Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
ぼちぼち変更しながらの移行になるのでのんびりまって頂けると嬉しいなって(
「10歳のお誕生日おめでとう、アリサ」
「パパ、ありがとう! あけてもいい?」
「もちろん」
「わ、お花の髪留め! 可愛い! 気に入っちゃった」
誕生日パーティーを兼ねた夕食で
なんで、こんなことに。
いや、パーティーに戸惑っているわけじゃないんだ。どうして、俺/私がこんな状況になったのか、だ。
昨日まで私は普通に女の子として遊んでいた。それが朝起きたら俺が転生してきた人間だということを理解していた。正直、転生なのか憑依なのかは判別付かないけど記憶もしっかり思い出せることからして転生なんじゃないかと思う。
でもタサキさんはこんなこと説明してくれてない。……まぁ性転換は世界で唯一ISを操縦できるっていう一夏のアイデンティティを奪わないための処置だったんだろうな。10年たってから記憶が戻るようにしてくれたのも、女としての感性を持たせることで生きやすくするためだろう。実際、プレゼントの髪留めは気に入ったし、着替えるときに女性物の下着やスカートを身に付けることも気にならなかった。もちろん転生前の俺に女装趣味があったわけじゃない。
名前は不破アリサ。ハーフで不破は母方の姓だ。タサキさんに頼んだ古武術はしっかり限定的に使えるようになっている。新しい武術を覚えることで元々俺が修めていた古武術が上書きされないかと心配したが杞憂だったみたいだ。
でも、もう一つの能力も使えるはずなんだけどそんな気配はない。まぁダメ元で頼んだだけだから残念だけど諦めよう。
そして
というより、タサキさんが俺の話をしっかり聞いていれば、多分そろそろ……
ピンポーン
呼び鈴が鳴った。
「パパ! お客さん!」
「誕生日パーティーを邪魔するなんて無粋ねぇ……追い払いましょうか」
「そうでなくても夕食時に……ママ、頼めるかな?」
あれ、なんだか追い払う方向に落ち着いてきてる? 確かに夕食時に来る人って常識のない人って思われるよね。私も誰かの家に行く時は気を付けようっと、……って困るよ!
「えっと、お客さん待たせるのは悪いから私出るね!」
「あ、アリサ!? もう、久し振りにストレス発散出来ると思ったのに」
「優しい子に育ってよかったじゃないか」
ごめんなさい。完全に自分のためです。あなた達の喜びに心が痛……まないなぁ。2人とももっと常識をもって下さい。というか
「はーい、どちら様でしょうか?」
「私はデュノア社のヴァネッサ・ヴェルネールです。ドクター・フワのお宅で宜しいですか?」
やっぱり来た……タサキさんありがとう! タイミングはちょっと悪いかもしれないけど。
「えっと、とりあえずあがって下さい。散らかっていますが」
「では失礼します」
デュノア社は
「パパ! デュノア社の人が「アリサ、しっかりお見送りしなさいよ」ってママ!? 今来たところだよ!? まだ帰るわけじゃないよ!」
ラスボスはそっちか! ここはなんとしてでも……
「奥様、夜分に失礼いたします。今日はドクター・フワに大切な話があってこうして訪ねさせていただきました。これは、」
「あらこれはご丁寧に。なら菓子折りだけ頂くわね。それではおやすみなさい」
っく、
「いえ、これは今日はアリサさんが誕生日だと聞いたものですからミュールを一組、」
「わ! 私、ミュールなんて履いたことないや! ママから貰ったお洋服にも合いそう! ママ、さっきの持ってきてよ!」
「え、さっきアリサが部屋に、」
「ベッドの上に広げてあると思うから!」
「……もう、仕方ない子ね」
そう言いながらもどこか微笑みながら
「お姉さん、今のうちに!」
「ありがとうございます!」
グッとサムズアップを交わしてヴァネッサさんはリビングの方へ。
よし、ミッションコンプリート! じゃなくて部屋で
◇
「おや、君は」
「ご無沙汰してます。博士」
「博士は止めてくれないかな。どうにもくすぐったい。にしてもよくママが通したねぇ」
普段より時間がかかっているとは思ったけど、まさか通しちゃうとは思わなかったな……今回ばかりは通してくれてよかったけど。フランスで一番大きなデュノア社にそっぽ向かれたら干からびちゃうからね。
「ええ、アリサさんが気を利かせて下さって」
「あー、今回はアリサが敵に回ったのか。それなら納得かな」
僕ら夫婦はアリサが可愛くて仕方ないからね。
「それで、何のようなのかな?」
「ええ、博士をISの研究チームに迎えたいと思いまして」
IS……数年前、白騎士事件を切欠に抑止力として名乗りを上げた日本の兵器だったっけ。あまり興味が無かったからまともに調べてないんだけど。
「どうして僕なのかな?」
「もちろん博士が優れた頭脳を持った研究者だからです。それに最近の発明の裏には貴方が必ず関わっているとか」
うーん、僕は研究成果の殆どを人に売っているから、それを知っているということは本気で調べたのかな。こういうことがないように今まで名前が売れないようにしていたんだけどね。家族を巻き込むことになるし。
「そうだなぁ、家族と相談して、」
「パパ! やりなよ! パパの造ったISには私が乗るから!」
「アリサ!?」
◇
「アリサ!?」
うまくいくかなぁ……これで
「アリサ、ISを扱うには適正があってね、」
「私ならA判定出せる」
これでダメだったらもう切り札無い……いや、専用機を手に入れるためだったらシャルロットが男子としてIS学園に転入してすぐに女であることをバラすとか。あー、でもそれだとシャルロットが一夏に引き留められないでフランスに帰ってきちゃうか。それだと俺/私の目的――シャルロットと仲良くなる、あわよくば……――が達成できない。
「なぜまだ公になっていない判定テストのことを……いえ、それよりフランス国内でA判定を取得した者は未だ誰一人としていないのですよ?」
「一人も?」
まだシャルロットのことは知らないのかな? あぁ、彼女がデュノアの社長に引き取られるのは13歳だっけ……ってことは今から大体3年後か。でも、そのおかげでもう一押しだ。今ので興味を持ったはず。
「アリサ、僕は君には危ないことして欲しくないんだけどね」
「あら、良いじゃない。私も最近アリサは大人しすぎると思っていたのよ。なによりさっきの啖呵切りは我が子ながら痺れたわ」
なぜか、その一押しは
「じゃあ、アリサは明日から私と特訓よ!」
「ママと特訓……? いやー死んじゃうよ」
私が不破圓明流の一部を使えるのだから、
「では博士は研究チームに参加していただくということでよろしいですか?」
「あーうん。ただ代わりに、アリサの専用機を造らせてくれないかな? もちろんアリサが本当にA判定を出せたらだけどね」
「そのように社長に伝えましょう」
よし、とりあえずISは手に入りそうかな。いずれIS学園に入るための予習も始めないと。
PICとかAICとか意味分からなかったし。あ、でもシャルロットは13歳からの2年間であれだけ強くなったんだからもう少し遊んでても平気かも。私の専用機もそんなすぐにできないだろうしね。
◇
「じゃあ、どっからでもかかってきなさいな」
まさか、本当に特訓することになるなんて……えっと一昨日まで普通の女の子だったわけだから、素人っぽい動きしないといけないよね。とりあえず、真正面から突っ込んでパンチでもしてみればいいかな!
「やぁぁぁぁぁぁあ!!」
「突進……走るスピードも遅くはないけど、直線移動じゃだめよ……破っ」
蹴り……って普通の女の子だから避けられないんだ。えっと、女の子的には怯えて足止めるのが正解かな?
「あら?」
ゴッ!
「…………いったぁぁぁぁぁああ!? ん、んーー! みゃぁぁぁぁぁぁ! んーーーー!」
ちょっと! これ、洒落になってないよ! というか
「アリサ、才能あるわよ」
「ママ、痛くてそれどころじゃなぃ~~~!
「だって私、足が竦んで止まれるほど遅い蹴り放ってないもの。ほんとよく止まれたわぁ」
何で貴女は最初からそんなにスパルタなんですか? 普通は寸止めで目を瞑らないように、とかそういうのがいいです! 転生前の修行でもそんなことはしてなかったけど、少なくとも最初から打弟子もなかったです!
「でも、私の蹴りに慣れれば同年代、というか並大抵の人間の攻撃は痛くなくなるわよ?」
「大丈夫よ。アリサ、才能あるわ」
「見事に安心できる根拠じゃないね!」
「まぁ、文句があるならかかってきなさい、ってのが常套句だしね」
勝てば考えてやるということ!? そりゃ死亡宣告と同じ意味合いです! ……本気だしても勝てない相手に普通の女の子の振りして立ち向かうってなんて無理ゲー?
「顔とお腹は攻撃しないから、安心して良いわよ」
「うん。歩くのと、お箸持つのは諦めておくね……」
スプーンですら持てるか怪しいかも。いっそのこと泣いてみようかな……半分男だけどこの状況なら許されると思う。だって元は人殺しの格闘術がさらに暗殺術に変わった武術だよ!? こんな能力付けた奴一体誰……って俺だよ!
あー、やっぱり私より俺の方がしっくりきちゃうな……一応、女だし慣れなくちゃ。
私、不破アリサ! フランスから来たハーフです! 最近の悩みは両親、特に母親に常識が無いことかな! ……女の子のふりは完璧だけど、逃げられないのが確定してる現実逃避って虚しいね……
「さーどんどん行くわよー!」
「いーーーーーやーーーーー!」
きれいな川が見えるよ。私、泳げないから絶対に近づかないけど。どう考えても三途の川だし。あ、でも三途の川でさらに溺れるとどうなるんだろう。誰か挑戦してくれないかな。というかどうやって帰るんだろう……待ってれば帰れるのかな?
「っは!?」
「あ、やっと起きたのね。それじゃ続きを、」
「これからISの適性試験受けてきます!」
続きってますます殺す気ですか! こうなったらもう脇目も振らず走る……と、体中が痛い!
「おー速い……さすが私の子ね。じゃあ私もお風呂はいってこよ。明日はどんな特訓内容にしようかしら」
あーあー! 聞こえなーい! 明日とかこないで良いです! むしろ帰って下さい! 帰れ!
アポも何もないけどデュノア社まで逃げ切ろう。ヴァネッサさんなら貸しがあるから助けてくれるはず!
「えっと、お嬢ちゃん……警察呼ぼうか?」
なんてことをデュノア社の受付の人にいきなり言われた。
なんでっ!?
とは思いません。白いワンピースから覗く肌が赤から紫のグラデーションになってるし。
「警察じゃなくてヴァネッサ・ヴェルネールさんをお願いします。えっと、アポ、ですか? 取ってないですが、ヴァネッサさんにアリサ・フワが来たと伝えてくれるだけでいいです。それで伝わると思うので……えと、あと上着買えるお店無いですか?」
やっぱりこの格好……というより肌の色は周りの人の精神衛生上よろしくない。俺、じゃなくて私自身は転生前の修行のおかげで慣れているけど、一般人にはそれこそ不気味に移るに違いない。長髪、足すことの、白ワンピ、足すことの、痣だらけの手足。完全に幽霊のステレオタイプを踏襲してますよね。あ、お店はそっちですか? ありがとうございます。
「アリサさん!」
おっと、良いタイミングでヴァネッサさん登場。昨日はジタバタしてて気づかなかったけどヴァネッサさんのショートの金髪は純金みたいにキレイです。外人にもなかなかプラチナブロンドっていないのですよ。自分のところどころ栗毛が混じった金髪が恥ずかしくなります。ゼブラブロンドって言うんですかね? まぁ、うまーく脱色するとストロベリーブロンドに見せることが出来るんですけどね。ちなみに今は弄ってません。
「あら、ありがとうございます。それよりその腕、脚もですけど大丈夫ですか?」
「ええ、まぁ。少し痛みますけど、それより人目から隠したいですね。虐待されてるのか? って目で見られて逆に気を遣っちゃいます」
家から1キロも離れていないデュノア社に辿り着くまでに不審げに見られること数十回、声をかけられること8回、警察官を呼ばれること4回。もうお腹いっぱいです。というか、みなさん痛がっていない私を若干引いた感じで見ているのですが、我慢しているわけじゃなくて
「そ、そう……なら、お買い物しながら話しましょうか。上着くらいならプレゼントするわ」
「いえ、昨日ミュールを買っていただいたばかりですし、流石に……お小遣いもあるので」
「平気ですよ。これでも高給取りなんですよ? それにしてもアリサさんは慎み深い、というより大人っぽいですね。まるで少し年下の子と話しているような気になります」
……しまった! 家族には今まで通り子供っぽく話してたけど、他人の大人相手だと地が出てる! 無理矢理敬語で話そうとしちゃう日本人の悪い癖だね! 店員さん、なんで過去形にするんですか、ってやつ。でも10歳だし、育ちがいいんだろうなってことで納得してもらえないかな?
「えっと、子供らしい方がいいですか?」
「それを決めるのは私ではないですね」
微笑みながらそう言うヴァネッサさんは楽しそうだ。大人な出来る女! みたいな風貌とは裏腹に案外子供の相手とか好きなのかもしれない。
「ですが、子供が服代を自分で出すのを大人が横で見ているのは変に思われるかもしれませんね」
「あー……なら、お言葉に甘えちゃってもいいですか?」
「知ってますか? 子供は無条件で大人に甘えていいんですよ?」
今度はニコッと笑いかけられてしまった。うーん、これが外人補正か? 素敵すぎる。日本人じゃこんなこと言っても格好つかないんじゃないかなぁ。というか顔赤くなってないかな俺……じゃなくて私! このままじゃIS学園で生活するのは無理かもしれない。一夏よりも無防備な女の子を見ることになるわけだし……お風呂とか夜とかどうしよう!
「ってそうだ、ISだ!」
「はい?」
「えっと、今日来たのはヴァネッサさんに甘えに来たわけではなくてISの適性試験を受けさせてもらえないかなーと思ってなんですよ」
「そういうことですか……でも準備もあるのでお洋服を買いに行ってから、ね? アリサさんはもう少し女の子らしい服装をしてもいいと思いますよ。当然そのワンピースも可愛いですけどね」
お、おぉ……これが大人か。好意を押し付けるわけでもないのに相手が受け取らざるを得ないような状況を作り上げる……勉強になるなぁ。買ってもらうものが上着だけじゃなくなってる気がするけど何を言っても無駄だろうし、ちょっと楽しみだから甘えよう。だからとりあえず赤面鎮まれ!
不破圓明流についてはマガジンの「修羅の門」「修羅の刻」をご覧ください。
陸奥でもよかったんですけど。。。ほら、負けられなくなりますし(ぁ