Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「女の子の裸見といて謝罪がすまん一言だけですか!? あり得ません。死んでください。しかも口論した挙句にシャルロットを追い出すとか何様なんですかあなた! 死んでください!」
この人、女の子の裸を汚いものだとか思ってるんじゃないでしょうか?
信じられません。女の子の裸は薔薇より綺麗で宝石よりも貴重なものなんですよ!?
それをそんな簡単な謝罪で済ますなんて……最低でも土下座して靴舐めた上でその舌を踏み抜かれても仕方のないことだと思います。
「何様は不破さんの方だろ! 無理矢理女の子に男装させてたんだろ!? デュノア社のためとか言ってたみたいだけど自分が男装すればよかったじゃないか!」
また、この男は何も知らない癖にしゃしゃり出てきて!
「私が男装しても良かったんでしたら頑張りましたよ! それじゃ意味無かったから、シャルロット以外が男装するんじゃ意味無かったから彼女に男装してもらってたんじゃないですか! 大体なんなんですか! じゃあ、何百人と働いている人たちの生活よりもシャルロット一人を尊重しろって言うんですか!?」
実際はシャルロット一人が尊重された形にはなりましたが社員全員が納得した上です。
それでも表向きには会社のためにとシャルロットを切り捨てたような形にするしかなかったんです!
「そうじゃなくてシャルル一人が苦労するような計画を立てなくてもよかったじゃないか! もっとほかの方法を考えなかったのか? あいつ一人に苦労させればいいやって短絡的に決めたんじゃないのか? 自分には累が及ばないから!」
「ふざけないでください! 私はずっと! シャルロットと出会ったあの日からこの学園に来るまでずーっと! シャルロットが幸せを掴めるように思考錯誤を続けていたんです! それでも……それでも何も変えられなかったから! だから! だから……最終手段として、男装してもらったんです……」
シャルロットに恨まれても、他の誰かに責められても……それが罰なら全部を甘受しようって、いずれデュノア社に降りかかる火の粉も私が責任をもって振り払おうって決めたんです。
そうしないと、シャルロットとデュノア社の両方を守れなかったから。
「だから、どうしてシャルルじゃないといけなかった! なんで他の奴を男装させて俺に近づけさせるんじゃダメだった!」
「なんでって……!」
あ……
なんだ、そういうことですか。
気付いた瞬間、沸騰していた血液が一転して凍りついてしまったかのように心の温度が下がってしまいました。
織斑君……私は、本当にあなたのことを見損ないましたよ。
“他の奴を男装させて”ですって? ……こんな人に怒っていた私がバカみたいです。
「はぁ……帰ってください。これ以上話すことはありません。あなたの顔も今は見たくないです。シャルロットは女の子なのでとりあえず今日のところは私達の部屋に泊まってもらいます。男装は続けてもらいますけどね」
「なっ、いきなりなんだよ! まだ話は終わってないだろ!」
「終わりましたよ……少なくともあなたに私が責められる筋合いはなかったようです」
「なんだと……!」
「殴りたいならどうぞ。それ以上のことだっていいですよ?」
一歩、踏み込んできた織斑君に言葉を叩きつける。
……殴ろうが蹴ろうが裸に剥こうが構いません。
でも、織斑君がこれ以上私の行為を弾劾することだけは絶対に認めませんよ。絶対に……そう、絶対にです。
「……だって、あなたにはそんな資格もない」
なんで他の奴が男装するんじゃダメだった?
別に私が男装すればよかったと言うなら構いません。
ですが、織斑君はシャルロット以外の誰かが男装すればよかったなんて言いました。
それでは偶然シャルロットが男装させられていたから、シャルロットに同情しているだけじゃないですか……シャルロット以外が身代わりになればいいと思っているなら、私のことをどうこう言えませんよね?
「結局、織斑君は誰かのために怒っている自分に酔いたいだけなんですよね? だからシャルロット以外なら誰が男装してもいいなんてことが言えるんです」
「っなんだと!?」
「だってそうでしょう? さっきから織斑君は私のことを責めるだけ……これから、どういう風にしてシャルロットの現状を改善していくかなんてことには興味もなさそうですし」
「そんなことはない! 俺だって何かできることがあるなら、」
できることがあるならしたい、と言いましたね?
「織斑君以外、誰にも出来ないことがあります。しかもそれをすることでシャルロットとデュノア社の両方が助けられる最高のハッピーエンドを迎えることもできます……聞きますか?」
「もち、」
「あぁ、あとで騒がれても嫌なので先に言っておきますが、これを聞いてできないといったなら、それ以降にシャルロットのことに対して口出しすることは許しません。場合によっては私の周囲からあなたを排除します」
排除なんてできないと……そんな甘いこと考えないでくださいね?
唯一の男性操縦者だからって安全が保障されているなんてことはないんです。それぞれが欲しがっているのは織斑君が乗ったISのデータであって織斑君ではないんですから。
「それこそ薬漬けにして身柄を回していってもいいんです。表向きには公表できませんがね……あぁ、関係ない話ですけど技術の進歩のために使われた人命がどれくらいになるか、考えたことありますか?」
織斑千冬、篠ノ乃束、彼女達は黙っていないでしょうが知りません。彼女達にとっての織斑君が私にとってのシャルロットなんですから。鈴ちゃん達のことだってもちろん大事ですけど……やっぱりシャルロットが一番ですね。
恨むなら、男性なのにISに乗れるようにした篠ノ乃束を恨むんですね。
本当に偶然だったのなら神様の暇つぶしに巻き込まれたと嘆いてもいいんじゃないですかね。
「それで、手段を聞きますか? とは言ってももう聞くしかないですよねぇ?」
だって、聞かなかったとしてもシャルロットのために行動しようと思ってなんていなかったことになるんですから。
それなら私の話を聞いた方がいいですしね。
「…………」
「ねぇ、居座り続けるということは聞くという意思表示でいいんですよね?」
今更待ったはなしですからね?
そんな怖い顔しなくても、織斑君になら簡単にできることですから安心して下さい。
「織斑君がシャルロットを助けるためにできることはたった一つ、貴方と白式をデュノア社の手で調べさせることだけです」
「「「な」」」
織斑君だけじゃなくて鈴ちゃんとシャルロットまで驚いていますね。
第三世代型が作れないデュノア社が求めているのは男性用ISを開発する技術です。白式なら第四世代型のデータも手に入りますし一石二鳥ですし。
「ほら、シャルロットが男装しているのは織斑君に近付いてデータを掠め取るためという名目だったんですから。どうします? 織斑君ならシャルロットを助けられますよ?」
情報をフランスにだけ与えた織斑君がその後どうなるかは知りませんけど、ね……私には関係ありませんし。
「ちょっと待ってアリサ! それは私として……いいえ、中国として認められないわ」
「鈴ちゃん……いえ、鳳(ファン)鈴音(リンイン)。貴女が国の代表候補生として言っているのであれば私はこう答えましょう……人の国の事情なんて知ってことではありません」
……シャルロットとデュノア社を助けるにはそれくらいの出来事が必要なんです。
「すまん、シャルル……不破さん、俺には、できない」
「それでいいと思いますよ? 別にシャルロットに関わるなと言っているわけじゃないんですし」
皆さん深く考え過ぎです。
私はただ織斑君のプライドと名誉を傷つけただけなんですから。
「じゃ、今後はシャルロットの男装に関して何も言わないでくださいね? あと、他人のために怒っているなんて誤魔化しているナルシズムは早いところ捨てた方がいいですよ? 怒るなら本当に人のために怒って下さい」
「……悪いようにはならないんだよな?」
「三歩も歩いてないのに忘れるなんて……鳥頭ですか?」
男装に関してはなにも言うなと言ったはずですよ。
今回は見逃しますけどね。
「心配しなくてもシャルロットの居場所は私が作っています。あとは状況が整えば……あぁ、最後に男装についていいこと教えてあげます」
「……?」
「もしシャルロットが男装していなかったら、シャルロットは大怪我をしていましたよ? これも、シャルロットを守るための手段なんです」
本妻さんも今はもう口喧しい姑レベルの嫌がらせですが昔はシャルロットが死んでもおかしくないようなこともしていたらしいですからね。
フワとかいう殺し屋一家の娘を雇おうとしたこともあるとか何とか……もちろん断りましたが。暗殺稼業の娘でも私は人を殺したくないですし。
……その私がシャルロットを守っているんですから彼女にとっては皮肉なものですよね。
「まぁ、そういうわけで織斑君の怒りも見当違いだったんですよ。シャルロット以外から弾劾される謂れはありません」
「……悪かった」
一言つぶやいて織斑君は部屋から退きました。いつもと比べて背中が小さいです。
ここまで打ちのめす必要もなかったかもしれませんが……シャルロットを自分に浸るために利用してほしくなかったので。
◇
不破さんが、一夏にすごく怒ってた。
不破さんがしてきたことが否定されたから怒ったように感じたけど……アリーナで聞いた話から考えると僕のために怒ってくれてたのかな。
一夏も僕のことを想って怒ってくれてたけど根っこには不破さんが言ったみたいに違うものがあったのかも……別にそれが悪いことだとは思わないけどね。
むしろ、純粋に僕を守ってくれようとしてる不破さんの方が僕にはわからない。
自分に降りかかる弊害を全部我慢して、僕の傘になろうとしてくれてるみたい。
……やっぱり、初めて見た時と同じで僕達より一回り大人な感じがする子だと思う。芯が通ってるっていうのかな。
アリーナで、僕を守るって言ってくれた時は不覚にもドキッとしちゃった……不破さんも女の子なのに。んー、でもあの時のお姉さんにもドキドキさせられたから……僕ってそっちの気(け)があるのかもしれない。
不破さんは、彼女が守ろうとしている僕に恨まれてもかまわないと言ってた。僕の幸せだけのためにずっと頑張ってたとも。
デュノア社を経営危機から救うのだって僕の憂いを断つため。
でも……
たった一人で、何をするつもりなの?
彼女の背中にどれだけのものが乗っているのか想像がつかない……僕自身彼女に背負われているうちの一人なんだから当たり前なのかもしれないけど。
でも、少なくとも不破さん自身は自分がデュノア社の全員と僕の未来を背負っていると思ってることは判る。
そんなこと頼んでないのに、なんて言えない。
だって、あの人の奥さんからの嫌がらせが減ったのは不破さんのお陰だったってことがさっきの口論で分かっちゃったから……今はもう嫌がらせ自体がほとんど無い。
僕を守ることを伝えてくれなかったことはやっぱり許せないけど……でも、このちっちゃい身体を支えてあげられたらいいなぁって思うんだよね。
「うぅっ……鈴ちゃん、あとは頼みます……」
「はぁ、薬はいつものとこ。ぬるま湯は私が用意しておくから布団にくるまってなさい」
「え、不破さん? どうしたの?」
「あぁ、いえ、なんでもないです……」
顔真っ青なのに何でもないなんてことあるわけないよ!
どうしたんだろう? 薬って言ってたし、なにか重い病気でも患ってるのかな……? それなら僕のことなんか考えないで静かに暮していればいいのに!
「あぁ、大丈夫よ、いつものことだから」
「いつもこんなことになるなら余計にっ、」
「そうじゃなくて。その子、すごく怒ったり人に酷い意地悪したりするとお腹壊しちゃうのよ。なんだかんだ言ってお人好しだからすごいストレス感じちゃうんでしょ?」
「鈴ちゃん、別に私はお人よしでは、」
「あーはいはい、面倒だからさっさと布団に入る」
ぬるま湯を渡して不破さんが薬を飲んだのを確認した鈴が不破さんの背中を押してベッドまで連れて行く。
なんだか、ルームメイトというより面倒見の良いお姉さん……いや、お母さんみたいかも。この二人の関係も友達とか親友とかそういう感じじゃない気がする。
「鈴ちゃん、ごめんなさい……織斑君にひどいことしちゃいました」
「あー別に構いやしないわよ。アイツだって反省するだろうし、だいたい女の子だって分かった途端にポイント稼ごうとするなんてセコすぎるのよ」
「いや、一夏はそんな、」
僕が女の子だったから怒ってくれたんじゃないと思う。
やっぱり一夏も根はやさしい人だと思うし。
「はぁ……あのねぇ。そんなこと幼馴染の私が一番知ってるわよ。ま、今頃ヘコんでるだろうけど反省はちゃんとできるやつだからさ。アリサとギクシャクしたりはしないと思うから安心していいわよ」
「う、うん……でも落ち込んでるなら励ましてあげた方がいいんじゃないかな?」
「男のアイツはほっとけばいいから今はアリサよ。この子、体調悪い時はナイーブだから近くに人がいてあげないとね」
なんだか、鈴はいろんな人のこと理解しててすごいなぁ。
元から面倒見がいい方なんだろうけど……僕もそういう風に他人に気を配れるようになりたいな。きっと、僕が周囲に目を向けなかったからあの人が僕をどう思ってるかなんてことも考えようともしないで今に繋がった。
僕がもう少し素直になっていればシャルロット・デュノアとしてIS学園に転入できたのかもしれない。
……うん、今から少しずつ周りに気を配れるようになろう。
だからまずは――
「鈴、僕が不破さんを見ておくから鈴は一夏のところに行ってきなよ。本当は心配なんでしょ?」
「う……でも、アリサも心配だし」
「僕じゃ信用ないかな? そうだよね……今まで僕は不破さんのこと誤解してたんだし、しょうがないよね……」
なんて言いながらわざとらしく傷ついたふり。
「あぁもう! そういうのずるいわよ! じゃあ、一夏のところに行ってくるから、アリサはよろしく。その子、甘えん坊になるからちゃんと話聞いてあげてね? あとできれば手を握ってあげて、不安そうにしてたら添い寝してあげて。何なら抱きしめてもいいから。抱き心地は保証するわ。じゃあ行ってくる!」
「え、えぇ!?」
すごい早口……そんなに心配だったんだ。
まぁ、好きな相手があんなふうに帰っちゃったら気になるよね。不破さんの手前どうすることもできなかったんだろうし。
「そういうわけで不破さん、勝手に私がお世話することになっちゃったけど良いかな?」
「……アリサ」
「うん?」
「アリサって呼んでください」
顔が、紅い? ……照れてるのかな。
今まで怒った顔とか真剣な顔とかしか見たことが無かったからビックリしちゃった。
なんというか、すごく可愛い。
「うん、アリサ。これでいい?」
「は、はぃ……ぇ、えっと! 手を、握ってくれませんか?」
手!?
あ、さっき鈴が言ってたっけ。
……でも、なんだかドキドキするなぁ。今まで格好良いと思ってた人が無防備な姿を見せてくるんだから仕方ないのかもしれないけど。
「じゃぁ、握るよ?」
「ひゃ、ひゃいっ」
ドキドキドキドキドキ
ゆっくり、不破さんの手に僕の手を近づけていって……
ガチャ、バタン!
「「ひゃぁっ」」
「……あぁ、えっと……ゴメン?」
いきなり開いた扉に驚いて、誰が入ってきたのかを見ると、僕達と同じくらい顔が紅い鈴。
まだ戻ってくるほど時間は経ってないように思えるんだけど……
「どうしたの?」
「いやっ、えっと、その一応……一応ね、下着は変えておこうかなって思って……一応なんだからね!」
お、男の子の部屋に行くからってそんな気にしなくてもいいと思うんだけど……むしろしちゃう気なのかな? 今夜勝負を決めるわ! みたいな感じで。
「鈴ちゃんの勝負下着は下から二段目です……紅いのはちょっと過激すぎる気がするので黒にしましょう」
「わ、わわ、分かったわ」
えと、アリサって、意外と大人?
「じゃあ、行ってくる!」
この後、鈴がどうなったのかは知らないけど僕たちはとりあえず同衾したよ?
アリサが潤んだ目で手を離さなかったからしょうがなくって。も、もちろんそれ以上のことは……うん、ちょっと鈴ちゃんが言ってた抱き心地が気になって、好奇心で眠ってるアリサを抱きしめてみたりはしたけどそれだけ!
……僕達が起きた時も鈴はまだ戻ってきてなかったんじゃないかなぁ。