Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「夫婦喧嘩」

視点変更多め


40. Une querelle entre mari et femme

 織斑君の告白劇を目撃してしまってから数日。

 ……なにもやる気が起きません。

 シャルのフォローは続けなければならないのですが……やっぱり、私に下心があったんでしょうね……シャルの隣にいるのが織斑君だということを想像するだけで辛いです。

 ……心の中もシャルに幸せになってほしいという想いと二人に別れてほしいという思いが募ります。

 どちらか片方でも負担なのに……二つになってしまうと、もう潰されてしまいそうです……

 鈴ちゃんやラウラさん、篠ノ之さんにはまだ言わない方がいいですよね。

 きっと、シャルと織斑君も自分たちで報告したいでしょうし。

 

「明日、二人はデートですか……」

 

 ずっと、そのことだけが頭を占めています。

 このことも皆に話さないようにしないとですね。二人ともクラスメイトに騒がれたりしたくないでしょうし……

 

「はぁ、なんなんですか私は……結局、シャルと織斑君をどうしたいんですか? どうなってほしいんですか?」

 

 別れさせたい?

 幸せになってほしい?

 頭の中が、生ゴミみたいにぐちゃぐちゃで……わかんないですよ。

 

「んー……? ありさぁ?」

「あ、鈴ちゃん、おはようございます」

「ん、おはよう……今日も早起きじゃない」

 

 ……あんまり寝てませんからね。

 ここのところ、夜になると二人のことを考えてしまって……眠れないんです。

 学園で寝るわけにもいきませんから……今日で七十二時間目でしょうか? そろそろ、倒れるかもしれませんね。

 

「……はぁ、アリサ、寝てないんでしょ?」

「寝てます。大丈夫です」

「はぁ。あのね、自分の顔色見た? 土気色がどんな色か分かるわよ?」

「……寝てます」

「……いいけどね」

 

 はぁ……鈴ちゃんにも呆れられてしまってます。

 でも、鈴ちゃんに話せることでもないですし……もう少し、自分の中で考えたいですし。

 

「アリサ、朝ご飯行くわよ?」

「あ、はい」

 

 ……お腹も昨日から空かないです。

 それでも、なんとか胃にものは入れていますけどね。

 これでまた倒れてしまったら、またシャルと接触禁止なんて言われてしまいますし。

 今は……私もシャルから距離を置きたいですけどね。

 身嗜みは調えましたし、行きましょう。

 

「鈴ちゃん、行きましょう? ……あ」

「危ないっ……ほんとに大丈夫なの? フラフラしてるわよ?」

「ええ、平気です。行きましょう」

 

 立った途端、足から力が抜けて鈴ちゃんに倒れ込んでしまいました。

 ……失恋って、身体にも影響が出るんですね。鈴ちゃん達もこうなってしまうんでしょうか……?

 やっぱり、隠すべきですね。

 真摯ではないですけど、それでも皆と仲良くしていたいです。苦い思いをするのは私だけで十分……ただの問題の先送りですが、もう、どうすればいいのか分からないんです。

 私はいつも通りにしていればいいんです。

 きっと、時間がたてばなるようになるはずなので。

 

「今日の朝ご飯はなんでしょうかねー?」

「アリサ……」

「なんですか?」

「ううん。日替わりじゃなくて選択するんだから、そのセリフはおかしいわよ?」

「そ、そうでした」

 

 失敗しちゃいました。

 確かにIS学園は朝食から好きなものを頼めましたね。

 うーん。

 

「今日はなにを食べましょう……?」

 

 お味噌汁でお腹からほっこりしたい気分です。

 それに固形物はちょっと遠慮したいですし……

 豆腐のお味噌汁とお粥なら食べられそうです。

 ……病人ではないのに、私も情けないですね。

 

「皆は……いたいた」

 

 鈴ちゃんの視線を追うと確かに全員が揃っていました。

 今日は私達が一番最後だったみたいですね。

 

「ん……行きますか?」

「ん? 当たり前じゃない」

 

 なに言ってんのよ? という顔で私を見る鈴ちゃん……いえ、変なことを言うべきではないですね。

 いつも通り。

 いつも通りの私でいないといけません……よし!

 

「お、おはようございます」

「不破さん、顔色悪いけど平気か?」

「は、はい」

 

 当たり前のようにシャルのとなりに座っている織斑君が私の顔色を指摘しました……そんなに酷い顔なんでしょうか……?

 織斑君の言葉を切欠に他の皆も私を見てきます。

 ……お願いですから、放っておいてください。あんまりつつかれると泣いてしまいそうです。

 

「アリサ、本当に辛くない? やっぱり傷がまだ痛むの?」

「シャル……平気ですよ。ちょっと、その、月のもので……」

 

 ちょっと恥ずかしいですけど、この理由ならこれ以上追求されないでしょう。

 逆に私の周期を知っている鈴ちゃんには疑われるでしょうが……既に私が何かを隠していることに気付いているので今更です。

 

「い、い、一夏! 口を開けろ!」

「ふ、他人の持つ箸が口の中に入れられるなど怖くて仕方ないな……一夏、私なら口移しで食べさせてやるぞ?」

 

 織斑君の正面に座った篠ノ之さんとシャルとは反対側の織斑君の隣に座ったラウラさんが張り合ってます。

 楽しそうですね……

 

「お、お前ら朝からそういうことはだな……!」

「ふむ、ならば朝でなければ構わないと」

「そういう問題じゃねぇ!」

 

 ……シャルに告白しておきながらあの態度。

 私の大事な人を奪ったくせに……どうして他の女の子といちゃつくんですか!

 シャルも、もう少しアピールしないとダメですよ……それとも、平気でいられるくらい織斑君を信じているんですか?

 

「箒、一夏を抑えろ! お前の時は私が協力してやる!」

「絶対だな?」

 

 篠ノ之さんが素早く織斑君の後ろに回り頭を固定し、鼻を塞ぎます。

 そんな、毒を無理矢理飲ませるみたいにしなくても……シャルは窓の外を見ています。見ないようにしてるんですか……?

 織斑君から告白したのになんで……!

 

「一夏、行くぞ? ん~」

「ちょ、ばか! こんなところで、」

 

 ダンッ!

 

「「「「「っ!?」」」」」

「…………ふぅ」

 

 イライラします。

 なんで、こんなのを見せられないといけないんですか?

 ……全然、シャルが幸せそうに見えません!

 これなら、まだ私の方が……

 シャル、なんで私に気付いてくれなかったんですか……?

 

「アリサ……?」

 

 隣に座っていた鈴ちゃんを皮切りに、全員が私に疑いの目を向けているのが分かります。

 ……それはそうでしょう。

 いつも通りの光景なのに、私だけが普段と違う反応をしたんですから。

 

「はぁ……ごめんなさい。しばらくの間、私は他のところで食べますね」

「え、ちょ、ちょっとアリサ!?」

 

 鈴ちゃんが呼び止めてくれましたが……もう、これ以上我慢できませんよ。

 せめてシャルが笑っていれば私も祝福できたんですよ?

 なのに、私にはそれさえも許されない。

 私は、いつまでこの苦しみを感じていなければいけないんですか?

 私の方が、シャルを想っているのに……

 

「私は、シャルのためなら人を……」

 

 この手で引き金を引いて人を撃ち抜いたことだって……

 

「っ!? 違う違う……あれは……あんなことは……」

 

 私は……私は今、なにを考えましたか?

 織斑君をどうにかしてしまいたいなんて、そんなこと……

 

「本当に、ないと言えるんでしょうか……?」

 

 もし、シャルが泣くような状況になったら私はどうする……?

 

「……織斑君も、友人ではあるんです。いっそのこと殺してしまえばいいなんて、そんなわけ、ありません……」

 

 ……感情が不安定すぎます。

 先月の二の舞にならないように、なにかしらの対策をとらないといけませんね。

 とりあえず、しばらくは極力、皆さんに近付かないようにしましょう。

 

 でも、

 

「シャル……あなたが笑ってくれれば、私は我慢しますよ?」

 

 だから、早く幸せになっちゃってくださいね……

 

 ◇

 

「アリサ、どうしたんだろうね?」

「なんか苛立ってたよな」

「一夏さん、その、女性は月のモノの周期が来ると……精神的に不安定になるのですわ……なので一夏さんはあまり気になさらない方が……」

「な、なるほどな」

 

 ……セシぃが一夏に説明してるけど……あんまりソイツにそういう話はしないで欲しいわ。妙な知識が付いたらどうするのよ。

 というか、そもそもアリサのアレの日は五日前に落ち着いたばっかりよ?

 遅くなることはあっても早くなることはないんだし……だいたい、セシリアはそのことを知ってるはずなのに……

 それに、あのアリサがこんなに分かりやすい嘘つくなんて……

 

「また、隠し事かしらね……」

 

 あの子が体調を崩すほど精神的に重圧を感じているとしたら……十中八九シャルロットのことよね。

 でも、シャルロットとなにかがあったような印象も受けないし……だいたいアリサが立った時、一夏がいちゃついていたくらいでシャルロットは普通にご飯食べてたし……あれ?

 ……まさか、一夏も関係してる?

 

「一夏、ちょっといい?」

「ん? ああ」

 

 箒とラウラが一瞬だけ睨んできたけど……多分、今は私の方が鋭い目をしてる自信があるわ。

 それこそ、せっかくの一夏との話し合いにロマンスを求めないくらい。

 

「鈴さん」

「ん、セシリア、あんたも来る?」

「遠慮しておきますわ。それより、よろしいのですか? 確か、“いつまでも一緒にいられるわけではない”のですわよね?」

 

 今の……確か私が初めてアリサと喧嘩してたときに言った言葉だ。

 最近、セシリアがアリサとの距離を離したように感じたけど、あのことで振る舞い方を変えたんだ……

 ただ、急すぎないかしら。

 アリサはシャルロットのことを気にしていて気づいていないみたいだけど……距離が開いてることに気付いたら、また焦ってなにか仕出かす。

 

「鈴さんも、少しアリサさんとの距離を考えた方がよろしいですわ」

「セシリア……あんたっ! この前と今じゃ状況が違うでしょ!? あの時は私が結果をコントロールできたから……!」

「ですから次はアリサさんだけの力で解決させるべきだと言っているのですわ!」

「まだ早いわよ!」

 

 だいたい、原因だって分かってないのに……

 アリサはせいぜい強がれるようになった程度で、まだまだ精神的には弱いんだから……!

 

「早くなどありません! 三年前、わたくしは孤独になりましたわ。ですが自分の身を守るために様々なことを学びました! アリサさんだったらそれが……!」

「不幸自慢なんか聞いてないわよ! それに、たまたま自分にあった強さをアリサに期待しないでよ! あの子がそんなに強くないって……あんたの方が知ってるはずじゃない……!」

 

 ……ルームメイトとは言ったって、まだ半年の付き合いもないんだから。

 ここのところアリサは何かを不安に思って夜も寝ないし、ご飯だって美味しそうに食べてくれない。

 今、私達が突き放したら、あの子、また傷ついちゃう……

 

「ふ、二人とも落ち着けよ。な?」

「一夏さんは口を挟まないでほしいですわ……鈴さん、私にはもう今のアリサさんのことは分かりませんわ」

 

 ……は?

 セシリアがアリサを理解してあげなかったら、あの子はどうなるのよ?

 あの子を支えてあげられる人がいないじゃない。

 

「アリサさんは、ここにきてから随分と表情豊かになりました。イギリスに来ていた頃は困ったように笑うか怯えるかだけで……」

「フランスでも、いつも何かに焦ってるような顔だったかな」

「学園にきた頃はずっとしかめっ面だったよな?」

 

 ……私の知らないアリサ像が皆の中にはある。

 私が転校してきたときはアリサも笑ってる日が多かった。

 もしかしたらルームメイトの私に気を遣ってたのかもしれないけど、それでも笑えてた。

 

「アリサは成長してるって言いたいの? だから、もっとせっついても平気って?」

「いえ……確かにアリサさんは成長しているのですが…ここのところ、彼女が危うく感じられるのですわ。昔からそんな感じはありましたが……最近ますますアリサさん自身のことを嫌っているように思えます」

 

 アリサが自分を?

 背中の傷のことを気にしてたけど、それでこれまで以上に自分を嫌いになるなんてことはないと思う。

 じゃあ、理由はなに?

 

「特に、アリサさんが原田さんと諍いを起こした後の謹慎期間の間に変わってしまっていましたわ」

「原田さん……だっけ? その子に怪我させたことを気にしてとか?」

「分かりませんわ」

 

 でも、分からないことだらけなのにセシリアは放っておいていいなんて言う。

 前は、私とアリサの問題だったから酷いことになる前に私が幕を引けた。でも、今回は理由自体が分からないからそうもいかない……

 

「わたくしはアリサさんを見捨てようといっているわけではありませんわ。ただ、今回はアリサさんを信用してみようかと……」

「アリサが自分で乗り越えられるって?」

「ええ」

 

 そういう考え方も……あるのかな。

 

 ◇

 

(おい、一夏! 二人の喧嘩を止めないか!)

(いやいやいやいや! さっき黙ってろって言われただろ!? 俺じゃもう無理だって!)

(ええい! それでも男か!?)

 

 はぁ……アリサ、火種だけ残してどこか行っちゃうなんて……

 でも、なにを怒ってたんだろう?

 僕との接触禁止がとけて学校に来るようになってから、どこかおかしいと思ってた……最初は生理なんだって納得したけど、セシリアたちの様子を見る限り違うみたい。

 というかこの二人、子供の教育方針で議論する親みたいだね……

 まだ、アリサと僕は付き合いが短いからアリサが怒った原因は分からない……

 でも、アリサが自分を嫌っている理由の方ならなんとなく分かるかも。

 ……あの夢で聞いた、火事の原因に気づき始めてるんじゃないかな。それで、自分はヒトゴロシだったんだって……

 ヒトゴロシといえば……

 

「ねぇ、皆ちょっと聞いて」

 

 ……なんだかギロリなんて音付きで睨まれた気がする。

 

「誰か、エイプリルフールにアリサに嘘ついた人いる? というか考えられるのはセシリアくらいだけど」

 

 なんとなく……アリサに友達がいなかったことは分かる。

 だから今までアリサと付き合いがあったセシリアしかエイプリルフールに嘘をつける人はいない。

 でも多分……

 

「何の話かは分かりませんが、わたくし、アリサさんを騙そうと思ったことなんて一度もありませんわ」

「そっか」

 

 だよね。

 だいたい、あの戦争の報告書みたいなもの、おかしかった。

 だって、あれじゃアリサを騙すというよりアリサの周囲の人を騙そうとしてる感じだし、もしそうならアリサ以外にあの文書を作る人はいないし、アリサがとっておく理由もない。

 そうなると実際の戦争ってことになるけど……あれだけの規模でISも動員されるほどの戦争、僕が知らないわけがない。

 なによりオーレリアやレサスなんて地名は知らない……

 でも、事実だとするなら……アリサは自分の手で人をコロしてるかもしれない。

 原田さんに怪我させたとき、それを意識しちゃって……とか?

 

「……考えすぎだよね」

 

 うん。

 だって、学園にいる間は戦争になんて行かないでいいんだし、それ以前なら尚更連れて行かれるわけがないよね。

 ……こんなに否定材料があるんだから、安心していいよね?


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