Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「錯綜する情報郡」



23. Un comté de l'information compliqué.

「ヘみゅっ!?」

 

 ~~~~~~ったぁい!?

 鼻が、鼻が潰れちゃ……まったく、いきなりなんなんですか!?

 もぉ、人がせっかく気持ちよく寝てたのに……大分強く顔面を打ったきがするのですけど鼻血とか

出てませんよね……?

 

「……ん、だいじょぶ……でも痛い……あれ?」

 

 お部屋じゃありません……?

 ここどこでしょう?

 やけに狭くて、天井に空いた穴から漏れる光でお昼過ぎくらいだというのは分かるのですけど――

 

「ああ、そうでした……シャルはいないんですね」

 ここはアメリカ。

 私にかけられた亡国機業との関係に関する疑いを晴らすべく飛行機に乗ってきたんでしたっけ?

 それじゃあこの穴だらけの部屋は私が乗っていた装甲車?

 なんか、ひっくり返ってるような気がするのですけど?

 でも、それこそ対物ライフルでも使わないと装甲車を撃ち抜けませんし、対物ライフルは地面に固定して撃つものですから上から狙撃されるというケースもなかなかないはずなんですけどね。

 そんなことを考えながらぼーっと天井を見上げているとその一部が赤く光を発しました。

 大体拳の大きさ程度の円形に光ってますけど――

 

 じゅっ

 

「にゃわぁぁぁああ!?」

 

 なななななんですかいきなり!?

 光の柱が目の前に落ちてきましたよ!?

 ビームですか!?

 

「って、何をわたしは呆けていたのでしょう!?」

 

 私を拐った人達が一人もいない上、高出力のビームを撃ってくる敵――つまりISがいるということは……機業、もしくはアメリカ軍がきているということです。

 しかも高出力ビームなんてイギリスでしか開発されていないので敵はサイレント・ゼフィルス――一度、学園祭のときにあいまみえている機業のISということになります!

 

「ということは私を拐ったのは本物のSWATということですか?」

 

 キャサリンさんが機業は一枚岩ではないと言っていましたが最終的には全ての派閥が私を欲していると言っていました。

 つまり私にとって敵の敵は味方なんて理論は成立しません。

 ……どうしましょう?

 

「戦う?」

 

 いえ、この状況で私が応戦したらまた要らぬ誤解を与える可能性があります。

 アメリカにうたがわれることなく偽情報をリークできる機業がそれを利用しないわけがありませんからね。

 

「じゃあどこに逃げましょうか?」

 

 亡国機業の構成員という疑いをかけられている私が逃げ込めて、なおかつ亡国機業のISが近寄りにくい場所……

 政治的な問題に束縛を受けない亡国機業のISでも近寄れないとなると大きな対抗戦力がある場所ということになります。

 そんな都合のいい場所は……

 

「アメリカには……あるじゃないですか。ちょうどいい場所が」

 

 確か二十機ほどの汎用・専用機が防備のために配備されてましたよね。

 とりあえず装甲車の中でカゲロウを展開。

 半透の翼を広げながら展開するのに邪魔になった車体をゴリゴリ壊しつつ展開完了です。

 

「さ、て……どっちに行けばいいんでしょう」

 

 えっと、ワシントンは東側の方なので夕日の逆方向に向かって飛べばいいんですよね……?

 あれ、でも太陽がどっちに向かって沈むのかがよく分かりませんね……まあ、こっちでいいでしょう。

 

「よーし、早速行きましょう」

 

 見つかってしまったみたいですし。

 いえ、むしろ私が起きるのを待っていたのでしょうか?

 

『――逃がさない』

「この前は逃がしてあげたじゃないですか借りは返すものですよ?」

 

 蝶のように開いたヴェンギルガルム(翼狼狩り)ハントを一度だけはためかせ、総数五十四のスラスター全てを一度に励起させます。

 学園祭の後にサイレント・ゼフィルスのスペックをイギリスから貰いました。だからどれだけのスピードを出せば追い付かれずに逃げ切れるかも分かってます。

 

「では、ごきげんよう」

『ちっ、待て!』

 

 苦し紛れに放たれたビームをひょいと避けて戦域から離脱しました。

 

「あ、そういえばこの間ナビゲーションアプリをインストールしたんでした」

 

 アメリカの衛星を介してのナビなのが少し不安ですがスマートフォン用のアプリをエミュレーターで起動しているのでバレはしないと思います。

 うん、便利ですねー。

 

「こっちの方向に直進すれば国際IS委員会の本部に着くみたいですね」

 

 じゃあ、元気に行ってみましょー!

 

 ◇

 

「ちょっと、逃げられちゃったじゃないの!」

「煩い……言われなくても判ってる」

「ならどうして追いかけな――」

「素人が口を出すな!」

「――なによそれ」

 

 確かに私はISに関しては素人よ。でも今アリサを逃がしたら全部無駄になっちゃうのよ?

 今まで、ISで人は殺さないってルールでやってきたのに……もう後戻りできないのよ?

 ……兵器部の人間たちはビームの熱量で跡形もなく蒸発したけど死体がないからって実感しないわけない。

 スコールには大丈夫って言ったのに……

 

「あれは、人じゃない……」

「え……?」

「命を弄び、金で買った女を薬漬けにし、死体を見ながら平気で飯を食う……あんなのが私たちと同じ人間か?」

 

 ……それはただの屁理屈だけど、私たちが連中に感じている嫌悪感がそれを正当化する。

 そうね……確かにあんな奴らは人として扱われるべき存在じゃない。私欲を肥やすために倫理観を歪ませた兵器部の人間なんて開発部よりも質が悪い。

 開発部の奴らもやっぱり人間として扱える範疇を逸脱してるけどね。

 

「ありがと、エム」

「……なに?」

「慰めてくれたんでしょ? 気にするなって……」

「別に後悔に駆られて作戦に支障をきたされたくなかっただけだ」

 

 ふふっ、素直じゃないんだから……

 でも、もしかしたら半分以上は本音かもしれないわね。エムにとって連中は世界で一番許せない存在だろうから……だってエムは――

 

「目的地はIS委員会か……面倒な」

「どうしたの?」

「あそこはアメリカの中でも最大戦力を保持している区画だ。国際組織の総本部という特徴から一種の自治区のようになっているが……日本で言うIS学園のようなものだ」

 

 つまり、多くのISが配備されているということ?

 でも第三世代機のサイレント・ゼフィルスなら第二世代くらいなら――

 

「あそこの守りは全てアメリカIS軍に正式配備されているインデペンデンスのチューンナップ……パイオニアの流れを汲むインデペンデンスの特徴は分かるな?」

「もちろん。これでもアメリカの富豪の娘なのよ?」

 

 国産ISのスペックくらいなら表面的にとはいえ調べられるわ。

 第一世代の開拓者(パイオニア)は武装の拡充性を極限まで高めたIS。フランスのラファール・リヴァイヴと違って量子化容量を増やしたんじゃなくて単純に使用可能兵装を増やしたもの。だから拡張性じゃなくて拡充性。

 驚くべきことにアメリカが第二世代の開発に遅れたのはパイオニアが他国の第二世代兵装のほとんどを装備できたため開発の必要がなかった(・・・・・・・・・・)から。

 第二世代の独立(インデペンデンス)はパイオニアの拡充性を保持したまま他国との差別化を図った点にある。

 

「マルチ・リンクス・システムだったかしら?」

「ああ」

 

 マルチ・リンクス・システム……略称MLSは表向きにはリアルタイムの情報共有で複数のIS同士を一体化させるシステム。

 それだけならコア・ネットワークと大した違いはない。精々多数による連携が簡単になる程度……

 でも、未だに公開されていない真の機能は別にある。

 それが電子機器との融合。

 

「アメリカ国土に存在している従来の通信技術を利用している機器の全てを支配下に置くシステムよね」

「正確にはアメリカに帰依していれば国外でも問題ない」

 

 聞くだけなら大したことは無さそうに思える。

 でも情報の統制はかなり楽になるし、自然な形で国民の排他思想を煽ることもできる。

 なにより無人戦闘機を大量に保持しているアメリカにとってこれほど有用なシステムはないわ。そうじゃなくても無人基地からミサイルを撃つこともできるし、無線管制火器類も操作できる。

 世界情勢が不安定で各地で国境を挟んだ睨み合いが続いている今でも戦場にISさえいなければアメリカは誰一人として派遣せずに戦争に勝利することができる。

 情報面でもアメリカのサーバーを利用しているインターネットが一台存在してるだけでハッキングをしかけられるしね。

 

宇宙(そら)には巨大隕石を破壊するための軍事衛星も漂っている」

「いつから地球は巨大隕石になったのかしらね?」

 

 衛星砲なんてアニメの中だけの話だと思っていたけど……コロニーレーザーだったかしら?

 今、アメリカを敵に回せる国なんて殆ど無いわよ。

 ISの保有数でもロシア・EUと並んで三極化してることだしね。

 

「で? インデペンデンス相手だと勝てないの?」

「私たちの顔が写される。なによりMLSより装備の問題だ。イギリスのBT兵器対策のための機体くらい用意されてるはずだ」

「しかもそれが複数機……ということね?」

 

 エムは確かに操縦者としての適正は抜群だけど複数の相性が悪い相手にも無傷で勝てるというわけじゃない。

 エムはこのあとも凍結されている銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を強奪しに行かないといけないし、そうなると同じ基地に配備されてるはずのファング・クエイクと戦わないといけないから……なにより、この子は傷付くことをスコールに禁止されてる。

 意味分からないかもしれないけどちょっと目を離すと自分の顔にナイフを刺そうとするんだもの。当然よ。

 別に気にしなくたっていいじゃないの……顔が織斑千冬と酷似してることくらい。

 

「じゃあ、強引に突破することじゃなくて内部に忍び込む方法を考えましょ」

「……どうやって? 妙案でもあるのか?」

「……考えましょって言ったわよね? それともなに? プランないくせに調子乗ったこと言うんじゃないってバカにしてるのかしら?」

「ごめん……」

「ん、素直でよろしい」

 

 エム――マドカは織斑先生よりもぜんぜん可愛いもの。年下だし、妹がいたらこんな感じなのかもしれないけど私にとってみればマドカが先生に似てるんじゃなくて先生がマドカに似てるだけよ。

 ただの言葉遊びだけどね。

 

 ◇

 

「あぁん!? エマージェンシーだと!?」

 

 ……くっそ、せっかくの休暇だってのにどういうことだよ!

 

「イーリ? 煩いわよ?」

「あぁ!? ……ナタルか。いやなんでもない」

「そうなの?」

 

 訓練とか忘れて、今日こそは溜め込んだ酒で飲み明かそうと思ってたのにな……まったく、今月はまだ一日しか休めてねぇぞ?

 ナタルがゴスペルに乗れなくなったのが痛かったよなぁ。

 大体よー、軍部も外部からのハッキングが原因だってわかってんのにどうしてナタルを謹慎処分にするかね。

 それに私は知ってんぞ?

 ゴスペルは凍結封印ってことにされてるけど、あの時から動こうとしない――つまりハッカーによって行われた情報凍結が軍部じゃ解けないからこういうことになってんだ。

 誰がやったかも分かってて、だから今回も機業のちゃちな失策に乗ってアリサ・フワを呼び寄せたんじゃねぇか。

 ――篠ノ之束に渡りを付けてもらうために。

 ISをハッキングできるやつなんて奴くらいしかいないしな。それにアメリカが干渉しやすい奴の関係者っていうとアリサしかいないし。

 ……あいつに借り作るのは止めた方がいいのは分かってるんだけど他にやりようがないしなぁ。

 ただでさえつい先月、私が連続(リボルバー・)瞬時加速(イグニッション・ブースト)のコツ教えてもらったばっかだってのに。

 

「ああ、そういやナタルもあいつには借りがあったよな?」

「あいつって誰?」

「アリサ・フワ。ちみっこい学生だよ。ピンクの髪の」

 

 知らんうちに篠ノ之束製の第四世代二機に倒されたことになってるけど本当にゴスペルを追い詰めたのはあの黒い機体だ。

 先月アメリカに呼び寄せた時に私と似たような戦闘スタイル――超高速格闘戦をするからと手合わせしたけど……ありゃ本物だわ。勝ったけどどうにも手加減されてた気がして気持ちよくなかったし。

 そもそもの技術が私の格闘術よりも上なくせに向こうはこっちと違って連続瞬時加速が不発しない。私は今でも成功率は百ってわけじゃねぇし。

 並列処理(マルチ・サーキット)って言ってたっけか。あれで一つ一つのスラスターに時間差で瞬時加速(イグニッション・ブースト)をさせてるんだろ?

 

「そりゃアナログ入力だったら処理が大変だけど失敗はしないってのも解るけどよ……なんかズルい気がするぜ」

「脳が二つあるのと一緒……だったかしら? イーリ、あなたあの子のこと気に入ってるの?」

「は?」

「気付いてないかもしれないけどしょっちゅう同じ話してるわよ?」

「ばっ! そんなこと!」

 

 そりゃ、あの年であれだけ強いってのはすげぇって思うし苦労したんだろうとも思うけど……というかあれで代表候補生ですらないってフランスの操縦者ヤバいんじゃねぇの?

 あれより強いってなるともう手加減されても勝てる気が……とはアメリカ代表操縦者として口にできないけど敵に回したくはないな。

 

「あいつ、絶対にアメリカ嫌いだけど」

「何度も迷惑かけてしまっているから当然よね……私もあの子嫌い」

「ゴスペルをぶち壊されたからか?」

「それもあるわ……でも、なにより許せないのがあの子、私に対して怒るより先に謝ってきたのよ『壊してしまってすみませんでした』って」

 

 ははぁ……ゴスペルは暴走状態で自分が操縦していたわけじゃなかったとはいえプライドを傷つけられたわけだ。

 ナタルだってまさか型遅れ扱いしてたフランスの第二世代にゴスペルを壊されるとは思ってなかっただろうし――

 

「違うわよ。あの子は一緒に戦ってた仲間を殺されかけてたのよ? それなのに怒るどころか謝るなんて……周りの子の気持ちを考えられない子は嫌いよ」

「おいおい……そりゃ、お前……」

 

 なんだかんだで心配してる奴のセリフじゃねぇか。

 

「って、イーリ? エマージェンシーかかったんじゃなかったの?」

「ああ、そうだった。早く準備しねぇと」

「今エマージェンシーがかかって、あの子の話をするってことは……あの子に何かあったの?」

 

 いや、そうじゃねえけど……これ言っちまっていいのか?

 正直、私は全然信用できねぇんだけどよ……

 

「なんでもアリサを国際IS委員会まで護送しようとしてたSWAT隊員を殺して逃亡したらしいぜ?」

「へ?」

「おかしな話だよな」

 

 空港で本当の事情を話して協力を取り付けようとしてた『地図にない基地』(イレイズド)の職員が見ている前で予定にない(・・・・・)装甲車が現れて、挙げ句に爆破させられたなんて。

 しかも乗ってたはずの奴らも全員本物の隊員だって言うんだからな。陰謀の臭いが感じるぜ。

 

「バカなお上が指名手配したらしいぜ。まだ国内限定だけどな」

「ちょ、ちょっと!? あの子の凍結解除はどうなるのよ!?」

「まぁ、この件が片付いたらだなー」

「……信じらんない」

 

 まぁ、そう言うなって。


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