Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
ん、皆はもう海に行ったのかな……?
だいぶ準備に時間がかかっちゃったから最後の方になっちゃったかも。
でも、日本の人って海だと何して遊ぶんだろうなぁ……
やっぱり泳ぐだけなのかな? あ、ビーチバレーとかすいか割りも定番なんだっけ?
フランスではあんまり海に行かなかったから実は結構楽しみにしてたんだよね……
花月荘がほぼ貸切状態だからかもしれないけど海水浴に来てる人もあんまりいないみたいだし、人目とか気にしないで遊べるね。
「やっぱり知らない人がいるとね……」
この水着、可愛いからって買ったけど背中が開いてるから、知らない人に見られるのは恥ずかしいし……アリサもセクシーって言ってたからなぁ。
水着単品ならアリサのも相当だと思うんだけど、アリサ自身は色っぽいというより可愛らしい感じだし。
ん……なんだか最近アリサのことばっかり考えてる気がする……水着を買ったときからは特に、かな。
どうしてだろう?
アリサが僕に対してよそよそしくなったからかな……?
アリサから話しかけてくることが減ったし、たまに僕のことを寂しそうに見てたりする。そういうときは決まって一夏と僕が一緒にいるときなんだけど……
特に一夏といるときは絶対に近付いてこないし……ほんと、どうしてなんだろ?
「最近あんまり話せてないから臨海学校の間に取り戻したいな」
まだまだアリサのことも知りたいしね。
何が好きとか何が嫌いとか、そんな小さなことでもいいから沢山話したい。
アリサはまだ僕に対して遠慮してる気がするから、そうやって少しずつ仲良くなれたら嬉しいな。
せっかく同じフランスから来てるんだし、将来的には他の国の代表候補生と違って一緒にいられる時間も多いんだから良い関係を築けたらなぁ、って思ってる。
誤解から始まっちゃったけどまだまだやり直せるって信じてる。
「うん、善は急げだよね!」
とりあえずどこにいるんだろう?
見当たらないし、誰かに聞いてみようかな……あ、箒見つけた。
「ねえ箒、アリサ見な、」
「箒ちゃーん! ぎゅ~!」
「あ、姉上……目立っているので……」
……回れ右、だね。
誰かは分からないけど私の友達にウサミミさんの妹はいなかったはずだよね。
うん、いなかった。
でも、あれがISを開発した篠ノ之束博士か……やっぱり研究者の人って変な人が多いのかな?
デュノア社でもやっぱりああいう人はいたし……
あれかなぁ、酒でもねぇとやってらんねぇ! ってのと同じ感じだったりして?
「リン……は一夏にアタックしてるし、セシリアはサンオイル塗ってもらってるし、ラウラは大胆な水着を着ながら恥ずかしがってるし……」
あれ?
他のアリサの友達のグループも見てみるけどどこにもいない。
さすがに小さいから見逃した、なんてことはないと思うし……アリサの髪の毛はラウラと同じくらい目立つからね。
となると、一人でいるんだ。
というかISのコアネットワーク使って見つければいいんだね。なんだもっと早くに気付かなかったのかな。
「って……ん? 海の方?」
あれ、この前泳げないって言ってたような……?
座標の高さがマイナスってことは海の中……しかも沈んでる?
とにかく大丈夫なのか確認した方がいいよね。
普通に泳ぎの練習してるだけかもしれないけど万が一ってこともあるもんね?
練習してるならちょっと教えてあげよっと。アリサは運動神経いいからきっとすぐ泳げるようになると思うな。
「えっと、この桟橋の先の方か……痛!」
「っと嬢ちゃん悪いな!」
……もう、ちゃんと前向いて欲しいよね。
というか、桟橋から走ってきたけどよく転ばないなぁ。
でもアリサももっと浅瀬の方で練習すればいいのに……泳げないところを人に見られるのが恥ずかしかったのかな?
泳げないのもそれはそれで可愛いと思うけど……
「アリサー? ……おかしいなぁ。この辺りにいるはずなんだけど」
コアネットワークでの位置確認もさっきからアリサ側からの許可がなくて正確な位置が分からないし。
海は普通に波が寄せては返して……あれ? 沖の方に何か……
「ピンク色……ってアリサ!」
流されてる……!?
身動きしてるようにも見えないし……まさか本当に溺れてる!?
ラファールを展開して海に飛び込む。
普通に泳ぐ分にはいいんだけど、溺れてるかもしれないアリサを助けるなら呼吸ができる状態で行った方がいい!
ISはもともと宇宙で活動するために開発されたものだから呼吸の問題もとっくに解決してる。アリサもカゲロウを展開すれば溺れなかったのに!
「アリサ!?」
反応は……ない。
やっぱり溺れてる!
気絶してる分、重いアリサを引き上げる。えと、完全に意識が無さそうだし……とりあえず織斑先生に連絡をとらないと!
織斑先生のプライベート・チャネルには繋げられないから……えっと、暇そうだったラウラでいいや!
「ラウラ! 織斑先生にアリサが溺れて失神してるって伝えて!」
『シャルロット!? アリサが溺れたとはどういうことだ?』
「そんなの後で! とにかく早く! 場所は桟橋の先だから!」
『わ、分かった』
これでよし。
とにかく急いで引き上げてあげないと……!
波のせいでうまく進めないけどISで加速したらアリサに負担がかかるし……ああもう! 宇宙活動のためのISならこういう時のための機能も付いてるべきでしょ!
「アリサ、もうちょっとだからね」
◇
「教官!」
「ボーデヴィッヒ、ここでは教師だと、」
「シャルロットが溺れたアリサが助けてって教官を呼んでと!」
すぱぁん!
……ボーデヴィッヒが慌てるほどのことだというのは分かったが、いかんせん情報自体が纏まっていない。
落ち着かせるために軽く頭を叩いた。
いや、人間パニクっているときには何かしらの衝撃を加えると精神的にリセットされるのは経験的に知っている。
「あう……」
「誰かしら溺れたのは分かった。落ち着いて説明しろ」
「えっと、アリサが桟橋の方で溺れたらしく、シャルロットが連れてくるのでそれを教官……織斑先生に伝えてほしいと」
不破が溺れた……だが何故私が呼ばれる?
普通に溺れただけならデュノアが助けてお終いだろう。
だとすれば……
「不破は溺れて失神しているのか?」
「あ、はい!」
「まずいな……」
デュノアが見つけた時点で失神していたのなら下手したら数十分の間、不破は呼吸をしていない可能性がある。そうなると脳に障害が……いや下手をすると手遅れかもしれん。
こうなってくると私達が下手な知識で手を出すより専門家に任せた方がいいだろう。とにかく救急車の手配が先決か。
「ボーデヴィッヒ、デュノアを手伝いに行け。ISの展開も許可する」
「っは!」
◇
「アリサ……?」
どうしよう……アリサが息してない。
心臓は止まってないけど弱々しいし……どうすればいいの!?
えっと、フランスで人命救助の訓練も受けた筈だけど……確か気道確保、人工呼吸、心停止状態なら心臓マッサージだったはず。
でも僕は素人だしこのまま連れていって織斑先生に全部任せた方が……ダメだ、救急車をよぶにしても、桟橋から浜辺までアリサを運ぶのに時間がかかっちゃう。その数分でアリサに後遺症が残らないとも限らない。
それにラウラがまだ織斑先生を見つけられていなかったら?
アリサの命がかかってるんだから楽観しちゃいけない……やっぱり、ここで人工呼吸だけでもしながら誰かが来てくれるのを待つしかない。
気道が開くように顎を持ち上げて、吹き込んだ呼気が逃げないように鼻を塞ぐ。そして息を長くゆっくり吹き込むだけ。何も難しいことはない。
……蝋燭みたいに白いアリサの顔を見て怖くなる。
アリサ、まだ死んじゃダメだよ?
最後にもう一度だけ手順を確認して深呼吸。
大丈夫。
できる。
「アリサ……」
◇
「げほっ! ごほっ! えほっ!」
口の中がしょっぱいです!?
それになんだかやけに息苦しくて……
「アリサっ!? 気が付いたの!?」
「シャル……?」
そんな心配そうな顔してどうしたんですか?
それに水着が少し乱れてますよ……?
ほとんど貸切状態とはいえ織斑もいるんですし気をつけてください。
いくら恋人同士でも慎みはもたないとダメです。
「アリサ、大丈夫? 変なことない? 体、ちゃんと動く? えと、今日の日付は? あと、えっと、今日私達が泊まるホテルの名前は?」
「そ、そんなにいきなり言われても困っちゃいますよ。落ち着いてください」
シャルが血相変えて矢継ぎ早にまくし立ててきましたけど……何かあったのでしょうか?
「とりあえず、身体に変なところはないですよ? 日付は覚えてませんけど七月の第二火曜日です。ホテルは花月荘ですよね? それで、どうしたんですか?」
「どうしたって、アリサ溺れてたの覚えてないの!? もう、僕が見つけたときは呼吸もしてなくて死んじゃうかと思ったんだから……」
「あぁ、だから口の中が塩辛いんですね……」
……言われてみればすごく怖い思いをした気がします。動けなくて、息もできなくて……シャルが見つけてくれなければそれこそ本当に……
あれ?
「私、呼吸が止まってたって言いました?」
「うん……昔の訓練を頼りに人工呼吸したんだけど、本当に、よかった……」
「あ、シャル、泣かないでくださいよ……それと、ありがとうございます」
「ううん。見つけるのが遅くて……僕が走ってればもっと早くに……」
本当に、シャルが気にすることじゃないですよ。私が海に落ちてからも冷静でいられればカゲロウを展開するだけでよかった話なんです。
気を失う寸前にシャルから位置の問い合わせが来なければ……
それに、人工呼吸までしてくれて……
その、つい、シャルの唇に目がいっちゃいます。ある意味、私のファーストキスはシャルにあげられたんですね。
「アリサ?」
「ひゃい!?」
しかもシャルの方からだなんて……私が失神なんていう格好悪い状態でなければ最高のシチュエーションでした。
「もしかして気分悪い? 少し待ってればラウラが担架を持ってくれるみたいだから我慢してね?」
「あ、いえ、その……そうですね。休みます」
「うん、じゃあ頭持ち上げるね?」
「へ?」
目を瞑ると急に頭が持ち上げられて……
ふに……
ん、柔らかい……枕でしょうか。
薄く目を開けてみれば真上にちょっと心配そうなシャルの顔が……
膝枕!?
「しゃ、シャル!? あの、これは……」
「えっと、膝枕だよ? 前にセシリアがやってたのがちょっと羨ましくて……あ、もしかして苦しい? ごめんね、気が利かなくて!」
「あ、いえ! このままで! ……このままでお願いします」
「……うん」
シャルの太腿、柔らかくて眠っちゃいそうです……それに、頭も撫でてもらえて……はぅ~
「アリサ、眠っちゃって良いからゆっくり休んでて……ね?」
「ふぁい……」
心配かけたのにこんなこと思って良いのか分かりませんけど……幸せです。
◇
「アリサ? ……もう寝ちゃった」
寝付きが良いとかそういうことじゃなくて、やっぱり起きていられなかったんだろうな。
今のも眠ったというより緊張の糸が切れて気絶したみたいな様子だったし。
……僕に心配かけないように無理していつも通りに振る舞ってたのかな。
一度は呼吸も止まってたんだから身体に負担がかかってたのは当たり前か。
「シャルロット! 担架を持ってきたぞ! アリサの様子はどうだ!?」
「ラウラ、しぃっ! ……今、眠ったところだから」
「……眠ったということは一度は気が付いたんだな?」
「うん、一応、体に異常はないみたい」
……アリサのことだから隠してるかもしれないけど。
ずっと横になったままだから体の一部が動かないとかだったら分からない……
「とにかく早いところ運んでやろう。教官が救急車を呼んでくれたはずだ」
「救急車……」
アリサの臨海学校はもう終わりなのかな……?
せっかく可愛い水着まで買ったのに。
臨海学校を切欠に一気に仲良くなろうと思ったんだけど……到着してすぐにこんなことになっちゃうなんて。
でも、今はアリサが元気になってくれれば……
「シャルロット? 早くいこう。気が付いたとはいえ万全かは分からない」
「ん、そだね……」
担架が揺れないように気をつけて、なおかつ可能な限り早く移動する。
少しでも早く、アリサに楽になって欲しい。
◇
「一度、気が付いたということですが何か異常はありましたか?」
「意識が朦朧としてましたけど、話しているうちにハッキリしました。身体にも異常は無かったように思います。でも、違和感があったとしても隠してしまう子なので……」
「……分かりました。そのことを念頭において精密検査をします。何も問題がないようでしたら今日の、そうですね……七時か八時には戻ってくることも可能かと思います」
ふむ……ならばデュノアの言葉を信じる限りでは不破も臨海学校に参加できるということか。
まぁ、まだ安心はできないが……脳に障害さえ残らなければ大丈夫だろう。肺や気管に異常がでる可能性もあるにはあるが……ISの補助さえあれば生活に支障はないはずだ。
「それで、どなたかご同行されますか?」
「それなら僕が、」
「山田先生、頼めますか?」
「あ、はいっ!」
デュノアが残念そうな顔をしたが……万が一の可能性もある中で当事者を向かわせるのはよくないだろう。
こいつは自分を責めやすい傾向があるからな。
なにより山田先生ならいざという時の判断も信用できる。そしてなにより私達には子を預かる立場としての責任がある。デュノアには悪いがここは大人が行くべき場面だ。
「えと、デュノアさん、こまめに連絡をするのでそんな顔しないでください。不破さんも深刻になってほしくないと思いますよ?」
「そう、ですね……山田先生、よろしくお願いします」
「任せちゃってください」
……デュノアの方も一段落、か?
こういう点ではボーデヴィッヒの言うとおり私は教師には向いていないかもしれないな。
ただ、今は生徒たちへの説明が先だ。
今も不破を心配してか、それともただの野次馬かは分からないが少なくない生徒が集まってきている。
「まぁ、普段は不破が緩く纏めているんだ。たまには私が厳しく纏めてもいいだろう」
だからせいぜいゆっくり休んでくることだな。