Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「嬢ちゃん、話がある」
作戦終了後しばらくしてハリスさんが唐突に言いました。
いえ……内容の半分は想像できるので唐突とも言えないでしょう。
ミハエルさんの捜索は日暮れまで続けられ、その後の再捜索はないようです。ミハエルさんが墜ちてから既に二時間弱が経過しているので、見つかったとしても……
「なんで、やらなかった?」
「…………」
ミハエルさんが墜ちてからも、なお敵機の尾翼だけを破壊していた私に文句があるのでしょう。
ミハエルさんの墜落で私が変わることを期待していたのかもしれません。
「おい、なんとか、」
「……私、まだ十五歳なんですよ……? 数ヶ月前までは普通に学校に通っていて、好きな子のことを考えて落ち込んだりしていたんですよ? いきなり戦場に叩き出されて、殺せなんて……できるわけないじゃないですか!」
ISに乗っていても、人を殺せる格闘術を使えても、人を殺す覚悟なんてないんですよ……!
ISは兵器だから、乗るにはその覚悟が必要なことなんてずっと前から分かってます。
でも、理解したからといって覚悟ができるわけでもないでしょう……
このまま、流されて人を殺してしまったら……殺人犯となにも変わりません。
……なにより、私にはこの戦争で人を殺してまで勝ちたい理由がないんです。
「おい、学校いって、好きな子もいたんなら守りたい奴の一人や二人いるだろ? 嬢ちゃんが甘いことやってるとそいつらまで死んじまうかもしれないんだぞ? そうなったとき、自分を許せるか?」
「……この世界に、守りたい人はいません」
シャルもセシぃも鈴ちゃんも三人娘も先輩も、この世界には存在していないんですから……
ハリスさんは私の周りの人が死んだと思っているかもしれませんね。
「それでも何か、」
「私は! ……私は、知らない誰かのために人を殺せるほどの正義感を持っていません。死ぬなら勝手に死ねと、そう言えます」
それでも戦っているのは、そういう契約だからです。ここで逃げ出したら、向こうでの私の周囲に累が及ぶかもしれません。
タサキさんは優しそうな方ですが、他の神様が同じとは限らないんですから。
ある意味、人質を取られているようなものです。
「あー! やってらんねぇ! なんでこんなクソガキを命懸けて守らなきゃならねぇんだよ!」
「……は?」
「あんた以外の三人の任務はあんたの機体を撃墜させないことだけなんだよ! それが勝利への一番の近道だからってな!」
……つまり、ミハエルさんもそのために?
「むしろ嬢ちゃんがいなければこの戦争には勝てない。それなのに敵兵も殺したくない? 仲間は死んでもいいのかよ!?」
「……私が殺さない分には誰が死んだって同じことです」
私が殺したくないだけなんです。
「確かに、私のISは一機で戦況をひっくり返せるだけの力を持っています。私だけで、この戦争を終わらせることも不可能ではないでしょう」
「なら、」
「やれと言うんですか? 何百人もの人を殺せというんですか? そんなに多くの人の命を背負って、どうして生きていけると思いますか!」
この前のスパイとミハエルさんだけでも重くて潰れてしまいそうなのに……
これ以上は無理ですよ。壊れちゃいます……
「俺だって何十人と殺してきた! どの戦闘機乗りだってそうだ! 空に出た以上、殺したくないなんて甘えは通用しないんだよ!」
「でも私には殺さないで墜とす方法があります!」
「そうしたって、半分以上は死んじまってんだよ! 嬢ちゃんは既に何人も殺してる!」
「知ってます! でも、それは私のせいじゃない! 直接の原因は私じゃないんですから……」
自業自得です……
気にしていないわけではありませんが、実際に死んでいるところを目撃したわけでもないんですから私が気にすることではないと……そう言い聞かせています。
「……嬢ちゃんが百人殺せば、千人以上が助かる。それでも殺せないか?」
「……戦争中はいいです。でも戦争がなくなってしまったら、私の行いはただの大量殺人です。誰も心を開いてくれません」
「それは錯覚だ……人間はいちいちそんなことを気にしない。それに勝てば大量殺人犯じゃなくて英雄だ」
「そんな肩書きはいりませんっ!」
もう、話したくないっ!
ただでさえ、人に嫌われるような傷があるのに、その上、何百人と殺したなんて……誰が、対等に見てくれるんですか……?
怖がらない人なんて、いるわけがないです。
「私だって、助けられるなら助けたいですよ……!」
自分の部屋に飛び込んで、固いベッドに飛び込みます。
……私の行動で助けられる人がいるなら助けたいです。でも、私の未来と天秤に掛けると途端に選べなくなります。
自分の未来に影を落としてまで、この世界で戦う意味はありますか?
「うーん……やっぱり悩んでますね」
「えっ?」
私のものではない声が響きました。