Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「ラストサン隊、ただいま帰還した」
また、生き残れました。
何度かの空戦で分かったことがいくつか――一つはシールドエネルギーの減少が激しいこと、そしてもう一つはISのハイパーセンサーはあまり意味がないということです。
ミサイルの威力が高いのかシールドエネルギーに問題があるのかは分かりませんが、数回の被弾で撃墜されるでしょう。
ISの構造自体がミサイル程度で撃墜されることを考えていないため空中でシールドエネルギーが切れてしまうと揚力も得られなくなるので墜落。ミサイルの衝撃に絶対防御が発動したとしても超高度からの墜落をも耐えられるとは思えません。
それに、どの方向から戦闘機が何機くるかという情報も前もって伝えられるためハイパーセンサーを使って戦場を把握するという必要もあまりありません。
強いて言うなら全方位を見ることができるため、ドッグファイトが若干用意になる程度でしょうか。
つまり、この戦場においてのISの強みは機動性と兵装の豊富さ。
必ず生還するには心許ないです。
「じゃあ俺はひとっ風呂行ってくるかな。嬢ちゃん一緒するかい?」
「……セクハラです。私は、もう疲れちゃいました。部屋に戻りますよ」
「おーう。飯だけはしっかりなー」
ハリスさんが行ってしまうと私は一人です。ミハエルさんとミシェルさんは作戦室に呼び出されましたから。
……いつまで、この戦争は続くのでしょうか。
早く、セシぃや鈴ちゃんに会いたいです。
まだ来てから二十五日。七十二日間と記憶しているのでまだ一カ月以上はここにいなければならないんですね。
兵舎の皆さんは優しくしてくれますが、空を飛ぶ度に知っている顔が減ります。明日は我が身……この言葉を意識していない人はきっといないでしょう。
ガチャン
慣れない長時間の飛行に生死をやりとりするという極度の緊張。戦場帰りはいつも疲労困憊で……体力を落とさないために食事はしっかりとれと言われますけど寝てしまいたいのが正直なところです。
今のところ、作戦は順調に進んでいます。
それでも劣勢ではあるので、食事の質が上がるわけでもなく……材料の問題ではなく手間の問題なので当たり前ですけどね。
今更ながらどれだけIS学園の環境が恵まれていたのかが分かります。
柔らかいベッドに美味しい夕食、そしてお湯の出るシャワーに水洗トイレ。当たり前と思っていたことが身近にない生活は辛いです。
ニキビも肌荒れも、戦況を左右しないものは気にする気にもなりません。
肌の手入れをするくらいなら睡眠を。
軍属が長い女性兵の方たちの話では、こまめに汗を拭きさえすればニキビなんてそうそうできないらしいですし。薄化粧すらする余裕もないので当然かもしれませんね。
「レーションって美味しくないですよね……」
至急用の焼き菓子のようなそれはパサパサしていて味もないため、初めの内は食べるのも辛かったです。今では食べるという娯楽ではなく、栄養補給というただの行為だと思ってます。一応、食堂のような場所もありますが戦場帰りの時ばかりは食欲も湧きません。
最低限の食事も済ませたので汗だけ拭いたら身体の疲れを落とすためにゆっくり寝ましょう。
コンコン……
誰でしょう……?
わざわざ兵舎にまで来るなんて……重要な任務か報告ができたのでしょうか?
正直、明日にして欲しいですが立場的にわがままが言えるわけでもありませんし……最終兵器のパイロットなんて言われてますけど、戦場ではただの兵士です。
まだ、歴戦のパイロットたちを尊敬し大きな戦力だと考える人たちの方が多いです。
……私が甘いから、というのもあるのでしょうけど。
「えと、お疲れさまです……?」
扉の向こうに立っていた人は見知らぬ人でした。
もちろん兵舎で生活する人のほとんどが見知らぬ人ですけどね。皆さん、いつ会えなくなるか分からないのであまり仲良くしないらしいです。
「アリサ・フワだな?」
「ええ、そうですけど?」
どういうことでしょう?
私にとっては見知らぬ人だとしても、まだ子供の私自身は兵舎では目立つので私の顔を知らない人なんていないと思っていたんですけど……
「レサスの勝利のために死んでもらう……!」
どんっ!
「やはり間諜の方ですか……」
ナイフを突き出してきた腕を絡め取り、脚を刈って地面に転がしてそのまま腕を締め上げます。
銃ではなく刃物だったのは持ち運びの際の利便性と静かにことを済ませるためですか。
銃だったら危なかったかもしれませんね……
「離せ!」
「離しません。このまま捕らえます」
スパイなのだとしたら尚更逃がすわけにはいきません。大人しく捕虜になってもらうしか……
「ぐっ……!」
「え?」
急に、大人しく……?
逃げられないと悟って抵抗するのをやめたのかもしれませんね。
それでも誰かに来て頂かないとどうしようもないんですけど……
「アリサ! 無事か!?」
「あ、ハリスさん……襲われましたけどこの通りです。何か知っているかもしれないので捕虜に……」
「……その必要はないな」
物音を聞きつけたのか、それとも誰かが呼んだのか、髪も濡れたままのハリスさんが駆けつけてきたので現状を説明しようと思ったのですけど……
どういうことでしょう?
「舌を噛み切ってやがる」
「……えと、それって、あの……え?」
「もう、死んでる」
そんな……
そこまで命を懸けるべきことですか?
国の勝利は自分の命より大切なことですか?
「敵兵にも家族がいる。戦場に出てる奴らには戦う理由がある。それこそ人を殺してでも国に勝ってもらわないといけないくらいな」
「…………」
……この人にも家族がいたのでしょうか。
今でもこの人の無事を願っている人がいるのでしょうか。
私が、捕まえなければこの人は還れましたよね?
なら、私が殺してしまったのと同じことですか……?
「俺だって生きて国に帰りたいから躊躇しないで敵を墜とす。なにより一人でも多く殺せば、自分の家族が殺される可能性は減る」
「嬢ちゃんは、何のために戦ってるんだ?」