Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
情報収集の基本はまず、当時の状況を知るところから。
でも、図書館の司書さんに聞いたらIS学園のそういった資料は機密指定で例え代表候補生の専用機持ちでも特別な事情がない限りは見せられるものではないらしい。
「いきなり困った……うん、でもヒントは貰えたし!」
目的のものをいきなり手に入れられるとは……うん、ちょっと思ってたけど、日本のRPGとかだったらこれくらいの回り道は当然だもんね。
そうじゃなきゃ最初っからラスボス暗殺できちゃうもん。
司書さん曰く、代表候補生以上の権限を持った生徒ってのもいるらしい。
「まぁ私がそれになれれば、なんて気が遠くて面倒なことは考えないけど」
電話帳みたいな学校の資料の中で該当しそうなものと言えばクラス代表とか学年代表、あとは生徒会役員。
クラス代表は各季節のクラス対抗トーナメントでクラスの成長具合の指針として闘うこと以外は学級委員みたいな感じ。学年代表ってのは仕事とか特別なことは無いけどクラス対抗トーナメントでの勝利者のことを示す肩書みたい。
この二つについては多分関係ない。
そんなものになる程度でIS学園の機密の一部を見ることができるなら、私をサポートしてくれてる会社の人が私にクラス代表になれって言わないわけがないもん。
「となると、生徒会……」
生徒会長ってのは学園最強の別名らしいから、狙うなら他の役員。
何を狙うかって?
生徒会に入るなんて面倒なことする訳ないんだから、襲って脅すにきまってるじゃん。
生徒会のメンバーについては学園の掲示物からすぐに知ることができた。
一年生で既に生徒会入りが決定してるのは油比 翼と灯連 理桜……あれ、リオちゃん?
「……生徒会に入ったのに初日から職員室に呼び出されちゃって、これから大変そうだなぁ」
それにしても、なんでリオちゃん職員室でむっつりしてたんだろう。
入学式中は優しくいろいろ教えてくれたのに……やっぱり不機嫌だったのかな?
そりゃそうだよね。だってプライベート・チャネルなら式の進行の邪魔しないのに怒られるなんて!
……うん、無茶あるね。それなら授業中に携帯でゲームしてても良いことになっちゃうし。
って、そうじゃなくて!
油比 翼って子のことは知らないけど一年生って言う時点で二人とも襲撃候補から除外する。
入学してすぐに生徒会役員としての権限は与えられてるのかもしれないけど、まだその機密情報がどこにあるか教えられてない可能性の方が高い。
だとしたら狙うのは数人いる二年生の生徒会の中で唯一書記職に付いている布仏 本音。多分、一般生もいる生徒会の中でも書記とか会計なら権限があるはず。
幸いこの人は専用機持ちじゃないからきっと頭の良さとか買われて生徒会入りしたんだろうね。整備士志望みたいだし。
狙う上で注意するのは他の生徒会のメンバー、特に一年生の二人と生徒会長に気付かれないようにすること。
「リオちゃんと闘いたくないってのもあるけど、何より騒ぎを起こしたくないし……」
既に織斑先生に目をつけられてるみたいだし……うぅ。
それに、戦い慣れてる専用機持ちと戦うなんて怖いことしたくないしね。生徒会長だって学園祭今日って言われてるくらいだから多分私には手も足も出ない。
今日のところは生徒会の部屋の様子を伺うくらいにしようかな。
「生徒会室は……こっちだね」
IS内の学園MAPを見ながら迷わないように慎重にすすむ。
だって学園の中に十字路があるんだよ!?
それに建物だって二個とか三個ってレベルじゃないし!
……この学園、多分毎年遭難者とか出てるはずだと思うくらいには広いんだよ?
「――見つけた」
生徒自治、っていう方針からか職員室とは離れた位置にあるのは私にとって嬉しいね。
教師を呼ばれる前にコトを進められるし。
そしてもう一つ、嬉しいのが寮生活について一部が寮監っていう生徒会に選ばれた生徒ってとこ。
だから色々あって本当に自分の寮の部屋を知らない私が生徒会室を訪ねても何も不審な点は無い。
まずはノックを二回。
「……えと、失礼します……」
うぅ、でもやっぱり知らない人を襲うのとか嫌だなぁ……
だって、相手は何も悪いことしてないのに怖い目に合わせるなんて理不尽だよ。
……それでも、知りたいんだけどね。
「はいは~い……あれ? 一年生~?」
……なんかすごいのほほんとした感じの人が出てきた……!
制服の感じから多分二年生なんだけど……入学式も終わったこの時間に生徒会の部屋に一人でいるってことは布仏 本音――本人の前だからホンネ先輩って呼ぼう――本人?
えー……この人襲うとか本当に私の心が耐えられなさそうだよ……誰だよ、最初に襲って脅すとか言った人はぁ……
「えっと、あの、その……リリティア・スノーホワイトです」
むむむー、とホンネ先輩は唸ってから、ほにゃっと笑う。
「うん、りりちーだねー。それでどうかした~?」
あだ名!?
うわー、うわー!
生まれて初めてあだ名つけられちゃった!
リリーとかって呼ばれるのはあだ名というより愛称だし!
「その、私の寮の部屋の場所が分からなくて……」
「あ、そっかー。織斑先生に怒られてたんだもんねー……ふふふ、私は何でもお見通しなのだー!」
あぁ、この人絶対いい人だ!
私のこういう勘は外れたことないから私の罪悪感がマッハだよ!
しかも、もう物凄い隙だらけで鼻歌なんて歌っちゃってるし!
胃がキリキリして来た……けど!
「社則の一、拙速を尊ぶべし!」
好機を逃すな。
今と感じた瞬間に身体の判断で動け。
会社の訓練で叩きこまれた社則に身を任せてホンネ先輩の腕を捻って、うつ伏せに押し倒――あれ?
ずどっ
「痛い……」
えと――私が倒れてる?
おかしい……直前まで本当に“私の心”はホンネ先輩を襲う気はなかったのに気取られた。
先輩だってまったく用心してたようには見えなかったのに……
「えへへ、私、こう見えて強いんだよ~?」
「はぅっ」
この人可愛い……!
じゃなくて!
私、ピンチ?
えっと確かお兄ちゃんの見てた動画で万引きがばれた女子高生は確か……
「あの、何でもするのでお母さんと先生は呼ばないでください……!」
って言ってた気がする。確か続きは店長さんがいやらしい声で――
「そっかー、じゃあ制服脱ぎ脱ぎしようねー」
そうそう。そんな感じで無理矢理エッチなことをってあれ!?
私たち女同士なのに!?
やっぱりお姉ちゃんの
日本だと女の子同士とかでも割と受け入れられちゃってたりするの!?
あぁ、そういえば不破先輩とシャルロット先輩って恋仲だったし……!
というか、そもそも不破先輩のことならシャルロット先輩に聞けばよかったんだ……って、不破先輩どうして死んだんですかなんて恋人に聞けるわけないでしょ!
「っていつの間にか本当に下着だけにされてる!?」
「何か隠し持ってたりはしないみたいだねー?とりあえずこれちょっと借りるよー?」
うぅ、恥ずかしい……ってそれ私の携帯!
「えーと、SDカードはっと……みっけ」
一瞬、ホンネ先輩のぶかぶかな袖の中に私の携帯が消える。次に携帯が袖から出た時にはSDカードは抜き取られてた。
よくそんな袖で器用に取りだせたなーとか思わなくもないね。
新品だから何もデータは入ってないから見られても困らないけど……カードの中身まで気にするなんて、結構重大な機密とかまで生徒会室にある可能性が――
「ほい、ぱきっとなー」
「あーーーー!?」
ちょっと、この人中身を検める前にSDカードぱきっとやったよ!?
普通そういうのってまずいデータとかが入ってたら壊されるものじゃないの!?
いや、うん……それだけ重要なことなのかもしれないけど……
「はい、新しいのあげるー」
しかもアフターケアまでしてもらえるし……
「それで、りりちーは何しに来たのかな?」
「……それは」
「寮の部屋ならすぐ教えられるけど、それだけじゃーないんだよね?」
それだけだったら襲ったりなんてしないもんね。
うん、ここは正直に言っちゃおう。
いきなり人を襲うなんて私らしくなかったね。
「……去年、不破先輩に何があったのか教えて下さい」
「ふわわーの……知って、どうするの?」
「お礼を言いたいんです。例え届かなくても、私は本当に感謝しているので」
「それならお墓の場所を――」
「そして、ISに乗る意味ってものを知りたいんです」
どうして、不破先輩が命を捨ててまで自爆なんてことをしたのかが想像もつかないから……そんなことを操縦者がしなきゃいけなくなるような自体が分からないから。
きっとそこには私がまだ理解できてないISに乗る意味ってものが関わってきてる。
会社の人達は、ただ家族のために私が“ISの操縦者”としていてくれればそれでいいって言ってくれたけど……多分、それじゃ違うんだ。
きっとそれを理解しないままだと不破先輩の自爆の理由を知っても私は納得できない。
でも……この人じゃない人に聞けば良かったなぁ……
「そっか……そういうことなら教えてあげるー」
表情は優しいままだけど……すごく悲しそうだから。
きっと、この人も不破先輩とは仲が良かったんだ。
◇
寮の部屋について着替えたら、あらかじめ部屋に届けられてた物の荷解きもしないでベッドに倒れ込む。
まだシェアする相手の子は来てないみたいだけど……どっちのベッド使うかとかでもめるのかなぁ……?
「……はぁ、失敗したなぁ」
聞くんじゃなかった……ホンネ先輩、最後の方になるとほとんど泣いてた。
今、上級生たちの間では不破アリサなんて生徒はいなかったことにされてるらしい。
すごく素敵な人だって思ったのに、“あの”
機業については私でも知ってるくらい悪名高い。多分代表候補生とか専用機持ちでその名前を知らない人はいないんじゃないかってくらい有名だし。
第二次世界大戦の裏でもその影がちらほらと見える死の商人なんだとか……うちの会社の人達は機業のせいで私たちみたいな職種の人達も誤解されていい迷惑だって言ってた。
私としては、やっぱり両方とも同じだと思うんだけどね……
「死んじゃっただけじゃないんだ……」
ホンネ先輩も信じられないって言ってたけど……私も信じられないよ。
だって、私は初めて不破先輩を見た時から、この人は素敵な人だって……不器用なくらい優しい人なんだろうなって感じ取ったんだもん。
「私の勘、今まで外れたことなかったのになぁ……」
でも、不破先輩の名前を学園で出しちゃダメみたい。ましてや擁護するなんてもってのほかだって……
ホンネ先輩も、それで友達が何人かいなくなっちゃったって寂しく笑ってた。
特に、今の二年生の専用機持ちの人達の前ではその名前を出さないでねとまで言われた。
その人達は、皆、直接、不破先輩の最後に立ち会った人達だからって……
「自爆……か」
私がその場にいたら、止められたかもしれないのにな……
右耳につけっぱなしだった蒼水晶のピアスを外して、手の中で転がす。
私のIS――クイーン・オブ・スノウの待機形態。
この子と一緒に私がいれば、多分止められた。
でも、そんな『たられば』の話なんて無意味だから……
「お礼が言いたいだけだったのにな」
学園生活も楽しみだったけど、なにより不破先輩とまた会えるってのが一番大きな期待だったのに……なんでこんなことになってるんだろう。
もし私が一年早く生まれてれば――
「あぁ~~~~~~! もうやめ! 我ながらいらっとする!」
過ぎたことは仕方ないもん!
これから私がどうしたいかが重要だよね!
社則の一、足は前に出すべし!
振り返っても後ろは向かない!
「決めた!」
機会があったら先輩達に、話を聞こう……!
今はご飯でも食べる!
「……そういえば相部屋の子遅いなぁ?」
ホンネ先輩に油比 翼――リオちゃんじゃない方の生徒会の一年生の子が私と同室だって聞いてたし、荷物も部屋に届いてるのに……まだ部屋に来た様子すらない。
クローゼットのなかも空っぽだったし、私が使う前のベッドには皺ひとつなかった気がする。
洗面所もトイレも未使用のままだし……どこで何してるんだろう?
こんな時間まで外を出歩いてるなんて……
「まさか不良さん!?」
ど、どうしよう……はらはらどきどきわくわくしてきた……!
私、本物のリーゼントに会えるかもしれない!
「って、リーゼントは男の髪型だろーっ! ……虚しい……寂しい……」
誰かとおしゃべりでもして気を紛らわせたい気分なのになぁ。
それに夕飯だってどうしたらいいのか分からないから聞きたいのに……
学校案内には自炊も食堂の利用も可としか書いてなくて自炊のための材料買う場所とか、食堂の使い方とか全然書いてないし……日本に来た時は電車の切符だって自分じゃ買えなかったから不安……
今朝も学園についてからどうしたらいいか分からなかったから、はーちゃんさんのおかげで何とかなったようなもんだよね。
「一人ぼっちとか、慣れてないんだけどなぁ」
家は田舎だったし大家族だからどこでも誰かしらの知り合いはいた。
こんな、誰も知り合いがいない状態で一人っきりなんてことは多分、今まで生まれて一度も経験したことがない。
「……荷解きしちゃお」
昔から愛用してるぬいぐるみとか並べてれば心細さくらいはまぎれると思うし、ね。