Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「ファーストキスは何の味?」


14. Quel goût était le premier baiser?

 クラス対抗戦、1組対2組の試合まであと数十分です……が、私はあえて2組の代表選手の準備を手伝っています。

 理由は当然、織斑君が私のことをペチャで重い女なんていう失礼きわまりないことを言ったからです。

 私、怒ってるんですよ? って今朝も言ったのですが困ったように笑うんですよ。まるで、今私のことを見ている2組の方たちのように……あ、お邪魔してまーす。

 全く、織斑君は失礼を通り越して、私のことを馬鹿にしているとしか思えません。

 

「ほらアリサ、そんなしかめっ面してると周りが怯えるわよ?」

「元からこういう顔なので諦めてください」

 

 2組の皆さんには申し訳ありませんが、今の精神状態で笑うなんてことできません。

 

「部屋では結構笑うのに……」

「そんなことありません。それと、あんまり動くと失敗しちゃうじゃないですか」

「ごめんごめん」

 

 準備といっても私はただの部外者なのでISの整備には関われません。私がやっているのは……まぁ、乙女の戦闘準備でしょうか?

 有り体に言えばメイクですね。

 離れた観客席にも魅せられるように少し大胆に目元や頬をいじって、リップは鈴ちゃんのIS、甲龍に合わせた紅。

 うん、鈴ちゃんの活発さと生意気加減をうまく表現できたと思います。

 

「生意気加減は表現しなくていいわよ!」

 

 どうどうどうどう。

 あんまり暴れないでくださいよ。汗で崩れにくいメイクだとはいえ、崩れないわけではないんですから。

 

「はい、じゃあアリーナに出るまではこれで首筋を冷やしておいてくださいね」

「はいはい……でもさやっぱり化粧濃すぎない?」

 

 保冷性の高い薬剤をつめて凍らせたビニールパックを鈴ちゃんに手渡す。本当は腋とか内腿も冷やして体温を下げちゃった方がいいんですけど、戦闘に支障が出ますし。

 

「観客席からはそれでも足りないくらいですよ」

 

 フィギュアスケートとかバレエも観客目線に合わせて凄い濃い化粧しているじゃないですか。

 

「そうじゃなくて、一夏から見てだとってこと」

「んー、織斑君のスタイルは動きながらの接近戦なので、やっぱりそれぐらいじゃないと気づいてもらえないと思います」

「でも、ハイパーセンサーあるし……」

 

 なるほど、確かにハイパーセンサーで見れば分かっちゃいますね……

 

「でも、それって試合中にハイパーセンサーを使ってまで鈴ちゃんの顔が見たいってことになりませんか?」

「な、なななな!?」

 

 ボンッ! と鈴ちゃんの顔が真っ赤になりました。ギラギラした目で見つめられているところでも想像したのでしょう。

 

「それに……皆さーん! この鈴ちゃん、どう思いますかー!?」

「「「超かわいい!」」」

「ということです」

「……はぁ」

 

 それにしても2組の皆さんはとてもノリが良いですね。ま、鈴ちゃん自身が割と開放的な性格で親しみやすいからクラス内で人気ということもあるのでしょうけどね。

 多分1組の中で私が今の鈴ちゃんと同じ立場になったらこうはいかないと思います。もちろん、私としてもそれでいいのですが。

 

「でも、今日、なんですよね」

 

 無人ISによる襲撃事件。

 遠隔操作(リモートコントロール)独立稼働(スタンドアローン)か、そのどちらかの新技術が利用されてる……とかなんとかでしたっけ。

 鈴ちゃん、セシぃ、織斑君の3人で解決できるはずなので手だし無用ではあるのですが、たまには全力で攻撃してみたいんですよね。

 基本的に専用機を使って本気で攻撃すると操縦している人にも怪我させてしまうことがありますし……なので本気を出せる機会ってなかなか無いんです。もちろん気分的にはいつでも本気ですけど、この場合は機体の性能をフルに使っての全力ということになるんですかね。

 

「あ、時間ね。じゃあ皆、行ってくるわ」

 

 ヒラヒラと後ろ手を振ってアリーナに向かう鈴ちゃんの背中を押す2組の人たちの声援。なんかカッコいいです。

 

「鈴ちゃん!」

「ん?」

「怪我しちゃだめですよ? 私はここから見てますから」

 

 専用機持ちとはいえ生徒同士のルールのある戦い。そもそも怪我することの方が少ないので鈴ちゃんは意外そうな顔をしましたが、すぐに笑って頷いてくれました。

 あの無人ISの狙いは織斑君なのでしょうが鈴ちゃんに危害が加えられないとは限りませんし、鈴ちゃんのことですから自分から突っ込むでしょうし。まぁ、無駄だとは分かっていてもさっきみたいなことは言いたくなっちゃうんですよ。

 

 ◇

 

 鈴ちゃんの甲龍の特徴は非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)棘付き装甲(スパイク・アーマー)など、尖った印象を相手に与える攻撃的なフォルム。実際、重力制御によって生み出される砲身射角がほぼ無制限な衝撃砲『龍咆』と二刀一対の青龍刀『双天牙月』による近距離戦闘と、殆ど死角はないですから攻撃特化機といっても間違いではないでしょう。遠距離攻撃を苦手としていますが、戦争でもない限りは龍咆の射程より遠くから攻撃されることもそうそうありませんしね。

 

「でも、基本的には中距離戦闘特化型の甲龍に接近戦で追い詰められるってのはどうなんでしょうかねぇ。せっかくの白式も宝の持ち腐れですよ」

 

 相変わらず正直な戦い方しかできない織斑君です。ちょっとがっかりですね。

 それに、見たところ双天牙月では白式のシールドバリアーは突破できません。なら、肉を切らせて骨を断てばいいのです。零落白夜は一撃必殺と言っても過言ではないのですから。

 

「あーあ、離れられちゃった。もう試合は決まりですね」

 

 雨霰と白式に向かって放たれる龍咆。あれは単純に言ってしまえば空間への加圧作用なのでまず視認は不可能です。ハイパーセンサーを使うことで空間の歪みと大気の流動の加減から軌道を算出することはできますが、同時に2つのことを考えられない人間の脳ではどうしても算出から行動に移すまでに誤差が生まれます。

 ええ、私なら完璧に避けられると思います。えっへん……一発二発なら、ですが。

 まぁ、なのであとはじわじわシールドを削られてフィニッシュでしょう。

 織斑君も予想以上に頑張って避けていますが近付けないのでは彼に勝機はありませんし、鈴ちゃんも勝機を残すほど甘い戦い方はしないでしょうし。

 

「でも、できれば織斑君のエネルギーをあんまり気ずらないでほしいですね」

 

 そろそろ、無人機(アレ)が来るはずです。

 織斑君が倒れてしまえば遮断シールドが主導で解除されるまで待たないといけないわけで……たしか専門の人でも制御を取り戻すのに時間がかかるほど巧妙なハッキングだったんですよね。

 そうなれば私が突入できるのは間違いなく鈴ちゃんも織斑君も怪我をした頃でしょう。

 私も準備を始めないといけませんね。

 

「えっと、2組の皆さん。これから私のやることは一切見なかったことにして下さいね? ……行くよ、カゲロウ」

 

 アリーナ入口でカゲロウを展開する。もちろん隔壁と遮断シールドによってアリーナへの侵入は遮られていますが隔壁はISを使えばどうとでもなりますし、遮断シールドも織斑君が破壊してくれるはずです。

 続けて白狼の咆号(ウルフズロアー)を展開。エネルギー充填に時間がかかるのでこういうときじゃないと使えないんですよねー。もちろん、その分威力は保証されていますけどね。

 

「ちょ、ちょっと不破さん!? 試合妨害する気!?」

 

 名前も知らない2組の子が焦ったように声をかけてきました。いえ、焦っているようにというより非難ですね……大方、不利な織斑君を私が助けようとしているとでも思ったのでしょう。

 全く、どちらかを撃てと言われたら私は間違いなく織斑君を撃つのに。

 

「心配しないでください。というか本当に見なかったことにしないと後で大変ですよ?」

 

 織斑先生にすごい勢いで怒られるでしょうからね。危険行為だけじゃなくて隔壁も無理矢理ぶち抜く予定ですし。

 

「充填開始(エネルギーチャージ)」

 

 チャージ開始、という機械音声が頭に流れ込んでくるんですが正直この声あんまり好きじゃないんですよね。もうちょっと自然な感じに……というか生録音じゃダメなんでしょうかね? どうせアラートの内容なんて数十パターンしかないんですし。

 充填率7……12……21……24……

 発射準備を始めてから数十秒経った時になってアリーナから聞こえてきた轟音……周りの2組の子たちは私が撃ったんだと思ったようでこちらを見てきましたが。

 

「来ましたか。熱源感知がいいですかね……捉えました」

 

 ハイパーセンサーによる敵機の索敵方法は実に多く、例えば超音波や振動、レーダーの逆探知など、複数の方式を並列使用して確実に補足します。

 ただし今回の場合は隔壁に遮られているため熱源感知を主、空気の振動による探査を副としました。地面振動探査の方が確度は高いんですが……ISは浮きますしね。

 充填率32……43……50……制限(リミット)ライン到達。

 

『セシぃ、聞こえる?』

『アリサさん!? 今どこにいますの!? あれは一体、』

『説明は後、とりあえず2組の使ってるピットの対角にいる観客全員避難させてください。じゃ、よろしく』

『え、ちょ、アリサさん!?』

 

 セシぃの戸惑いは無視して意識をアリーナに戻します。

 電磁投射砲は数十キロある金属塊を光の速度で打ち出すことも可能な兵器ですが、ISの登場までは短時間に大量の電力を入力することが技術的に難しく、打ち出すことが出来る弾丸もさほど大きいものではなかったのです。

 しかし、ISの特徴である大量のエネルギーがその問題を解決しました。

 電磁投射砲だけでなくBT兵器や荷電粒子砲などもISのおかげで実現できた兵器と言っていいでしょう。ロマンすぎます。

 まぁ、そんなわけで本当に光速で物体を撃ち出しちゃうと、絶対防御とか、そういうISの安全神話が紙のように破られちゃうわけですよ。なのでエネルギー充填率に制限をかけているのです。

 セシぃに観客の非難を頼んだのも、遮断シールドが無くなった場合、弾丸は無人機を貫通して観客席にも被害を生む可能性があるからです。避けられる可能性もありますし。

 

 

「んー、リミットを超えちゃうと後々面倒ですし、制限はこのままでいいでしょう」

 

 この制限は私の判断で無視することが出来るのですが、一度制限を無視するとそれ以降は白狼の咆号(ウルフズロアー)が封印されちゃうんですよ。使用者がテロなどを行いにくくするためですね。私なら制限をかけられないように暴れますが。

 そうなるとフランスの研究所にいる人にその封印を解除してもらわないといけなくなっちゃうわけで、しかも怒られちゃいますし。

 

「なにより、無人機に絶対防御なんてものはないでしょう」

 

 人が乗っているからこその絶対防御。

 ある意味、あれこそがISの兵器としての欠陥なんです。

 なぜなら絶対防御に回されるエネルギーをなくせば戦闘継続時間が伸びるわけですから。基本的に燃費が悪いと言われている第3世代型でも十分前線に出られるくらいにはなるでしょう。

 なので守るべき操縦者が機体内部にいない無人機にそんなものがあるわけがないんです。

 つまり、防御力も落ちていると考えるべきです。

 

「しかし、まだですか、織斑君。だいたい、私に一撃当てたんですから無人機程度なら勝てるでしょう!」

 

 あーもう! いらいらします!

 というか織斑君がうろちょろするから鈴ちゃんが攻撃できないじゃないですか!

 もう織斑君ごと撃っちゃってくださいよ!

 

「って、本当に撃っちゃいました!?」

 

 鈴ちゃんが今までで一番威力の高そうな一撃を放ったところに織斑君が飛び込んで……あ、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を外部エネルギーを取り込むことで発動させたわけですか。

 そのまま無人機の腕を斬り払って……遮断シールドもしっかり破壊してくれましたね。いい子です。

 でもあれって龍咆が空間加圧によって生まれるエネルギー塊だったからこそできる裏技ですね……というか、あんなのできるって言われてもやりたくないですけど。

 龍砲のエネルギーは瞬時加速(イグニッション・ブースト)が取り込めるエネルギー量を上回っているんですから、どんなにタイミングを合わせても余剰エネルギーで身体に負担がかかるはずです。それこそ身体が千切れると錯覚してしまうくらいに。

 あと、多分ですがあの瞬間、織斑君は絶対防御切りましたね……そんなことできるのかは知りませんが、そうじゃなかったら鈴ちゃんの龍砲の衝撃で絶対防御が発動してしまい、零落白夜を発動するだけのエネルギーが無くなっていたはずです。

 

 目標確認、照準誤差±0.01、命中確立97.26パーセント、予想破壊度26.82パーセント――敵IS操縦者骨折の可能性あり――ISを通して伝わる全ての情報を確認し、問題が無いことを確認……

 

「では、この国では絶えて久しい狼の咆哮を聞かせてあげましょうか」

 

 バシュン! という火薬を使っていない電磁投射砲特有の静かな射出音。

 速すぎるため摩擦熱でオレンジ色に光る金属塊は分厚い隔壁を貫き、予定通り無人機の下半身を消し飛ばしました。

 ……おかしいですね。今の威力だと有人ISなら第1世代型でも装甲を大破させて、骨に影響を与える程度なんですが。この無人機、本当に脆く造られていたんですね。

 

「アリサ!?」

「アリサですよ? お待たせしました。 私が来たからにはもう安心ですよ……まぁ、もう動くとは思いませんが」

 

 下半身と右腕を失いピクリとも動かない無人機。

 まぁ、こんなもんでしょう。

 ……なにか忘れているような気もするんですが、

 

 ――敵ISの再起動を確認!――

 

「しまっ……! 織斑君!」

 

 これですよ! というか何一番大事なことを忘れてるんでしょうかね私のポンコツ頭は!

 再起動を果たした無人機は一番近くに立っていた私ではなく、むしろ鈴ちゃんを含めても一番遠くに浮かんでいた白式を狙ってビームを放ち、織斑君もそれに自ら飛ぶ混むように瞬時加速を行い……

 

 ◇

 

「アホですね」

「アホて……そりゃあんまりだろ」

「いいえ、アホです」

 

 あの状況、間違いなく回避するのが正解だったでしょう! 回避に全力を注げば無傷だったかもしれませんし、あの無人機のほぼ隣に私は経っていたんですから織斑君が避けてなんの問題もありませんでした!

 

「てかなんなんですか? バカなんですか? 死にたがりなんですか!?」

「う……まぁ、心配掛けて悪かったよ」

「心配してたんじゃなくて! あ、一応人として死ななければいいなーとは思いましたが。まぁ、そうじゃなくて私は自分のことを省みない人がいることがヤなんです」

 

 ……あの時のシャルロットみたいに。

 自分が一番可愛いとまでは言いませんが、少なくとも私と織斑君程度の間柄だったら織斑君は自分を優先するべきでした。自分より大事にするのは家族と友人と恋人、あとシャルロットくらいでいいんです。

 

「だいたい、自分より弱い人に守られるなんて怖いじゃないですか」

「なんで、怖いんだ?」

「私は守るために強くなったんです」

 

 弱い人に守られてしまったら、弱い人でも守ることが出来るなら……私の人生が否定されているようなものじゃないですか。

 人を守るのに自分の強さは関係ないなんてことになってしまったら、どうやって人を守ればいいのか分からなくなっちゃいます。自分が誰かを守れるのか自信が無くなっちゃいます。

 

「だから、私を守りたければ少なくとも私と同じくらい強くなって下さい。そんな大変なことでもないんですから」

「分かった。肝に銘じておく」

「っ! ……そこはヘタレていい場面です。というかまぁ、織斑君程度に守られるつもりもありませんけどね」

 

 織斑君は篠ノ乃さんとセシぃと鈴ちゃんを守っていればいいんです。

 だいたい何なんですか、急にまじめな顔しちゃって。そんなに私のことも守りたいんですか、節操のない人ですね。最低です。

 ……まぁ、男の子だなぁとは思いましたけど……それだけです。

 

「じゃあさっさと体調戻して下さい」

「おぉ、不破さん、ありがとな」

「何言ってるんですか? 体調戻してくれないと織斑君をいじめられ……鍛えられないじゃないですか」

 

 そういえば重い貧乳女のこと謝って貰ってませんし。

 

「では、織斑君……Au revoir」

「オルヴォ……?」

 

 さよなら、ってことですよ。ちょっとカッコつけたかっただけです。

 って、うぇ、織斑先生……

 

「なんだその顔は」

「いえ……」

 

 ◇

 

 保健室に見舞いにきてみれば一夏は寝てた。

 まったく、人が勇気出してやっと来れたっていうのコイツは暢気な顔で寝てるなんて。

 うん、まあ、頑張ってたし疲れちゃうのは仕方ないと思うけどさ!

 

「生意気にも守ってやれる、なんて言っちゃってさ……でも、言ってくれて嬉しかったわ。ありがとう」

 

 うわ、恥ずかしい!

 一夏が起きてたらこんなこと絶対に言えないわよ! うわー、顔、紅くなってるわよね?

 でも、格好よかったなぁ。

 昔、まだ私が中国に行く前の時の一夏もまぁ格好良かったけど、今はあの頃よりもっと、ね。筋肉もついててガッシリしてるし……なんか女の子にはだらしなくなったみたいだけど。

 寝顔を見てるとドキドキしてくる。

 

「うわ、悔しいなぁ。一夏を惚れさせる気だったのに、私の方がもう大好きだなんて……」

 

 ちょっとくらいならいいかなー、なんて気もしてくる。

 頭の中でやっちゃえ! なんて言っているのは甘えん坊な癖に割と淡白なルームメイト。

 というかあの子も本当に分かりにくい性格してるわよね。それになんか私の世話をやたらと焼きたがるし……まぁ、嫌じゃないんだけど。

 

「…………」

 

 やっちゃって、いいの?

 キス、という言葉が頭から離れない。

 普段なら止めるはずの理性も麻痺しているのか働いていない。

 うん、これは頭の中で騒いでるアリサのせいね。アリサのせいなのよ。

 

「一夏……」

 

 恐る恐る、臆病な猫みたいに少しずつ顔を近づけていって、

 

「鈴?」

「っ!?」

 

 あと3センチも無い。そんなタイミングで一夏が目を覚ました。

 空気読みなさいよ!

 あぁもうどうしよう!? せっかく頑張ってここまで近付いたのに起きるとかアリなの!? キスしたかったのに。しかも脳内アリサはまだ押し倒せとか言ってるし。もう押し倒してるわよ! って違う!

 

「おーい、鈴? なんか、すごく、近い気がするぞ?」

「っ……あーもう! うるさい黙れ! あと目も瞑りなさい!」

「は? って、んむぅ!?」

 

 こんな近くに顔があるのに目を逸らそうとする一夏に腹が立って、つい……ね。

 なんかもう触れてる唇が熱いし顔も熱いし、キャーって感じで何も考えらんないんじゃないの!

 ってか、あれ……キスっていつまでしてればいいの? そろそろ息が……

 

「っぷはぁ!」

「り、鈴!? お前、なんで、」

 

 なんでってそりゃ、もちろん……

 

「うっさい馬鹿! バカ! もう知らない! じゃあね!」

 

 バタン!

 

 なんでって、そんなこと言えるわけないじゃないのよ!

 もう、なんで勢いでキスなんて……絶対アリサのせいだ! そう、私に責任はないのよ!

 だいたい皆ファーストキスはレモン味なんて言うけどそんなの全然分かんないじゃない! ……味とかよりも熱だけで頭がいっぱいになっちゃって…………とにかく!

 アリサにはあとでお礼言わないとね。

 今夜は中華のフルコースにしようかしら。


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