Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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11. Sanatorium

「私の記憶……ですか?」

 

実際に疑問を口に出したアリサさんも、そうしなかったキャサリン先輩も揃って意味がわからない、って顔をする。

まぁ、当たり前だよね……私だって最初は意味が分からなかったもん。

 

「ええ、アリサさんの記憶が私の中に……まるで私の記憶のように残ってます」

 

でも、その疑問もアリサさんの記憶によって解決された。

私が思い出せるのは飛び飛びだけど、その中にアリサさんの記憶を一般的な記録媒体に焼き出した光景があった。

それをやったのはISコアの開発者、篠ノ之束博士。

彼女以外に同じことができるかは分からないけど、重要なのはISが操縦者の記憶を保存していたってこと。

そして、それがコアネットワークあたりを私に送られてきたんだと思う。

 

「最初は自分でもどうなってるのか分からなかったんですけど、繰り返し思い出すうちにアリサさんの記憶だってことが分かってきたんです」

 

自分の記憶と同じように、アリサさんのもふとした拍子に思い出すから、最初は自分の記憶だって思ってたもん。

明らかにありえないってものを思い出すまで気付かなかったくらいだしね。

 

「それに今までISに乗っていて他人の記憶が入ってきた、なんて話も聞いたことなかったですし」

「……あの、聞きたいことがあるんですけど」

 

そう言ったアリサさんは緊張……というより期待と怯えが混じった顔をしてる。

これだけでなんとなく何を聞きたいのか分かるけど……こういうのって話しちゃっていいのかな?

記憶を取り戻すきっかけになるのかもしれないけど、逆にそれで満足しちゃったりするかもしれないし……

私よりもアリサさんの現状に詳しいはずのキャサリン先輩が何も言わないってことはどっちでも構わないのかな?

私も何も言わなかったからアリサさんも了承と受け取ったのかぽつぽつと話し始めた。

 

「IS学園に、私と恋仲だった人はいませんか……いえ、いることは分かるんです。でも、なんで私の恋人が女性しかいないはずのIS学園にいるんですか?」

 

その言葉を聞いた瞬間、頭に思い浮かんだのは二つの映像。

一つは碌に話したこともないシャルロット・デュノア先輩の悲しげな顔。

もう一つもデュノア先輩なんだけど……うぅ、私の顔絶対真っ赤だよ。

アリサさんもなんでこんな可愛い顔してるのに、こんな過激なことしてるの……!?

火が出そうなほど赤い私の顔を見てアリサさんまで顔を赤くしちゃったし……

 

「そ、その何を思い出したんですか……?」

「ひゃっ!? や、えっと! その!?」

 

目の前にいる人の情事なんて説明できるかー!

もう! 記憶が生々しすぎて実際に体験しちゃったみたいだよ……

 

「えっと、もしかして生徒と教師の禁断の関係、みたいな奴なんでしょうか……?」

 

学園に女生徒はいない、という知識から思い付いたのか、そんなことをアリサさんが聞いてきた。

うーん……アリサさんちっちゃいから生徒と教師じゃなくても禁断に見えるよね。

 

「まぁ、IS学園に男性教員はいないんですけどね」

「……まさか警備員さんですか!?」

 

確かに警備員さんは男の人もいるけど……なんで生徒と教師っていう発想はできて、女の子同士っていうのは思い付かないんだろう。

女子高なんて外から見たらそういうものの巣窟なのにね。

あと、なんでちょっと目を輝かせてるんだろう。

 

「……私、やっぱり恋してるんですね」

 

アリサさんが自分に対して呟いたそれは、本当に小さな声だったのに私に激しい衝撃を与えた。

だって、それって……!

 

「やっぱりってどういうことですか!? 記憶無いんですよね!?」

 

思わず前のめりになってアリサさんに問い詰める感じになっちゃったけど……

でも記憶喪失の人からそんな言葉が出るわけないよね?

もしかして、思い出しつつある、とか?

 

「なに考えてるか分かるけどそれは違うわ」

「キャサリン先輩……?」

「はぁ……アリサ。あんたがボロ出したんだから自分で説明しなさいよね……私の、飲み物買ってくるわ」

 

ボロ出したってことは、秘密のことだったんだ……

それも、一応は仲間になった私にはあえて説明するほどのものでもないような、か。

キャサリン先輩もやれやれって感じで出ていっちゃったし、アリサさんも少し決まりが悪そうにしてる。

 

「えっと……聞きたいですか?」

「できれば……なにか、力になれるかもしれませんし」

 

こんなのはズルい言い方だよね。

信じる信じないは別として自分の失くした記憶を持ってる相手にこんなこと言われたら話すしかない。

例え、それがどんなに嫌なことでも。

 

「……これを気に病んでいるのは私じゃないので、そんな申し訳なさそうな顔しないでください」

 

アリサさんはこういってくれるけど、自分でズルいことしたって自覚があるんだから例え相手に許されても嫌な気持ちはなくならないよね。

でもアリサさんからしてみれば私がそういう態度でいる方が居心地悪いだろうから……ん、切り替えなきゃね。

そもそも、なんで記憶喪失の人に私が気を遣われてるのさ。

 

「なんて説明すればいいのか分からないのですが……まず、私が記憶喪失だということは真実です。私には興国の志(ファントムキラー)の皆さん以外との記憶がありません。IS学園に通っていたらしいですが、当時の記憶もありませんし、私がISに乗っていたというのもにわかには信じられません」

 

いわゆる技能記憶は残っているので乗れば動かせるでしょうけれど、とアリサさんが儚く笑う。

私の中でアリサさんが専用機持ちっていうスペシャリストだったアリサさんと繋がらないけど、今の反応からすると本人もそうなのかな……?

 

「それでも私が恋をしていた確信があるのは……感情だけ残ってるからです。切なくて悲しくて苦しくて、でも暖かい気持ちがあるんです。これが誰に向けられていたものなのかは分かりません……でも私にとって、きっと命よりも大切なものだったことは分かるんです」

 

感情だって結局はアリサさんの失われたエピソード記憶がベースになってるものだから、本当はそんなのあり得ない。

思い出も相手もいない恋なんて成立するわけがない。

 

「……そうですか」

 

そんなわけないのに……アリサさんの潤んだ目も、赤らむほっぺたも、熱い吐息も――アリサさんの全身が恋してるって叫んでるみたい。

きっと、こんな想いを普通の人が抱えるのは無理ってくらい大きな気持ち。

こんな辛そうなら恋なんてしたくないなんて私に思わせるくらい、私にあるのが気持ちを伴わない記憶だけでよかったって安心しちゃうくらい、アリサさんの表情には説得力があった。

どんなに強くても、どんなに人の理解できないようなことをしていても、結局のところ、アリサさんもただの女の子だったってことだね。

それが分かって、アリサさんへの憧れとか感謝の気持ちが少しだけ親近感に変わった。

 

「だから……」

 

だから、油断してしまったんだと思う。

気付けば私は冷たいリノリウムの床に組み伏せられていて、首に手を当てられていた。

アリサさんが少し力を込めれば私の頚椎はあっけなく折れる。

でも、こんな事態になった理由が分からない。

何がアリサさん刺激するか分からないから下手な動きもできない。

 

「訳が分からないって顔ですね? まぁ、そうでしょうね」

 

グリグリと骨に当てられていたアリサさんの手が、ゆっくりと動いて今度は頸動脈に当てられ、緩やかに力が込められる。

頭が冷えていく感覚とともに脳への血流量がゆっくりと減っているのが分かる。

首を抑える手は虫をいたぶるみたいに力を抜いたり、逆に力を込めたりする。

 

「はぁ……ふふっ、私ったら、こういうのが好きみたいですね」

 

心底愉しそうにするアリサさんの吐息は、私の冷えていく頭とは裏腹に熱っぽくなっていく。

状況がこうじゃなければ、そんなアリサさんをみて私も顔を赤くしていたに違いない……それくらい、アリサさんの身体が高ぶっているのが背中越しの動きで伝わってくる。

 

「アリサ、さん……なん、で……!」

「可愛い……可愛いですね……貴女のことを食べてしまえば、少しは私の恋心も落ち着くかもしれないですね……ふふっ、いっそのこと、私の恋人になってくれませんか?」

 

蕩けた声が耳元で甘く囁かれるのと同時に首への力が強くなる。

ここで、ずーっと可愛がってあげますね、なんてことを語尾にハートが付いた状態で投げ付けられた。

これに頷いてしまえば、きっと首輪をかけられて飼い殺しにされてしまう……心の何処かでそれもいいかもしれないと思ってしまう諦観をねじ伏せて、もう一度だけ、なんとか声を出すことができた。

 

「先……輩……?」

「こんなことしても、先輩って呼んでくれるんですね?」

 

同時にパッと頸動脈が解放される。

今度は急な血流によって視界がグニャリと歪んだ。

 

「特別に教えてあげます」

 

耳元にかかるアリサさんの熱い息に感覚だけやけにはっきりと感じる。。

 

「私の目的は、私の記憶を取り戻すことですよ。でも皆、どうも積極的に手伝ってくれないんですよ。だから、あなたのISから強引に奪い取るのも一つの手段かと思いまして」

「そんなこと、できるんですか……?」

「さぁ……やってみないことには分かりません。でも記憶(それ)がないといつまでもこのままですから」

 

ぼんやりしていた頭がハッキリとしてきて、線が繋がった。

アリサさんは私の中の記憶が欲しいんだ。自分の記憶を取り戻して、元の自分に……デュノア先輩のところに戻りたいんだ……

なんて……なんて、可哀想な人なんだろう。

 

「もう、学園に貴女の居場所はないのに……もう、死んでることにされてるのに」

「でも、私の友人だった人達は今でもそう思ってくれていると思うって言ってくれましたよね?」

 

ああ、やっぱり不安なんだ。

私の記憶の中のアリサさんと同じ、いつも内心に不安を抱えてる女の子。

違うのは、今は自分のために動いてるってことだけ。

 

「スコールさんのことですから必要以上に警戒して、私の近くにIS近づけないようにしているんでしょうけれど……貴女が後輩ということを考えると貴女のISはバックナイフさんが持ってそうですね」

 

止めた方が、いいのかもしれない。ううん、止めなきゃいけない。きっとアリサさんは暴力で解決しようとするはず。

でも、アリサさんの気持ちを考えると止めないであげたくも思っちゃう。

自分の記憶を取り戻そうとしてる人の止めかたもわからない。

 

「ようこそ、興国の志(ファントム・キラー)へ。いつか本当の先輩後輩の関係で会いたいですね」

 

ぽん、頭に手をのせられるのと同時に私の意識は黒く塗りつぶされた。

 

「もう隠れんぼも飽きました」




あっ、短い……!

なんでアリサはこういう状態だとエロくなるんでしょうね

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