいから暫くの間我慢するだけでいいね。

 

「シャルロット、準備はいいか?」

「あ、ラウラ……うん。もう行けるよ」

 

 うーん。

 先生にはお手柔らかに頼みたいなぁ。怒られて嬉しい訳なんてないからね。

 私の考えてることが伝わったのか、ラウラがふっと笑う。

 どうでもいいけど、ラウラって一夏が近くにいないとかっこいいよね。一夏の側だと話さなくなるけど。

 

「まぁ、あまり怒られることもないだろう」

「なんで?」

「簡単だ。教官が私達と同じ立場だったらやはり同じことをしたはずだからだ」

「なるほどね」

 

 まぁ、先生は一夏のお姉さんだからね。それだけで納得できるかも。

 

 ◇

 

 ざあ……

 ざぁん……

 

 んー。

 海ですねぇ。

 この磯の香りが何とも……苦手なんですよね。

 

「って、あれ、織斑君……なにしてるんですか?」

「ああ、不破さんか」

「ええ、不破さんですよ」

 

 ……このやりとりも実はお約束なんですよね。

 

「で、何をしているのか答えてもらっていませんよ?」

「んー……まぁ、海を見てるだけなんだけどな。強いていうなら考え事かな」

「ふむ。昨日いなかった篠ノ之さんの水着はセクシーな白ビキニですよ」

 

 セシぃのもそうでしたが……海においてあのサイズは凶器ですよね。

 シャルも可愛すぎて殺されかけましたし……

 ……私と鈴ちゃん、ラウラさんだけが安全な胸でした。ラウラさんの水着もビキニでしたけどね。

 

「そんなこと考えてないって!」

「想像したくせに……身体、全快してたんですってね」

「ん? ああ。束さんも驚いてたよ」

「それはそうでしょう。生体再生が可能だったのはコアナンバー〇〇一の白騎士だけだったんですから」

 

 白騎士――史上最初のISは実はその時点で現行ISの殆どを凌駕していた、という噂もあります。

 まぁ、最初の一機ということは束さんが最も時間をかけた機体だとも言えるので不思議ではないですけどね。

 

「少し、残念です……織斑君と、やっとお揃いになれたと思ったのに……」

「お揃い……?」

「背中の火傷……です。お揃いになれれば私……織斑君の近くにいても見劣り、しませんから……」

「え……?」

「こんな怪我をしている私は、織斑君に釣り合いませんから……私、ずっと、織斑君のことが……」

「不破、さん?」

「苗字でなんて、呼ばないで下さい……」

「あ、アリサ……」

「織斑君。いえ、一夏君……私、」

「ちょっと待てぇぇぇい!」

 

 よし。

 篠ノ之さん、我慢が足りないですよ?

 

「篠ノ之さん、私の勝ちですよね?」

「むぅ……不破め。それより一夏! なにをデレデレしている!?」

「鼻の下伸びてますよ? ヤーラシー」

「ほっ、箒!? というかアリサ、これどういうことなんだ!?」

「馴れ馴れしく名前で呼ばないで下さい。それじゃ篠ノ之さん、皆呼んでいいですね?」

「ああ、仕方ないな! くそっ! 一夏のせいなんだからな!」

 

 さて、鈴ちゃんたちを呼んであげましょうかね。

 ことの発端は簡単です。

 ひとりで海にいる織斑君を見つけた篠ノ之さんが逢瀬をしようとしていたので妨害しただけです。

 問答無用で邪魔するのは可哀想なので、私と織斑君の二人きりでの会話を邪魔しなかったら私も皆に内緒にする、ということで賭をしたんですけどね。

 篠ノ之さんには申し訳ないですけど……私は鈴ちゃんを応援してますからね。私もできる限り織斑君の建てたフラグを壊さないと気が気じゃないです。

 

「篠ノ之さん。抜け駆けされる気持ち、分かってくれましたか?」

「……ああ。これはキツいな……」

「え、なに? どういうこと?」

 

 織斑君も存外に鈍いですね。

 

「んーと。織斑君は私にからかわれていたことだけを自覚すればいいんです」

「からかわ……え!? じゃあ、えっと、不破さんか俺のこと好き、みたいなのは……?」

「そんなこと言ってませんよ?」

 

 そう思えるようなことは言いましたが言葉にはしてません。

 私の“好き”はたった一人のためだけの物ですからね。

 冗談でも織斑君には言いませんよ。

 

「えー!? じゃ、俺、ドキドキ損!? うわー勘弁してくれよな」

「私、自分より弱い男の人には興味ないんで」

「ぐはっ!」

 

 ……まぁ、こんなもんですかね。

 織斑君と篠ノ之さんに対して八つ当たりしちゃいましたけど……仕方ないんです。

 だって、シャルの首に痣が残ってたんですよ!?

 八つ当たりしていなければ福音の操縦者を襲いにいっていたところです! 暗殺的な意味で!

 

「俺結構頑張ったんだけどなぁ……」

 

 むぅ。

 まぁ、確かに? 今回の頑張りについては少しは認めても上げていいかなーとは思うんですよね。

 とはいっても私が織斑君のこと誉めたって……ねぇ?

 

「ま、織斑君のお陰で一人救われたんですからいいじゃないですか」

「おれ、知らないところで誰を救ったの!?」

「五月蠅い人ですねぇ。そういう細かい人、嫌いです」

 

 心底めんどくさそうな顔で言ってあげました。

 

「……ああ、今のでさっきの不破さんが幻だったのが理解できた」

 

 それは良かったです。

 

「アリサー、あんたの荷物から花火持ってきたわよ?」

「あ、リン、見せて!」

「ふむ、打ち上げ花火五個に五十連発花火が八本、ロケット花火百本入りが二袋に爆竹が二十束か……」

「線香花火とか女の子の定番物がないのが代表らしいよねぇ」

「不破ぁ、爆竹にロケット花火結びつけるよぉ?」

「恐怖! 夏の海岸に飛び交う爆竹!」

「それは流石に危険すぎますわ!」

「というかふたちゃん、そういうこと言ってると不破さんに怒られちゃうよ?」

 

 ……あれ、人多すぎじゃないですか?

 ちなみに順番は鈴ちゃん、シャル、ラウラさん、原田さん、三好さんに二木さん、セシぃ、一松さん……私とそこで固まっている二人を入れて十一人ですか。

 確実にバレますね……

 

「あ~! 私も花火やるー!」

 

 ……のほほんさんも追加です。

 ま、皆で怒られるのもいいですかね。

 赤信号、皆でわたれば怖くない! です。あ、よい子は真似しちゃだめですからね?

 

「とりあえず各自ロケット花火十五本ずつ持って砲撃戦ごっこしましょうか?」

「不破さん!?」

 

 ……冗談なのに一松さん以外驚いてくれませんでした。


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