Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「それで、僕に何か聞きたいことがあるんだよね? 篠ノ之さんと、鳳(ファン)さん?」
むぅ、不破の言うことと事実が矛盾しているからつい鳳に付いてきてしまったが何をするのか全く分からない。というかデュノアはなぜ必要なのだ。
「一応聞くけどアリサのお弁当に何かしたなんてこと無いわよね?」
「なにもしてないよ。僕、今日は一夏といたから疑うなら、」
「信じるわよ。一応って言ったでしょ。どうせ、アリサをよく思ってないどっかの馬鹿が隠したとか捨てたとかそんなことだろうと思ってたし」
あの弁当を捨てたのか!
もったいない。私なら恨みがあったとしても捨てずに食べるな。いや、決して私が食い意地はってるとか、そういうことではなくて……
そう、あの弁当にはそれだけの価値がある、というだけの話だ。
でも、それをデュノアに聞くと言うことは……なんだ? 不破とデュノアは仲が悪いのか?
「それじゃあ、本当に聞きたいことが他にあるんだね?」
「ええ、アンタ、アリサのことどう思ってるの? 嫌い?」
「……好きとか嫌いとか、そういうのじゃないよ。ただ許せないだけ」
初対面なのだから好き嫌いなどあるわけもない。私の時は別として、不破は話してみれば意外と良い奴だということも分かる。
最初、私に怒ったのも今考えてみれば理不尽なものではなかった。
だが、許せないとはどういうことだ? というかなにも分からない私がここにいてもいいのだろうか。なんだか、すごく場違いな気がするぞ。
「許せない理由を聞くわけにはいかない?」
「別に僕は構わないけど……不破さんと仲がいいならやめた方がいいと思うよ? 関係が壊れるかもしれないし」
「………………」
不破はデュノアになにをしたんだ。聞いただけで友人関係が拗れるほどのことをするような奴には見えないが……
デュノアが狭量なのかとも考えたが、午前中の態度を見るかぎりでは周囲に対して気を遣える、世間一般でいうところの紳士だった。
鳳は……やはり迷っているな。
そこまで仲がいいとは言えない私だって聞こうか悩んでいるんだ。傍から見て親友と言ってもいいくらいの関係のコイツが悩まないわけがない。ルームメイトなのだから友人関係ではなくなったとしても関係は残り続けるのだし。
それなら、この役目は私のものだろう。
「聞かせてくれ。鳳、お前は戻った方がいい」
聞いた後で、私が判断して伝えよう。
「……はぁ? なんで篠ノ之さんが聞いて私が聞かないのよ。というか私以外に誰が聞くっていうわけ?」
む、そうくるか。
ただ、一時の感情だけで聞いては後悔するかもしれないんだぞ?
これからずっと不破に対して一物抱えることになる。鳳やオルコットには裏表なく近づいていく不破だからこそ、余計に辛く感じるだろう。
「甘く見ないで。私は自分で見たものしか信じないわ。この話も私が直接聞いて判断する」
「……二人とも聞くってことでいいんだね。それなら話すよ?
……ことの発端はデュノア社の経営が傾いていることから始まったんだと思う。
知ってるとは思うけどデュノア社はフランスでは一番大きいISの開発会社だよ。第二世代型(ラファール・リヴァイヴ)のシェアも第三位を誇ってる。
でも第三世代型はどうしても開発できないでいるんだ。
だから、次のチャンスをものにできなかったらISの開発許可が剥奪されて、そうなると資金援助もなくなるから経営がたちゆかなくなる。つまり倒産か吸収合併だね。
その最後のチャンスももう目前なんだけど、第三世代型の開発の目処は未だに立っていない。
だから不破さんがそのチャンスまでの時間を引き伸ばす計画を考え出したの。
普通、中学生の言う計画なんてまともに扱われないんだろうけど、彼女の父はISの開発責任者の一人で、彼女自身デュノアの社長――つまり僕の父親と親交があった。それがなくても彼女もIS適性Aっていう会社にとっての宝物だからね。
会社の人たちも立場上、尊重するしかない。それが無くても彼女は信用されていたみたいだけど。
なにより、その計画は確かによく考えられていたんだ。
皆がその計画に則って協力すれば数年の猶予が生まれるのは確実で、詳しくは言えないけど第三世代型の開発に必要な技術が手に入る可能性もあった」
「……前々から思ってたけど、あの子頭もいいのよね」
確かに、IS学園では重視されない数学やその他普通の高校で習うような教養課程を網羅していたりするしな。
なにより発想力がある。
頭の中に小人さんを大量に飼っているんじゃないかと思えるほど、不破の出す案はバラエティーに富んでいるのは確かだ。別に頭の中にいるのは小人さんじゃなくてもいい。私がメルヘンチックとかそういうことじゃないんだ。
「それで、その計画ってのは?」
「うん……不確定要素はゼロじゃないけど、期待値をみるとそういう賭けも悪くないと思えるようなプランだった。問題があるとすれば、僕の人格とか自由とか、そういうのを纏めて無視して会社のための人形にすること……まぁ、あの人たちが問題だと思ってるとは思えないけどね」
「っ!?」
そんなことをあの不破が?
いや……というか、それはやっぱりおかしいだろう。
「その計画、不破自身が人形になることはできなかったのか?」
鳳やオルコットから不破の人格については少なからず聞いている。
曰く、自分の優先度は常に最低。
もちろん見ず知らずの相手にまでその考え方が適用されるわけではないだろうが、クラスメート程度の関係で、その範疇に入ってしまうとか。
自分だけが我慢すればいい選択肢があればそれを迷わず選ぶんだとか……そんな奴が、自分が安全地帯にいる計画を出すのか?
「できるかどうかと言えば、できるよ。というよりも、彼女がやる方が安全だった。僕は計画に納得してないからね。なんにしても、僕じゃないといけないなんてことはなかったと思うよ?」
「ふぅん……だからアンタはアリサが、」
カタン……
「誰っ!?」
かすかに扉が揺れた音がした。
その方向を見れば翻ったスカートと足が一瞬のぞき、すぐに消える。
一番扉に近かった私がすぐさま廊下まで出たがすでに影も形もなくなっていた。
……失敗したな。周りに注意していなかった私の責任だ。
「あちゃー……今の話、全部聞かれてたら不味いことになるわね。そうなったらどうやって解決しようかしら」
「……解決?」
鳳の言った言葉にデュノアが理解できないといった呟きを発した。
さてはこいつ……
「何で今の話を聞いたのにまだアリサのことを助けようと思ってるの? そういう顔してるわね」
「えっ? いや、でも」
「まぁ確かに、今の話のアリサは酷いわ。私でも友達やめそう。でも、」
「まだ真実と決まったわけじゃない、だろう?」
「……私の言葉とらないでよ」
まだデュノアの言ったことが本当かは分からない。普段の不破を見ていれば余計に、だ。
「……なら」
「あぁ、アンタに嘘つきって言ってるわけじゃないの。ただ、アリサがなにを考えてそうしたのか、それはまだ想像でしかないでしょう?」
「でも、普通は自分が自由でいたいから、」
「普通、ねぇ……アリサにその言葉は合わないわよ。何から何まで歪みきってるもの」
「ぇ……?」
デュノアの声に鳳がしまったという顔をした。確かに鳳の言う通りなのだが、本人がいない場で言っていい言葉ではないだろう。
不破は……どこかおかしい。
「でも、これ以上は私が言うべきことでもないから。デュノア、お願いだから……アリサと直接話してあげてくれない? きっと、あの子はあなたのためにその選択をした」
「……そんなに、不破さんは魅力的な人かな」
鳳があまりにも真剣だからか、デュノアの声にも困惑が混ざってきた。
不破が魅力的かといえば……
「恋の相手がいない男の半分以上が惚れるだろうな。もっと普通の人格なら九割も夢じゃない」
初日、デュノア相手に見せたあの笑顔。あれは不破自身、普段しかめっ面でいるからギャップ萌えとかいうのを通り過ぎて最終兵器(リーサル・ウエポン)だ。少なくない女子が見惚れていたしな。
一夏がボーデヴィッヒに殴られていてよかった。そうじゃなければ持って行かれていたかもしれん。
「デュノアが聞きたいのはそういう意味での魅力じゃないと思うけど……どこか構ってあげたくなるような子よ。でもあれでいて攻撃力は高いから注意が必要よ?」
何度か組手をしたことがあるが、あんな小柄な体格なのに私は勝てないしな……得物(しない)を持てば分からんが、痛みを恐れずに向かってくるから振り下ろすのが怖くなる。
それに不破は多分、武器を持った相手に容赦しない。
「あ、あの子と戦ってみようとか思わない方がいいわよ? 生身でジェットコースター気分を味わうことになるから」
鳳もあの雷(いかずち)とかいう投げを受けたことがあるのか。人にはいろいろ言うくせに自分は人を殺せる業を使うからたちが悪い。
まぁ、あの業は殺さないように、というか相手に痛い思いをさせないような構成になっているがな。
背負い投げの後、足で頭を引っ掛けて背中から着地するように回転させているが、本気で蹴れば頸骨が折れるだろうし、そもそも回転させずに頭から落とせば終わりだ。
「人間ジェットコースター……昔、僕が受けたのとどっちが怖いのかな」
デュノアの呟きは聞こえなかったことにした。
あんなことをできる人間が二人以上もいてほしくない。
◇
聞いちゃった、聞いちゃった!
前からあの不破アリサとかいう子は気に入らなかったのよね。
別にあのデュノアとか言う外人には興味ないけどあの女を陥れられるなら利用しない手はないわ。
昼も弁当のことなんて気にしてませんよなんていう涼しげな態度だったし。まるで私になんて興味がないような感じ。
「ほんと、むかつく」
専用機持ちがそんなに偉いっての? 適性が高い子の中からたまたま選ばれただけじゃない。
私は、実際そこまで適性高くはないけど適性Aで専用機を持ってない人なんてたくさんいる。その中からたまたま選ばれただけで他人(わたし)のことを見下して……イライラするわ。
それに、今の話を聞けば周りの連中からの目も変わるでしょ。
今まで怖いけど実はいい人みたいな扱いだったけど、このネタなら化けの皮はがしてやれるわ。
結局、自分がいい人ぶりたいだけで影では自分の保身しか考えていないような奴だってね!
「あ、エミリ? ちょっと聞いてよ。さっきデュノア君と誰かが話してるの聞いちゃったんだけどさ――」
あーあ。
これであの子もきっとイジメられるんだろうね。
可哀想……なんて、笑いが止まらないわ。
いっそのこと学園に来なければ、というかフランスにでも帰ればいいのに。
専用機持ちと仲が良いらしいけど、どうせ学園の中でのIS使用は禁止なんだし報復だって怖くない。あんなチビ女にできることなんて限られてるし、デュノアは確実にこちら側に立つだろうから。
ボーデヴィッヒとか言う転校生がどっちに転ぶかは分からないけど、一組の子から聞いた話じゃ他人に興味ないみたいだし大丈夫に違いない。
「あ、リカ? さっきさぁ――」
さっきの話は私と同じで不破が気に入らないって子を中心に広めていってる。もちろん巧く聞き取れなかったところを大げさに脚色するのも忘れない。
話す相手の殆どが不破に対して学園にいる男子と仲良さそうで羨ましいとかそういうちっちゃい嫉妬を持っているだけだけど、人間羨ましがってる人間に欠点があればすぐにそれを叩くことが出来る。私はその大義名分を広めているだけ。
明日には学年全体に噂は広がっているだろうし、これ以上やることもないかな……
あの気取った女、何日で泣くか見物ね。それとも明後日には荷物をまとめるかな?
あーあ、明日から本当に楽しみだわ。
◇
「不破さんと話してあげて……か」
シャワーを浴びながら今日のことを思いだす。
男装することが本格に決まってから今までずっと彼女のことを恨んできたけど、あそこまで人に想われ、信用されるような子なら本当に理由があったのかもしれない。
確かに、変だなと思うことはあった。
僕のことを娘だとも思ってないと考えていた社長が私に命令を出す時に申し訳なさそうな顔をしていたし、あの人の本妻からの嫌がらせも減った。
男装のことを除けば、あの時から僕が嫌だと思うことは減っていったような気がする。
最後の方はあの人や本妻に会うのを僕から避けていたようなものだったし……いつの日からか母さんの墓前に供えられる花も増えたけどもしかしたら……
とは言ってもこれは彼女の行為を全部好意的に受け止めて、さらにあったかもわからないようなことを付け加えた場合だ。普通はそんなことはあり得ない。だって、不破さんは学園に来るまで僕のことを知らなかったのだから。
「でも、普通じゃないって……言ってたね」
歪んでいるって、友達にまで言わせてしまうほどの子なんだ。
その原因は……不破さんのことを調べたことがあるから何となくわかる。僕達が九歳に当たる時に起きたとある小学校の火事。死傷者数は学校全体の八割以上だったらしい。そこでたくさんの友達を亡くしたから歪んでしまったと考えることはできないかな?
「……あれ? なんで彼女を弁護する立場に立って考えてるんだろう。変なの」
……そろそろシャワーから出た方がいいかな。
この時だけは女の子でいられるから好きなんだけど、いつまでもシャワールームにいるわけにはいかないし。
髪を拭いて、コルセットを付け、そうすればもう身体のシルエットは男の子のものだ。まぁ、やっぱり一夏みたいな感じにはならないけど……あそこまで筋肉質になりたくはないし、そう思われるのも嫌だからいいんだけど。
でもシルエットが変わってもやっぱり僕の顔は女の子の顔だと思うんだけどなぁ……受け入れられてるのは良いけど、少し傷つくよね。
「一夏、おまたせ」
シャワールームを出たらお互いに声をかけるようにしている。
理由は僕が上半身裸で出てくる一夏を見る覚悟をするため。服を着てっていっつも言ってるのに……そのたびに、えー暑いしいいじゃん、って笑いながら言うんだから僕も困っちゃうよね。
僕が出た時も見てるだけで暑いって服脱げって言ってくるし……男の子同士ってこんな感じなのかな? それとも一夏ってもしかして。
「まさかね」
「なにがだ?」
「な、なんでもないよ!」
いきなり一夏が声をかけてくるから驚いて声が裏返っちゃった。
でも、その一夏に少し違和感……顔が怖い、と言うより真剣。
「シャルル」
「うん?」
「不破さんが自分のためにシャルルを利用したってのは本当なのか? それでシャルルは今、なにかすごく大変なことになってるっていうのは……」
「え……?」
なんで……
なんで一夏がそのことを知ってるの……?