Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「深紅の椿」


50.La fleur d'un camélia cramoisi

「すいません! 遅れました!」

「不破……二十分の遅刻とは大した重役ぶりだな」

 

 いやはや……申し訳ないです。

 やっぱり、鈴ちゃんがいないと朝はダメですね。一松さんたちもギリギリまで頑張ってくれたらしいですが……私を起こすにはコツが必要なんですよ!

 ご迷惑をおかけしました。

 

「まぁ、ちょうどいい。ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」

「えっと、相互情報交換のためのデータ通信ネットワークのことですよね。宇宙空間での位置情報確認のために開発されたとか」

「五十点。学年トップも寝起きはポンコツか?」

 

 んむぅ……何か不足があったでしょうか……?

 コア・ネットワークを介してのハッキング、クラッキングは現在フランスが研究しているところなので口外できませんし……

 でも、半分しか答えられていないということは結構重要なことを忘れているってことですよね。

 確かに何かがあったような気もするのですが……

 

「残りはラウラ、お前が答えてやれ」

「は、はいっ。『非限定情報共有(シェアリング)』をコア同士が各自に行うことで、様々な情報を自己進化の糧として吸収しているということが近年の研究でわかりました。これらは制作者の篠ノ之博士が自己発達の一環として無制限展開を許可したため、現在も進化の途中であり、全容は掴めていないとのことです」

「よし。不破、分かったか?」

「あ、はい……」

 

 でも『非限定情報共有(シェアリング)』による進化の内容って未だに明らかになっていないわけですからコア・ネットワークの特徴というのも……まぁ、言い訳ですけどね!

 

「それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

 今日はISの各装備の試験運用で一日を使うんでしたっけ?

 とはいっても試験するものがあまりないんですよね……新兵装なんてありませんし。

 あ、でも、そろそろ重火器の点検をした方がいいですね。さすがに数ヶ月使っていないので……

 まずは六十口径スナイパーライフル。

 ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡにも組み込まれるはずだったのですが、二キロメートル先を狙撃できるものなんて必要ないだろうということで廃棄されたのを私用にチューニングしたものです。

 ハイパーセンサーを補助するための追加センサーが装着されていたのですが、ハイパーセンサーとの感覚系リンクを重点的に進化させたカゲロウには必要ないので解除し、その分射程を三キロメートルにまで伸ばしたりとか。

 

「ですが、困りましたね……」

 

 ISの装備試験ということは機密が多分にあります。

 なので少なくともIS関係者以外には見られていけないという制限があり、そのため私達は四方を岩壁で囲まれている場所にいます。

 進入ルートは一度海に潜ってくるか、もしくは空からくるかだけです。

 つまり、問題はスナイパーライフルをテストするには狭すぎるということで……

 

 ずずーん!

 

「わっ!?」

 

 何の前触れもなく地鳴りがしました。気になって周囲を伺うと……

 

「金属製の箱……?」

 

 それも巨大な、です。

 数秒前にはなかったそれと、この場所の特徴、そして先ほどの音からして墜落してきたのでしょう……空から。

 ……誰も潰されてませんよね?

 そして、その箱の一面がばたんと倒れて……あぁ!

 あれが、そうなんですね。

 

「ということは……」

「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』! 全スペックが現行ISを上回る……あ、ごめん、嘘ついた。ハイパーセンサーと燃費以外は上回る束さんお手製ISだよ!」

 

 やはりいました。

 束さんの紹介に合わせるように真紅の機体が動作アームによって外へ出てきました。

 ハイパーセンサーと燃費以外というのが気になりますけど、それ以外が現行ISを超えるって最高性能機ってことですよね?

 まぁ、束さんお手製なので当たり前ですけどね。

 

「でも、どうしてハイパーセンサーと燃費以外なんですか?」

「ややっ! あーちゃん奇遇だね!」

「奇遇とは言い難いですよね」

「それで紅椿だけど、もちろんカゲロウがアホみたいにハイパーセンサーと燃費だけを進化させてるからだよ? どんな戦い方をしたらあんな風になるんだろうね?」

 

 あぁ……連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)もどきでの常時高速戦闘しか心当たりがないです……

 まさか、そんなことになっていたなんて知りませんでした。

 いえ、おかしいと思ってはいたんですよ? 

 皆さん瞬時加速(イグニッション・ブースト)を乱用する私や織斑君に非効率的な戦い方とか言ってきますしね。

 

「……あ、つまり私のカゲロウのセンサーと燃費効率はISの中でもってトップクラスってことですね」

「というか最高性能だね。ほら、ハイパーセンサーはコア準拠だから世代差はないんだよ。だからカゲロウみたいな方法か、もしくは非限定情報共有(シェアリング)で進化させない限り、性能はフラットなんだ」

 

 なるほど……コアを直接いじらないといけないので束さん的にはしないということですか。

 まぁ、コアより機体をいじる方が楽ですし、いじったところでハイパーセンサーにしか影響がないなら時間対効果があまりにも釣り合わないですしね。

 ただ、便利なんですけどねぇ。

 

「じゃあ、箒ちゃん! フィッティングとパーソナライズをはじめようか! 私が補佐するからすぐ終わるよん♪」

「それでは頼みます。姉さん」

「堅いよ~。実の姉妹なんだし、こう、もっとキャッチーな呼び方でいいんだよー」

「でっ、では……お、お姉、ちゃん? いや! やっぱり今のはなしで! やり直させてください!」

 

 おお、さすが隠れお姉ちゃんっ子ですね。

 弟の天羽を思い出します。小さい頃とてとてとした歩みで私の後ろを付いてきては姉たまーと呼んでくれた私の天使です!

 ああ……夏休み、会いに行きたいですねー。

 束さんは意外な呼ばれ方にぽかんとした後、満面の笑みを作りました。

 

「…………うんっ! はじめようか!」

 

 束さんも嬉しそうでなによりです。

 

「おい、不破」

「ん、どうかしましたか。織斑先生?」

「あの二人に何かしたのか?」

「えと……なんで私に聞くんですか?」

「あいつが私達以外と親しそうに離すところなんて初めて見たからな。あーちゃん?」

 

 あぁ、織斑先生も束さんとは仲良しなんですよね。

 それなら気付いて当然ですか。

 

「まぁ、不器用な姉妹の間で絡まっていたものを解いただけですよ。そしたら束さんに感謝されてしまって」

「なるほどな……あの二人に関して言えば私も一夏も気を揉んでいたからな。感謝する」

「いえいえ。情けは人の為ならず、ですよ。ちーちゃん?」

「……その名前で呼ぶな」

「いたた。痛い! 痛いですよ織斑先生!」

 

 何の前触れもなくアイアンクローとか、頭が歪んだらどうするんですか!

 いいじゃないですか、ちーちゃん。可愛らしくて……ってなんでもないので力を込めないで!

 

「ふん。最近お前は敬意が足りん。次、また同じことを言わせたら……わかっているな? 肝に銘じておけ」

 

 はーい……

 と、紅椿の調整も終わったようですね。

 紅椿の装備で目に付くのは左右の腰に装備された日本刀型の装備。

 それ以外は一見すると何も装備していないように見えますが、なにやら展開装甲という武器にもなる装甲をつかっているとか。

 武器にもなる装甲ってなんでしょうか。ナックルダスターとかしか思い浮かびません。

 

「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの……? 身内ってだけで」

「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」

 

 む、何か勘違いしている人が……不公平感を覚えるのは仕方ないとも思いますが、一組の人ですし、篠ノ之さんと仲違いされてクラスの空気が悪くなると代表の私が怒られるので、どうにかしましょう。

 ……と、思ったのですが束さんに先を越されてしまいました。

 

「おやおや、歴史の勉強をしたことがないのかな? 有史以来、世界が平等であったことなんて一度もないよ」

「「…………」」

「そうですね。太平天国も潰されましたし。あ、束さんは戻ってていいですよ」

「じゃあ、あーちゃんにお任せっ!」

 

 いきなりIS界でのVIPに話し掛けられて、二人は止まってしまいました。

 束さんがいると話か進まなさそうなので帰ってもらいます。

 言い逃げみたいな形になりましたが、このままいられると余計にこじれそうなので仕方ありません。

 別に、代表の仕事を取られたくなかったとかは思ってません。

 そもそも束さんは紅椿のパーソナライズが終わってないでしょう。

 

「だっ、代表!?」

「で、でも、私達だって頑張ってるのに。それに、篠ノ之さんは私達と同じであんまりISの適性も……」

 

 篠ノ之さんはC判定でしたっけ? まぁ、確かに普通なら専用機は勿体ないですよね。

 

「でも、私もパパ……父がISの研究を手伝う条件として専用機をもらいましたよ?」

「でも、代表は適性だって……」

「いえ、適性試験を受ける前に貰うことは約束していました。あんまり篠ノ之さんを悪く言われると、私の立つ瀬もなくなってしまうので……」

「あ、ごめん。別に篠ノ之さんが悪いとかじゃなくて……」

「それに、専用機持ちって面倒ですよ? 整備にもいちいち立ち会わないといけませんし、性能テストだって言われていきなり装備を大量に送られますし」

 

 二週間ほど前、五十ほどの装備データがテロ気味に送られてきたときはげんなりしましたよ。

 しかも、しっかりテストした結果、使い物になるのは一握り。ヤになっちゃいます。

 

「そ、そっか」

「お、お疲れ様……」

「ありがとうございます。それでは織斑先生に叱られる前に戻った方がいいですよ?」

 

 ……こんな感じですかね。

 まぁ、その分専用機持ちにはお給金が出るのですが……そのへん、篠ノ之さんの場合はどうなんでしょうかね?

 束さんが自発的に作ったものなので、企業どころか国にすら所属していないはずです。

 きっとしばらくの間は様々な国・企業からちょっかいを出されるでしょうね。

 やっとこさ第三世代型ISが試験運用出来る程度の技術力なのに、その一世代先をいく第四世代型ですから。

 もし紅椿を手中に収めれば各国への抑止力、そして発言力を増すだけでなく、解体(バラ)せば他国の追随を許さない束さんの技術をそのまま手に入れることも出来ます。

 そしてパイロットとして篠ノ之さんを迎えることで束さんとの繋がりを得ることも出来るかもしれませんし。

 一石二鳥どころか五羽も六羽も手に入れられそうです。

 

「いっくんいっくーん! 今度はいっくんの白式見せてー!」

「え、あ。はい」

 

 白式も第四世代型ISだったんですよね。

 でもあれは万能であるがゆえの全局面で運用可能というよりは、刀一本という格闘一択だからこそな気もします。近距離で銃器を使うことは難しいですが、逆に刀なら距離を詰めるだけでいいとも言えますからね。距離を取るよりは距離を詰める方が楽なんですし。

 あ、束さんが織斑先生に二回ほど叩かれました。またいらないことでも言ったのでしょうか?

 それにしても織斑先生は怖いもの知らずですよね。

 いくらモンド・グロッソ初代優勝者でISパイロットの中でも特に優秀な部類に入る人だとはいえ、唯一ISコアを作ることが出来る束さんの頭をポンポン叩けるなんて……束さんがパァになったら世界中から非難轟々ですよ。

 って、セシぃが照れ照れと二人の方に……嫌な予感がしますよ?

 

「あ、あのっ! 篠ノ乃博士の御高名はかねがね承っておりますっ!もしよろしければ私のむぐぅ!?」

「た、束さーん、何でもないですよー? それではー」

「……い、いきなり何なさいますの!?」

「いやー……」

 

 ……危なかったです!

 全く、セシぃは何を考えてるんですか!

 束さんは驚く程、他人嫌いなんですから余り不用意に近付いちゃだめです。後悔するのはセシぃなんですよ!

 それでも近付きたいというなら私のように篠ノ乃さんをダシにしてですね……例えば、篠ノ乃さんに何かを指しれたり、そういうことをして地道に好感度をですね……

 

「な、なるほど。そういうことでしたら、」

「あーちゃーん!」

「ふへ!? ちょ、束さん、苦し……いきなりなんですか?」

「カゲロウ見せてよ!」

 

 ……この人は、もう少し空気を読むということをですね。

 せっかく私がセシぃを止めたのに、その束さんが私に親しげな雰囲気で近付いてきちゃったら、私が束さんを自分以外が利用しないように人を近づけないようにしてるみたいに見えるじゃないですか。

 現にセシぃがショックを受けたような顔を……

 

「そうですの……アリサさんはもうわたくしを友人ではなく競争関係にある国のパイロットという風にしか見てくれていなかったのですわね……それでしたら、自らの有利な点を失うわけにはいきませんものね……失礼しますわ……」

「ち-がーいーまーすー! 束さん! 後でこの子のも見てあげてくれませんかっ!?」

「えーその子? 金髪は見分けが付かないからなぁ」

 

 ……ああ、どこかで聞いた外人嫌いは本当のことだったんですね。

 でも、私もどちらかといえば外人顔な気がするんですけど、金髪じゃなければいいんでしょうか……?

 私もそこそこ日本人離れした顔をしてるとは思っているんですけどね。

 

「んー。あーちゃんはほら、髪の毛が特徴的だから!」

「じゃあ、私が尼さんになったら分からなくなっちゃいますね」

「なるの?」

「なりませんけど」

 

 つまり、束さん的には見分けがつけばいいみたいな感じでしょうか?

 それだったらセシぃの髪型をビックリするくらい奇抜にしてみればいいのかもしれません。それこそ四十七つ結びとか八編みとか……ないですね。

 

「失礼いたしました、篠ノ乃博士。私の名前はセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生で箒さんとは友人関係を築かせていただいています」

「ねぇ、あーちゃん。この金髪、図々しい上にしつこいんだけど? これだから金髪は嫌だよ。適当だし、命令してくるし」

 

 束さんが、雨降ってきたよ、これだから梅雨時は嫌だねぇ、と言うのと同じような軽さでセシぃを拒絶しました。

 いえ……ここで私に話を振られても困るんですけど……私も分類上は金髪ですし……

 

「あ、あの……」

「なに、まだいたの? 早くどこかに行ってくれないかな。私はあーちゃんのカゲロウを早く見たいんだよ」

 

 束さんって知らない人にはこんな感じなんですね。

 初めて束さんと電話で話したときはあれでも機嫌がよかったのかもしれません。

 うーん。

 やっぱりセシぃをしっかり止めておくべきでしたか……私の友達で篠ノ乃さんの友達でもあれば少しは気を許してくれるんじゃないかと思ったんですけど……

 

「……でも、あーちゃんが気まずそうだから少しだけ調節してあげないこともない」

 

 拗ねたように口を尖らせてもごもご喋る束さん。

 私は、ありがとうございます束さん! と抱きつきたくなるのをグッと堪えなければいけませんでした。

 なんだ、ちゃんと空気を読める人じゃないですか。

 セシぃも感涙しそうな勢いです。

 でも、手を握ったら怒られるかもしれないのでどうしましょう、とか思っている気がしますね。

 

「ぜ、是非お願いします! ……アリサさんにも感謝いたしますわ」

「いえ、私は特に何も……」

「アリサさんがいなければこの結果はありませんでしたわ」

 

 まぁ……セシぃがそう思ってくれているなら私がわざわざ否定することもないですけど……

 

「でも先に、箒ちゃんのを最後まで終わらせて、あーちゃんのを軽くいじってからね」

「私のは別に……」

「私がいじりたいんだよ! だって、ある意味では唯一の次世代コアなんだし!」

「次世代……ああ」

 

 昨日の夕食の時に話していたアレですか。コアの自己進化を装甲にも影響が出るようにするとか何とかっていう……

 私がカゲロウを展開すると、束さんはコンソールを開いて指を滑らせます。さらに数枚の空中投影式ディスプレイとキーボードを呼び出して、そちらもカタカタとキーを叩いていきます。もちろん空中投影なのでカタカタという音はイメージです。

 

「お?」

 

 十数秒、休むことなく打鍵を続けていた束さんの目がいきなり止まりました。

 

「あーちゃーん。装備をいじれば量子化領域を節約できるけどやっちゃっていーい?」

「え? えぇ、できるならお願いします」

 

 ……おかしいですね。

 装備の最適化は何度も確認していたはずですし、あれだけの大質量なので限界だと思っていたのですが……

 

「ん? あぁ、わっかりやすい例で言うと五桁の二進法数列パターンをアルファベットと記号に置き換える、っていう古典的な方法をもっともーっとすごくしたような感じにするんだよ。読み取るためのプログラムも書き換えちゃうね。あと、新しい装備はじゃんじゃん入れちゃってもいいよー。勝手に暗号化するように設定しておくからさ!」

 

 えーと、パソコンの用語で暗号化とか複合化とか聞いたことがありますけどそれと同じことでしょうか?

 ……それとも、量を減らしているわけですから圧縮ってやつですか?

 パソコン関係は使い方は解るけど用語はよく解らないみたいな感じなので……

 インターネットを使えればいいと思います。

 でも数学的に考えるなら二進法で示される00000から11111の三十二通りのパターンを違う一文字に置き換えてしまうということですかね?

 そうなると、今まで使っていた容量の八割程度が空きになるということでしょうか?

 まぁ、私は考える方は専門じゃないので放っておきましょう。

 

「よし、これで完了! 初めのうちは装備の呼び出しにラグが生まれるだろうけど、だんだんISが慣れるから平気だよ! そして同時に箒ちゃんの方も終わりっ!」

 

 平行して作業していたのでしょうか……私のように分割思考があるわけでもないのに……天才ってやっぱり違うんですね。

 まぁ、私も昨日から意識的に二つ目の思考を閉じてますけどね。朝から調子が出ないのもそのせいかもしれません。

 

「んじゃ、試験運転も兼ねて飛んでみてよ。きっと箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」

「わかりましたっ!?」

 

 一瞬にして紅椿が視界から消えました。カゲロウのハイパーセンサーで追いかけていなければ、それこそ先に光学迷彩を使われたかと思ってしまいましたよ。

 

「どうどう? 箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?

「ええ、まぁ……」

 

 束さんと篠ノ之さんのオープン・チャネルごしの会話が私にも聞こえてきました。

 ……篠ノ之さんもISを装備していたんですね。

 でも、まさか待機モードがあのウサミミだったりはしませんよね……?

 

「じゃあ次は刀いってみようか! 右のが雨月(あまづき)で左が空裂(からわれ)ね。特性データも送るよん」

 

 ぴ・ぽ・ぱ、なんて言いながら束さんが空中に指を走らせます。

 ところで口で言っている効果音が指に追いついてませんよ?

 

「よーし、じゃあ説明しちゃおうかな! 雨月は対単騎戦闘用で打突に合わせてエネルギー刃を放出、敵を蜂の巣にする兵気だよ! 射程は……だいたいアサルトライフルくらいかな。でも紅椿の機動力で間合いを詰めればいいから関係ないね」

 

 エネルギー刃て……遠近自在の装備ですか。刀は苦手なのですが興味はありますね。

 なにより剣って誰でも一度は憧れるものだと思いせん?

 束さんの説明に合わせて篠ノ之さんが突きを放つと、雨月の周りに赤い光の球体がいくつも浮かび上がり、それらが次々と弾丸のように飛んでいきました。

 おぉ……遠くの雲が穴だらけに。ワッフルが食べたくなりました。

 ……恐らく偏向作用は無さそうですね。直線での攻撃なら対処のしようもあります。

 突きというシンプルなアクションで発生するので出は速いですが直線上にいなければ問題なさそうですし。

 ただ、至近距離で突きを貰ってしまうとその時点でアウトかもしれませんね。

 

「次は空裂ねー。こっちは対集団用だよん。斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーをぶつけるんだよー。振った範囲に自動で展開するから超便利。そいじゃこれ撃ち落としてみてね、ほーいっと」

 

 言うや否や、束さんは十六連装ミサイルポッドを呼び出し、準備が整った瞬間、篠ノ之さんの状態も確認しないで一斉に発射しました。

 ……あれくらいの数量なら心配ないですね。

 

「はっ!」

 

 掛け声一閃。

 空裂を一回転するように振るとその軌跡から再び赤い光が今度は帯状に広がり、全てのミサイルを飲み込み爆散させました。

 うーん。

 使いやすそうではありますが……こちらのとれる対抗策としては中距離戦闘に持ち込んで隙を見て背後をとる感じでしょうか?

 どちらの剣戟も一発一発が重いダメージを伴っているので正直に近接格闘をするのは避けた方がよさそうです。

 ……ですが、

 

「危うい、ですね」

 

 束さんが昨日言っていたように、力に振り回されてしまうような気がします。

 その全ての原因が篠ノ之さんにあるわけではなくて、あそこまで過剰な戦闘力をいきなり手にしてしまうと万能感を錯覚してしまいますから……事実、篠ノ乃さんは薄笑いを浮かべていて、失礼ですがちょっと不気味です。

 きっと険しい表情をしている織斑先生も同じことを考えているのでしょう。

 そして、そんな織斑先生に山田先生があわてて駆け寄りました。

 もとから落ち着きのない人ではありますが、今回のそれは尋常ではありません。

 普段があわあわ、という感じでしたら今回はどっしぇー! という感じです。伝わらないですか?

 小型端末を織斑先生に見せ、その顔を渋面にしました。

 

「……現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!」

 

 ……始まりましたね。

 特殊任務行動、その言葉に女生徒たちがざわめきましたが、織斑先生が再び怒号を放っただけで皆さんはやるべきことを思い出したかのように動き始めました。

 というか先生怖いです。

 

「専用機持ちは全員集合しろ! 不破、織斑、、ボーデヴィッヒ、オルコット、デュノア、鳳! それと、篠ノ之もだ!」

 

 篠ノ之さんも気負い過ぎですし、専用機持ちの皆さんも紅椿の性能に少なからず動揺しています。

 本当に大丈夫だと思いますか……?

 ちらりと束さんを見ると、私の心配を知ってか知らずか、にこりと笑顔を返されました。


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