Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「凶器を振るう覚悟」


3. La résolution utiliser l'arme mortelle.

 ど、どどど、どうしよう!?

 な、なんで昨日あんなことしちゃったんですか私は!? 初対面の相手にキスだなんて……いや、デコチューだから挨拶みたいなものだよね! っていっても判断するのは私じゃないし……痴女とか思われたらどうしましょう。

 

「というかどんな顔して会えばいいんですか!」

 

 分割思考で脳内会議をしているけど結論は出そうにないです。両方ともパニックに陥っているんだから当たり前ですけど。

 そもそも、こんな風に悩むのはやっぱりヴァネッサさんのせいなんです。私とシャルロットの訓練場がすぐ近くなことを教えてくるから!

 公に出せない出自だからかもしれませんが、シャルロットは私がいつも出入りしているデュノア社の正門ではなく職員用の通用門を使っているみたいです。なので今まで一度も遭ったことはないですけど……可能性はゼロじゃないですからね。

 それに、私が恥ずかしいだけなのならいいんですけど、シャルロットは私を社長さんの娘だと思って叩いちゃってますから……余計に気にしそうですよね? しかも私のしたこと常識に照らし合わせてみるとやっぱり痴女ですし。というか両親に常識がないとか言えませんね。

 

「相手に見つかりたくないっていう前提を逆転させたらどうかな?」

「どういうこと?」

 

 親父(パパ)の言っていることがよく分からなかったので聞き返してみると、

 

「だから、その子にアリサがアリサだと分からせなければいいんだよ」

 

 例えば服装だったり、髪型だったり。

 親父(パパ)の言う通り、服は金輪際ゴスロリなんか着ないから平気として、髪は問題かも。この町で栗毛と金髪が混じって生えている、いわゆるゼブラブロンドは少ないし……

 

「染めればいいじゃない。栗毛だけを脱色すれば多分綺麗なストロベリーブロンドみたいに見えるわよ」

「あとは髪を切っちゃうとか」

 

 両親2人の意見を聞いていると平気に思えてきます。そもそもあの日以来シャルロットとは会っていないし、あの時も暗かったから顔を覚えられていないでしょうし。

 

「これは、今まで以上に周りに気を配らないといけなさそう」

 

 シャルロットと仲良くなるのも避けた方がいいでしょうし……ほんとは今すぐにでも会いたいんですけどIS学園までは我慢です。多分その頃には本邸の前で遭った人のことなんて忘れているでしょう。

 

「よし! 美容院行ってくる!」

「標的と行動圏が被らないようにしなさいよ。あと髪型はアップにして、ママの伊達メガネかけていきなさい」

「標的て……」

「あら、誰かに闇討ちするんじゃないの?」

「しないよ!」

 

 いくら不破圓明流が暗殺を生業にしてきたからって、すぐにそっちに思考を傾けないで欲しいです。今の世の中、常識以上に大事な物なんて数えるほどしかないんですから。

 

 

 ということで、新生アリサです。髪の毛は肩より少し短いくらいまで切って、色はなんちゃってストロベリーブロンド。この髪の色を見ているとバービィ人形を思い出しますね。服もパンツスタイルに変えて……うん、見事に別人です。少なくとも一昨日の痴女(ゴスロリ)と同一人物とは思えません。

 

「よし、じゃあ、デュノア社行ってくる」

「頑張ってね」

「僕たちはアリサの帰りを待っているから」

 

 親父(パパ)、あなたも出社するんですよ!

 

 

「あらドクター・フワと……アリサさん? またイメージ変えたんですね。似合っていますよ」

 

 うん、ヴァネッサさんのこの反応なら平気そうだ。なぜか私の髪の毛を手で梳いてうっとりしてるけど気にしません。というか立て続けにイメチェンしてて、方向性に迷ってるように思われないかな。

 

「じゃあ訓練に行ってくるから、パパはしっかり仕事するように」

 

 更衣室でいつも通りISスーツに着替えてアンクレットを装着する。今日は模擬戦闘での格闘訓練だっけ?

 訓練場に出てみると今日はまだ訓練相手が来ていません。最初は基礎訓練ってことかな。

 

「それではアリサさん、まずは展開をお願いします。目標はやっぱり1秒以内で」

「はーい。カゲロウ、来て」

 

 アンクレットを装備した足先から純白の金属塊が広がっていく。

 太もも、下腹部、背中に肩とアーマーの露出度がむしろISスーツより高いことに若干の不安を覚えつつ自身をアーマーで覆っていく。二本の尻尾みたいなスラスターを現出させて展開は終わり。

 ちなみに私の展開の仕方には完全展開と簡易展開の2通りがあって今は訓練なので完全展開です。

 簡易展開っていっても二重構造で衝撃を和らげる構造になっているカゲロウの内側部分だけを展開しているだけなんですけどね。そうするとゴツいパーツが無くなって少しおしゃれになります。

 足元はニーハイブーツにソックス、腰はフレアスカートで胴体はチューブトップ、そして手袋。もちろん全部金属ですが光沢を消しているので、遠くから見れば露出度が高い服にしか見えないんじゃないでしょうか? まぁ防御力は格段に落ちるので高機動のみを求める時くらいにしか使えないですけどね。ちなみにその時のフレアスカートは前面がスリット……というか完全に無いのですが、ぱんつじゃないから恥ずかしくないんです。

 

「……あ、オペさん。ケーキ持ってきましたよ」

「わー! ほんとですか!? ……なんて誤魔化されませんよ? タイムが一昨日よりコンマ2秒遅くなってるじゃないですか!」

 

 うーん、やっぱり気付きますか。いつもより遅いなー、と思ったんですよ。

 

「悩み事は早いところ解決しちゃって下さいね。それでは5秒毎に各兵装を展開して下さい。その後は複数の兵装を同時展開です」

「早いところ解決できたら悩みませんよ……」

 

 カゲロウの兵装は趣味でピーキーきわまりない物ばかり。例えば基本のパイルバンカーから始まって、短射程低初速だけど高威力の榴弾砲。さらに発射に莫大なエネルギーを必要とするガウスガン。後付装備(イコライザ)にはラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡに付けられる予定の兵装が試験目的でいくつか。シャルロットはよくこれだけの量の兵装を使い分けられますね。

 

後付装備(イコライザ)の兵装はやはり展開が遅れますね。まぁアリサさん用じゃないんで仕方ないかな」

「というか、試験運用は本人にやってもらわないと意味ないんじゃ……」

「……いえ? どちらかといえば兵装の試験運用目的ではなくてオンブル・ループに経験を蓄積させるのが目的ですから? せっかくの自立進化機能を利用しない手はないですし?」

 

 確かにいろいろな兵装を使っておけばその分だけカゲロウは進化していくけど……最近、多数の兵装を使った方が進化が速いってことも分かったし。でも、目、泳いでませんか?

 というかカゲロウの扱い酷いですよね!? そもそもコア自体が既に何千時間って利用されているものの使い回しらしいじゃないですか! 新品を用意するのは難しいでしょうがこんな、最古品を使わなくても……

 

「……では白狼の咆号(ウルフズロアー)お願いします」

「……はい。白狼の咆号(ウルフズロアー)展開」

 

 影狼と同じ純白の砲身が右腕を飲み込むようにして現れる。7メートルの砲身に加えラジエーターや後部の狼の爪のような意匠を含め9メートルにも及ぶ全体。砲の直径は70センチもある。当然、片腕で支えるのは不可能なので両腕と片足、更にスタンドを使わないと発射どころか照準を合わせることもできません。構造的に反動は殆どないのが唯一の救いでしょうか。

 

「どこに向けて撃てばいいんです?」

「地面に向けてお願いしますね?」

「了解です」

 

 兵装の種別としては電気によって強めた膨大なガウスをエネルギーとして成形炸薬弾を撃ち出す電磁投射砲。あー、もちろんIS学園では合金製の金属弾を撃ち出すつもりです。そうじゃないと威力が高すぎて一発で絶対防御を発動させかねせんし。

 まぁ次弾装填にもエネルギー充填にも時間がかかるから一度限りの超必殺技みたいなものですね。威力は……戦車数台を落とせる落とし穴が楽に作れるくらい、です。

 地面に開いた洞窟に冷や汗がでる。

 

「えーと、次は後部BT兵器、妖精の加護(フェアリーダンス)の性能をテストするので展開しておいて下さい」

「りょーかいです」

 

 両肩から1対、腰から2対、太腿から1対の有線式BT兵器が射出され、その砲身が意志を持っているかのようにカゲロウの周囲に浮かぶ。この兵装の効果は、

 

「ではミサイル50発を5秒間で。いきますよー」

「どうぞ」

 

 毎秒10発のミサイルの雨を切り抜けるための迎撃兵装。ハイパーセンサーで感知した熱を持つ物体の情報を、一度私の判断というフィルターを通してから撃ち落とす。私の判断を通さない場合、周囲に存在する一定以上の熱を持つ物体全てを手当たり次第に撃ち抜こうとするじゃじゃ馬です。

 しかも、エネルギーを送るための送電線はナノフィラメント。何が言いたいのかというと8機から放たれるレーザーでは迎撃が間に合わない場合の緊急手段です。いわゆる暗器の一種である鋼線として、物体の切断も可能な便利スライサー。

 兵器に付随する国籍コード認識によるフルオート迎撃でも良かったのですが、それだと多国籍なIS学園では誤射しそうで利用できなさいですし、オンブル・ループは周囲のいかなるISとも協力できる、というコンセプトで設計されているので、それに反してしまいますから。

 ちなみに妖精の加護(フェアリーダンス)は火薬を避けてミサイルの推進機能と信管のみを撃ち抜くので爆発も起きない安心設計です。飛んできたミサイルを殴っても信管が作動しないので爆発もしません。

 

「全弾迎撃確認。それにしてもなんで妖精の加護(フェアリーダンス)を使ってる間に他の行動も出来てるんですか? もう集中力以前の問題ですよ」

 

 撃ち落とすかどうかの判断は私がしているため、全方位からのミサイル群なんて全神経を集中させないと迎撃が間に合いません。私の場合は分割思考の片方をその作業に割り当てているため、他の行動も可能というだけです。一応、妖精の加護(フェアリーダンス)はラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡにも装備できますが、分割思考が出来る私以外には扱えないでしょう。いくら性能の良い迎撃兵装でも足が止まって、反撃もできないなら意味ないですからね。

 まぁ、イギリスの少し前の研究成果を改変しただけの、実験的な側面の強い“なんちゃって”BT兵器ですから火力自体はそう高くもないので無理に積む必要もないんですけどね。

この兵装の魅力は高い精密性ですし……個人的にはブルー・ティアーズに積ませてみたいですね。

 第3世代兵器なのにカゲロウが詰める理由は妖精の加護(フェアリーダンス)が“なんちゃって”BT兵器な理由と同じですが……まぁ長くなるので今度にしましょう。痛い思い出ですし。

 

「それでは、お待ちかねの格闘訓練です! 今日はなんともう一人の専用機持ちが相手ですよ」

「……えっと、誰だって言いました?」

「ですから、一昨日話したIS適性が高かった子ですよ。いやー、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、部分的に完成していて2ヶ月ほど前から訓練していたそうですよ」

 

 え、ドッキリ? それって完全にシャルロットのことですよね? 私何も聞いてないですって! 一昨日あんなことがあって気まずい思いしてる少女になんてKYな仕打ちですか!? ……ま、まぁ、そういえば気付かれないように変装もしたし、平気ですよね。

 

「あ、あとバイザー付けて顔隠して下さいって指示がヴァネッサさんから」

「GJ!」

 

 というか冗談ではなくグッジョブですよ! 多分、私のことを考えてじゃなくてシャルロットの正体を隠すためでしょうが、なんにせよヴァネッサさん最高!

 

「準備できたらフィールドDに向かって下さいねー」

「りょーかいです」

 

 こうなったら残っているのは愉しみな気持ちだけです。死合の予感に血が沸騰しそう。ゾクゾクするね。

 

「はーい、アリサさん顔が怖いので深呼吸して下さい。いくら適性が高い子といってもまだ訓練始めたばかりの女の子なので本気出さないで下さいねー」

「わ、わかってますよ?」

「またまたー。アリサさんが怪我したときのお母様そっくりですよ」

 

 否定できない……これが修羅の血ですか。自重しよう。我慢はできないけど。

 

 

「おまたせ、自己紹介はしない方がいいのでしょうか?」

「そうみたいですね……よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 

 目の前に立つオレンジ色のIS、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。どこまで原作通りの性能に近づいているかは分からないけど、少なくとも訓練機を相手にするよりは愉しめ……楽しめるでしょう。

 

「では、開始です」

 

 合図とともに瞬時加速(イグニッション・ブースト)で距離を詰め、それと同時に妖精の加護(フェアリーダンス)を展開する。

 シャルロットは反応が多少遅れたものの、右手のゴツい銃――多分、サタデイ・オブ・レインを私に向けて放ちます。

 その狙いは完璧ですが……実弾はどこまでいっても光速に至ることはできません。散弾が私に突き刺さるよりも速く、妖精の加護(フェアリーダンス)のレーザーが弾を溶かす。その結末が予測できている私は動きを止めない。

 新たに展開したブレードでシャルロットに斬りかかりましたが……むぅ、予定調和のようにブレッド・スライサーで受け止められちゃいました。これがシャルロットの高速切替(ラピッド・スイッチ)ですか。というかこの子、地味に乗り慣れてませんか?

 近接戦闘になったため、ただのお荷物にしかならない妖精の加護(フェアリーダンス)を量子化、また別の近接戦闘用兵装を呼び出す。

 それにしても、

 

「たかがパン切り、されどパン切り……」

「変な名前ですよね」

 

 プライベートチャンネルごしの会話にシャルロットが困ったように笑ったのが分かった。

 雨降る土曜日にパン切りナイフ……我が家の親父(パパ)が気に入りそうなネーミングだけど……まさかね? ちなみに私の兵装の名前は自分で決めています。この世界ではああいう名前も許されているので問題ありません。それに私は13歳、現役中学2年生ですから。

 うーん……でもこういう立場になっては初めて母様(ママ)の忠告の意味がわかりますね。確かに戦闘中に話すのは危険でした。私にとってではなくシャルロットにとって。

 

「えっと、先に謝ります。ごめんなさい」

「え?」

 

 いきなりの意味不明な私の謝罪に面喰ったシャルロットの声。可愛いなぁ、チクショウ!

 彼女の注意がそれた瞬間に鍔迫り合いになっていたブレードを手放し、勢い余って斬り上げてくる形になったブレッド・スライサーを握る腕を絡め取る。それと同時に逆関節も極めます。

 

「話しかけられても試合中に会話しちゃダメですよ? 特に私とは」

「あ……」

 

 分割思考の影響で故意かどうかに関わらず、相手の隙を見つけたら瞬時に行動しちゃいますからね。割と嫌な女です。

 しかもさっきの会話は隙を作り出すためにわざと始めたものですし。例えシャルロットが1パーセントしか会話のために脳を使っていなくても、100パーセント以上を戦闘に傾けている私にとってみれば大きな隙です。やっぱりここら辺は戦闘に慣れているかどうかの違いでしょうか。

 

「跳んで!」

 

 ただ単純に私の言葉に従っただけなのか、それともそのままでは自分の腕が折れることを本能的に悟ったのか。とにかく大した負荷もなくシャルロットの身体は浮き上がった。当然腕も折っていませんよ? 折ろうと思えば折れますけどね。

 ISはビームや爆風、衝撃からは完全に操縦者を守ってくれますが、装甲ごと操縦者の間接を逆方向に曲げられると絶対防御でも守れないんですよね。余談ですがジャイアントスイングで目を回したりと、ISの保護能力には孔が多いんです。

 

「ひっ!」

 

 不破圓明流、(いかずち)ver. IS

 頭から地面に叩きつけられるという未知の恐怖に身体が硬直したシャルロット。その身体を彼女のISの左肩のシールドを蹴ることで回転させて背中から落とす。ISを展開してるからって女の子の頭を足蹴にするのは抵抗がありますからね。

 

「むむむ……」

 

 ISに守られているから落下での呼吸困難はないにしても、人間ジェットコースターの怖さは半端ないと思うんですけどね……まだ立ち上がろうとするシャルロットを見るとそう思わずにいられません。

 私が初めて受けたときは生身だったから本当に死ぬかと思ったんですけど……やっぱり優しくて可愛いだけじゃなくて強いんですねぇ。ますます惚れ直しそうです。

 

「でも、できればフランスでは距離を置きたいので興味を持たれる前に倒しちゃいます」

 

 立とうとするシャルロットの肩を脚で踏みつけ地面に固定し、その顔に右手の近接兵装を向ける。このまま肩の装甲を踏み抜く方が圓明流っぽいですが、ISだと痛みがないので効果的じゃないですし、無駄に破壊して整備の人たちに怒られるのもヤですからね。

 それにシャルロットならこの兵装の威力が分かるはずです。これは既にラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡにも付いているはずなので。

 

「え、灰色の鱗殻(グレー・スケール)……? ……なんで、」

「正確にはその親かな……理由は私のISがあなたのISに装備される兵装のテストをしているから。まぁ、灰色の鱗殻(グレー・スケール)はこれの技術の転用だけど」

 

 私のパイルバンカー、討鬼の鋼杭(ドラクル・ペイン)はリボルバー機構をフルに活用して24連発式の短杭と、円形に並べられた短杭の中央にある単発式の長杭を組み合わせた奇形。灰色の鱗殻(グレー・スケール)はいわばその機能を削った軽量タイプに当たるのかな。

 量子化したときの要領も5倍以上違うから性能の開きも当然です。容量を取り過ぎていて後付装備(イコライザ)を入れても6つの兵装しか装備できないんですから相当ですよね。まぁ、そのハンデを補って余りあるロマンですけど。

 

「テスト……?」

「そうです。使用者に負担をかけすぎないか、暴発の危険性はないか、人に扱える代物か。そういうテストです」

「それは普通私が、」

「そうですよねー。経験の問題もありますし、本人がやるべきだって私も言ったんですよ」

 

 あ、もちろん自分可愛さじゃないですよ? シャルロットにはできるだけ怪我してほしくないですし。でも、自分が使う武器の使い勝手を他人に知られているのは危険ですし、どういう使い方をすると壊れるのかということは知っておかないといけません。それに壊れなければ本来の使用法からは外れた使い方もできるわけですしね。

 ……とは言っても、IS学園の生徒はオモチャ程度にしか考えていないのでしょうが。だから軽々しくISを自分のために使おうと思えるのです。誰とは言いませんが。というか、ヒロイン陣だとほぼ全員ですね。

 

「じゃあ、どうして……」

「適当にはぐらかされちゃいましたけど……きっと、大きな権力が絡んでますね。ひょっとしてお父さんが代議士さんだったりしませんか? できるだけ娘に怪我させたくない親心、みたいな感じです」

「……そんなわけ、ないです」

「そうですか」

 

 お父さん、という下りからシャルロットの顔が歪みました。こんな遠回りな表現じゃ社長さんの気持ちは分からないかな?

 さっきのは私の勝手な想像ですけど、あながち見当違いってこともないと思うんです。適性が無ければISにも乗せたくなかったんじゃないでしょうか。男装させてIS学園に送った理由も今では想像出来ます。別邸を用意したのも本妻さんからの嫌がらせから守るためでしょうね。

 ……でも、この子はISが兵器だってことを理解してるのでしょうか。言われるままに乗っているだけ、なんてことはないですよね? なんか、さっきから感情の揺らぎが感じられないんですよね。例えば、相手に傷つけられる恐怖とか。

 

「えっと、私のママがいつも言う言葉なんですけどね」

「……」

「人殺しの兵器を使うときは殺される覚悟より殺す覚悟の方が必要よって」

 

 右手から細かな駆動音。杭を撃ち出すまでのタイムラグも要改良点ですかね。

 

「ま、まって……ぃゃ」

「待ちません。あと、目は開いていて下さい。私達はISが人殺しの道具(兵器)であることを自覚しなければいけないんです」

 

 あ、もともとは宇宙で活動するためって建前でしたっけ。結局、早々に兵器転用されましたけどね。白騎士事件(デモンストレーション)の方法を間違えていた気がします。

 

 ガシュン!

 

 短い音を発して長杭が射出される。もちろん当てる気は全くないのでシャルロットの頭から10センチ以上離れた地面に向かってです。

 

「もちろん、私にだってどっちの覚悟もないですけどね。せいぜい傷付け傷付けられる程度ですよ。全く、13歳の女の子にそんなこと言ったってしょうがないと思いませんか?」

「…………」

「あれ、もしもーし? 気絶?」

 

 見ればオレンジ色のISも光の粒子に変わり始めています。精神的ショックからの気絶だとISは解除されるんですねぇ。

 

「……また、やりすぎちゃったかもしれません」

「かもしれませんじゃないです! もう、手加減して下さいって言ったじゃないですか!」

「手加減したら負けちゃうじゃないですか」

「殺し合いじゃないんですから勝ちに拘らなくても……」

 

 不破圓明流の業を使った時点で負けられないんです。これ以上負け星を増やしたくないですから。

 それに兵器を使っている以上、絶対の安全なんて保証されてません。生命第一で設計されているとはいえ、いつそれがなくなるかも分からないんですよ?

 ……あぁ、絶対の安全なんて保障があるからみんな能天気なんですね。兵器の操縦者が最も安全だなんてナンセンスです。さっきみたいに絶対防御すらも無視する方法はありますし、蹂躙する者は相応のリスクが必要なのに……ISを使っている私に言えたことじゃないですけどね。

 

「はぁ……じゃあアリサさんは休憩して下さい。その子は誰かに運んで……ってなに抱き上げてるんですか!? あ、あぁ、えーと、とりあえず絶対にバイザーを取らないで下さいよ!?」

「シャルロット・デュノア。私は彼女のこと知ってるから平気ですよ。あぁ……でも私のこと、彼女に言わないで下さいな。あと昨日以前の私の写真とか資料、全部破棄して下さい。重要なものはまた用意し直しますから、残らず全部ですよ」

「は、はい……」

 

 一気にまくしたてたから追求もされませんでしたね。運がいいです。まぁ社長さんに迷惑かけることになりそうですけど……ケーキでも持って行って本妻さんの機嫌を取ればいいかな。でも、なんでシャルロットと戦うことになったんでしょう。今日戦った感じでは本当にまだまだなのに……社長さんの画策だとしたら、私とシャルロットを近付けたかったんでしょうかね……私は距離を置きたいのに。

 

「あ、オペさん。さっきのこと言ったらヤですよ? 約束破ったらもうケーキも何も作ってあげませんから」

「分かりました! 誰にも言いません!」

 

 正直、そこまで私のケーキに価値はないと思うけど……まぁ、言われても私以外の人が困ることはないからいいかな。

 

「なら今度オペさん用に美味しいもの作ってきますね。あと、出来ればこの子との訓練は避けたいです」

「……えっと、その子、そんなにダメダメでした? 訓練機の方がましなくらい?」

「ううん、そうじゃないんです」

 

 ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの稼働時間が長くなれば一方的な展開にはならないでしょうし、試合が長引くということはそれだけリスクが高まります。訓練の回数が増えれば仲良くならざるを得ませんし、不必要に近付いて本邸の痴女(ゴスロリ)と同一人物だって気付かれたくはありません。それに、やっぱりシャルロットには攻撃したくないですし……

 

「とりあえず、この子運んじゃいます」

「う、うん。えっと、落としちゃダメですよ?」

「軽いから平気ですよ」

 

 ほんと、軽いです。筋肉ばかりの私としては羨ましい。バイザーの下の寝顔を見てみたい欲求に駆られますが……がまんがまん。

 ちょっとならいいかな? だめですよね。


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