Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「大人の事情」


22. La circonstance inévitable

「なるほど、な。分かった。不破、もう授業に戻れ」

「え? えっと……え? それだけですか?」

 

 私がやったことは殴ったとか引っかいたとか、そういう次元のことじゃないのに……女の子の手に風穴を開けたんですよ?

 それなのに、話を聞いてお終いって変じゃないですか?

 

「詳しくはこれから会議で決める。だが最悪でも一、二週間の監察室行き程度だろう」

「ちょ、ちょっと待ってください! さっきも言いましたけど、私、原田さんにボールペンを刺しただけじゃなくて……く、首を折ろうともしたんですよ?」

 

 本当に、どうしてあんなことを考えたのか分からないんですけど、行動に移そうとしていたことは事実なんです。

 セシぃが止めてくれなければ今頃……

 本当ならよくて停学、退学だって当然のはずです。

 なのに、なんで……

 

「不破が根も葉もない噂が原因で虐められている、という報告があったことを主張すれば予想通りの結果になるだろう。本人に原因がないことで精神が不安定になっていたとな」

「私は……お咎め無しなんですか?」

「なし、ではないが一週間程度の謹慎だけだな」

「……分かりました」

 

 学園は何の理由があってかは分かりませんが私の責任を最低限にしようとしているるようですね。

 でも既に正式に代表候補生からも辞退したので、優遇される理由は皆無なはずです。

 まぁ……考えても分からないことなのでしょう。

 

「では自主的に私を罰します。思いつく限り最も痛い方法で」

「なっ!?」

 

 一息で討鬼の鋼杭(ドラクル・ペイン)を展開、一瞬の躊躇を無視して左手にあてる。原田さんと同じだけの痛みを自分に……穴の大きさは違いますがね。

 

「不破、それもお前には許されていない」

「……どうして、ですか? 先生、手を……手をどけてください!」

 

 あろうことか織斑先生は杭の射出口を素手で押さえました。単純な腕力では私に分があると理解したからでしょう。まったく、この人は恐怖とか感じないんですかね。私でも射出口の感触に手が震えるのに。

 ……でも、

 自分で責任をとることも許されないなら……私は、私の罪をどうやって償えばいいんですか?

 

「罪は罰せられないといけないんじゃないんですか……?」

「お前には一週間の謹慎という罰以上の罪はない」

「そんなわけ……!」

 

 それじゃあ、いったい何をすればこの学園から退学になるんですか!

 たとえ人を殺そうとも一年の停学程度で済んでしまいそうです……

 

「不破……お前だから、今回の措置だ。今、お前は織斑と篠ノ之、あいつらと同じぐらい学園にとって重要視されている。より正確に言うならば、危険視されている」

「……わけが、分かりません」

 

 私が危険視? いえ、確かに今回の件で危険人物だと見られるのは納得できます。

 ですが、学園側からしてみれば厄介な筈で、私を学園内に留めておく理由になりません。

 学園は何を考えているんですか?

 

「お前が罰を求める気持ちも分かる。だが、今回の結末は最初から決まっていた。これからの職員会議の内容も不破への罰ではなく原田の処理が主になるだろう」

「処理、ですか?」

「……いらないことを言ったな。忘れろ。これで話は終わりだ」

 

 ……これ以上は一言も話す気はないということを態度で示すように、織斑先生はデスクワークを始めてしまいました。

 もっと知りたいことがあったんですけどね……

 

「失礼しました」

 

 ◇

 

「悪いな、不破」

 

 今やお前は学園にとって簡単に手放してはいけない存在になっているんだ。

 一夏を含める専用機持ちとの模擬戦の勝率は八割を下回らない。素人の一夏を除外しても七割強をマークしている。

 

 オルコットがほぼ互角の善戦をするがISの扱い自体は不破の方が数段上を行っている。

 試合が互角な理由はお互いのことをよく知っているからだな。勝負を決めるのはオルコットの作戦がうまく戦況にはまるかどうかだけ……そういう意味ではオルコットも類希(たぐいまれ)な優秀さだと言えるだろう。

 

 鳳の甲龍(シェンロン)は燃費こそ優れているが、それは超短期決戦――十分未満という短い時間で敵を倒すことを是としている不破相手には意味をなさない。なにより第三世代型ISの中では燃費が良いというだけで、実際の戦場を想定した第二世代型と比べると見劣りする上、不破のオンブル・ループは普通の第二世代型ISよりも燃費効率がはるかにいい。

 目視不可能な空間圧作用兵器を上手く利用することでいくつか勝ちを拾っているが、龍砲の運用目的はあくまで牽制。決定打を与えることは難しい。

 しかも鳳の技術では不破との接近戦は試合にならない。

 長時間のヒットアンドアウェイという戦法を可能とする甲龍の特徴が不破相手では全く生かせないのだ。

 

 不破のオンブル・ループと同じ純近接型の白式に至っては未だに勝負にならない。

 私と同じ唯一仕様(ワンオフ・アビリティ)を持っているのだからもう少し頑張れとも言いたいが……ISを千二百時間以上――自己申告だが――操縦している不破を相手にしているのだから仕方ないとも言えるか。

 不破自体が生身での格闘を得意としているから格闘でアイツに勝てる操縦者はあまりいないだろう。その代わり試合に華が無いことは確実だな。

 

「私なら……暮桜がない今、腕一本、脚一本とのトレードで勝てるかどうか……」

 

 捨て身の覚悟で試合に臨めば負けることはないだろうが……それでは試合ではなく死合か。まぁ、不破が私を殺す気で挑んできた場合だからな。

 普段の試合では万に一つも負けないさ。

 

「だが、不破の強みはそれだけではない」

 

 不破の操縦精度もさることながら兵装自体も随分と変わっている。

 ……それもアイツは未だに試合中では撹乱(めかくし)以上の目的で装備を用いていない。

 あの無人機を問答無用で穿ち抜いた電磁投射砲(コイルガン)。

 砲の大きさや算出した必要エネルギー量から乱射できるようなものではなさそうだと判断できるが……それでもあの威力は規格外だ。

 火炎弾と榴弾を打ち出す二砲一対のアレは対群衆制圧用、格闘戦では打撃に先程の杭打ち機を織り交ぜるのだろう。

 誘導式のミサイルを放っても第二世代型でも運用が出来るように設計された疑似BT兵器が撃墜する。不破とISのハイパーセンサーのリンクが強固な為か実弾ならば例え音速で飛来するものであったとしても一定量なら捌けると本人が言っていた。

 不破の戦い方こそ近接型だが、装備のことを考えればいかなる距離での戦闘も可能になっていると見ていい。それに第三世代型よりも遥かに燃費の良い機体だ。

 どうやら、第三世代型の開発成功などと世界が一喜一憂している間にフランスは本当の意味での戦争の道具を作り上げていたらしい。

 ISは抑止力になるだけの、所謂(いわゆる)力の象徴であればいいという今の考え方とは真逆を行く、実際の戦場で最も有効な働きができる構成。

 そして、それを乗りこなしてしまう不破。

 それだけでも既に世界にとって十分な脅威であるのに不破の本当の危険はそこではない。

 

「オルコット、鳳とは既に親友と言ってもいいほどの仲。今の段階で既に整備士としての才能を現し始めている一松、三好。そして電子系統に強い二木……」

 

 仮にこれらの人員が纏めて亡国機業(ファントム・タスク)に寝返ってしまったら、世界は冗談ではなく破滅の危機に直面することになる。

 身内にだけ甘い不破だ。亡国機業(ファントム・タスク)の出す条件によっては牙をむく可能性がある上、それらの重要な人物からの信用が厚い。

 生徒会長である更識楯無でさえ、不破に対して他の生徒よりも深く関わろうとしている節があると見られている。

 逆に言えば不破さえキープできれば危険なことはない。

 

 ……というのが学園内での考えだ。

 

「あいつの担任をやれば分かることだが……不破は自分の身内を第一に考えても、それを守るために他を傷つけるほど利己的じゃない」

 

 むしろ、自分を身代わりに身内を救おうとする奴だ。亡国企業(ファントム・タスク)なんかに身を堕とすわけがない。

 

「だが、不破が学園に必要だという点で私も今回の決着には納得している」

 

 五月のクラス対抗戦の際、乱入してきた無人機に対して見せたあの攻撃力。

 一夏、およびデュノアの入学の影響で亡国企業(ファントム・タスク)だけでなく、各国からのスパイの襲来も予想されている。

 その時、あれだけの操縦者がいるかどうかで被害は随分変わる。

 現状の学園で不破より上位の者はそれこそ更識くらいのものだろう。三年の中にも優秀なやつは多いが……操縦者を傷つけないように戦うという考え方が出来上がってしまっている。結果、実力を発揮することが出来ない。

 その点、不破は暴走さえさせてしまえばそういったリミッターが無くなることは今回の件でも分かっている。無人機の件もあの時点ではまだ操縦者がいるという可能性も残っていたのに躊躇していなかった。

 巧く御することが出来れば更識以上の戦力にもなり得る……学園側にとって気を付けなければいけないのは不破と交友関係にあるものの保護だけ。ローリスクハイリターンというボロい賭け。

 なんにせよ、一般生徒一人を犠牲にするだけで不破を繋ぎ止められるなら安いものだ。

 

「なんてな……もしIS学園が普通の教育機関であったら顰蹙(ひんしゅく)モノだ」

 

 しかし例えるなら……そうだな、問題の度合いからしてみれば教師の校内暴力を黙認するようなものか。

 

 ◇

 

「これで、今日の授業は終わりだ。遊び過ぎて勉学を怠らないように」

 

 最後の授業の終わりを告げる教師の締めの言葉。

 普段なら、今からHRが始まるまでの間生徒同士の雑談で騒がしくなるのですが今日は静かなまま。それどころか授業中よりも緊張感が増したようにも思えます。

 教師という監督者がいなくなったことで私が暴れ出したらどうしようという不安が高まったのかもしれません。

 私に暴れるつもりがあるかどうかは別として、そう思われてしまっては仕方がありません。私が弁明したところで意味はありませんしね。

 でも皆さん安心していいんですよ? 少なくとも私は明日から金曜日までの間、学校にきませんから。

 

「…………っ!?」

 

 シャルロットがどういう反応をしているのかが気になって様子を窺ってみると偶然目と目が合ってしまい、慌てて私から目を逸らしました。

 ……冷静になってみれば逸らす必要性も無かったですね。

 でもシャルロットが私を見ていた理由はなんでしょうか?

 怖いから? それだったらそもそも見ないでしょう。

 やはりパッと思いつくのは昼間の事件とは全く関係ないことでの疑いの眼差しってやつですね。

 最初に拒絶されてからは私から近付いていないので改めて見られるようなこともないと思うのですが……あぁ、でもまだシャルロットが来てから一日しか経っていないんですよね。色々なことが一気に起こってもう一週間くらい過ごしたような気分になっていました。

 やっぱり、私は恨まれているんでしょうね……最初から素直にシャルロットと知り合っておけばよかったと、昨日からもう何十回と心の中で繰り返していますが、そんなんで時間が巻戻るほど世の中甘くないんです。転生なんてことはあるくせに。

 

「お前ら、HR始めるぞ。静かに……しているじゃないか」

 

 声と共に教室に入ってきた織斑先生が拍子抜けといった表情をしました。

 確認する前から静かにしろって言わなければいけない程このクラスは騒がしくなかったと思うんですけど。

 

「まぁ、昼間の事件だが原田の手に後遺症は残らないようだ。これから医者に行くから絶対とは言えないが腱は傷ついていなかったから、まぁ平気だろう」

 

 良かった……

 私の行動が原因で誰かの将来を左右するなんてことヤですからね。

 それも、前後不覚になった上での行動なので、正直心の底から申し訳ないと思うよりも先にどうしてああなってしまったのかという疑問の方が先に来てしまって反省もできませんでしたし。

 本当に一安心です。

 

「それで、残念ながら原田は自主退学の形で学園を去ることになった。親御さんがこんな危ないところに娘を預けてはおけないと言ってな」

「な……」

「どうした、不破?」

「……いえ」

 

 これが、職員室で言っていた処理ですか。

 生徒には今のような事情を説明して、他の場所――例えば定期的に開かれている各国との会合――では原田さんが今回の事件の原因なので責任をとらせた、とでも説明するのでしょう。

 結果、私に社会的なペナルティは発生せず、私だけが学園に残ることが出来るようになるということですか。

 もちろん、学園に残れるのは嬉しいのですが……やはり納得がいきません。

 一応、寮の一階に設けられている監察室という名の独房で金曜日まで謹慎ということになっていますが、部屋の造り自体は他の寮の部屋と同じなので一人で過ごす分スペース的には普段より快適ともいえますし、ベッドもシャワーも付いているのでなにも困りませんし。ただ部屋から一歩も出れないというだけなので連休に家から出ないでゴロゴロしているのと状況的には何ら変わりはありません。

 あぁ、私が監察室の内部を知っているのは使用したことがあるからではなくクラス代表としての仕事の一つに監察室の掃除当番というのが各クラス代表と交代であるからです。

 誰も使わないんだから意味ないじゃん、なんて鈴ちゃんと話していましたがまさか自分が使うことになるとは思いませんでしたね。

 

「これで、今日の学校は終わりだ。各自忘れものに気を付けて寮に戻るように」

 

 忘れ物しても採りに来ればいいだけなんですけどね。

 

 まぁ、学園自体が大きいので取りに戻ろうと思うと結局十分二十分とかかってしまうのですが。

 とりあえずは……原田さんに謝りに行かないと。学園側が一連の出来事の責任は彼女にあると決定しても……仮にそれが事実だとしても怪我をさせたことは謝らなければなりませんし。

 この状況で私に謝られても原田さんにとっては苛立つ原因の一つになるだけでしょうが。

 

 コンコン

 

「失礼します」

 

 保健室の扉をノックして中に入る。相変わらず保険医さんがいないんですけど……何してるんですかね。

 窓から外を見ていた原田さんが私に気付き一瞥しましたが再び窓の外を眺め始めました。

 既にこの学園から退学することになるのは知っているんでしょう。原田さんの行動は学園を去る前に景色を覚えておこうとしているようにも思えます。

 

「何しにきたの? 笑いにきた?」

「いえ、そういうわけでは……ただ、あなたに謝らないと、と」

「何について? 私に怪我させたこと? あなたのために私が退学になること? ……謝られたって何も変わらないんだから、意味ないじゃない」

「…………」

 

 原田さんの言う通り、私が謝ったところで何かが変わるわけではありません。ただ私が謝りたいから謝るんです。ただの自己満足かもしれません。

 できれば、私に対して怒りを向けてほしい……許された気がしますから。

 私は自分勝手な人間です。人に嫌われたくないから我慢しようとして、いつもはそれで上手く回っているのですが、たまに今回のように失敗する。その失敗を引きずるのが嫌で望まれてもいないのに謝るんです。反省からくる謝罪ではない分たちが悪いですね。

 そういう自分の汚さも人間なんてそんなものと誤魔化して言い訳を繰り返し続けているだけ……

 

「はぁ、私もバカしたわ。確かに今回は学園の言う通り私にも非があるわ。というか代表候補生に手を出せば私みたいな後ろ盾がない生徒がどうなるかなんて分かりきってたのに」

「そんな……私の行動はどう考えても過剰でした」

「それが許されるのが私と不破の立場の違いよ。大人の事情ってやつ」

「…………」

 

 なんで、原田さんは笑っているんでしょうか。

 私は彼女の将来すら奪ったのかもしれないのに。

 

「例えば、私があなたを許したとして……納得するの?」

 

 どうでしょう……うまく想像できませんが、本当に許されたのかとか謝るだけでよかったのかとか考えていそうです。

 私は結局なにかの代償を払わなければ気が済まないんですね。それを相手に強要したいほどに。

 

「不破、ちょっときて」

 

 窓際に飾られている花瓶を持ち上げた原田さんがこちらを向きました。

 ……罰が欲しいのとは思っていましたが、これは少し勇気が必要そうですね。

 

「ん? コレで殴られるとか思ってる? そんな度胸私にはないわよ」

「……ど、どうぞ、お好きに?」

 

 原田さんの言葉に少し安心してベッドに座っている彼女の傍まで近付きました。

 実際、私がしたことを考えれば花瓶で殴られても仕方なような気もしますけど……

 

「顔上げて」

「はい、んっ!? …………っぷはぁ!」

 顔を上げた途端、花瓶の水がかけられました。飾られていた花が顔に当たって少し痛かったです。少し臭いますし。

 ……これで、手打ちということでしょうか?

 

「っぷ! 変な顔。髪の毛に花絡まってるし」

「え、えぇ? どこですか?」

「そこ、あー違う! 逆だってば……てか座んなよ。髪も乱れてるし、整えてあげる」

 

 ……あれ? なんですかこの流れ。

 さっきまでは、確かに怒っていたと思うんですけど……

 

「私ね。怒るの苦手なのよ。少し時間が経ったら怒ってたことも忘れるっていうか……ま、そんな感じ」

「で、でも痛いですよね? 手に穴開いているわけですし……というか手は大丈夫でしたか!?」

「保険医の人が麻酔かけてぱぱっと縫っちゃったわ。後遺症もないみたい。痛かったから怒ってたけど痛くないとどうしても怒れない……っていっても麻酔が切れたらまた怒ると思うけど」

 

 原田さんは話しながら私の髪の毛に付いた葉っぱを取って、乱れた髪を手櫛で整えていきます。

 気持ちいいんですけど居心地は悪いです。

 鼻歌交じりの原田さんは本当に機嫌がよさそうで。

 

「私、不破が嫌いだった。他人に興味ないって態度だし、自分が嫉妬されるような見た目してるのに、それを誇らないし」

「普通、誇るから嫌われるんじゃないですか?」

「誇りすぎるとね。不破の場合は謙虚すぎて逆にムカつくのよ。天才が本気で自分バカですから、って言うような感じ? あんたが可愛くなければ私達はどうなるんだって話よ」

 

 そこまで可愛いとは思っていないんですけどね。

 背が小さいからそう見えているだけで……まぁ、それを含めて上の下とかそれくらいだとは思っていますが。

 

「私より可愛い人いますよ? 三好さんとか」

「一人じゃん。っていうか誰が可愛いとかそんなのはどうでもよくて、とにかく不破は気に障るのよ」

 

 いえ、シャルロットとかいますし。

 

「それは……ごめんなさい?」

 

 なんで私は怪我させたこととは別のことで説教されているのでしょうか?

 水をかけられたところまでは確かにお昼のことだったはずなのですが……

 怒りが続かないとは言っていましたから別のことで怒っているのかもしれませんけど……あ。

 

「それに、協調性ないのにクラス代表なんてやってるし、織斑君と仲良いし!」

「原田さんは織斑君派ですか……というか、もしかして無理して怒ってくれてます?」

「……気付かなくていいことを気付く鋭さも嫌い」

「ありがとうございます」

 

 つまり、私が怒ってほしいと思っているから怒っていたわけで……優しい人ですね。

 さっきの水攻撃もその一環だったのかもしれません。

 

「不器用ですね」

「自分から怒られにくる物好きに言われたくない。というか偉そう!」

「あぅ」

 

 調子に乗りすぎて脇腹を指で刺されました。

 

「嫌いだったって言ったけど、今はそれほどでもないわ。というか仲良くなってればよかったと思ってるわ」

「友達……ですか?」

「それ以外にどういう意味があったの? というより、多分、私はずっと不破と話してみたかったんだよね。昼間のノートも不破が、言っちゃダメですよ~って言ってくるのを待ってたのかも」

 

 ……また、私の判断ミスですか。

 あの時は原田さんがノートを私の机から取り出してシャルロットに暴露しようとしているんだとばかり……

 

「まぁ、ノートのこともあって不破に対してあんまり怒れないんだけどさ。傷を縫われて冷静になってみれば自業自得のような気もしたし」

「でも……私、原田さんのこと殺しかけましたよ?」

 

 

 そう言うと原田さんの顔色が変わりました。まぁ、当然だとは思いますけど。

 

「いやー、私もあの時は殺されるかと思ったわ」

「軽いですね!?」

「だって死んでないし?」

 

 原田さんって実は凄く肝が太いんじゃないでしょうか……?

 しかも、私に気楽に接してくれるとか器も大きいです。怒るのが苦手と言っていましたが実は並大抵のことでは怒らないだけなんでは……

 こんな考え方は都合が良すぎですかね?

 

「原田さんはこれからどうするんですか?」

「んー、せっかく不破と仲良くなれそうなのに退学ってのもね……ま、先生に交渉して、停学にしてもらいたいかな」

「えっと……私からも何か言いましょうか?」

「いらない。実は交渉材料もあるのよ。あ、そうだ」

 

 退学を停学に変えさせる交渉材料ってなんでしょう……IS学園の弱みでも握っているんですかね?

 でも、そんなこと言ったら逆に口封じされてしまいそうな気もします。

 照れ隠しのように頭をかいている原田さんを見ながらそんなことを思います。

 

「うん、晴れて退学免除になったら、私のことリカって呼んでよ」

「わ、分かりました」

 

 なんで原田さんはこんなにフレンドリーなんでしょう。人の心って分かりません。

 

  ◇

 

「今日から金曜日まで一人部屋暮らしですか……」

 

 入学当時に戻っただけではありますが、鈴ちゃんとの生活に慣れてしまっているので寂しさを感じますね。

 基本的に外出禁止で、食事も部屋に運ばれてくるようですから本当に独りきりになるみたいです。

 

「まぁ、携帯電話の使用が認められているので人恋しくなったら電話をすれば良いだけなんですけどね」

 

 ピリリリリリリ! ピリリリリリリ!

 

 一息つく間もなく電話がかかってきました。

 鈴ちゃんでしょうかね? 全く心配性なのですから。

 あ、でももしかしたら原田さんかもしれませんね。交渉の結果を教えてくれるのかもしれません。学園に残れるといいんですけどね。

 

「はい、もしもし?」

「こんばんはー。ご無沙汰していますータサキでございますー!」

 

 ピッ

 

 ただの悪戯電話でした。

 

 ピリリリリリリ!

 

 ……とはいきませんよねぇ。

 

「はい。タサキさんお久しぶりです。なんのようですか?」

「ええ! ご用があるんです。朝峰様……いえ、不破様の戦闘力が一定レベルを越したので出張戦闘が決まりました。今回は七十二日間分の出張となりますー」

 

 ああ……そういえば、そんな契約内容でしたね。

 たしか出張先での一日がこっちでの一時間らしいので、今回は七十二時間……ちょうど三日間ですか。金曜日の今頃には戻ってこれる計算ですね。

 ただ、謹慎中なのでいきなり私が消えても不自然ですし……書き置きでもしておけばいいですかね?

 どうやら、私は普通の校則違反では退学にはならないようですし。

 

「えっと……織斑先生へ――」

 

 こんな感じでいいですか。

 というかですね。契約を結んだのは私じゃなくて私の前の人なので守る義務はないんじゃないかなーとか思ったりするんですけどどうなんでしょう?




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