Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「再戦」


25. Égal de la vengeance

 シャルロットが転校してきてから五日が経ち、今日は土曜日です。

 とは言っても、異世界に飛ばされた私にとっては二ヶ月半ですし、お昼を通り越して夕方まで寝てしまいましたし……あ、午前の理論学習、まるまるサボっちゃいましたね。

 明日、織斑先生の出席簿ですね。ところで先生はあれが普通に痛いのを知ってるんですかね?

 きっと叩かれたことないから可愛い生徒のことも叩けるんですよ。まったく……

 

「それで? 昨日戻ってくるはずだったのに今日の、それも夕方になってから戻ってきたことについての言い訳は?」

「……ごめんなさい」

 

 でも織斑先生より先に部屋で鈴ちゃんに怒られています。確かに連絡もしなかったので私が悪いです。

 もう、監察室(おつとめ)帰りなんですからもう少し優しくしてくれても……

 

「まぁ、良いけどね。これから一夏のコーチしに行くけど、来る?」

「そうですねー……うん、少し鬱憤も晴らしたいので行きます」

「鬱憤って……あんまり一夏をいじめないでよ? アイツ自信なくしそうだし」

「いやいや」

 

 鈴ちゃん、知ってますか? 日本の刀は熱した鉄の棒を何度も何度も叩いて鍛えられるんですよ?

 織斑君も男の子なんですから、やっぱり叩いて鍛えないと。

 ……まぁ、刀の場合は途中で折れたり刃筋が歪んだりすることもあるそうですが。

 

「ま、平気でしょう」

「?」

 

 なんたって主人公(男の子)ですからね。

 

 ◇

 

 ガキィン! ガガガガガガッ! ドンッ!

 

「織斑君対デュノアさんですか……これは酷い」

「むしろ的対デュノアって感じね」

 

 重機関銃《デザートフォックス》による面制圧射撃、アサルトライフル《ヴェント》による一点集中射撃。そして、意表を突いての高速接近からのブレッドスライサー……と見せかけて連装ショットガン《レイン・オブ・サタディ》の接射。

 それで勝負は決まりました。

 ショットガンって密接して撃つと身体に大穴が開くんですよ。そりゃ、シールドエネルギーを一気に持っていかれても不思議じゃないです。

 

「改めて、ISの装甲って硬いんただなぁ……ってことを実感しますね」

「わたくしのビームライフルや鈴さんの龍砲と違って実弾による射撃ですから威力が想像しやすいですわね」

「あれ、装甲が無かったら一夏の死体も残ってないわ」

「まったく男のくせにだらしない……と普段なら言うのだが、今回は仕方ないな」

 

 見学していた私達は言葉こそ違うものの感想は皆一様でした。

 つまり、

 

「「「「あそこまでコテンパンにしなくても……」」」」

 

 ということです。

 手加減しないシャルロット、素敵です。

 でも、絶対防御を発動させそうな攻撃しないでください。さすがに学園内でそれはマズいです。

 四人でシャルロットの攻略法を話し合っているところに二人が戻ってきました。

 さて、

 

「セシぃ、やりましょうか?」

「…………」

「セシぃ?」

 

 私を見ているので話を聞いていないわけではないようですが……どうしたんでしょう?

 

「今度はアリサさんがデュノアさんから距離を置くんですのね……?」

「……なんのことですか?」

「その必要はないってことよ、アリサ」

「り、鈴ちゃん……その妖しい笑いはなんですか?」

「ま、とりあえず一夏たちのところへ行こうか。楽しいことになるぞ」

 

 皆が「まぁまぁまぁまぁ」と私の背中を押して……ってせめてフィールドに降りるにしてもせめて階段で……観客席のフェンスから降りちゃいけないんですよ!? それに篠ノ之さんまで様子が変です!?

 

「……もう」

 

 シャルロットにはあまり近づきたくないのですが……仲が悪いとかそういうことではなくて、いろいろありますし。

 というか……皆、私とシャルロットの間にあるものを断片的にでも知っているようですが、なぜでしょう? 周囲からですと、私とシャルロットは月曜の朝と噂以外に接点がないように思われているはずなのですが。

 あ、でも鈴ちゃんと篠ノ之さんは噂のオリジナルをシャルロット本人から聞いていたんでしたっけ。それでしたら……あれ、でもそれだけですとやっぱり私とシャルロットを近づけようとする理由が分かりませんよ?

 まぁ、心情(乙女心)的には嬉しいのでいいんですけど……シャルロットの迷惑になっちゃいませんかね?

 

「別に何か思惑があるわけでもないわよ。ただ、同じフランスの生徒なんだから話せばいいのにってね」

「鈴ちゃん……もしかして最初からそれが目的で?」

「何のことかしら? あ、一夏が銃構えてる……っぷ! 何あのへっぴり腰!」

「そうやって話を逸らそうとしても……って銃に集中しすぎて他の生徒にあたりそうですよ!?」

 

 まったく、あの人は……本当に楽しそうにはしゃいじゃって。

 もう、子供じゃないんですからいちいちライフルくらいで喜ばないでくださいよ……

 

「あら、アリサさんがあれを見て笑うとは思いませんでしたわ」

「セシぃ? あぁ、兵器だからですか? 確かに銃を楽しそうに撃つ、というのは字面的にどうかと思いますが……私たちにもそういう時期はありましたしね」

 

 あれは、経験による知的好奇心が満たされるから喜んでいるんでしょうし。

 私の視線の先では一足早く織斑君のところへ着いた鈴ちゃんと篠ノ之さんが織斑君に呆れています。

 多分、銃を撃って初めて織斑君が自分の戦い方の無謀さに気付いたからでしょう。

 

「――でも、不破さんだって俺みたいな戦い方じゃないか?」

「はぁ……織斑君は何か勘違いをしていますね。私だって射撃戦はできるんですよ?」

「「「「「え゛!?」」」」」

 

 なんですかその反応は。もしかして皆さん全員私が格闘以外できないと思っていたんですか?

 

「だって、クラス対抗戦の時のあの大砲以外見たことないし……」

「てっきり俺みたいに純接近戦用のISなんだと」

「それじゃ第二世代型であるメリットがないじゃないですか……まぁ、アホみたいな容量の装備なので、結局第二世代型の長所を殺しているのはたしかですが」

 

 二つの装備で通常の物の十個分の場所をとっていますからね……でも装備を全部外せばシャルロットと同じような装備内容にできますし、シャルロットの装備の半分は私がテストしたものですからちゃんと使いこなせるんですよ?

 

「まぁ、私の戦い方が織斑君に似ている……あぁいえ、私の戦い方が織斑君の戦い方の上位互換なのは認めますけど、射撃が得意な相手だったら戦い方も変わりますよ?」

「む」

「はい、織斑君も不満そうな顔をするんだったら私に勝てるくらい強くなって下さいね?」

 

 言葉にしてあげませんけど結構期待してたりするんですから。

 ってことで、私とセシぃの戦いを見てもらいましょうかね。射撃を得意とする相手への新しい対抗策も考えましたし。

 

「ええ、いいですわ。でも「あ、そういえば僕、不破さんのISだけ見たことないかも」

「か、監察室にいましたからね……」

「……ということですのでお二人でどうぞ」

 

 ちょっと待ってください、シャルロット。

 その目はなんですか? 何で戦ってみたいなぁ、な視線を向けてくるんですか!?

 セシぃも普段なら自分の言葉が遮られたらマナーがなってないって怒るくせになんで今日は素直なんです!?

 

「僕も、格闘が得意な人の攻略法を探してたんだ」

 

 そんな、ニコニコされても……っていうか、私のこと恨んでいたんじゃないですか?

 ……あ、だからコテンパンにしてやろうということですか……なら、仕方ないですね。

 尋常に勝負です。

 

「手加減は……いえ、そうですね。織斑君に私の戦い方を見せると言いましたが中止です。私達を見ている観客さんたちにも悪いですが本気で勝ちに行きます」

「アリサ!?」

 

 あの日から、シャルロットがどれだけ強くなったのか見せてもらいましょうか。

 ふふ、愉しみですね。

 

「あら? アリサさんのスイッチが入ってしまいましたわね」

「スイッチ?」

「まぁ、簡単に言うのなら……最強モードとでも言いましょうか。あのアリサさんが負けたところを見たことがないです」

「でも、それなら普段からスイッチ入れていればいいじゃないか。不破はセシリアには割と負けているぞ?」

「確かに箒さんの言う通りなのですが……いまいちきっかけがなんなのかは分からないんですわ」

 

 それは簡単なことですよ。

 シャルロットが関わっていなかったからです。

 それに人目もありましたし……そのシャルロットと戦えるなら……体が熱くなりますね。

 というか皆さん私が監察室に籠もっていた間に随分仲良くなったんですねー。具体的には篠ノ之さんと。

 

「デュノア、負けても気にしたらだめよ。不破っていわゆる初見殺しだから」

「えぇ!? まあ、それなら、僕の特訓にもなるし……いいかな?」

「それ、一夏じゃ物足りないと言っているのと同じことだぞ。あと、多分訓練にもならない」

「そ、そう」

 

 そこー、あんまりシャルロットを脅かさないでくださいよー。

 私のイメージが強い人とかになったらヤなんですから!

 

「いくよ、カゲロウ」

「あら、また、少し変わったのですわね」

「ん、まぁ、そうですね」

 

 二ヶ月間の空戦を経て、カゲロウはまた少し変形しました。とは言っても尻尾(スラスター)が大きくなったくらいですけど。

 

「……あれ、そのIS……気のせい、かな」

「? ……さぁ、始めましょうか」

 

 二人してアリーナの中央まで歩いていくと、まばらに実習を行っていた生徒たちが散っていきます。

 多分、さっきのシャルロットと織斑君の模擬戦を見て、巻き込まれると考えたのでしょう。シャルロットの乱射は派手でしたから……

 

「いくよ」

「先手は譲りましょう」

 

 前回は不意打ち気味に先手を奪ってしまいましたからね。

 なにより格闘戦ならまだしも銃器を使われては先攻後攻なんて有って無いようなものですし。

 私とシャルロットの間にはだいたい二十メートル……瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使ってもシャルロットがなにかしらの銃を展開して撃ってくる方が速いでしょう。

 

「アサルトカノン……ガルムですか」

 

 ガルムって北欧の方の古い言葉で狼という意味なんですよ? 私のカゲロウ(影狼)にそれを向けるなんてとんでもないですね。

 ところで……先手を譲ると言った場合って避けるのは無しですか? ……無しですよねー。

 でも、まぁ当たってあげる必要もないので……うん、受け止めましょう。

 私には地道に鍛えた超高感度ハイパーセンサーがありますからね。

 連射されなければいける気がしますす。

 

 ダァンッ!

 

「アリサっ!?」

 

 避けようとせずに吹き飛んだ私に鈴ちゃんが叫んだ気がします。

 狙いは……右肩でした。

 甘いですよシャルロット。せっかく大抵のことから操縦者を守るIS敵なんですから頭を狙わないとダメですよ?

 もう、頭に飛んでくると思ってたからちょっと失敗しちゃったじゃないですか。

 

「いたたた……流石に弾の勢いを完全に殺すのは無理でしたか」

「え、嘘……」

 

 装甲に傷一つ無い状態で立ち上がった私にシャルロットが信じられない、といった声を出しました。

 まぁ、そうですよね。

 私も母様(ママ)にこれを見せられたときは軽く引きましたし。

 まぁでも、死合中に呆けてるなんて随分余裕がありますね。

 

「これ、返しますっ!」

 

 私の投げたものがシャルロットのガルムにあたりました。銃身はまだ無事なようですが……少しでも歪ませてしまえば封じることができますから狙い通りということにしておきましょう。

 シャルロットも展開を解きましたし。

 

「さっきのは……ガルムの、弾丸?」

「ええ。まぁ、弾丸が見えていて丈夫な身体(IS)が有るならキャッチボールと大差ないですよね」

「はは……そんなまさか」

 

 シャルロットの足下に落ちているのは小石大……六十一口径のはずなのでだいたい直径二センチ弱の弾丸。

 あの瞬間、右手で弾丸を包むように掴み、回転することで弾丸を受け止めました。予想はヘッドショットだったので慌てたのと意外と弾速が速くて勢いを殺せず転んでしまいましたけどね。

 投げ返したのは雹(ひょう)の応用です。

 

「では、始めましょう」

 

 ここからが本番ですよ?

 

 ◇

 

「ねぇ、セシリア、さっきのできる?」

「不可能ですわ。そもそもブルー・ティアーズのセンサーでは弾を捉えきれません」

「篠ノ之は? あんたも武術やってたんでしょ?」

「無理だな。刀があれば銃口の向きから射線を判断して斬ることもあるいは……とにかく、掴み取るなんてことは考えたこともない」

「そうよね。弾がほとんど見えなかった私は普通よね」

 

 鈴さんがどこか安心したように溜め息をつきました。そもそも篠ノ之さんの言ったことでさえ達人の域ですわ。

 そもそも銃弾が見えて、反応できる物なら誰も銃なんて使いませんわ。

 

「不破さんは、見えてた……よな?」

「そうだな。視線が銃口ではなく射線上を向いていた。始めから掴むつもりだったんだろう」

 

 こうして話してみると、それぞれが異なるところを見ていて面白いですわね。

 わたくしは実弾装備の参考にしようとデュノアさんを見ていたのですが、鈴さんはアリサさんがどのように避けるのかを、一夏さんと篠ノ之さんはアリサさんが何を視ているかを見ていたようですわ。

 日本の武芸においては何においてもまずは視ることが重要だと言うそうですし、お二人ともそれなりに武術ついて学んでいるからでしょうね。

 鈴さんはアリサさんの避けるときの癖を探し出して龍砲に生かそうと考えたのでしょうけれど……そのようなものがあればわたくしが既に見つけていますわ。

 

「鈴さん、あなたとアリサさんの相性は最悪なのですからアリサさんの弱点を探すよりもデュノアさんを研究した方がいいと思いますわ。きっと、鈴さんの参考になるでしょう」

「なに? セシリアってデュノアの戦い方知ってんの?」

「既に一度戦いましたから。わたくし、こう見えて結構な人数と戦っていますのよ?」

 

 一組ではあとボーデヴィッヒさんだけなのですけれど……あまり人と関わるのが好きではないのか機会が作れないのですわ。

 とにかく、鈴さんの中距離と近距離を使いわける戦い方はデュノアさんの砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)に通じるとこがあるので、きっと役に立つことでしょう。

 

「まぁ、見ようとしても見れないけどな」

 

 現在私達が捉えられているのは音だけ……アリサさんがいきなり塩の都の大火(ウリエル・ジャッジメント)で煙幕を張ったのですわ。

 大気中の金属塵(チャフ)と炎による熱でISのハイパーセンサーをもってしても詳しい戦況がわかりません。

 ですが、

 

「不破が押しているな。音が打撃音ばかりだ」

 

 篠ノ之さんの言うとおりでしょう。あのセンサーもろくに使えない煙幕の中で射撃は無茶です。

 所々、刃物の音もするのでデュノアさんさんも善戦しているのでしょうが……見えなくて退屈ですわ。

 

「鈴さん、あの煙、吹き飛ばしてしまいません?」

「……いいわね」

 

 アリサさんには悪いですが、一応、一夏さんの特訓なのです。見せなければ意味がありませんわ。

 決して、わたくし達が見たいからだけだというわけではないのです。

 わたくしはブルー・ティアーズのミサイルを、鈴さんは龍砲の準備をそれぞれ整えます。

 

「あの、岩が転がってる場所わかる? あそこ狙うわ」

「岩……あぁ、見つけましたわ。では……」

「「せーのっ」」

 

 二つの衝撃によって生まれた強風が目論見通り煙を吹き飛ばす。

 

 ◇

 

 煙幕の中、不破さんのISを走査する。

 オンブル・ループについてはフランスで調べたことがある。操縦者の情報は全て隠蔽されていたけど、それ以外はあまり伏せられていなかった。分からなかったのは基本装備(プリセット)の二つの装備だけ。

 だから不破さんのISがオンブル・ループだって分かった瞬間、攻略法は頭の中にできあがっていたのに……どうして僕が圧倒されてるの?

 塩の都の大火(ウリエル・ジャッジメント)だって本来は対暴徒鎮圧兵器であって対IS用の装備じゃないのにこんな間接的な使い方で戦況を作り上げるなんて。

 ハイパーセンサーを最大限に使っても砂塵とともに舞う微細な金属片が精度を格段に落とす……熱感知方式に索敵方法を切り替えても炎の熱でレーダーが真っ白にされるし。

 空気の流動と超音波反射、それと地面の振動探知を併用してようやく精度が七割程度。

 つまり十回に三回は的外れな場所に射撃を行っていることになるんだけど……条件自体は不破さんも同じはず。

 だから、普通はこんな戦い方をするISが無いわけだし。

 でも、あまり銃を使いすぎると不破さんから僕の行る場所が分かっちゃうし……実際、撃つと一瞬で距離を詰めてくる。

 なんとかブレッドスライサーで対応してるけど……

 ――注意、第三者による攻撃です――

 

「なっ!?」

「何があっても意識を逸らしてはいけませんよ?」

 

 僕の注意がほかに向いた瞬間、不破さんに腕を絡み取られた。

 でも、この技なら知ってる。

 

 ◇

 

 ――注意、第三者による攻撃です。戦闘記録に該当データあり。セシリア・オルコットによるミサイル攻撃と鳳(ファン)鈴音(リンイン)による空感圧作用兵器に合致――

 

 あの二人……試合が見れないからってヒドいです!

 煙幕の中なら私の独壇場なのに。

 基本は待ちの姿勢で臨み、相手が動いたら距離を詰めて一気に叩く……私のセンサー類もこの煙幕の中では精度が下がりますが、手間が増えるだけで金属塵によるレーダー攪乱も逆算してしまえば問題有りません。なので相手が動けば空気の流れ、音、そしてレーダーでほぼ確実に捉えきれます。

 まぁ、分割思考と発達したハイパーセンサーがあるからこそできることですがね。

 一瞬の隙をついてシャルロットの腕をとります。

 前回同様、雷(いかずち)で決めましょうか。

 

「それは、もう効かないよ?」

「え? ……っ!」

 

 シャルロットの不敵な声に嫌な予感がしたので地面に叩きつけずに遠くへ投げ飛ばしました。

 その瞬間に見えたものは、私に向けられていたサタディ・オブ・レイン。

 危うくわき腹を打ち抜かれるところだったようです。

 ……まぁ、そんなことより、

 

「鈴ちゃん、セシぃ! えこひいきですかー!?」

「見えないとつまらないでしょ!」

「鈴さんの言う通りですわ! それにこの集まりは一応一夏さんのためなのですから」

 

 つまり、織斑君のせいで私の完全勝利がなくなったわけですか……

 

「いやー、俺は別に見えなくても良かったんだけどな。二人くらいの模擬戦になると見ても分からないし」

「わ、バカ!」

「はぁ……」

 

 結局、織斑君云々は建て前で退屈だったんですね。

 もう……仕方のない人たちです。

 

「はぁ……気が抜けました。デュノアさん。終わらせましょう」

「うん、今度は勝たせてもらうよ?」

 

 あれ……気付かれてたんですね。カラーリングも白から黒に変えましたし、カゲロウの造形も随分と変化しているはずなのですが。

 

「さっきの投げは僕にとってもトラウマだからね……まぁ、その後のあれの方が怖かったけど」

 

 あれ……あぁ。

 

「これですか?」

 

 討鬼の鋼杭(ドラクル・ペイン)を展開してみせるとデュノアさんが少し動揺しました。まぁ、初めてと言ってもいい模擬戦で顔の真横を穿たれたら怯えますよね。

 

「でもね。もう負けないよ?」

「初めての時は気絶したのにですか? あのあと運んだの私だったんですからね?」

「へぇ……えっと、ありがとう?」

 

 ……シャルロットにお礼言われちゃいました! 今日はいい日ですね。

 

「不破さん」

「はい?」

「あなたのことは苦手だけど、」

 

 ……ですよね。

 こう、持ち上げてから落とすのはずるいと思います。流石、シャルロット。高度な心理戦を仕掛けてきました。私の勝率がガクッと落ちたのが分かります。

 

「でも、誤解をしてたのかもしれないと思ってる。あとで聞かせてくれないかな?」

「それは……」

 

 どうしてシャルロットに男装をさせたか……ですか。

 私のエゴなんですけどね……しかも裏目に出て失敗してますし。私の予定ではそもそもシャルロットはシャルロットのままIS学園に来れるはずだったのですし。

 

「分かりました……誰か、合図お願いします」

 

 目があった生徒に合図をお願いしました。上級生に見えましたが気にしません。

 お互いにシールドエネルギーはほとんど削られていないので討鬼の鋼杭(ドラクル・ペイン)灰色の鱗殻(グレースケール)での一騎打ち……ですかね。

 出は灰色の鱗殻(グレースケール)の方が速いですが、初撃からフィニッシュまでの時間とダメージは討鬼の鋼杭(ドラクル・ペイン)の方が有利です。

 合図の砲が上に向けられ……

 

 ダァンッ!

 

 銃声と同時に瞬時加速(イグニッション・ブースト)で接近。シャルロットは動かずに腰を落としています……待ち伏せですか。

 シャルロットの手にはデザートフォックス――灰色の鱗殻(グレースケール)ではダメージが足りないのを補う気ですね。

 でも、

 

「遅いですよ!」

 

 連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)で身体を横に弾く。角度はきっかり四十五度。

 急な進行方向の変更で内臓に負担がかかりますが、それを代償にシャルロットを振り回すことに成功しました。

 さらに方向転換し、シャルロットの右手側……つまり、灰色の鱗殻(グレースケール)とは逆の方向から突撃する。

 シャルロットはここにきてようやく灰色の鱗殻(グレースケール)を展開し回転、無茶な動きでしたが私の動きに追いついてきました。

 

 ――それでも私の方が速いですっ!

 

 討鬼の鋼杭(ドラクル・ペイン)の起動時間を予測して動かし始めます。密着(ゼロイン)と同時に放ちます!

 

 ズガンッ!

 

 私の打ち出した杭がシャルロットの装甲を、

 

 ――砕きませんでした。

 

 破砕音は私の右腕から聞こえました。

 上からの叩きつけるような衝撃が討鬼の鋼杭(ドラクル・ペイン)の杭先を動かし、シャルロットの装甲を穿たせない。

 そして、腹部に六連続の衝撃。

 灰色の鱗殻(グレースケール)での先制は考えられません。だとすると……

 

「はぁ……高速切替(ラピッド・スイッチ)ですか」

「えへへ、巧くいっちゃった」

 

 か、可愛いですね。でもそんなんだと女性だってバレちゃいますよ?

 シャルロットがやったことは単純でした。

 灰色の鱗殻(グレースケール)で私を迎え撃つと見せかけて展開を解除。代わりに左腕に展開したサタディ・オブ・レインで私の討鬼の鋼杭(ドラクル・ペイン)を破壊し、そこから灰色の鱗殻(グレースケール)を再展開してのフィニッシュです。

 高速切替(ラピッド・スイッチ)を随分と使いこなしていますね……

 

「あぁ……完敗です」

「やた! ……ずっと、あの時の女の子が目標だったから」

「私に勝ったって自慢できますよ? ……戻りましょう」

「うん……あれ、あのISって」

 

 シャルロットの目線の先には黒いIS……シュヴァルツェア・レーゲン。

 ここで、織斑君を討つ気ですか!?

 彼のシールドエネルギーはもうゼロなのに……!

 

「っ! 織斑君!」

「ぇ……ぐっ!?」

 

 銃を向けられ動けない織斑君を蹴り飛ばします……死んでないはずです。ISの装甲の感触でしたし。

 

 パァン!

 

 私に気付かずにボーデヴィッヒさんが銃を放つ。弾は織斑君のいた場所に座る私に向かって飛んできます。

 しまった……もうエネルギーが、

 

「避けられな……!」

 

 キィンッ

 

「……今のは?」

 

 目だけが捉えていた銃弾が何かに弾かれました。今の角度は……シャルロットですか?

 

「まぁ、実は僕も目がいいんだよね。練習もしたし」

 

 目を向ければアサルトライフル《ガルム》を構えたシャルロットが笑っていました。

 ピンチを助けられた……のでしょうか?

 どうしましょう……シャルロットが素敵過ぎて頭が真っ白です。

 でもシャルロットはあとでお説教です。

 最初の私の雹で銃身が曲がっていたかもしれないガルムを使うなんて……暴発したらシャルロットが怪我してたんですよ?

 

 「ふ、不破さん。どうしたの?」

 「いえ、なんでもないですよ?」

 

 優しくするつもりなのでそんなに怯えた目で見ないでくださいよ。

 傷つい(ゾクゾクし)ちゃいますから。


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