Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「乗れ」
数十丁設置されている対物ライフルの銃口が私に向けられているので仕方なく飛行機の傍に止めてある装甲車に乗り込みました。
対物ライフルでもISのシールドエネルギーは十分削れますからね。さすがにエネルギーが切れるということはありませんけど何が起こるか分からないんですから万全を期すべきです。
車体にはSWATの文字がありますが……どこまでが本当なのかは分かりません。
「どこに向かうつもりです?」
「黙れ」
車の中には座席が二つしかなく後ろの部分は空洞になっています。イメージとしては引っ越し業者のトラックに近いでしょうか?
もちろん頑丈さはその比ではありませんけどね。
私は後部に押し込まれ、さらに数人の男性が乗り込んできました。
車内にいるのは私を除いて全員男性……ISの操縦者がいないのであればいつでも逃げ出すことはできます。ですがこの人たちが本物のアメリカ政府から派遣されたのだとしたら不味いことになるかもしれません。
護送という可能性もありますし、IS操縦者が相手ならこれくらいやってもおかしくないのかもしれませんし……
現状では私から行動を起こすこともできなさそうなので状況をまとめてみましょうか。
まず、私は亡国機業の陰謀でアメリカに来ることになりました。これはキャサリンさんを通じて確認したことなので確かです。
そして首謀者は機業の中でも兵器部と呼ばれる部門。独断先行らしいのでもしかしたら機業が彼らの行動を止めてくれるかもしれませんが、今回の件の目的が私の抹殺となると下手に希望を持たず自分で何とかすべきでしょう。
で、この人たちの正体なのですが……私の予想ではこの人たちは亡国機業です。明確な根拠というものはないので勘と言い換えてもいいのですが、もし本当に私を護送するとしてアメリカがこのようにいつでも逃げ出せる程度の人員・装備しか用意しないとは思えません。
普通なら最低でも汎用型のISと操縦者を用意するはずです。
ただ、彼らがSWATを騙っているのか、それとも本当にSWATとしての身分を持っているのかが分りません。
SWATとしてアメリカ政府と繋がりを持っているなら私がカゲロウを使って逃げ出した場合、いよいよ亡国機業のメンバーとして指名手配されてしまうでしょう。
やっぱり何もしないのが一番みたいですね。
「ちょっと退いてください」
「なっ……!」
「あ、なにさまのつもりだーとかそういうのいらないんで。ほら、そっち詰めてくださいよ。ほら、ほらほら」
なにをちんたらしてるんですか!
女の子に頼まれたら一も二もなく動くのが男性の務めってものじゃないんですか?
「……うん、これだけあれば十分ですね」
両隣の男性を退かして作った空間にころんと横になります。私はコンパクトなのでこれくらいあれば十分寝られちゃうんですよ。
飛行機の中では緊張感から眠れませんでしたからね……
「あ、私に触れたら殺しますからね?」
おやすみやさい……シャル……
左手薬指に着けたオレンジメタルの指輪にキスを落としてそっと目を瞑りました。
どっちか分からないのでもう車が眠れないほどに揺れるようだったらカゲロウで逃げるということにしましょう。十分な睡眠は成長には欠かせませんからね。
◇
「出ないわね?」
飛行機の中から一部始終を見届けたあとでスコールたちがいるはずのアジトに電話をかける。
学園祭の時に使ったアジトはもうとっくに引き払って今は学園から百キロメートル近く離れてる場所を使ってる。
私たちがアジトに使うのは書類上で手に入れてから最低でも半年経過した物件だけ。面倒に思えるけど少し待つだけで疑われる可能性が減るのだとか。
それも大量の物件をプールしてるからこそできることなんだろうけど。
二重スパイとしては今の出来事をなんて報告すればいいのかを考えながら待っていたら八コール目でようやく繋がった。
「もしもし?」
『…………』
「……もしもし? 聞こえてないの?」
電話口ではかけ間違えの可能性も考慮して最初はお互いにコードネームは言わない。
バカバカしいけど犯罪組織である以上はこれくらい慎重じゃないとね。
……本当はそんなの建前でコードネームっていうのが恥ずかしいだけなんだけど。
でも、どうして反応しないのかしら……?
「ねぇ、聞こえてるなら返事しなさいよ! ちょっと!?」
『…………』
どうしたってのよ!
もしかして……さっきのが兵器部の連中だとしたら向こうでもなにか起きてるのかも……スコールが私をアメリカに送ったのも巻き込まないようにだったとか……
「もしもし!? ねえ、返事してよ! お願い! ねぇったら!」
やっぱり返事はない……それどころか揉み合うような音まで伝わってくる。
いったい何が起きてるのよ……!
私たちの半数は自分のISを持ってるのにどうして……!
「ねぇ! お願いよ……返事して……!」
『……あー、キャシーか?』
私の願いが届いたのか待ち望んでいた声がようやく聞こえた。
スコールじゃない。
私をキャシーと愛称で呼ぶのはオータムくらいだけど……なんだかスゴく気まずそう……?
「オータム? そっちで何が起きてるのよ!? 大丈夫なの!? スコールは怪我してるの!?」
『とりあえず落ち着け。問題ねぇから」
「で、でも返事が……それに暴れてるような音も聞こえるし! やっぱり兵器部の奴らが……」
『いや、暴れてるのはスコールだから安心しろ……』
え? ええ?
どういうこと……意味分かんないわよ!?
『いや、なんの電話かと思って様子を見に来たらスコールがシーッとかやっててよ。それで耳すましてみりゃキャシーがかなりテンパってたから』
「えと……ようするに、スコールのイタズラ……?」
私が慌ててるのを楽しんでたってわけね……?
そう、スコールったらそういうことするのね……それなら私にだって考えがあるわよ……
「オータム。スピーカーホンにしてちょうだい」
『お、おう……おい、スコール、キャシーのやつかなり怒ってるぞ』
『大丈夫大丈夫』
「オータム……スコールは今どうなってるの?」
『ああ、とりあえず縛っておいた』
グッジョブよ。誉めてあげる。
スコール……大丈夫とか言ってられるのも今だけよ。
私、知ってるんだから……
「オータム……あなた、最近スコールと
『お、おう……スコールが忙しいって言うからな……それが?』
「本当はスコールと寝ないために忙しく見せてるって知ってた」
『は? どうしてそんなこと――』
『キャサリン! 望みはなんなのかしら!?』
「ふふっ♪」
今さら慌てたって仕方ないわよ……私、もう決めてしまったもの。
ギャーギャー騒いでるけど知らないわ。
「オータム? とりあえずスコールに猿轡かませなさいな」
『い、いや……そこまでしなくても――』
「オータム……? あなたの意見なんて聞いてないの……早くしなさい」
『わ、わかった!』
ふふ……いい子ね。
「そしたらまずはスコールの声を聞かせてちょうだい?」
『あ、ああ……』
『ふぐー! ふむっふむむむ!』
「あはははっ! スコール、何言ってるのか全然わからないわよ? ふふっ、おかしいわね」
いつも澄ましてるスコールも一皮向けばこんなものよ。
だいたい前からスコールにはからかわれてて我慢の限界だったのよね……それなのに本当に切羽詰まってる今、あんなふうに趣味の悪いことするんだもの。
お仕置きされても文句は言えないわよねぇ……?
「それで、オータム……スコールがあなたのことを避けてる理由……知りたいかしら?」
『い、いや……スコールが嫌がることなら――』
「聞けよ」
『キャシー!?』
あらいけない……つい怖い声出しちゃったわ。
いやアリサを見てるとやっぱり恋人相手に遠慮とか気遣いとかいらないのよ。もちろん全部知ってなきゃいけないってわけじゃないけど知ることが出来るときにそれを放棄するのはおかしいわ。
「スコールがあなたを避けてるのはね……」
『お、おう……』
スコールが後ろで唸っているのをBGMにしながら可能な限り厳かな声で告げる。
「スカートと下着を脱がしてみれば分かると思うわ」
『わ、分かった!」
ふふっ……スコールったらかなり抵抗してるわ。いい気味ね。
ま、スコールの気持ちも分からないでもないけどね。
裸で寝てたらよりによってお股を虫に刺されるなんて。
そりゃ、赤く腫れてるところなんて情けなくて恋人に見せられないわよねー。その上掻いてるうちに気持ち良くなっちゃったのを解消してるせいでどうしてもスコール相手に昂れないだなんて口が避けても言えないわ。
「じゃ、オータム、スコールの猿轡を外して電話代わってちょうだい。あ、電話中でも遠慮せずに激しくしちゃっていいわよ」
『分かった!』
理由が分かって嬉しそうね……オータムってば確かに可愛いのよねぇ。まぁ、それもスコールが関わってる時だけなんだけど。
電話の向こうから微かにスコールの涙声が聞こえる。
「これ、スピーカーホンのまま?」
『……そうね。オータムのばか……』
『わ、私だってスコールが構ってくれなくて不安だったんだからな……!』
「そこ、いちゃつかないでくれるかしら?」
『だ、誰のせいだ思ってるの!?」
……へぇ。
スコールったら全然反省してないのね……
誰のせいですって?
……最初に私をからかったのはスコールなんだけど、まさか自分のせいじゃないとでも思っているのかしら……?
「オータム……スコールはまだ縛ったまま?」
『お、おう……それがどうかしたか?』
「そのまま快楽漬けにしてあげなさい……道具はなに使ってもいいわ。スコールの部屋に怪しい薬とかあるからそれも全部使っちゃってちょうだい……でも、電話の受け答えは出来るように加減してちょうだいね」
『ちょっ、キャサリンったら何を――』
「本気で言ってるから……オータム、手心なんて加えちゃダメよ? そんなことしたらあなたたち二人とも寝てる間に媚薬漬けにするから」
確か開発部が拉致した少女を売春婦として効率よく売り出すために快楽依存にさせるほどの媚薬を作ってたわよね。
一回くらいならそこまで堕ちないだろうし……ね?
『お、オータムっ、そこだめぇっ!』
『あの薬使われるくらいなら……!』
『ああっ、ばかぁっ、んんっ!』
と、思ったけど実際に無理矢理やらせてみたら余計に腹が立ったわ……
「オータム、イカせる寸前で止めなさい」
『わ、分かった!』
オータムって命令されるの好きよねぇ……だからスコールとの相性もいいんだろうけどさ。
ま、今回はスコールに対してのお仕置きだからオータムは虐めてあげないけど。
『きゃ、キャシー……多分こんなもんだ』
「そう、スコール聞こえる? 今から私の質問に正直に答えて」
『そ、そんなことよりぃ……オータム、触ってちょうだい……?』
「不許可よ。スコール全部答えるまではそのまま。あ、オータムはスコールの余韻が消えちゃわないように常にギリギリまで責めててちょうだい。できるわね?」
『がんばる!』
……オータムが段々と退行現象を起こしてる気がするけどそれは放っておきましょう。
「とりあえずアリサを拐われたんだけど機業の仕業なのかしら?」
『ええ、兵器部が慌ただしいからそうだと思うわ――あんっ、もっとぉ」
「とりあえず耳障りだから喘ぎ声出さないでちょうだい。こっちは結構真面目なのよ」
『いや、オータムが……ま、でもこっちからできることはあんまりないのよね。アリサちゃんにひゃんっ! もう、オータム! 大事な話の時はダメでしょう?』
『あぅ……ごめん』
……いつの間にか向こう側の主導権が逆転してるわね。やっぱりオータムは責めるより責められる方が好きなのかしら?
『多分だけど兵器部はアメリカ内部にスパイを送ってるわ。空港の件はアメリカ政府から下された護送任務を利用したんじゃないかしら? そうじゃないと対物ライフルをあんなに設置できないでしょうし』
「まるで見たかのように話すのね……」
『上を見たらいいことがあるかもしれないわよ?』
「え?」
上って……飛行機の天井だけどスコールが言いたいのはそういうことじゃないわよね。
飛行機の中を本気で走るっていうかなか無い体験をしながら滑走路まで降りて空を見上げる。
目を凝らすと深蒼の機体――サイレント・ゼフィルスが空に佇んでいた。
「どうしてエムを?」
『ファング・クエイクを奪うついでにね』
「……私に聞けばいいじゃない」
私を信用していないってことかしら……?
ううん、それならスコールははっきりそう言うわ。
多分、スコールにとって――ううん、IS部門にとってもアリサは重要な存在なんでしょうね。
『直接あなたたちに伝えなきゃいけないことができたのよ』
「……どういうこと?」
『その前にキャサリン……あなたに新しい指令を与えるけどいいかしら?』
「いいに決まってるじゃない。あなたは頭で私たちは手足。いうことの聞かない手足なんてないんだから」
『ありがとう……』
ま、二重スパイに関しては脊髄反射ってことで許してもらいたいけど。
それにしても私の新しい任務って何よ?
正直言って書類整理と潜入以外は何もできないわよ?
『キャサリン……エムを使って不破アリサと合流しなさい。兵器部の連中は殺しちゃっていいわ』
「分かったわ」
『これであなたも人殺し……ごめんなさいね』
「構いはしないわ……一度、未遂してるもの」
海でアリサを殺そうとしたから……あのときも自分の手は汚そうとしなかったけどね。
あの後で機業にスカウトされたときからいつかこうなるって予想してたし。
『キャサリン――』
「気遣いの言葉なら必要ないわ。これくらい――」
『これからオータムとにゃんにゃんするからアリサちゃんと合流するまで電話しちゃダメよ?』
「死ねっ!」
なにふざけたこと言ってるのよ!
……確かに重たい空気は霧散したし気も楽になったけどやり方ももう少し考えてほしいわ。
「エムっ! 降りてきなさい!」
エムがいるのは少なく見積もっても高度百メートル。当然、叫んだわけじゃないから私の声は普通なら届かないけど――
「新入りが指図するな……」
ISの力があればそんな当然は覆せる。
二秒ほどで降りてきた――私に言わせてみれば落ちてきたエムが仏頂面で文句を言うけど知ったことじゃないわね。
……私は今とーっても機嫌が悪いのよ。
「エム、ガキのくせに生意気な口利くなら
「……ごめん」
ん、素直でよろしい。