Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「小さな恐れ」

一昨日からの驚異のバイト16連勤で死んでしまいそうです


35. Petite méfiance

「っは! ……夢ですか」

 

 最近、というより全学年のトーナメントが終わった金曜日から夢見がいいんですよね。

 なんでか、シャルとのお風呂でのえっちなシチュエーションが多いのですが……朝から悶々とするのでやめてほしいです。

 結局、学年別トーナメントは一年生は優勝者無し、二年生は楯無&黛先輩ペア、三年生はダリル先輩ペア、という結果になりました。

 まぁ、全ペアが専用機持ちを擁しているので予想通りではありますね。

 

「えっと、試合の動画は……ここまで見ましたね」

 

 もう日曜日なのですが寮での絶対安静を言い渡されています。

 なので暇を見つけてはトーナメントの動画を見ているものの……タッグだとやはり楯無先輩のペアが強そうでした。

 でも防御という面なら三年生ペアもなかなかです。

 

「うーん、楯無先輩の方は回避が難しいのにあの威力なのが頂けないですね。ナノマシンを使った水の操作なので……強力な電磁波か電流を使えれば対処できますかね?」

 

 また親父(パパ)に頼みましょう。

 この前も対ラウラさん用の兵装を頼んだばかりなので心苦しいですが……可愛い娘のためなので頑張ってくれるはずです。

 まぁ、それよりも拡張領域(バススロット)の増設をどうにかしないといけませんね……

 一応、カゲロウの自己進化プログラムのお陰で増やそうと思えば増やせるのですが……一つの兵装分の領域を造るために数十時間、そのための動作をしないといけないんですよね。

 具体的には新しい兵装の使用です。昔はシャルの兵装のテストをしていたので楽だったのですが今はそうもいきませんし……

 篠ノ之博士に見せればどうにかしてくれそうですが……無理でしょうね。

 偏屈で自己中という彼女のパーソナリティは有名すぎるほどに有名ですから。

 

「今ある装備で戦うとすると……勝つのは無理かなぁ」

 

 カゲロウはそもそもISで競うためにできていないんですよ。

 むしろ、IS以外と戦うことを目的に設計されてますからね。戦闘中、まともに使えるのは常時展開型兵装の狼鋲(ヴァンネイル)と討鬼の鋼杭(ドラクル・ペイン)くらいですからね。ビバ格闘戦です。

 三年生ペアの防御は確かに硬いですが……タイマンの場を作り上げることができれば勝てないこともないでしょう。

 

「あえてペアで戦うなら……やっぱりラウラさんかセシぃと組むのが良いでしょうね」

 

 シャルと組みたい、とは思いますが冷静に判断すると互いの戦い方を完全に知っている上、交戦距離が被っていないセシぃや、格闘戦主体の私の行動をサポートできるラウラさんのAICは強力です。

 ただ、対多戦では継戦力のあるシャルと組んでもよさそうです。

 鈴ちゃんと組む場合は……鈴ちゃんを主として、隙を見て私が敵を落とす感じの作戦になりますかね? 暗殺っぽい仕事ぶりになりそうですが。

 織斑君とは組んでもメリットがあまりないですね。交戦距離は被っていますし、零落白夜は強力ですが時間をかければ同じだけのダメージは与えられますし。

 

 コンコン……

 

「はい、どちら様ですか?」

「僕だよ、シャル」

「うぇ!? えと、どうぞ! 散らかっていますが!」

 

 ななな、なんでシャルが!?

 いえ、昨日も来てくれたのですか、今は鈴ちゃんもいませんし……あれ、このパターンは一昨日の夢のパターンです!

 確か、なんだかんだでベッドに抑えつけられて美味しく頂かれちゃうんです!

 あぅ……ずっとベッドの中でしたから汗臭いかもしれません。下着も子供っぽいですし……

 

「どうしたの?」

「いえ、下着が……じゃなくて汗でもなくて……」

「ん? あー、そっか、汗かいちゃってべたつくの? 着替える?」

「ふぇ!? え、えっと、はい。じゃあ、少し外に……」

「ううん。汗も拭きたいだろうし手伝うよ。背中とか拭けないでしょ? 下着はどこ?」

「え、え、えっと、そこのクローゼットの……あぁ、そうです。そこです」

 

 ~~~~~~~~!

 しゃ、シャルに私の下着見られてますっ。

 どうしましょう……着替えるってことはやっぱりシャルの目の前で裸にならないとダメですよね?

 は、恥ずかしぃ……

 

「うわ、こんな大人っぽいのまで……え、えー、これとか透けてるよ?」

「み、みみ、見ないでください! え、えっち……」

「ご、ごめん……でもアリサの方が……」

「?」

 

 私の方がなんなんでしょう?

 んー、でもシャルはどの下着を選んでくれるんでしょう?

 ある意味、シャルが私に付けてほしい下着ってことですよね?

 

「あ、これ可愛い」

「それ、結構、気に入ってます」

 

 シャルが選んだのは控えめに白いフリルがあしらわれた黒の下着でした。下はローレグなのでちょっぴり小悪魔仕様です。

 制服が白なのであまり穿く機会がないんですけどね。あの制服、夏服になると色の濃い下着は透けちゃうんですよ。

 透けてるのはやっぱりだらしないですからね。

 

「じゃあアリサ、脱がせるよ?」

「え、自分で着替えますよ!」

「だめだよ。自分でやろうと思うとどうしてもお腹の怪我に負担がかかるでしょ? 手間だとか思わないから気にしなくていいよ」

 

 それじゃ、背中の傷が……!

 傷が原因でシャルに嫌われるなんて思いませんけど、逆に同情されるのだって嫌なんです。

 シャルには対等に扱ってほしいんです……だって、同情されてしまったらシャルはもう私じゃなくて、酷い怪我をしている可哀想な女の子しか見なくなっちゃいます。

 私を、友達じゃなくて、慰める対象として見てしまいます……

 シャルに隠し事はしたくないですけど、これは……見られたら、どんなに努力しても心の底からは愛してもらえなくなります。

 そもそも、まだ愛されているわけでもないのに何を言っているんでしょう?

 

「あ、あの。自分で着替えますから……」

「背中のことなら知ってるよ」

「…………え?」

「アリサ、金曜日のこと覚えてないんだよね?」

「はい……酔って先輩と一緒に大浴場を壊したことは聞きましたけど、それ以外は何も覚えてません」

「うん……その時、傷痕見ちゃったんだ」

 

 ああ……じゃあ、ここに来てくれているのも、火傷のことがあったからなんですね。

 私がシャルを守って怪我をしたので責任を感じて、とか理由はいろいろ考えていましたが……その理由だけは、嫌でした。

 もう私はシャルにとっての普通の女の子ではいられないんですね。

 これじゃ、シャルから向けられる笑顔が同情からくるものだと思えちゃうじゃないですか……シャルはそんな子じゃないとは思いますけど、でも、私はそう受け取っちゃうんです。

 だって、私なら同情してしまうから……!

 

「アリサ……その、怒ってる?」

「怒ってはいます。でも、シャルに対してじゃなくて……自分勝手な私に対してです」

「…………」

「お願いです。今は、ひとりに……」

「あの! せめて、着替えだけでも手伝わせて? そのままじゃ風邪ひいちゃうよ……」

「……っ!」

「アリサ!?」

 

 苛立ち、悲しみ、喜び、その他様々な感情が混ざり合って、何がしたいのかが分からなくなった私は……

 部屋から飛び(逃げ)出しました。

 

 ◇

 

「アリサ……」

 

 やっちゃった……僕は傷痕のことなんて気にしないって伝えたかっただけなのに。

 もっと、考えなきゃいけなかったかな……

 酔っていたとはいえ、本当に見せたくなかったら見せないだろうって思い込んでたかも……

 傷ついてるかな……とにかく追いかけなきゃ!

 

「どこ行ったんだろう……?」

 

 アリサのことは全然知らないから見当がつかない……でも、誰かに聞くのは違う気がする。とにかく私が見つけなきゃ。

 

 ◆

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

 どこに行ったらいいんでしょう。

 なんで、私は走っているんでしょう。

 分からない……分からないけど、とにかくシャルから離れたい。

 どうして、火傷が……よりによってシャルに……!

 酔っていた私は何を考えていたんですか。

 傷を見せてシャルの同情心でも煽りたかったんですか?

 それで、シャルが自分大切にしてくれるとでも?

 バカですか……そんな風に大事にされたって……それなら、シャルに壊される方が何倍もましです!

 

「あぐっ……!」

 

 バタンッ!

 

「痛……あれ?」

 

 脚が……動かない……

 なんでですか?

 私は一刻でも早くシャルから離れたいのに……!

 そういえば、追っかけてくれているんでしょうか……?

 

「不破ちゃん!? どうしたの!?」

 

 ん……二木さん、ですか?

 ああ、ここ、一松さんと二木さんの部屋の前ですか……

 

「二木ぃ、さっきの音なんだった? って、うわぁ……不破ぁ。あんたまた暴れて……絶対安静じゃなかったの?」

「みぃちゃん、なに落ち着いてるの!? こんなに血が出て、不破さん死んじゃう!」

 

 三好さんも一松さんもいました。

 三人で部屋にいたんでしょうか。

 

「大丈夫です……ちょっと疲れただけで」

「まぁ、死にはしないだろうけど……太腿の傷、開いてるよ? 一松、織斑先生呼んできて。二木は救急箱」

「わ、わかった!」

 

 そんな、慌てることないですよ……転んじゃいますよ?

 でも、体全体が重い……傷を確認するのも億劫です。

 

「不破、下脱がすよ?」

「こんな、人前で恥ずかしぃですよぉ……」

「ふざけてる場合じゃないんだって! 不破だって痛いんでしょ!?」

 

 痛くなんて……シャルを守った傷ですし……

 

「ただの、掠り傷ですよ……?」

「バカ! 六〇口径の弾丸が掠ったら立派な大怪我だよ! だいたい脇腹も斬られてるのに、何で寝てないんだって!」

「だって……私が、辛そうにしてたら……」

 

 シャルとラウラさんが気にしちゃうじゃないですか……二人とも、悪気はなかったのに。

 

「救急箱持ってきたよ!」

「サンキュ。じゃあ、消毒して包帯かえるから……二木ぃ、手伝って」

「う、うん!」

 

 ◆

 

 バタバタバタバタ

 

「まただって!」

「しかも今度は廊下で。大浴場も壊すし、いい加減にしてほしいよね」

「でも、トーナメントでのあれはかっこよかったと思うけどなぁ」

「やることなすこと派手すぎるのよ」

 

 今のってアリサのことだよね……?

 どうしたんだろう?

 

「ごめん、今の話、聞かせてくれない?」

「でゅ、デュノア君!?」

「あぁ、不破アリサがまた倒れたとか。今度は廊下で」

「場所は!?」

「あっち」

「ありがと!」

 

 どうしよう。

 また、僕のせいだ……!

 大浴場のだって、止めようと思えば止められたし、そもそもトーナメントで僕を守ろうとしなければ、アリサは怪我しなかったのに……!

 

「ごめん、どいて!」

 

 野次馬を掻き分けて騒ぎの中心地へ。

 そこにいたのは一組で不破さんと仲良くしている三人と、太腿から血を流しているアリサ……

 

「あ……しゃる……」

「アリサ……?」

 

 なんで、笑ってるの?

 僕が余計なことしなければ、アリサはこんなことにならなかったのに……

 

「また、君なんだ……」

「え……?」

 

 僕を睨むこの人は、二木さん、だっけ?

 

「また、君のせいで不破ちゃんはこんなことになってるの……?」

「ふ、ふたちゃん! ダメだよ! 今は不破さんが、」

「イッチー何で止めるの!? 全部デュノア君のせいじゃん! 噂が原因でいじめられて、原田さんにあんなことしちゃうくらい追い詰められて! 不破さん、ペンが手に刺さったのは運が良かっただけですって言ってたんだよ!? デュノア君が不破ちゃんのなんなのか知らないけど、こんなの不破ちゃんが可哀想だよ!」

「二木ぃ、今ソイツを責めたって仕方ないでしょ。手伝ってよ」

 

 興奮気味の二木さんを三好さんが止める。

 彼女は自分の服に血が付くのも気にしないでアリサの止血を試みている。

 氷嚢に縛った太腿、直接傷口を押さえての止血法……でも、どれも効果が出ていないようにみえる。

 

「でも、まだ、不破さんをいじめてる人はいるし、今だってデュノア君が撃った左脚が痛くて歩けないくらいになってるのに……!」

「いいから手伝ってって! 血が止まんないの! 私達が何もしなかったら手遅れになるかもしれない! こういうの分かんないけど、死ななくても歩けなくなるかもしれない! 二木はそれでいいの!?」

「それは……」

 

 アリサ、まだいじめられてるなんて、一言も言わなかった……あの噂が消えたのと一緒に無くなったって……

 それに、歩けなくなるって? 昨日まではふつうに……痛そうな素振りも見せないでにこにこしてたのに。

 ……ううん。考えてみれば分かることだね。脇腹を斬られて、足を撃たれて、痛くないわけがないよ。ずっと、我慢してたんだ……

 それなのに、僕は気付かないどころか刺激して走らせて……

 

「アリサ……ごめん。僕、何も分かってなかった……」

 

 アリサが笑ってくれるから、何かしてあげれば僕の代わりに怪我をさせた償いになるかと思って……逆に気を遣わせてたなんて。

 

「デュノアも謝る暇があったら、」

「しゃる……平気ですよ。三好さんも、私はこの程度でどうにかなるほど柔な鍛え方していません。二木さんも、怒ってくれてありがとうございます……」

 

 アリサがまた、強がっちゃう……周りに心配をかけないようにって……

 さっきまでどこを見てるのか分からなかった目も、今はしっかりと焦点があってる。

 

「不破、いいから静かに、」

「大丈夫ですって……ほら、立てますから……」

「不破ちゃん、無理に立っちゃ……!」

「無理なんか、してませんよ……? ぅゎ、結構血だらけで……皆さんごめんなさい。私が責任を持って綺麗にしますから……ね? 皆、そんな怖い顔しちゃヤですって」

 

 震えながら、力を込めて……アリサが立ち上がる。

 立ったことで流れ出す血の量が増えて……

 なんで? なんで、ここまでするの? 僕のためにそこまでする理由は何?

 そもそも、なんで、僕を守ろうとするの?

 

 少しだけ、不破さんが怖い……

 

 ◇

 

「どけ、どかんか。関係ない生徒は部屋に戻れ!」

「織斑先生、不破さんが……!」

「分かってる。一松も部屋に戻れ」

 

 やっと先生きた。おそいって。

 不破も立ち上がるし、デュノアも立ち竦んでるし!

 全然血は止まってないのに立ち上がったらダメじゃん!

 本当に歩けなくなったりするかもしれない。

 二木を落ち着かせるために冷静を装ってたけど、そんなことない。

 本当は、内心慌ててた。

 皆、不破に何かができるわけじゃないから、私が見様見真似で止血をしようとしたけど全然止まらないし、デュノアがきて、不破が立ってから今まで以上の血が流れてるし。

 なんで、不破は気絶しないのよ!

 

「三好、ご苦労だった。休んでいいぞ」

「で、でも不破は……!」

「安心しろ、気絶させる」

 

 言うやいなや、先生が不破の首筋に手刀を落として、気絶した不破を抱きかかえた。

 

「とりあえず、コイツは保健室に連れていく。悪いが、誰か廊下を掃除してくれ。それとデュノア」

「はい……?」

「お前は不破への影響が強すぎるようだ。しばらく不破と接触するな」

「でも…………はい、分かりました」

 

 今は、それが一番いいんだろうね。

 二木も言ってたけど不破とデュノアの間に何があるのかは知らない。

 でも、今は悪影響にしかならないだろうし……

 

「じゃ、二木ぃ、掃除しちゃお」

「あの、ご、ごめん……今更だけど気持ち悪くなってきたかも……」

「そっか、なら奇遇じゃん?」

 

 光景もだけど、凄い臭いしてるからね……




この三好さんの男前っぷりである

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