Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
ボーデヴィッヒさんとシャルロットが睨み合っています。
私のために争うのはやめてくださいっ! ……とか言っても良さそうな状況ですよね。一応事実ですし。
ただ、既にエネルギーが切れかけていたカゲロウをしまっちゃったので今は生身です。
この状態で二人――シュヴァルツェア・レーゲンとラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの間に入る勇気はありません。下手したら、ぷちっ♪ と逝けそうですし。
「いきなり発砲するなんて……僕達ついさっきまで戦ってたんだし、さっきのが不破さんに当たっていたら昏睡状態になってたかもしれないよ?」
「………………」
絶対防御すら貫通するダメージを受けた場合に操縦者の生体エネルギーを強制的にシールドエネルギーに変換し命
というか、そこまで私のシールドエネルギーを削り取ったのはシャルロットなのですが……セシぃでもあそこまでしませんよ?
「不破さん、どうしたの?」
「いえ、なんでもないですよ?」
今度は私が冷や汗をかく番でした。
……納得がいかないのでお説教は少し厳しくしましょうか。
というか、シャルロット油断しすぎです。
相手から視線外しちゃだめじゃないですか。昔も戦闘中に話すし、シャルロットには危険に対する意識が不足していますよ!
「こらー! おまえら何をしていた!!?」
ようやく監督係の教師が来ました。何をしていたはこっちのセリフですよ。今更来て何をする気ですか。もう全部終わってます。
とりあえず、面倒なことになる前に解決しちゃいましょう。
「大丈夫ですよ、先生。誰が一番格好良く実弾射撃に対抗できるかを競っていただけですから。それにグラウンドもあまり荒れていないじゃないですか。もし、このメンバーで喧嘩したら戦争と大差ないですよ?」
「……ふん。まぁいいだろう……不破! あとで報告書を提出しろ! 他の奴は戻ってよし!」
むぅ……またですか?
この人、なんでか知らないですけど私のことを敵視するんですよね。何が気に入らないんでしょう。
「はぁ、かすとわぐろすう゛ぁしゅ!……です」
「不破、今なんと言った?」
「フランス語で、了解しましたー! って意味ですよ? ですよね? デュノアさん」
「う、うん……っくす」
あ!? シャルロット、そこで吹き出しちゃだめですよ!
「……ふん、一時間以内にもってこい」
「うぃ、めるど」
「ふふっ」
シャルロット、我慢! 我慢です! ……と、ようやく行きましたか。
「デュノアさん。危うく怒られるところだったじゃないですかー!」
「ご、ごめ、だって、あはははは!」
そんなに面白かったですかね?
私はただ笑顔で悪口を言っただけですよ。
「ねぇアリサ、あんたあのハゲになんて言ったの?」
「ん、最初は失せろデブ牛、と。もう一つは了解しましたクズ野郎ってところですかね?」
「あ、あんたねぇ……」
頭痛い、とこめかみを押さえる鈴ちゃん。
いやー、だってあの人いつも私に厳しいんですよ? あれくらいなら言ったっていいと思います。
私、表面上は品行方正、文武両道に良妻賢母の優等生なんですけど……すみません、結構言いすぎました。でも、いったい私の何が気に入らないんでしょうか。
「ま、それはともかくとして……ボーデヴィッヒさん? 何を考えていらっしゃいますの? アリサさんに当たっていたらどうするつもりでしたの?」
私達が騒いでいる間にセシぃがキレていました……?
珍しいですね。普段はむしろ私達のストッパーなんですけど。
「待て、誤解だ。私は別に不破を、」
「ええ、そうでしょうね。それは分かっていますわ。ですがアリサさんが昏睡する可能性はあったのも事実なのです。それに対してあなたに何の責任もないと言われるのですか?」
「セシぃ、私に怪我はなかったんですし、そもそも飛び込んだのも私ですから「……すまなかった」……ふぇ?」
まさかボーデヴィッヒさんに謝られるとは思いませんでした。私の予想では偉そうにするな! みたいな感じで乱闘になると思ったのですが……
「……別に、許さなくても構わない。私の落ち度だからな」
え、えー!?
なんでしおらしいんですか?
私のイメージではもっと直情的な人のはずなのですが。
「えっと、気にしてません……よ?」
「そうかっ! いや、この埋め合わせは必ずする! 本当にすまなかった!」
今、笑って走り去って行ってしまいました……私、フラグなんて立てていないですよね? というか、さっき初めて話したんですけど。
まぁ、嫌われているわけではないのでいいとしますか。
「なんだったんでしょう?」
「なんだかんだで反省してたってことじゃないの?」
「無愛想なだけなのかもな」
おお。
自分も初対面で殴られているのに……織斑君もなかなか器が広いのかもしれません。
もし私が初対面の人に殴られたら……うん、殴られる前に反撃している気がします。
いえ、そんなことはどうでもよくてですね……なんだか波乱の予感がしますよ?
……まぁ、とりあえず、
「お腹空きましたし、シャワー浴びて戻りましょうか」
「そうだね。行こうか一夏」
そう言ってシャルロットが織斑君と……
「って、デュノアさん、ちょっと待ってください!」
「うん? どうしたの?」
うん? って小首をかしげる場面ではないでしょう!
何、ナチュラルに男の子の織斑君とシャワーを浴びに行こうとしてるんですか!
あなたは自分が女の子だってこと忘れたんですかっ!? もっと身体は大事にして下さい!
……とは言えないので、
「えっとですね。えっと、あー……ほら! 少し話したいことがあるので付き合って下さい! シャワーの前に!」
「え? え?」
「ほらほら! 織斑君はお先にどうぞ!」
「いや俺も待つ、」
「大事な話なので結構です! セシぃ達も待っていなくていいですからね!」
「は、はい……了解しましたわ」
「いやでも」
「男同士で入浴とかホモですか!? 非生産的です!!」
……あれ、私が言えることじゃないですね?
◇
「ふぅ……」
ようやく二人きりになれましたか……二人っきり?
……二人っきりってなんですか!?
急なことだったので私まだ心の準備とかできてませんというかそもそも二人きりになることすら月曜日ぶりですしあれも体感的には二カ月以上前のことであぁでも私が監察室でうたた寝してしまっているときにシャルロットがきていたようですしというか私はこれから何をシャルロットに話せばいいんですか!?
「えっと、不破さん?」
「ひゃいっ!?」
「いや、えっと……とりあえず座ろ?」
はい、と差し出された椅子に座って深呼吸……すぅーーー、はぁーーー。
まずは現状認識からです。
私達がいるのはアリーナ脇に設けられた休憩室です。自動販売機や簡単な購買部があってカフェみたいな雰囲気なのですが、今は私たち以外に誰もいません。
そして次にシャルロット。ここまで私が手を掴んで走ってきたので体温が上がったのでしょう。ほっぺたが薄桃色に上気していてそこはかとないエロティシズムを……ではなくてですね。どうして私が連れてきたのかを理解できていない様子です。
もしかして実はこの子、男装にあまり抵抗なかったりするんじゃないでしょうか? もしくは自分が男だと思いこむことで我慢しているとか……もしそうなら早急に手を打たなきゃいけませんね。
幸いあと一年あれば第三世代型は作り出せそうですし、流石に第四世代型が国によって開発されるのはまだ当分先でしょうからデュノア社の倒産は何とか防げそうです。夏休みあたりに私がちょこっと頑張りましょう。
「それで、話ってのはなに?」
「え? あぁ……いえ、実は特に話はないんですけど……」
「え? じゃあなんで僕を連れてきたの?」
「…………はぁ」
ダメですこの子。
個室だからって男の子と一緒にシャワーに入ることに抵抗を覚えないだなんて……
「デュノアさん」
「ん?」
「あなたの名前はなんですか?」
「えっと、シャルル・デュノア?」
「……シャルロット・デュノアですよね? もう、あなたは女の子なんですからあんな自然に織斑君と一緒にシャワールームに行かないでください!」
まったく! 女の子の裸はそんなに安いものじゃないんですからね!
……ってあれ? シャルロットが険しい顔をして……怒ってます?
「不破さんが、原因なのに……」
「あぅ……そうでした。ごめんなさい……」
……全く言う通りです。
私がそもそもの元凶じゃないですか……私はなにをやっているんですかね。
でも、だからと言って……というか、それとこれとは別じゃないですかっ!? もともとのプランから言っても女の子だってバレるようなことするのもダメに決まってるじゃないですか!
……もちろん、口には出しませんよ?
なんだか最近自分が逞しくなってきている気がします。
「……なんてね、冗談だよ? えへ」
「へ?」
「話すことがないならさ、さっきの約束の話をしてほしいな」
約束……?
あぁ、フランスで私が何をしていたかですね。
これを聞いてもらえたら……許してもらえるでしょうか?
「では……デュノアさんにとって社長さんはどんな人物ですか?」
「会社のために世間体とか外聞を気にする人、かな……」
「それは、デュノアさんを利用したからですよね? それじゃあ、もし社長さんがデュノアさんのこともしっかり考えていたとしたら……どうですか?」
「え?」
社長さんは冗談めかしてはいたものの、悪くても吸収合併される程度だろうと言っていました。つまり会社が危うくなることも理解した上で今回のシャルロットの男装の計画を進めていたのです。
本来なら社長として社員が路頭に迷うリスクがあることなんてしてはいけないのですが、自分がなんと罵倒されることになろうともシャルロットを守りたかった……いえ守りたいと思っているからこその決断だったのでしょう。しかも、あろうことか会社が潰れる可能性というのを全ての従業員に伝えて退職金も用意していると言ってしまいました。
社長さんの人徳のためか退職する人はほとんどいなかったらしいですが、全てをかけてシャルロットの立場を守ろうとしていたことには変わりありません。
最初は本妻さんからシャルロットへの激しい嫌がらせから、その次は第二の男性操縦者として世界から注目されることから……そして、いずれは世界を騙した女性と蔑まれることからも。
シャルロットが女の子だということが世界に露見した瞬間にデュノア社が彼女に強要したという声明を出すことが出来るよう準備もされています。
だから、本当は私なんかがシャルロットを守ろうと努力しなくても平気なんです。
「でも、そんな結末ではダメなんです。シャルロットだけが助かってもあなたは気にしてしまいますよね?」
「……その話が本当なら」
「……うん、今はそれくらいでいいです」
もとからすぐに信じてもらえるとは思っていません。
「とにかく、私もデュノア社の社員全員が路頭に迷うなんてことは望んでいないんですよ。父も雇われていますしね。それに、思いつきとはいえ計画したという責任は私にもありますし」
「えっと、不破さんはなにが言いたいの?」
何が言いたいか……今のだとそりゃ伝わらないですよね。
ちょっと恥ずかしいですが、ここはまぁ言う場面ですし恥ずかしさは捨てましょう。
「……私がデュノア社もシャルロットも守ります」
そのためにこれまでも色々と仕掛けをしていたわけですし。
「……どうやって?」
「えっと、まだ公表されていないのでシャルロットも知らないでしょうが、既にフランスの第三世代型ISの全体像は見えてきているのです。今週末には正式に研究チームも発足されるでしょうね。その中心になるのはジョルジュ・ベルレアン博士。その補佐にはかつてオンブル・ループとラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを組み上げた両研究チームの全員関わります。もちろん私の父もです。きっと一年あればとっくに完成していると思いますよ?」
「一年? どこの国も第三世代型の開発には二年以上かけているんだよ?」
「そこはまぁ……神様に感謝しなければいけないような幸運があったんですよ」
……タサキさんもきっと神様ですよね? 神様命融なんて会社……かは知りませんけど、とにかく怪しい団体に所属しているんですし。
彼女のおかげで第三世代型に必要な研究データを他世界から持ち込めましたからね。ある意味ではISコアと並ぶオーバーテクノロジーかもしれませんけど……まぁ、そこに数式と結果があって誰でも理解できる形になったならそれは普通の新技術になるんですし問題ないでしょう。
「だから、次のイグニッション・プランの選考で選抜されれば……いえ、脱落さえしなければデュノア社は安泰なんです」
「でも第三世代型がないフランスはそもそも選考対象外だと思うけど……今じゃ英独伊三国での競争だし」
「ふふ、そこは私の頑張りどころですよ」
第三世代型の方が第二世代型よりも有用だと誰が決めたんですか?
そんな幻想わたしがぶち壊します。
「まぁ、そういうわけで。デュノアさんは社長さんから愛されているんですよ」
「……でも、」
「信じられないというならそれでもいいと思います。社長さんも、私と同じでシャルロットが幸せならいいと思っているでしょうから」
………………あれ?
ちょ、ちょっと待って私!
私と同じで、とかなに言っちゃってるんですか! え、プロポーズ? プロポーズなんですか!? いえ、シャルロットのことは大好きですけどっていうか今私シャルロットって呼び捨てにしちゃいましたよねぇ!?
……変に思われましたよね?
「そっか……」
「いや、違いますよ!? 私が言いたかったのはデュノアさんに信じてもらえなくても頑張れるということで……!」
「不破さん……ありがとう。僕も自分なりに真相を探してみるね」
あぅ……意味深すぎたのか伝わらなかったようで安心なんですが……なんですかね? このもやもやする感じ。
「……夏休み。デュノア社ではフランス国内のIS関係者全てを集めてのパーティーがあります。そのとき、二人で行きませんか?」
そのとき、シャルロットのことを皆さんに紹介して……それで社長さんとシャルロットが話せるように私がセッティングをしましょう。
「うん……わかった」
楽しみになってきました。