Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「From Me to You」


16. Distance qui existe parmi deux personnes.

「なるほど……いきなり退学にした生徒を再編入させろなんて言ってきたかと思えばそういう理由からか」

 

 並んで立っている私とキャサリンさんを一瞥した織斑先生の目には多分に呆れが混ざっていました。

 小賢しいとか心配性とか言っていますが……まあ、私ですからね。

 

「ねえ、話してよかったの?」

「ええ、織斑先生は数少ない無条件で信頼できる人ですからね」

 

 隣のキャサリンさんが小声で尋ねてきたので自信満々にそう返しました。だって織斑君のお姉さんですからね。

 言うなれば強い織斑君でしょうか?

 ですから“悪者”をやっつける時は協力してくれるでしょうね。

 

「だが盗聴機を壊したなら向こうはコイツの正体がバレたと考えるんじゃないか?」

「それなんですよね……正直に言えば心配はしていないのですが、ただ微妙なところではあります」

 

 偶然を装って破壊したとはいえ、この彼らが知ることのできない時間を疑われてしまえばどうにもなりません。

 このままキャサリンさんを送り出してと下手したらキャサリンさんが殺されておしまいです。

 なので、どうにかして向こうにはキャサリンさんが未だに向こうの仲間であると確信してもらわないといけないんですけど……

 

「どうにかする手なら有るわよ?」

「え?」

「ただ、あなたも危険になるけど、それでもいいなら携帯を貸しなさい」

 

 私が危険になる分にはなにも問題ありません。

 一瞬以上悩むこともしないで私の電話をキャサリンさんに預けました。

 キャサリンさんはすぐに電話をかけ始めます。

 

「……あ、スコール? うん、今ちょっと“フランスのお友達”の携帯から電話かけてるんだけどさ……ああ、うん、私のは電波障害かなにかで壊れちゃって――」

 

 きっとこの会話も亡国機業のなかで取り決められた符号のようなものなのでしょうね。

 キャサリンさんが今、私の携帯番号と盗聴機が壊れたことを伝えたことは何となく分かります。

 

「うん。予想以上に楽しかったわ。じゃあ、三時に」

 

 通話を終えるとキャサリンさんはピッと電話を切って携帯を返してくれました。

 ……向こうに私の番号を知られましたけど同時に私も向こうのスコールさんとやらの番号を入手できました。

 役に立つかはまだ分かりませんが武器は多いにこしたことはありません。

 

「会話の内容を聞かせてください」

「えっと……今が二時だから、三十分後に機業のISが二体攻め込んでくるわ。目的は織斑君の白式の奪取と私の回収……主目的は私の回収かしらね」

 

 機業が白式を狙うのはただ他国に横流ししたいだけだから、と呟くキャサリンさん。

 あれ?

 そこまで知ってるってもしかしてキャサリンさんって……

 

「意外と機業の奥に食い込んでます?」

「そんなわけないじゃない。ただの末端よ。機業はISに対してあんまり興味がないみたいだからそもそもの人数が少ないのよ」

 

 だから末端にもそれなりに情報が入る……ということでしょうか?

 それにしても亡国機業がISに興味を持っていないなんて……どういうことでしょう?

 

「……そもそも機業の目的ってなんなんですか?」

「さぁね。ただ、単純に金儲けがしたいやつらの集まりって訳でもなさそうよ?」

 

 ……亡国機業は遡れば第二次世界大戦まで遡ります。

 ですが彼らが相手にしていたのは西側、東側というくくりではなかったのだとか。

 だからこそ亡国機業には共産主義や資本主義といった信念はなく戦場を作り上げ兵器を輸出し金を儲けるという集団なのだとばかり……

 

「確かに考えてみれば個人ではなく集団が資金を集めることを目的にしているというのもおかしな話ですよね……安易な発想であれば世界征服ですが――」

「それならISにはもっと積極的になるはずだな」

 

 私の言葉を織斑先生が引き継ぎました。

 今、世界を手中に納めたいならなによりもまずISを調達することが重要になります。

 少し前なら分かりませんが今の世界ではお金は力に変えられませんからね。

 そうなると考えられるのは革命とかでしょうか……?

 これまでのことを考えると資本主義でも共産主義でもない第三主義となるはずですが……よく分かりませんね。まさか弱肉強食等という馬鹿げた考えでもないでしょうし。

 

「それよりなに落ち着いてるのよ!? 一時間後に機業のISが来るって言ったわよね!?」

「ええ」

「慌てても仕方のないことだろう」

 

 織斑先生と違ってキャサリンさんは現状認識が甘いみたいですね。

 現状、私たちには気構え以上のことはできません。

 亡国機業が攻め込んでくる前から迎撃準備を整えていたら向こうの情報が筒抜けであることを教えてしまうようなものですからね。

 なので、もちろんセシぃやラウラさん……そしてシャルにも言えません。

 私ができることと言えば偶然居合わせた風を装いながら学園内の人たちを確実に守れる場所にいることだけです。

 

「不破、お前は何もしなくてもいいんだぞ? 亡国機業のことなんて知らなかったことにしてクラスメイトたちとバカみたいに騒ぐのが普通だ……お前は候補生ですらないからな」

「でも、専用機持ちです」

 

 それに、私が戦わなければシャルへの危険が増します。だったら私が戦わないわけにはいかないでしょう?

 ……例え、それが私への不信感を募らせることに繋がってしまったとしても……

 

「誰かが真実を知っていれば……私の行動がシャルのためだっていうことを知っていてくれれば私は平気です」

向こう(デュノア)はそう思わないかもしれないぞ?」

「それどころかあなたが編入させようとしていた私が機業にわざわざ浚われるなんて……絶対になにかあるって思われるわよ? 悪ければあなたが亡国の人間だと思われるかも」

 

 何度も言いますけどそんなことは百も承知です。

 その上で言わせていただきますけど……

 

「それがなんですか?」

 

 ◇

 

「どう思う?」

「……僕にも分かんないよ」

 

 今、僕は保健室で鈴と話してる。

 鈴がベッドの上で座ってて僕はその横に……さっきまで一夏もいたけど少し前に出ていった。

 

「……アリサと戦ったんだってね」

「うん……戦ったなんて言えるほどのないようじゃなかったけどね」

 

 今まで見てきたアリサは本気だったけど全力ではなかったみたい、そんなことを鈴が寂しそうな顔で言った。

 アリサ、どういうつもりなんだろう……鈴を一時的にでも気絶させるほど痛めつけて、一夏と鈴が同室になるのを邪魔して……

 

――早いうちに私のこと嫌ってくれた方がいいかもしれません――

 

 あれは……あのアリサの言葉はどういう意味なの?

 それにキャサリンさんの言葉も気になる。僕が、学園の生徒たちに嫌われてるって……

 確かに僕は学園の生徒の皆を騙してた。でも、あれは国の命令でそうするしかなかったんだし皆もその事は知ってくれてる。

 だから、今までは仲良くしてもらってるって思ってたけど……キャサリンさんの話が本当なら話は別だよね。

 皆が僕に優しくするのはアリサの恋人だから。

 僕に苛められてて、それでも僕のことを好きでやっと付き合ったのに今度はその僕が苛められるなんて展開になったらアリサが救われないから……だから、皆表面上は僕にも笑顔を向けてくれてる……

 ……そういうことなの?

 

「――ット、シャルロット?」

「あ、うん、なに?」

「なにじゃないわよ。急に黙り込んでどうしたの?」

 

 自分の名前を呼ばれてはっとしてみれば鈴が心配そうな上目遣いで僕の顔を覗き見ていた。

 

「ううん。なんでもない……」

「そう? 本当に平気?」

 

 鈴は、優しいなぁ。

 本当にショックを受けてるのは鈴のはずなのに。

 恋人と同じ部屋で生活することをよりによって親友に邪魔されたんだもん。何だかんだ言っても僕は当事者じゃないから……

 でも、一つだけ聞きたいな。

 

「鈴はさ……悪いことしたら罰を受けるべきだって思う?」

「え? どういうこと?」

 

 鈴がキョトンとした顔で聞き返してくる。

 

「ごめん。なんでもないの……ただ、ちょっとね……」

「よく分かんないけど……それ相応のなにかは必要よね。お金だったり懲役だったり……ってこういうことでいいの?」

「うん……ありがと」

 

 そうだよね……やっぱりアリサに対する償いは必要だよ。

 それなのに僕はアリサと対等な関係を築こうとしてて……しかも、現実には結局僕が辛い目に会わないようにアリサに守られてるだけで……本当なら、今回のことも僕はアリサの邪魔をしちゃいけないんじゃないかな。

 散々アリサに迷惑をかけて、そのうえ邪魔をするなんて……アリサは僕のことを好きではいてくれてるみたいだけどね。

 

「なに? まさかまた面倒なこと考えてるんじゃないでしょうね?」

 

 鈴が少しキツめの顔で僕を睨む。

 面倒なことってなんだろう?

 

「だーかーらー! 嫌われたんじゃないかな、とか、アリサのために別れようかな、とかそういうことよ! まったくもう、それで振り回されるのは私たちなんだからね!」

「あはは……それは平気だよ。僕からアリサに別れを告げることはないよ」

 

 だって……鈴を邪魔するってアリサが言っても僕はアリサのことを好きだったんだから。

 

「それならいいけどね」

「うん……アリサがどっか行っちゃわない限り、もう絶対に離さないよ」

 

 どっか行っちゃっても……必ず見つけ出すしね。

 アリサがなにをしてるのかは分からないけど自分の覚悟を確認するくらいのことはできる。僕はアリサを嫌いにならない。

 どうして親友の鈴を裏切ったのか。裏切らなきゃいけなかったのか……単純にキャサリンさんを編入させるためでは無いんだと思う。

 冷静になって考えてみればアリサにとって僕と一緒にいること以上に大事なことなんてないはずだから。

 ……こうやって自信満々にアリサの気持ちを言っちゃう僕は性格が悪いのかな?

 自惚れなのかもしれないけどアリサにとって僕は命より大事なはず。事実じゃないなんてことはない。

 だってあの学年別トーナメントのときには僕が精々昏睡状態になるだけってことを理解してたのにアリサはあえて僕を庇った。それで自分が死にかけたんだから……少なくともあの時のアリサにとってあの行動に疑問はなかったんだと思う。

 

「だとするなら……僕のためなのかな」

「でもアリサが邪魔しなければあんたたちも同じ部屋になれたかもしれないのよ? アリサが一人部屋になるんだから」

「そうなんだよね……」

 

 結局そこで分からなくなる。

 アリサはどうして僕と同じ部屋になることを避けたんだろう……

 

「ま、私は結局一夏と同じ部屋になるからいいんだけどね」

 

 え?

 

「鈴、今、なんて?」

「ああ、聞いてなかったのね。あのキャサリンって娘が必要だったのは編入することで一夏と同じ部屋になることじゃない。だから私とあの子の割り当てを交換するってことになったみたい」

「それじゃあ……キャサリンさんとアリサが同室に……?」

「だろうとは思うけど……」

 

 なんでわざわざそんなことをしたんだろうって鈴が首をかしげる。

 本当に……どうして?

 キャサリンさんはアリサと僕のことを恨んでるはずで、アリサだっていい感情を持ってないはずなのにどうしてわざわざ同室にしたんだろう?

 もちろん仲直りしたのかもしれない。

 さっきもアリサがキャサリンを運んでたからその可能性は十分ある……でも、そうじゃないかもしれない。

 ただの予感だけどアリサの目的を分からないままにしてたらダメな気がする……

 

「アリサ探しに行くね」

「行ってらっしゃい。見つけたら謝りに来なさいって伝えてね」

「分かった!」

 

 確かアリサは鈴が起きる前に職員室に行ったって一夏が言ってたよね。

 まだいるかは分からないけど一応――

 

「あ……っと、危ない危ない」

 

 何もないところで転びそうになっちゃったよ。

 地面が揺れた気がしたけど……気のせいかな?


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