Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「気に入りません……」
「まーだ言ってる……早く出発しないと飛行機出ちゃうわよ?」
キャサリンさんがジト目で私を見ますけど……
うー! 気に入らないです!
どうして休学届けを出そうと職員室に向かったら既に私の休学届けが受理されているんですか!
それに鞄を見てみれば私とキャサリンさんの名前で飛行機のチケットまで忍ばせてありましたし!
「なんでもかんでも予定通りって感じでムカつきます!」
誇るべきことではないですけど私としてもワガママで世界を巻き込んだという自負があるんです!
どちらかといえば私は策略を練る方なのにいいように使われているようで気に入りません!
「はいはい。時間ないのに文句言ってられるってことは荷物は詰めたのよね?」
「う……まあ、ざっとこんな感じです」
実は半分くらいしか終わっていないのですが……
「……一つ聞くわよ?」
私の荷物を見たキャサリンさんが頬の筋肉をピクピクと動かしながら怪しいオーラを私に向けて放出してきます。
器用な人ですねー。
「その大量の荷物はアメリカに移住つもりなの?」
「え? なんのことですか?」
「十分の一にしなさい」
「ノルマが厳しいですっ!?」
「これはなに?」
「私とシャルのアルバムです」
「こっちは?」
「シャルと一緒に買いに行ったお洋服です」
「……これは?」
「シャルとの思い出の品々です」
「はぁ…………実際に使うのはこの黒いやつだけね? 他は全部置いていきなさい」
「鬼ですかっ!?」
私とシャルの愛の証を全て置いていけって言うんですか!?
ただでさえシャルと距離を置いていて泣いちゃいそうなくらい寂しい日々が続いているというのに……私は旅行中もシャルの気配に包まれていたいだけなのに!
だいたい改めて調べてみれば私がアメリカに飛ばなきゃいけないのも亡国機業のせいじゃないですか。あの小細工は私を陥れるためにやったものらしいってキャサリンさんが言ってました。
というかどうして私をアメリカに行かせようとするんです……?
皆勤賞なんかはもとから諦めているので学校を休むことに抵抗はないんですけど……なんとなく好成績だけは残してますけどこのまま行けばISの操縦士かケーキ屋さんなので内申点が将来に役立つわけでもないですからね。
「さあ、それは私も知らないわよ。そもそも機業に部署間の協力とかないし」
「これだから下っ端スパイは役立たずだから困ります」
「……あ、もしもしシャルロット? あなたの恋人なんだけど実は亡国機業と内通――」
「わーーっ!? ごめんなさい!」
キャサリンさんの実力行使で塞ぎます……いっそのこと鼻も塞いでしまいたいです!
っていうか何をいきなり暴露しようとしてるんですか!?
私たちはドイツで一度亡国機業に襲撃されてるんですから内通とか妙な言い回しされるとあれも私が引き入れたんじゃないかとか思われるじゃないですか!?
ただでさえ私が亡国機業の人って疑われてるのに!
「むぐぐぐ!」
口を塞いだ勢いでキャサリンさんを押し倒してしまいましたが今はそれどころではありません。キャサリンさんも倒れ込んだ拍子に床に頭をぶつけたようで涙目ですけど知ったことじゃないです!
とにかく今はキャサリンさんから携帯を奪い取って……
「もしもしシャル!? 今のはキャサリンさんのイジワルで事実じゃ――ってあれ?」
繋がってない……?
「あのね……ただの冗談に決まってるじゃない」
「も、もちろん分かってましたよ? キャサリンさんの立場も悪くなっちゃいますもんね!」
「…………」
な、なんですかその目は!
まるで私がキャサリンさんの冗談を真に受けたみたいじゃないですか!
こういうイタズラするから私はキャサリンさんが嫌いなんです!
ぶっちゃけ学園で再会するまではすっかり忘れてたほどどうでもいい人でしたけどね!
「……とりあえず私の上から降りてくれない? というか小さいくせに重いわね」
「にゃーっ! これ! は! 筋肉! です! This is a muscle!!」
決して日頃の不摂生とか我慢できずにバカ食いして太っているわけではないんです!
筋肉なんです!
それと骨!
「はいはい」
「むぅ、そうやって適当に流す……!
「
「
「うわ、なにこの子めんどくせー……」
筋肉ったら筋肉なんですっ!
「もう分かったから……いい加減降りなさいよ……!」
「反省するまで降りてあげません!」
「おーりーなーさーいー!」
「いーやーでーすー!」
言い過ぎましたごめんなさいって言うまでは――
「アリサ? そろそろ出発しないといけないんじゃ――」
「あ、シャル」
「なに、してるの?」
え?
なにって、キャサリンさんが私のお仕置きから逃れようとしているので床に無理矢理押さえつけてるだけですけど……?
「……私、初めてのキスは好きな人にって決めてたのに……」
キャサリンさんがまなじりから涙をほろりと…………審判、タイム! タイムを要求します!
もしくはチャレンジ!
アウトかセーフか動画検証で――
「アリサ……僕に隠れてキスしたんだ。それも……嫌がる女の子に無理矢理……!」
「ちょ、シャルさん……? キャサリンさんの話は話半分……一割、いえ、話零割で聞いてくれないと――」
「かなり減らしたわね」
そこ五月蝿いですよ!
「アリサ……ひどい……!」
ああああああ!
シャルが泣いちゃってます!
違うんですよ!?
誤解なのに……でも間違ってもキャサリンさんと私の関係は説明できませんし……ってこういう言い方だとますます浮気してるみたいですね。
「そっか……僕との学園祭デートをドタキャンしたのもキャサリンのためだったんだね……僕より、キャサリンの方が大事――んぅ!?」
「んー! ……っぷは! あの……信じてくださいとしか言えないのですけど私の唇はシャルだけのものです。なので、どうか泣かない……で?」
シャルと目を合わせるためにその前髪を梳くようにして撫で上げると……泣いてない?
え? あれ?
泣き止んでるとかじゃなくてそのそも泣いた気配がありませんよ!?
え、え、でもさっき泣き声も……あれ!?
「えと……シャル……?」
「……ごめん。からかっただけなの……キスごちそうさま、なんて……」
「~~~~~~~~っ!」
っもう!
嬉しいやら恥ずかしいやら頭に来るやらで言葉が出なくなっちゃいましたよ!
もう……心臓に悪いじゃないですか……
「私たちは、何度も同じことして仲が拗れてるんですから……怖くなっちゃいます」
「アリサ……ごめんね?」
「…………そうやっていちいち重く受け止めるから拗れるんだと思うけど」
「「う゛……」」
その自覚はあります……でも私は冗談と本気の判断が難しい時も多くて……悲観的なんでしょうね。明日が今日より楽しいなんて思えた試しがありませんもん。
今だってそうです。
同い年のキャサリンさんと行くアメリカは楽しみではありますけど……それでも不安の方が大きいですから。
「だいたい高校生の恋なんてもっと気楽でいいのよ。相手の人生背負いこもうなんて自分の面倒見れるようになってから言うべきよ」
「「は、はい……」」
あれ、なんでしょうこれ?
どうして私とシャルが並んで正座してキャサリンさんの恋愛観を語られているのでしょうか?
いや、重くなりかけた空気を払拭できたのだから感謝こそすれ不満に思うことはないのですけど……
「キャサリンさんは……恋愛に長けているんですねぇ……」
「え? ま、まぁ人並みには、ね? うん」
私が感心してしまったキャサリンさんでさえ人並み……私は赤ん坊レベルみたいですね。
もちろんキスとかエッチとかしてますから同い年の子から見たら進んでるでしょうけど……さっきのキャサリンさんの話しを聞くと私のは酷く独り善がりなのかも知れません。
壊してしまった玩具を大人に頼まずに自分で直そうとする子供のような……どんなに失敗しても無理だと理解しない頑固さが私からシャルへの想いにはあります。
実際、私一人ではシャルを守れないと、その論拠も提示されながら告げられたとしても……私は一人でシャルを守ろうとするでしょう。
私以外の誰にも、必要以上にシャルと関係させたくないんです。
私以上にシャルのことを守ってあげられる人が現れたら私はきっと……
「って私の恋バナとかどうでもよくて早く出ないと飛行機に遅れるわ!」
「ええー!? アリサ、早く準備して!」
「は、はい!」
えっと……キャサリンさんが睨んでいるので仕方なく
「あ、アリサ! これ、僕だと思って……その……えっと……」
「指環……ですか?」
「うん……この前壊れちゃったスラスターに使われてた装甲板から削り出したの……やだ、想像してたのより恥ずかしいなぁ」
シャル……嬉しいです!
渡された指環は塗装の影響か淡いオレンジ色の金属光沢以外はなんの特徴もないシンプルなデザイン。
二人のイニシャルを彫ろうとしたそうですがさすがはISの装甲。小さな文字を細工するには素材が固すぎたらしいです。
……ただ、それでもスゴく嬉しいです。
見つめあったのは一秒未満の刹那でしたがそれでも自然に私たちは目を瞑って――
「コホン……恥ずかしいのは目の前でそんなことされる私よ」
――ちゅっ
キャサリンさんを無視して軽いキスを交わしました。
「じゃあアリサ……怪我しないで帰ってきてね!」
「もちろんです!」
さぁ、キャサリンさん!
早くしないと乗り損ねちゃいますよ!
「……ま、いいけどね」
「ん?」
「なんでもないわよ」
なんだか、キャサリンさんの反応はいつも私たちのキスを見せつけた人たちの呆れたような反応とは違った気がしましたけど……
まぁ、キャサリンさんは恋愛マスターらしいですこれくらいは慣れっこなのかもですね。
あっという間に私たちは正門前に到着。数分と待たないうちに黒塗りのリムジンが迎えに来ました。
これはフランスが保有している車です。
「……キャサリンさん」
「ん?」
「さっきの話ですけど……それでも私はシャルを独りで守ります」
「なんの話?」
……私は眉を顰めるキャサリンさんになんでもないと答えて目を瞑りました。
もし、それでもシャルを完璧に守ってくれる人がいたら……
それなら私はその人を――――