Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「一夏、今日も放課後特訓するよね?」
「ああ、もちろんだ。今日使えるのは、ええと――」
「第三アリーナだ」
「「わぁ!?」」
廊下で一夏と歩いてたんだけど、いきなり篠ノ之さんの声がしたからびっくりしちゃった。
僕達が揃って驚いたからか篠ノ之さんもちょっと不機嫌そうに眉を顰めた。
「そんなに驚くほどのことじゃないだろう。失礼だぞ」
「ごめんなさい。いきなりだったから驚いちゃって」
「まぁ、いきなり声をかけた私も悪かったな。あぁ、私は用事があるから一緒には行けないが後で行くからな」
うん、篠ノ之さんもさっぱりしてる人でいい人だと思う。
男装がバレないように周囲と壁を作っていたけど学園の人は優しくしてくれる。
でも、皆を騙してることになるから……そのことを考えると胃のあたりが重く感じる。
だからといって男装すぐにやめることはできない。
不破さんはもう、いつ止めてもいいって謝るのと一緒に言ってくれたけど、その結果が誰にどんな影響を及ぼすかが僕にはまだ分からないから。
それにやっぱり本当は女でしたって暴露したときの反応が怖いから。
今まで数少ない男子だったからちやほやされていた面もあると思う。それが実は女子で、しかも唯一の男子である一夏と同室だったなんて事になれば……それこそ先週の月曜日の不破さんみたいになるかもしれない。
「まだ一週間かぁ」
「ん? どした?」
「僕が転校してきて、不破さんが謹慎処分になってからさ」
「先週はいろいろあったよなぁ」
僕が転校なんてしてこなければ不破さんもあんなことにならなかったんじゃないかと思う。
不破さんにそう言ったら僕は甘すぎで、もっと怒ってもいいなんて言われたけど……本当に不破さんが僕のためにいろいろしてくれていたなら怒られるのは僕の方だと思う。
それに、見た目が可愛い中学生だからどうしても怒れないし……
まぁ、やっぱり男装させられるのはもにょもにょするんだけどね。男装がバレるまで一夏がセクハラしてきたし。
あれ、でも女だって分かってからはそういうことなくなったけど……もしかして、男だったからちょっかいを出してきてたのかな?
「シャルル、なんで一歩離れたんだ?」
「は、離れてないよ?」
一夏かけるシャルル、なんて一組の紫(むらさき)さんが言ってたけど何のことだったんだろ? というかなんであの子はモヤシなんてあだ名で呼ばれてるのかな? スタイルいいのに。
「ところで、一夏は今日なにをしたい?」
「んー。この前射撃の感覚を掴んだから、それを忘れない間に格闘に活かせないか試したいな」
「格闘なら不破さんの方が……あ、そういば仲直りできた?」
土曜日の喧嘩から一回も話してるところを見なかったかちょっと心配。
例え一夏がホモセクシャルの人でも友達は友達だし。
そういえば不破さんも女の子が好きなんだっけ? あれ、好きな子が女の子なんだっけ?
「ん? あーあれな。ラウラと千冬姉のおかげで水に流れたよ。ただ、不破さんの恐ろしさを知った」
「不破さん、怖いかな?」
私に対してはずっと気を遣ってて優しくしてくれるんだけどな。もう少し力を抜いてほしいとも思うけど。
「いやー、よく分かんないんだけどラウラと千冬姉が口論しててな。それを不破さんが止めたんだ。ちょっと、というかマジすげぇと思った」
「へー、ラウラさんちょっと怖そうだもんね」
でも女の子なのにそういうことして……心配だなぁ。
「いや、むしろ千冬姉をからかってたような……?」
「え……?」
織斑先生ってこの学校で一番厳しいんだよね? なんていうかボス的な存在で……
それをからかうなんて……
「不破さんは正に心技体を極めてるよなぁ。武道家って感じだ」
「うーん、そうかな?」
私の印象では強がってるだけの、本当は弱い子だと思うんだけどな。心は特に……
「いや、シャルルが転校してくる前も生身での格闘戦をやってみたんだよ」
「一夏も確か武術をやってたんだよね? 不破さんは女の子なんだから、」
「惨敗した」
「え?」
「何をしても無効化されるし、自信のあった速さも不破さんの方が断然上で……あれ、生身なら千冬姉と同じくらい強いんじゃねぇかな。あぁ、でもやっぱ自分より強い人たちだから分からないな」
えっと、不破さんって本当に何者?
「ISでも結局、最初に戦ったとき以外は有効打が出ないしなぁ。むしろあれも何かの間違いだったとしか思えん」
「不破さんに一打当てただけでもすごいと思うよ? 私の時は一方的な流れで負けちゃったから」
「でも、この前の時は勝ってただろ。それもセシリアとか鈴と違って格闘戦で」
「あれも偶然作戦がはまっただけなんだけどね」
それも不破さんに負けたときからずっと、こうされたらああする、みたいな感じで対応策を考え続けてたから出来たことで次戦ったらまた負けると思うな。
「でも、第二世代型で不破さんに勝ったことあるのってシャルルだけだぞ?」
「へぇ、そ、そうなんだ」
ちょっとは不破さんに近づけたのかな。最初の頃は、あの模擬戦の時の不破さんみたいに惚れ惚れするような戦い方が目標だったから。
でも、昨日、不破さんの試合を記録したものを見せてもらったんだけど……戦い方がかっこいいというか、自信に溢れてるというか。
しかもそれが自然なんだよね。肉食獣が悠々と大地を歩く感じが近いかな。僕はそんな場面見たこと無いけど。
ガガガガガガッ! ガガン! ガンッ!
「な、なに!?」
「あれは……不破さんとラウラ?」
前にも見たドイツの第三世代型ISを不破さんのカゲロウが圧倒してる。
僕と戦ったときと違って小細工無しの直情的な攻撃。
まるで、颶風。
「いや、やっぱり速いなー。不破さんって瞬時加速(イグニッション・ブースト)をずっと維持してるんだよな。あれはずるい」
瞬時加速(イグニッション・ブースト)を持続?
有り得ないよ……あれは左右のスラスターを交互に稼働させてるだけ。
でも、あのISどういう処理速度をしてるんだろう? 普通、あんなことイメージ・インターフェースでもないと実現できないのに……まさかアナログ入力でやってるわけないし。
「でも、あれじゃ、ダメだよ」
「え?」
「ドイツのレーゲン型(タイプ)の特徴は第三世代兵器AIC。慣性をゼロにする空間圧兵器だよ。だからいつか止められると思う」
フランスが調べているのは何も一夏の白式だけじゃない。他国の第三世代型ISだってその対象になる。
だから、第三世代兵器についての考察と対策もある程度は立てられる。
ドイツのAICには遠距離攻撃。レーザーみたいなエネルギー兵器なら余計に効果的。僕の場合は実弾の乱射かな。
ガガガガ……
「ほら、止められちゃった」
「あんな至近で止められたら一方的に殴られるだけじゃないか!?」
「そうだね。それがAICの強み」
不破さんはどうするんだろう?
ああなったら第三者からの介入がないと抜け出せないと思うんだけど……
「動いた!」
「え!?」
どうやって……?
「よく分からないけど……ラウラが急に目を押さえたから偶然、何かが起きたのか?」
そんなわけない。
ドイツの
何かしたんだ……
「不破さんの勝ちだな」
「うん……」
不破さんがラウラさんの隙を逃さずに足を踏み抜いて動きを封じ、ラウラさんの頭を空に向けて弾く。
カァンッ!
連鎖的に生まれた大きな隙にいよいよ決着、というところで織斑先生が現れて、生身にIS用ブレードという理解を超えた装備で二人を止めた。
……あのブレードも結構重いはずなんだけどな。
「織斑先生も大概だね」
「……だな。うん、やっぱ不破さんも強いけど千冬姉ぇの方が強いな」
戦っていた二人はそのまま織斑先生に叱られているみたいで……リンとセシリアは我関せずを決め込んでる。
そのままなんとなく眺めていたら学年別トーナメントまでの私闘が禁止されるとか何とか。
でも私闘って具体的に何を指すんだろう?
そこらへんの判断が最近学園に来たばかりの僕には分からないんだけど……不破さんに聞いてみようかな?
あれ、不破さんいなくなっちゃってる。
「一夏、ちょっとごめんね」
「ん? おう。なら、とりあえずは鈴達と一緒にいるな」
「分かった」
アリーナの出入口は利用者を管理するためにここしかないから……この前のあの部屋かな? 他の生徒はさっきの織斑先生の声で帰り支度を始めてるし、休憩しに行ったのかもしれない。
そういえばラウラさんもいないな。二人で一緒にいるのかな? ラウラさんが誰かと話してるところは見たことないけど……さっき一夏が言ってたお昼の一件で仲良くなったのかもね。
「あ、やっぱり。二人とも見ーつけた」
「――私がお前を欲しいと思っている」
「……え?」
えーーーーーー!?
いや、うん。不破さんがそういう趣味だってのは知ってたけどね?
でもそういう趣味は少数派だと思ってたから不破さんが告白されるような人だとは思わなかったっていうか……いや、不破さんが誰からも見向きされないっていうことじゃなくて、不破さんから誰かに告白するんじゃないかなって。
でもそっかー、ラウラさんかー……不破さんは見た目が可愛い系だし、基本的にはお淑やかだから凛々しいタイプのラウラさんとはお似合いかも?
うん……これは応援しなきゃ、だね。
◇
「えっと、シャル? どうしたんですか?」
「え、えっと、ごめんなさい。聞いちゃうつもりは無かったんだけど……」
紅い顔して……ご、誤解されてます。
ボーデヴィッヒさんの最後の言葉だけ聞けば確かに情熱的な告白だったとは思いますが……私的にはずっと一緒にいて欲しいと伝えてもらう方がキュンときますね。
私と一緒にいたいと思ってくれるなんて素敵じゃないですか……
って、違う! 違うのですよシャル!?
私が好きなのはあなたであって、可愛い女の子なら誰でもいいということじゃないんです。
というか、シャルと特別な関係にあるわけでもないので慌てる必要もないんですけどね。
ここはまぁ普通に事情を説明すればいいですよね?
とりあえずボーデヴィッヒさんにお返事を……
「えっと、ボーデヴィッヒさん。さっきの話ですがしばらく考えさせてください。夏休みまでには返事ができると思いますから」
「……今すぐ答えをくれと急かしたいが……ゆっくりでいい。でも真面目に考えて欲しい」
「はい」
もちろんです。
評価自体は微妙でした誰かに必要だと思われることは純粋に嬉しいですし……
こんな私が欲しいだなんて……つい、顔がほころんじゃいますね。
「ではまた、な?」
「はい。またです」
軍のことは置いといてもボーデヴィッヒさんとも仲良くできそうですね。
……いやらしいことを言えば、戦場を知り、試験管ベビーでもある彼女は私の背中の傷を気にしないでくれるでしょうし。
「…………シャルは受け入れてくれますか?」
「え? 呼んだ?」
「いいえ、独り言です。ところで、まだ私たちの部屋にいますか?」
学園に来てからは得難い友人を得ることができましたね。そうでない人たちも私を特別視しませんし……
入学前の私には想像もできないでしょうね。
「んー、そろそろ一夏の部屋に戻るよ」
「んー、そうですか? 襲われないように気をつけてくださいね?」
「あはは、一夏なら大丈夫だよ。僕に興味なんて無いみたいだから」
うん?
まあ、シャルがそう思うならいいですかね?
シャルに興味がないということは……鈴ちゃんが上手くやったんでしょうか? ……やったって、性的な意味じゃないです。
「それで、ラウラさんとはどんな話をしてたの?」
「えっとですね……」
あ、ボーデヴィッヒさんの立場を考えると軍属だって言わない方がいいかもですね。織斑先生を教官だなんて言っているのでバレバレでしょうが本人が言い触らしているわけでもないですし。
「まあ、簡単に言えば彼女と一緒にドイツに来てくれと言われました。彼女の仲間……いえ、家族ですかね? その方たちと会って欲しいと」
「そっかー」
シュヴァルツェ・ハーゼは全員がナノマシンによる強化を受けていますし、一部はボーデヴィッヒさんと同様に試験管ベビーでしょうから家族という表現も間違ってはいないと思います。
……シャルがやけにニコニコしてますけど何かいいことでもあったんでしょうか?
「それで、不破さんはラウラさんについていくの?」
「一度くらいは行ってもいいかなと。でも私にはやることがありますから」
……シャルを守り続けたいんです。
なんて、プロポーズみたいです。
でも、いつか言ってみたいですね。ふふっ
「そっか……うーん、でも僕はそのままドイツに行っちゃってもいいと思うよ? 不破さんばかりが苦労することもないと思うから」
「……考えてみます」
シャルはきっと私の“やること”を正しく理解してくれたみたいです。
「じゃあ、部屋に戻ろう! 当番は僕だから夕食は一緒に、ね?」
「はい」
でも、それを理解した上でそう言うのは――
「何か食べたいものある?」
「久しぶりにフランス料理を食べたいですね」
――それは、あなたにとって私は必要ない存在だということですか?
「うん、美味しく作るね」
シャル……