Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
一夏がいなくて、アリサも墜ちて、セシリアもラウラもダメになった。
私の甲龍に残ってるのは大した効果のない龍砲だけ……なのに箒は蹴り飛ばされて戦線離脱。シャルロットも捕まった……
シャルロットは首を絞められて……あのままじゃ死んじゃうかもしれない。
どうやって助ければ……気を引いて私に攻撃させる?
でも、気を引けなかったら?
それに、シャルロットを助けても今度は自分かもしれない。
シャルロットは解放されたとしても動けないと思う。
そんなときに私が狙われたら?
……誰か助けてくれるの?
…………怖い。
動かなかったら仲間が死んで、動いたら自分が死ぬ。
意味、分かんないわよ!
ISは操縦者の命を守るんじゃなかったの!?
どうして、私達が命懸けなきゃいけないのよ!
もう、わけわかんない!
「わけわかんないけど……アリサは、こんな思いをしてきたのね……それも三ヶ月間も」
あの戦争の記録の中でアリサはどうしてた?
……あの子のことだから、考えるまでもない。
自分が犠牲になるとも思わないでつっこんでいったに違いないわ。
「アリサ……あんた、どんだけ強いのよ……」
なんで、こんなことを経験してきて笑えるのよ……
本当は泣き虫のくせに……
「あの子がやったのに、私がやらない理由(わけ)ないわよね……!」
拳を、固く握りしめる。
私は専用機持ちの中で一番弱い。
甲龍は強さを第一に求めなかったISだから当たり前。
でも、機体が弱くても、私が弱くていいなんてことはないのよ!
アリサは私に一番負担の少ない役回りをくれた。
遠くから撃って、後ろから攻撃して、戦略的には正しいけど情けない役割。
でも、私はそれを喜んだ。
自分が怪我しそうにないから。
至近距離で戦うことも、壁になって見方を守ることも、積極的に気を引くこともしなくていい安全な立場……
だから、私は専用機持ちの中で一番弱かった。
……
「アリサ、私をこの役目にしてくれたこと、感謝するわ」
だって、最後の最後で大事な仲間を助けられるでしょ?
「いくわよ、羽頭(とりあたま)。棒々鶏にしてあげるわ……まぁ、材料が悪いんじゃ私の腕でもさすがに喰えたもんじゃないでしょうけどね?」
頭から羽はやすなんて気持ち悪いのよ。
福音の真後ろから最大威力の龍砲を撃つ。
機能特化パッケージ――崩山。龍砲の利点である見えない弾丸であることを捨て、超高エネルギーによって生み出された炎を纏う拡散衝撃砲を撃てるようにする装備。
狙い通り炎弾は
『きいい……』
シャルロットを掴んだまま、福音がこっちをむく。
「ばーか。もう手遅れよ」
舌を出して挑発する。
べーっだ! ふんっ!
そんなエネルギー翼、広げられたって怖かないわよ。
………だって、
『……私の大事に、なにをしてるんです……?』
アリサが、あんたに狙いを定めてるからね……あんた、もう終わりよ?
ズドンっ……
轟音と巨大な水柱。
福音はその水柱に突き飛ばされたように上へと吹き飛ぶ。
「鈴ちゃん! ご苦労様! シャルをお願いします! 篠ノ之さんもラウラさんもセシぃも! いつまでサボってるんですか!」
『ああ……じゅうぶん、休んだな……!』
福音に負けず劣らずの速度で海中から空について躍り出たアリサのカゲロウは装甲もボロボロ。アリサ自身、所々血が出ていて、とても動けるようには見えない。
なのに、何よりも速く動く。
体勢の整っていない福音を近くの小島に殴り飛ばし、追いすがり、また殴る。
のらりくらりと攻撃をかわす普段のアリサからは想像も付かないほどの直情的な戦い方。
「暴走してるとかっ! 敵同士とかっ! そもそも原因は束さんとかっ! そんなの置いといてっ!」
福音のエネルギー翼が光り始めても無視。アリサはひたすらに殴り続ける。その手にはいつの間にか
えと、アリサ、冷静に戦闘続行って言ったのあんたよ?
「もう、情状酌量とか、いりませんね……貴女は、シャルを殺そうとした……そうですよね?」
多分、物理兵器の中では最も高い威力を誇るアリサの
でも、エネルギー翼が展開される方が速い……!
それでも、アリサは逃げない。
◇
「ふん、撃ちますか? どうぞ? でも、私が倒れる前に
……くそったれ、とでも言いたくなる気分です。
これはシャルを傷つけたのに……私にはこれを倒すだけのエネルギーが残ってません。
本当は、私の手で壊したいのに……!
『きあああ!』
「暴れないで下さいよっ……! って、きゃっ!」
馬乗りになっていた状況にも拘わらず福音は無理矢理起きあがって飛び去りました。
……ふん、今度こそ逃げようってことですか?
まぁ、私はこの様……風邪で頭も痛いですし、逃げられるんじゃないですか?
「……私からは、ね。後は頼みましたよ」
織斑君……
◇
くそっ、動け!
今、私が動かなくてどうするんだ!
紅椿、応えろ!
「……くそっ、指を咥えて見てるしかないというのか……!」
不破が無理を通してここまで追いつめたというのに……!
最後の最後で力が足りないなんてこと……
もっと速く、速く飛べ、紅椿!
ィィィィンッ……!!
「なんだ!?」
光の束が背後から福音を吹き飛ばした……?
あれは荷電粒子砲……?
いったい誰の装備だ……?
「待たせたな」
白いIS……?
おい、なんでだ?
なんで……一夏がここにいる?
「おう。箒、泣いてんのか?」
「泣いてなどっ! ……でも、本当に……良かった!」
涙が、止まらない……ええい! 撫でるな!
そんなことされたら安心して、もっと、泣きたくなるではないか!
「ボロボロじゃねぇか。あーあ、髪紐も千切れちまって……ま、いいか。これ使えよ」
「これ、は……リボン?」
なんで……?
「ばか、今日はお前の誕生日だろうが」
あ……そうか。
今日は七夕……私の誕生日……
「じゃあ、行ってくる。さくっと終わらせてくるわ」
機動の安定していない福音に一夏はすぐに追いついた。
左手に新しい装備を携えて……そうか、あれが白式の第二形態……
◇
「さぁ、再戦と行くか!」
逃げるのをやめた福音が方向を変えて俺に向かってくる。
今まで両手で握っていた雪片弐型を右手だけで構えて斬りかかる。
それを福音はかわしたけど、予想済みだ。そもそも避けさせるための斬撃でしかなかったのだから。
俺の左手側に動いた福音を、
この装備こそ束さんの言っていた展開装甲なんだろう。
俺のイメージに応えて様々な状況に対応できる。
今は指先からエネルギー刃を出しクローとして使う。
その爪の一撃はシールドエネルギーに阻まれたものの福音を捉えていた。
「いける……!」
第二形態になったことで生まれた勝てるという自信は、今をもって確信に変わった。
『敵機の情報を更新。攻撃レベルAで対処する』
エネルギー翼を広げ、胴体から生えた翼も伸ばす。そして次の瞬間、圧倒的な弾雨が降り注いだ。
……ていうか、コイツ、こんな光ってたっけ?
「ま、そんなもん今更食らうかよっ!」
雪羅をシールドモードに切り替える。半透明の光の膜はちょうど俺を隠すだけの広さまで広がり、その光に触れたエネルギー弾を音もなく消していく。
簡単に言ってしまえば零落白夜の性能を盾に転化したものだ。
エネルギー消耗は激しいものの、エネルギー系の攻撃に対して圧倒的な優位性を誇る。
福音に実弾兵装が無いこともスペックカタログで確認済みだ。
「うおおおっ!」
それに加えて大型四基のウイングスラスターが備わった白式・雪羅は二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション・ブースト)を可能としている。
ひらりひらりと動く福音も最高速機動なわけではないのだから十分追いつける。
……それにしても、不破さんは中型のスラスター二基で連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)ができてるんだよな。
どういうこと?
『状況変化。最大攻撃力を使用する』
って、不破さんなんかどうでもいいからまずはこっちだ!
これは、どうすれば……くそっみんなが巻き込まれ……!
「バカ一夏! 候補生なめてんじゃないわよ! これくらい自分で何とかするわ! あんたは! さっさと! そいつを片付ける! わかった!?」
「鈴……わかった!」
◇
「……む、織斑君に喧嘩を売られた気がします」
瞑っていた目を開き空を見ればエネルギー翼で体を包み繭状になった福音と、零落白夜の光刃を両手に構えた織斑君が見えます。
ギリギリ、ですかね……砲身の冷却が終わってませんが
「っとと……」
「無理するな」
「あれ……ラウラ、さん?」
「アリサが何かしなくても、二人がしっかり終わらせてくれるさ。病人は寝ろ」
う……バレてます。
で、でも頑張りましたし怒られることはない……といいですね。
皆さんちょっと私に過保護ですよ?
……嬉しいですけど。
「ラウラさん、夏休み、楽しみですね」
「期末があるけどな」
「勉強、不安なところでもあるんですか?」
学力トップが教えますよ?
◇
(一夏が駆けつけてきてくれた……!)
無事だった。
戦ってくれている。
全てが私の心を揺さぶっているのが分かる。
嬉しい。
そして、それ以上に、
(ともに、戦いたい!)
――『絢爛舞踏』発動。展開装甲とのエネルギーバイパス構築……完了。
「な……? ワンオフ・アビリティ……?」
展開装甲の隙間から赤い光に混じって金色の粒子が溢れ出している。
そして、そんなことよりも重要なことが起きていた。
機体のエネルギーが、急速に回復している……?
「まだ、戦えるのだな? ならば――」
一夏からもらったリボンで髪を縛り気合いを入れる。
「ならば、行くぞ! 紅椿!」
今までの機動を遙かに超える速度で紅椿は飛び出した。
◇
「だぁぁぁあ! ……くそっ!」
片方の翼を斬るももう片方が斬れない。
そうこうしている間にまた翼が生えて強力無比な連続射撃を行ってくる。
エネルギーはあと三分も持たない。
あと何度、翼を斬り裂けばいいのか……軍用機のエネルギー総量が分からない以上、ただひたすらに斬り続けるしかない。
でも、俺はそろそろエネルギー切れを起こす。焦りが思考を占めていく。
「一夏っ!」
「箒!? お前、ダメージは、」
「問題ない! とにかくこれを!」
紅椿が白式に触れる。
その瞬間、全身に電流と衝撃、熱が走り視界を大きく揺らした。
もし雷が自分に落ちたら、という想像ができるようになったかもしれない。
「真面目にやらんか!」
「お、おう! ってエネルギーが回復してる……?」
「それは後回しだ! さっさと倒すぞ!」
「おう!」
最大出力の零落白夜を振るう。
福音はそれを難なく回避するが――それこそが狙いだ。
「お前の相手は、俺だけじゃないだろ?」
紅椿が俺に向けられた翼を断ち切る。そしてさらに回転、急加速の勢いをつけた蹴りをお見舞いした。
姿勢を崩した福音を、俺の零落白夜で斬りつけ残る光翼をかき消した。
「これで……」
最後の一突きを繰り出そうとする俺と、新たな翼を生み出し一斉射撃を行う福音。
ここまで来たら、引くわけがない!
「終わりだぁぁ!」
エネルギー刃特有の手応えを感じる。
これで終わった……
「一夏ぁっ!」
油断した俺の喉笛を突き破ろうと福音が指先を伸ばしてきた。
「しまっ……!」
シュィィン……
しかし、指先は俺の喉に届くことなく、一条の光によって弾かれた。
『詰めが、甘いですわよ?』
オープン・チャネルを通して聞こえてくるセシリアの声。
コアネットワークの情報を元に見回してみれば、背中を下にして海に浮かびながらレーザーライフルを構えたセシリアがいた。
「サンキュ」
『ま、詰めが甘いのはアンタもよ。まったく、この人、このまま落ちてたら死んでたわ』
今度は鈴の声。
なんのことかと思えば鈴は見知らぬ人、恐らくは福音の操縦者を右肩に抱えていた。
左腕にはシャルロットを掴んでいる。
鈴、逞しいな……
「鈴ちゃん、シャルは私が連れて行きますよ」
「アリサ、ラウラに担がれてるくせになに言ってるのよ」
「だからー、私がおんぶするんですよ。で、その私をラウラさんが」
「……アリサ。私の負担を大きくしないでくれ」
「はーい……ちぇー」
あそこらへんは仲いいよなぁ。
とりあえず、花月荘に戻るとするか。
「あ、そうそう。千冬姉が命令違反だって怒ってたぜ」
「「「「「げ……」」」」」
女の子が揃ってなんていう声を……
「まぁ、俺は命令されたようなものだけどな」
つまり俺は怒られない!
皆、すまん。
「一夏の裏切り者!」
「皆、一夏のために戦っていたのにな」
「恩を仇で返すか」
「まぁ、織斑君ですし」
「それに、命令違反も事実ですわ」