Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「ナタル! アリサの居場所は分かったか!?」
「見つかってない……というかイーリ?」
「な、なんだ?」
全く、イーリったら……もしかして気付いてないのかしら?
「五分に一回、同じこと聞いてきてるわよ。そんなに気になるならワシントンに飛んだら?」
「べ、別に気になってるとかそういうんじゃなくてだな……」
まあイーリはアリサのことをやけに気に入ってたし仕方がないのかもしれないけど……
確かちょうど彼女が夏休みの時に呼び寄せて“彼女の使う”連続瞬時加速についての質問をしたのよね。
結果は真っ白だったけど……アナログ入力で
もちろん私も嫌いではないわ。『あの子』が暴走したのを止めてくれたし、壊したことも謝ってくれた。
でも……
「大事な人を守るために壊したのに、それを謝るなんて……」
「ナタル?」
「……いえ、なんでもないわ」
それも気まずくてじゃなくて、本当に悪いと思っていた……私にはその精神構造が理解できない。もしあの時のような状況――
それなのにアリサは本当に悪いと思いながら……責任を感じていたのかしらね。
篠ノ之束の行動を止められなかったことに。
……『あの子』の暴走は外部からの干渉を受けてのこと。ISに対して遠隔地から干渉できる人間なんて篠ノ之束しかいない。
でも、その罪は篠ノ之束だけのもの。彼女が気にすべきことじゃないわ。
「ナタルは……あいつのこと嫌いか?」
「イーリは一生懸命な人は好きよね」
「ばっ! ……私のこたぁどうでもいいんだよ。もしナタルがアリサに借りを作りたくないって言うなら他の手段だって……」
「そうじゃないのよ……ただ……」
自分の大切なもの以外も守ろうとする彼女は見てて危うい。他人を助けて、それが原因で自分の大切な人が怪我をしたら……彼女は自分を責めることすらできない。それは、人を助けたいと思って自分も否定することになってしまうから。
だから、大切なものがあるならそれ以外は無視してしまった方がいいのに……
「恋人に誰かが傷付くところを見せたくないから……アリサはそう言ってたぞ」
「建前よ。あれは、出来ることなら全員を助けたいって人間よ。どうしてそうなったのかは知らないけれど」
「んなもんイーリには分かんねぇだろ」
少し悪く言い過ぎたかしら。
陰口みたいになってしまった私の言葉でイーリを怒らせてしまったみたい。
「……そうね」
私の勝手な妄想ならいいんだけど……今まで通りに生きるのか、恋人だけを優先するようになるのか――
「どちらにせよ、荊の道ね……」
「……頑張れるやつは報われるだろ」
「そうだといいわね……さ、情報集め再開しましょう」
「だな」
不破アリサがSWATの装甲車に乗ったという目撃情報から逃げ出した彼女が向かいそうな所を手当たり次第に調査してるけど……SWATやFBI、CIAにすら情報が入っていないなんて。
私達に取り入ろうとしている政治家にも話を聞いたけど知らないみたいだし……となるとやっぱり――
「IS委員会かしらね……彼女の目的地でもあるから可能性は高いけど……」
「SWATの装甲車を破壊してまで向かうような所か? そもそも普通なら装甲車自体が迎えだと思ってもいいようなもんだが……」
そう。それが分からない。
冷静で頭の回転が速い彼女なら逆にそう思い込みそうなものだけど……
とはいうもののあれは隊員の独断だったうえ、死体は残っていないから真実は分からない。
「あった……ナタル、この防犯カメラ、窓の外の装甲車撮してる」
「どう?」
「ああ……くそっ、流石に小さすぎるか……?」
装甲車へ映像の中の窓の外に砂粒ほどの大きさで映っている。
出来るだけ拡大してみてるけどやっぱりカメラ事態は建物内を撮すためのものだから……
「ん、待って。今の横転しかた変じゃなかったかしら……?」
「ちょっと待て。巻き戻してみる……」
拡大した画面左側から装甲車が現れる。しばらく走ったところで……
「止めて!」
装甲車が横転する直前、空が少し明るくなってる……?
それに横転するときもハンドルミスというよりは横から衝撃を受けたみたいに呆気ない。
この様子だと中で彼女が暴れて横転させたわけじゃない。
「イーリ、ロスの風の強さはどうなってるの?」
「この映像の時間帯だと風速0.2メートル。車どころかカーネルサンダースも倒れねぇな」
「なら外からの攻撃を受けた……?」
でも何故?
アリサは自らの意思でアメリカに訪れているのだから彼女の仲間からの攻撃ということは考えにくい。
でもそれ以外に彼女を助けることで利益を得る人物・組織にも検討がつかないし……
「……いや、アリサを助けようとしたってわけでもなさそうだぜ」
映像の質をあげようとしていたイーリが手を止めて画面を指差す。
「これ、最初は細かい反射光だと思ってたけどビームだ。それが何条も降り注いでる。アリサを助けるためなら一発二発で十分なはずだ」
「じゃあアリサを殺そうと?」
「かもしれねぇし、それなら思い当たる節はあるだろ?」
彼女を狙ってる組織……しかも
「亡国機業?」
「ああ、ナタルもアリサが機業のメンバーだっていうリークが機業の仕業ってのは知ってるだろうけど……あれはアリサを抹殺しようって魂胆じゃないか?」
「私達を下手人にしようって?」
「ああ。そうすれば奴等の動きも目立たない」
でも機業ほどの大組織が個人を殺すためにここまで大袈裟なことをするかしら?
強奪したISもあるんだからわざわざ手間をかけて他にやらせる必要なんてないはず……
「いや、ある。アリサのバックにびびってんだよ」
「……フランスに? どうして?」
「……はぁ~、ナタルは頭固いよなぁ」
「なっ!?」
なによいきなり!?
アリサのバックっていえばフランスかデュノアしかないじゃないの!
「もう一人いるだろ? 世界一こわーい奴がさ」
もう一人って……個人なの?
そんな影響力がある人間なんて……
「……まさか」
篠ノ之束?
「そ。アリサはあれの身内だからな……アリサを殺したら必ず報復がある。ISがどんなにあっても足りないような報復がな」
「だから私達に肩代わりさせようとした……ってそれならやっぱりおかしいわ。どうして装甲車を攻撃したのよ。説明がつかないでしょう」
イーリの言った通りならせっかく機業の思惑通りに運んでたのにあれじゃ台無しになってしまっているわ。
たかが防犯カメラからの映像だけで外部からの攻撃だって分かるのだから衛星でも使えば何が起きたかなんてすぐ分かるのよ?
「……あ、そっか。それもそうだな。悪い、今のなしで」
「イーリ……」
散々人のことを頭固いとか言ったくせに……
でも、イーリが言った通りなら簡単だったのに……
「機業からの偽情報にSWAT隊員の暴走にアリサの逃亡に……錯綜しすぎてて嫌になっちゃうわね」
「アリサって本当に台風の目だよなぁ」
巻き込み体質とでも言うのかしらね。
たかだか恋人のために世界を巻き込んでるなんて……きっと世界一スケールの大きい恋愛ってギネスに認定してもらえるわ。
「とりあえず上に掛け合って衛星からの映像を見せてもらいましょ。ここで悩むより建設的よ」
「りょーかい」
◇
まったく……アメリカまできてどうしてマクド○ルドなのよ。
「というかエム、こんなにのんびりしてていいの?」
「問題ない」
フライドポテトをリスみたいに齧っているエムがボソリと言う。
いや、問題ないじゃなくて……美味しそうに食べるわね。
「ポテト食べてないで説明しなさいよ。一本もらうわよ?」
「あっ……!」
「なによ?」
「なんでも、ない……」
うーん……やっぱり大味よね。ファストフードなんて美味しさより速さなんだから気にしても仕方ないのは分かってるけど。
味ならバーガー○ングの方が美味しいし……
「私はマッ○の方が好きだ」
「そんなのことよりのんびりしてていい理由説明して。ナゲット食べるわね」
「あぅっ……説明するから、食べるのをやめろ」
「ん?」
ああ、食べながら話を聞くなってことね。分かってるわよ。こう見えて私もお嬢様だからマナーを守ろうと思えば守れるのよ?
“こう見えて”とか“守ろうと思えば”とかは気にしないでちょうだい。
「まず、こちらの戦力では委員会本部から不破アリサを連れ出すのは難しいのは分かるな?」
「そうね。それは散々聞いたわ」
「幸い本部に潜入しているスパイがいる。いざとなったらそいつの手引きで侵入して不破アリサを連れ出すつもりだ」
いざとなったらって……
「他に計画があるの?」
「ああ。種は一番最初に撒いた。そろそろ芽吹く頃だろう」
種?
芽吹く……?
「理解できるように説明しなさいよ。からかってるなら怒るわよ?」
「…………今ごろ
「それで?」
「その上で不破アリサが逃げ出したのだから機業と不破アリサが敵対関係にあることもアピールした。あとは不破アリサが逃げ込んだ委員会本部にいるスパイを使って委員会は不破アリサを処分しようとしている、なんて噂を流せばいい」
……えと、終わりだなんて言われても困るわ。
私たちの目的はアリサに兵器部の連中の狙いを伝えることでイレイズドとかいう人たちは関係無いのよ?
というかイレイズドってなによ?
「
「ふーん?」
で、それがどう繋がるのよ?
「……分かりやすく言うとだ。まず私が装甲車を破壊したことで機業と不破アリサの繋がりを完全に否定した。次にスパイを使って委員会が不破アリサを機業のメンバーとして処分しようとしているという情報を流す」
「あぁ、アリサを殺されたら困る
そのあとで私たちが兵器部の本当の狙いをアリサに伝えるってわけなのね。
確かに私達には本部の防備を抜くだけの戦力はないし出来ることなら目立つことも避けたい。それならアメリカ軍に正規の手順でアリサを連れ出してもらうのがベストよね。
「ついでに私は不破アリサに接触しない方が好ましい……だからキャサリンに頼みたいことがある」
「ん?」
「不破アリサと
「誰よそれ」
「……
……それってISの名前よね?
操縦者の足止めをしろって……操縦者たちって体も鍛えてるのよ?
話を聞く限りではアリサがかなり特殊って話だけど他の専用機持ちだってかなり強そうだし……自慢じゃないけど学園にはコネで入ったから入学試験はほとんどパスしてるのよ?
なにが言いたいかっていうと体力は入学可能レベルを下回ってるってわけ。
機業の皆のシゴキのおかげで多少は体力ついたみたいだけど……専用機持ちなんて化物と一緒にしてほしくないわ。
足止めなんて無理よ。
「別に殴り合いをしろと言うわけじゃない。無駄な話をするとか不破アリサに協力を渋らせるとか……そういう次元だ」
「……まあ、それぐらいなら」
ただ私は表向きただの学生だから交渉の場に立たせてもらえないかもしれない。
立場上はアリサが尊重されるはずだからアリサがいいって言えば問題ないわよね。
「でも条件があるわ」
「……言ってみろ。私に出来ることならやってやる」
「言ったわね?」
その言葉、撤回なんてさせないわよ?
うふ、今更オロオロし始めたってダメ。もう決めちゃったもの。
でもそんなにひどいことは言わないから安心しなさいな。
そうね――
「マドカがお願いお姉ちゃんって言えばいいわよ?」
「ぅぐ……」
エムは、マドカって呼ばれると途端に大人しくなる。
この変化が面白くてついつい苛めちゃうんだけど……だって可愛いんだもの。ホントの妹みたい。
「あら? 言えない? それなら残念だけど協力できないわねぇ」
「……ぃ」
んー?
聞こえないわねぇ?
下向いてぼそぼそ喋ってるだけなら独り言と大差ないわよ?
「あら、マドカったら顔赤いわよ? 体調悪いのかしら?」
「おっ! ……お願い、お姉ちゃん……」
「ん。頑張ってあげるわよ」
でも無理だと思ったらすぐ諦めるわよ?
「うん……」