Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
これで大体五分の一再投稿し終わったことになりますね。
「あー……甘く見てたかぁ」
「昨日、デュノアさんと話したそうですけど……これはその影響ですか?」
「うん。まさかココまで速く広められるとは思わなかったから……今日どうにかすればいいかって思ってたのよ。正直この速さはあり得ないわ」
朝、鈴ちゃんと寮の部屋から出た途端に周囲の人からヒソヒソと噂話をされています。
……気持ちの良いものではありませんがこうなってしまっては私にもどうにもできませんね。直接言ってこないのがせめてもの救いでしょうか。
人の噂も七十五日。
それくらいなら耐えられますし……そもそもシャルロットの今後の行動によってはあと二週間程度で休学届を出してフランスに戻り、場合によってはイグニッション・プランに殴りこむことになるわけですから。
ただ、噂から逃げたと思われるのは癪ですね……いっそのこと一暴れして退学にでもされましょうか。
「アリサ、アンタが泣かなくて良かったと思うけど……少し、その、抑えられない?」
「何をですか?」
「理由さえあれば返り討ちにしてやるってオーラ」
「そんなこと考えてませんよ?」
別に私が我慢すれば平和なんですし。
でも、通り過ぎる人のほぼ全てが私とシャルロットに関する噂話を知っているようですね……聞かれたのが昨日のお昼だとしても鈴ちゃんの言うようにあり得ない速さで広まっていますね。
誰か、私を排除したいと考えている人が広められるだけ広めているのでしょう。一人が二十人程に広めればそのあとはすぐに広まってしまいます。
仮に裏掲示板などというところがあれば、そこに書き込まれるだけで夜の内に殆どの女子生徒が知ることになるでしょう。女性というのは良くも悪くも噂に耳ざといですからね。
彼女達の潜めた声での会話を聞けばどんな噂が流れているかもわかります。
「私は男を誑かして会社を乗っ取ろうとしている悪女だそうですよ? しかもデュノアさんのお父様も寝取っただとか」
失礼しちゃいます。
社長さんは確かに渋くて素敵ではありますが、それだけですよ。私だってシャルロット一筋ですし。
というか、こんな噂が広がっても気にならないんですよね。私にとってシャルロットとセシぃと鈴ちゃん、三人娘におまけで織斑君と篠ノ之さんあたりに嫌われていなければいいので。
あぁ、楯無先輩もですね。
現状の問題は一番嫌われたくないシャルロットに一番嫌われているということですが……
「……まったく気にならないっていうのも問題ありよ」
「なんと言いますかね。はっきり言ってしまえば彼女たちの殆どは私の人生に関われない程度だと分かり切っていますし」
「はいはい、煽らないの」
そもそもISコアは今のところ数が限られているんです。だから一国家に十数機、もしくは数機しか配備されていないのに生徒は各国家から数十人単位でやってくるんです。仮に半分の生徒が整備課に進むとしてまだ多いですよね。
そして、そのどちらにもなれなかった人間は社会の底辺となるだけです。
だって、IS学園の生徒は一般教養の授業なんて受けてないんですから大学に進むことも難しいですし、ISに関係する仕事に就けなければただの屑です。
実際にはISに関われない卒業生はいくつかの企業に優先的に割り振られるのですが……正直使い物になりません。
デュノア社でも扱いに困っていましたからね。仕方ないので、たいていは私の模擬戦相手(サンドバッグ)になって頂いていました。
いえ、別に彼女たちが社会の害悪になるとか、そういうことを言っている訳じゃないんです。ただ単に、このまま進むだけでそれなりの立場を約束されている私から見て、たかがIS学園程度の狭い世界で私の立場を貶めて優越感に浸ろうとしている誰かの将来の心配をしているだけなんです。
しかも、私に対して有効ではない手段なんですから……怒りとかそういうのを通り越して不憫です。
「アリサ、やっぱ苛々してるでしょ」
「そんなことは……あるかもしれませんね。慣れたからと言って視線自体が私にとって不快だというのは変わりありませんから」
「はぁ……ま、アリサの言うことも分かるけど。なにもかも嫌になって自分の破滅も厭(いと)わないんだったら、私達は今すぐ、この瞬間にも何百人と殺すことができるわけだしね」
おぉ、鈴ちゃんもISの兵器としての側面を認めているのですね。そうですよね。特に専用機持ちはそうでなければいけませんよね。
でも、わざわざ周囲の人に聞こえるようにそれを言う必要はないと思います。皆さん怯えているじゃないですか。
「鈴ちゃんも、怒ってくれてるんですね?」
「なっ! べ、別に私はアリサがどうとかじゃなくて……ただ、幼稚で馬鹿なことやってるのが気に入らないというか、ってなにニヤニヤしてるのよ!」
「鈴ちゃんはかわいーですねぇ」
所謂(いわゆる)、ツンデレという奴ですかね。つい、口元が緩んじゃいます。
「……それで、アリサは今日の放課後どうすんの?」
「んー? そうですねぇ。ストレス溜まるでしょうし……中央タワーの下降時回避訓練でも行きますよ」
下降時回避訓練。
正式名称は上空からの下降時集中射撃に見舞われた際への対処訓練とかそんな感じです
「ん? 避けるだけじゃストレス解消できないでしょ?」
対処訓練なので必ずしも回避は必要ないのですが、タワーの壁面からランダムな位置から57機のサブマシンガンによる一斉射を受けるため回避訓練だと誤解されています。
「もちろん57機、全部破壊しますよ?」
「待って、あそこ、確か壊すにしても高速移動中での精密射撃を鍛える場所であって、アリサみたいな純接近戦闘型ISが行くような場所じゃないわよね?」
「えぇー? 叩いて潰さないとストレス解消になりませんよ? 連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)を使って次から次へと」
「それもアメリカの虎の子の技術じゃなかった!?」
あれとはまた違うんですけどねぇ。
アメリカのタイプはどうもイメージ・インターフェイスを使ってるみたいですけど、私の場合は分割思考をつかって左右のスラスターを個別で動かしているので。
私の方が少しアナログな手法です。
そういうわけでそれとPICとを活用すれば中央タワーも殴り攻略できるんですよ。
「そんなのアリサだけよ……というか、それなのになんで候補生辞退するのよ」
ちなみに、自動射撃は可能な限り射線を避けて移動して、当たりそうなものは
まぁ、中央タワーの管理責任者の方の話では接近戦闘型で無傷攻略したのは私だけだそうです。
セシぃとかシャルロットとかも無傷攻略できると思うので自慢にもなりませんけどね。無傷なら射撃でやっても結果は変わりません。むしろリスク管理という意味では私の結果が最悪ですよね。
皆さんあまり知りませんけど、ガーデン・カーテンや五十九口径重機関銃(デザートフォックス)はラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡとの共有装備なので、カゲロウでも使えるんですよね。
狙撃以外の実弾射撃はIS同士での戦闘においてはあまり意味がないと思っているので使ってないだけです。
先程も言ったようにISは数が限られているので、戦場でIS同士が戦うことなんてありませんから基本的に現代兵器を一方的になぶるだけですし。
「前も言ったように、二人いても意味ないからですよ。私ができることはデュノアさんも違う方法で実現できますし、その逆も然りです」
本当はフランス唯一の代表候補生という、ある種のVIP待遇にして本妻さんが手を出せなくするためですけどね。
それだけじゃ弱いから男装までしてもらっているのですけど……本妻さんも少しはシャルロットのことを認めてほしいですね。
時間が経つごとに行動が派手になっているというかなんというか……社長さんが宥めたり、秘密裏にSPを付けたりしていなければ大怪我していたかもしれないときだってあったんですから。
一見、派手にしすぎと言える私達の行動も実は最低限なのです。
とはいえ、シャルロット一人のために社の運命をかけているのも否定できないのですが。
……まぁ、全部裏目に出てしまいましたがね。まさか、シャルロットが私のことを訝しんで調べていたとは思いませんでしたよ。
実際、シャルロットに接近せずに社長さんたちとこそこそ密談を重ねていた私はさぞかし怪しく見えたことでしょう。
「はぁ、噂はどうでもいいですが……教室入りづらいですね。入った瞬間注目されますよ」
「……まぁ頑張って?」
「投げやりですねー」
そのまま鈴ちゃんは二組の中へ……えー、本当にいっちゃうんですか?
まぁ、気にしていないと言った手前、付いてきてなんて言えないですし……気分はあれですね。一人だけ二時間目の途中で登校する感じです。
気が重いです……でもシャルロットを巻き込んだ以上、誰が噂を広めたのかは調べないといけませんね。
「おはようござ、」
「不破ちゃーん!! デュノア君のパパ様寝取ったとか嘘だよね!? 不破ちゃんは好きな子一筋なんだよね!?」
おぉう……
「おはようございます二木さん。その話、誰に聞きましたか?」
「えーと、隣のクラスのチェルシーだよ? チェルシーも人から聞いたらしいけど」
「又聞きですか……まったく、私はおじさん趣味ではないのですが」
社長さんは恰好好い人ですけどね? 趣味ではないってだけで他意はありません。
「不破ぁ、犯人探しすんのぉ? それなら裏サイトにも書き込まれてたから管理者にきけば?」
「三好さんおはようございます。ここにも裏サイトなんてものがあったんですね……でも、匿名なんじゃないんですか?」
悪口とか書き込むためのところ、というのが私の裏サイトの捉え方なのですが、匿名じゃないなら陰口言えないですよね?
「ん? あぁ、匿名だよ? ただ、サイトが完全会員制になってるから管理者からはどのIDの持ち主がなにを言ったのか分かるってこと。一人一人違うからね」
「なるほど……でも管理者ってだれです?」
「それが分からないんだよねぇ」
って、ここまできてそれですか……
「え、えっと不破さん!」
次は一松さんですね……目が泳いでいるし、なにやらテンパっているご様子。
……なんて、理由は分かっているんですけどね。
先程から二人一組で私の前に立って、残る一人が背を向けて私の机に向かっています。それぞれの手からは化粧落としのにおい。
……油性ペンの落書きに効き目がある物って少ないですからね。聞いた話によるとワサビがよく効くらしいです。
「いいですよ、隠さなくても。何が書かれているんです?」
「いやぁ、不破は見なくて良いと思うよ? ねぇ?」
「と、というかなにも書かれてないよ!? みぃちゃんなに言ってるの!」
一松さんの指摘に三好さんがはっと口を閉じる。私、かまをかけたことになるんでしょうか?
「……何も書かれていないなら机に行ってもいいですよね」
「あ、ちょ、不破ちゃん!? 見ちゃダメだよ!」
机の天板を擦っていた二木さんに退いてもらいました。
既に半分以上が三人によって消されていましたが――今度、化粧落としを買って返さないといけませんね――それでも結構な量の言葉が書かれています。
――淫売
――社会のクズ
――シネ
――消えろ
その他いろいろ。
というか矢印を書いてゴミ箱とか、いつの時代の人ですか。
……セシぃは私に関わると専用機持ち同士の繋がりが意識されてしまって武力による示威行為になってしまいますから我慢してくれていたみたいです……そういうことにも気を付けるよう専用機持ちに対しての校則もありますし。
確か、学内において生徒間に諍いの原因になるようなことがあった場合、専用IS保持者同士のあからさまな交友は自重すること……でしたっけ。
今までは学年一人いるかいないかという専用機持ちでしたが、今年は織斑君の影響で多いですからね。
私を含めて七人。篠ノ之さんが手に入れることになるので将来的には八人。
ここまで増えてしまうといらない諍いが起きる可能性も大きくなるので、私達の行動が限定されるのも当たり前ですね。
「お前ら朝から騒ぐな。それではHRを始める」
もう始業時間ですか。次は確かIS用兵器の基礎理論でしたっけ。
とりあえず準備をしてしまいますか。私の机を見た織斑先生が顔をしかめましたがアイコンタクトで穏便に済ましてもらいました。教師とクラス代表だけが使える特殊技能です。
「痛っ……!」
指先に鋭い痛み。
机から手を出してみれば人差し指から血が出ています。
……落書きの次はカッターと画鋲のトラップですか。中学生みたいなイジメですね。
まぁ、この程度なら一度経験しているので慣れて、
「って、これは中学生レベルではないですね……無駄に凝ってます」
トラップを取り除こうと机の中を覗いて絶句しました。
どうやら私はかなり運が良かったようで、本来なら手首から指先までが一気にズタズタになっても不思議ではないくらい、多量のカッターと画鋲が巧妙に配置されてました。
設置に何十分かけたのか知りませんが纏めて撤去させてもらいます。
頑張ってこれを作った人のことを考えると、ほんのちょっと気分がいいですね。
「でも、私のクラスの何人かも、これに関わっているのでしょうか……?」
最近は、少しは仲良くできていると思っていたのですが、もしそうなら、ほんのちょっぴりですけど悲しいですね。
って……あれ、ノートもありません。
寮には持って帰ってないですし、どこかに置き忘れましたんでしょうか?
でも、ノートを持ってどこかに行くことなんてまずないですし……まぁ、盗られたんでしょうけど、他のノートに書いておけばいいですね。
「えーと……ISのコアは従来の材質、方式と比較して数倍から数十倍のエネルギー生成が可能であり、それと同時に理論上での構想しかなかった多数の兵器が――」
ISの基本技術となるPICですらこれまでのエネルギーでの運用は不可能ですしね。
私の
「しかしながらエネルギー効率の問題から本格的な実現がなされていない技術が数多くあり、今後の技術の発展に期待が寄せられている……と」
いやいや、期待が寄せられているなんて、それだけのこと授業で言わないでいいじゃないですか。
えっと、長年研究が続けられているにも拘らず未だに実用化されていないのはプラズマ砲、反物質生成にステルス化ですか。あれ、ステルスって今でも……あぁ、ユーディの光とはまた異なるアプローチによるものですか。目標は一メートルという短い距離においてハイパーセンサーを使っても目視できないレベルって……いや、不可能じゃないですか?
でもこのジョルジュ博士という人、実際にソフトキルによるハイパーセンサーによる探知も同時に逃れようとしているようですし、レーダー探知においてのみなら達成目前みたいですね……あ、しかもフランス人じゃないですか。社長さんに連絡して貰いましょう。
どの第三世代型ISでも達成されていない完全ステルス。
目視もできずレーダーにも検出されない……実現できたとして、射撃では兵装と機体での温度の違いで熱源探知が効いてしまいますから実装機では装備を使わない近接格闘が基本になりそうですね。
「第三世代型ISのイメージ・インターフェイスは操縦者の想像力を最大限に生かすことにより従来のアナログ方式による入力では操作の難しい兵器の運用が可能になった。このクラスでは……オルコット、ボーデッヴィッヒ、あとは織斑のISがこれにあたる」
「せんせー。第三世代型と第二世代型、どっちが強いんですかぁー?」
「現状、アリーナなどの狭い範囲における一対一の戦闘においては第三世代型の方が有利だとは言われている。ただし戦争などの広範囲における長期戦では燃費の悪い第三世代型より後付装備(イコライザ)による多目的運用が可能な第二世代型の方が有用ではある……とはいえ結局は操縦者次第だな。そこの不破は第二世代ながらオルコットと織斑を下していることだしな」
ちっ、といくつかの舌打ちが聞こえました。
いえ、気にはしませんけどね……僻む前にもっとやるべきことがあるんじゃないですか?
別に私だって才能だけでここまで来たわけではないんですし、初期検査におけるIS適性のA判定は数こそ少ないものの適性は上がるものなのでC判定以上があれば十分追いつけるんですよ?
それこそ私みたいに四桁時間くらいISを起動していればISだけじゃなくて人間自体もISに適応されていくんですから。
私に僻むばかりで追い付こうと努力しない人には何においても負ける気はありません。なのでこうした疎外感だってへっちゃらです。
へっちゃらなんですってば! うぅ……
目聡くて厳しい織斑先生の授業なので舌打ち以上のことはありませんが他の授業だとどうでしょう。授業だけやってそれ以外のことには関心を向けない先生もいますからね……紙くずとか投げつけられちゃったりするかもです。
「これで今日のところはお終いだな……各自、復習をしておくように」
最近は座学のほうも内容が面白くなってきたのでいいですね。
次の授業は基礎整備学ですね。将来、操縦科と整備科に分かれるので一年生の間は両方やらないといけないんですよ。
ああ、そういえばノートを探さないと。
「シャルルくーん。私、今日の朝こんなノート拾ったんだけどさー」
突如聞こえた耳障りな声にボールペンのキャップをはめようとしていた手が止まります。
あれは……原田さん、でしたっけ。
声質や音量も普通なのに苛立ちを感じるのは声に混ざった悪意があるからでしょう。
まだ、私の名前は言われていないのに私に関係するということがすぐに分かります。
「これ、どうも不破さんのなんだけどさー。ちょっと中見てみたら、すっごいんだよ」
中身……?
あれは授業用なのでそんな大それたこと、
「なんかさー、不破さんの好きな人のことがちょこっと書かれてたんだけどね。その名前がどう考えても」
――女の子の名前なんだよね。
ああ……ダメです。
それは言ってはいけないんです。
ずっと、隠さないとシャルロットの負担になるから……今みたいな状況では受け入れてもらえるわけもありませんし……
だから、
「ほんと、同性愛とかあるんだねー。IS学園に来たのも女の子がたくさんいるからだったりして」
だから、シャルロットもこれ以上聞かないでください。
聞かないで……
お願いですから会話をやめてください。
「あ、名前? それはねー。えっと……あった!」
あなたもそれ以上口にしないで。
その名前を呼ばないで。
言わないで……
言わないで……
「シャル、」
「いうなぁぁ!」
ザクッ
「痛っ!? なに……あ、あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
彼女が持っていた私のノートが床に落ちました。
なぜって、彼女の手に私の投げたボールペンが突き刺さって半ば貫通したからですよ。
いい気味……私にとって大切な名前を薄汚い口で言おうとするからそうなるんです。
でも、人のものを床に落としちゃダメですよ?
クスクス
「アリサさん!? しっかりしてくださいませ!」
「セシぃ? 私はしっかりしてるよ? だから、私に敵意を向けてくる人を黙らしただけです。ああ、今は売女(ばいた)みたいに卑猥で汚らわしい、聞くに耐えない鳴き声をあげていますけどね。耳障りなら……黙らせましょうか?」
未だに泣き叫ぶソレに歩み寄って首を掴む。
人体には明るくありませんが、首を折れば黙りますよね?
「アリサさんっ!」
パァン!
痛いですよ……なんで、叩くんですか。
「アリサさん! あなたはまた昔に戻るんですの!? 見たくない物から目を背けて、自分の殻に引きこもるんですの!?」
五月蠅いですね……なんでしたら、またあの時みたいに昏睡(ねむ)らせて……
……あの時? 昏睡?
「ぁ…………私、は?」
一体、何をしようと……?
あの女子だけでなくセシぃまで?
そんなことよりも、私はあの子を自分のために傷つけた……?
自分のためのわがままで、必要以上の力を使って?
「ち、違うんです。私、私、そんなつもりじゃ……!」
「アリサさん、落ち着いてくださいませ! 今しなければならないのは後悔でも懺悔でもありません! そこの方、原田さんを保健室へ! それと織斑先生を呼んできてください!」
「あ、うん!」
違う。
だって、あの子が言っちゃいけないことを言おうとするから。
私を害そうとしたのは向こうが先です……でも、私はやりすぎましたか?
あの瞬間、世界がひっくり返ったような気がして……善悪とか自戒とか全部意味がなくなったような気分でした。
そして、ただ自分を守るために……人を傷つてしまったんです。
どうして、いつものように我慢できなかったんでしょう。
どうして……?
「痛いよぉ……なんで……」
女生徒が手を押さえながら介助の人とともに外に出ます。
未だにボールペンは刺さったままでした。
私が使ったのは圓明流の裏の業、雹(ひょう)でしょう。石や鉛玉を高速で投げつける、銃に対抗するために編み出された業。
先が尖ったものならば確かに突き刺さるでしょう。
……私が狙ったのが手でよかったです。首や顔だったら手遅れでした。
「不破、なにが起きた?」
「織斑、先生」
「……原田の手の様子を見た後、職員室で話を聞く」
「はい……」
今日はちょっと忙しいので12時、18時、00時の投稿は無しになると思います。