Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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ACX/Flash-back.7

「タサキ……さん?」

「はーい。神様命融のタサキですよー!」

 

 ……どうしましょう。

 テンションに付いていけません。

 というか、付いていかなければならないのでしょうか?。

 私としては是非お引き取りを願いたい気分なのですが……だって、いきなりラストサン隊が私を守るためだけの部隊だったなんて言われても……

 

「あのー、今回はですね。実は本当に申し訳ないと思ってまして。本来ならば初めての出張戦闘で殺人をさせることなんてないのですが、いかんせん人手が足りていなくて……」

「それで、何のようですか?」

「ドロップアウトも可能なことを伝えにきました。ペナルティーとしてこれまでの時間の半分しか返済時間としてカウントしませんけどね。どうします?」

 

 ……この世界から、逃げ出せると言うことですか?

 ですが、そうしてもいずれ同じことをしなければならなくなるわけで……つまり、ただの問題の先送りですよね。

 それでは、意味がないのではないでしょうか?

 また、次も同じことに悩んで動けなくなるのなら、無理をしてでも時間を消費してしまった方が……

 

「今の不破さんは無理をしているように見えますよ?」

「……あの、私、逃げたくないです」

「ですが、このまま行っても殺せないままでは、」

 

「なので、人殺しへの忌避感を一時的に消せませんか?」

 

「……可能ですけど、同じことではないですか?」

 

 確かに、殺したくないから逃げ出すというのも、殺すことになにも感じないようにすると言うのも逃避です。

 逃避ですが、

 

「私は、殺さなければいけない戦場に耐えかねて感情を封印してもらうのではなく、これ以上友軍を失わないために敵兵を殺すんです。そのためには、忌避感を一時的になくさないと、無理です」

 

 ハリスさんたちの任務を聞いて、知りました。

 もし、私が直接的に敵兵を殺さなくても、私を守るためにハリスさんとミシェルさんが死ぬのなら、それは私が殺したのと同じです。

 あるいは、死ぬのが見知らぬ人なら大して気にもしないのでしょうが、ハリスさんとミシェルさんを知ってしまいました。

 ミハエルさんが墜ちた時も辛くなりました。

 未だに、英雄もただの大量殺人犯だとは思いますが……ミハエルさんの死を無駄にせず、ハリスさんとミシェルさんを助けられるとしたら……

 きっと、この選択を後悔するでしょう。

 人の命を背負って生きていくなんて、どうすればいいのか分かりません。

 シャルの隣に立つことが出来なくなるでしょうし、泣いてしまうこともあるでしょう。

 

 でも、仲間を犠牲にして、自分だけ綺麗なまま帰っても……その方が笑えなくなる気がします。

 

「タサキさん、お願いします。この決心が鈍らない内に」

 

 この世界にやってきた瞬間から、何かを背負うことは決まっていたのです。

 それが敵兵の命か、仲間の命か……敵であることを言い訳にしたいとは思いませんが、せめて誰かに感謝されていると錯覚できないとやってられません。

 この選択をした時点で私は人殺しです。

 ただの人殺しにならないためには……誰より多く戦友を救って(命をうばって)、この戦争に勝利するしかありません。

 

「では、目を瞑ってください。すぐ終わります」

 

 この世界のことを誰にも話さなければ……私は捨てられたりしないはずです。

 

「終わりましたよ?」

「……ありがとうございました」

 

 私は今、何人の命を奪うことを決定されたんでしょうね。

 願わくば、その数が少ないことを……


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