Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
あらざるとザオラルって似てる
――メイド喫茶『ご奉仕喫茶』材料切れのため閉店いたしました!――
「これでよし……と」
いやー、楽しかったな~。
いつもより強気なアリサにスゴくドキドキさせられちゃったし、わざわざ男の人とばっかり話すから嫉妬しちゃったよ……
でもさっきまでみたいにアリサのお世話をするのも幸せかも。アリサのお願いを全部叶えてあげて、たまにほんのちょっぴり困らせて、でも最後にはキスしてくれて……そういうのもいいなぁ。
「シャル? まだ着替えてなかったんです? デートの時間なくなっちゃいますよ?」
「あれ、着替えちゃうの?」
「汚すわけにはいきませんから」
まぁ、借り物だもんね……あれ、でもアリサのは自前だって聞いたけどな。
一瞬手に当たったエプロンの触り心地かスゴくよくてビックリしちゃった。あれ、スゴくいいシルクなんじゃないかな?
「……これ少しでも汚すとドイツの国民皆さんに頭が上がらなくなりますし」
「ん?」
「いえ、なんでもないです! とにかくシャルも早く着替えちゃってください!」
「うん、分かった」
「ここで待ってますからねー」
ふふ、アリサ楽しそう。
メイド喫茶も成功してよかった。メニューはアリサがほとんど考えちゃったけど指名システムを秘密にしておいたのは大正解だったね。
一松さんがどうせだからアリサちゃんにサプライズ仕掛けようよって言い出してくれてよかった。
あれのおかげでアリサだけが頑張ってたんじゃなくてクラスが一丸となれた気がする。
「……って早く着替えないと」
それにしてもどうして僕とアリサだけミニスカートのメイド服だったのかなぁ?
可愛いから不満はなかったけど皆より随分短いから下着が見えないかとか気になっちゃったよ……
それなのにアリサってば机の上に座るし足を組むし……僕からすればお嬢様っていわゆる深窓の令嬢って感じのお淑やかな印象なんだけどアリサ的には自信満々でちょっと偉そうな感じなのかな……?
でもやっぱりお淑やかなアリサも見てみたかったなぁ……あ、でもアリサが優しく微笑みながら男の人の相手をしたら絶対に告白されちゃうからダメだね。
最初の時も電話番号聞かれてたし……
「……また、人前でキスされちゃったな」
~~~~~~~~~~っ!?
な、なんで僕、無意識に唇を舌で舐めたんだろ!?
も、もしかしてあんなキスじゃ物足りないって心のどこかで……?
うぅ、僕、アリサにえっちな性格に変えられちゃったかも……
「もう、お嫁にいけないね」
これはもうなんとしてでもアリサとPACS結んでパートナーになるしかないよ。
僕達は女同士だから今の世の中ならきっと結婚式もあげられるしね。
子供はどうしよう……養子を引き取ることになるのかな?
でも、僕とアリサの子供なら可愛く生まれると思うんだけどなぁ……ドイツでなら体外受精で赤ちゃん作れるかもしれないけど……
「アリサは嫌がるかな……」
それはラウラとかエリーちゃんみたいな生まれ方をするってことだから……生まれた子供はやっぱり普通の生まれじゃないことを気にする。
もし本当のことを伝えないとしてもアリサか僕とは血が繋がってないってことにしないといけないのは辛いよね……
僕は……それでアリサが幸せになれるなら
でも、それじゃアリサは幸せになれない。
「……はぁ、どうして女同士で子供が産めないんだろう」
男として生まれたかったとは言わないし、アリサが男だったらよかったとも言わない。
きっと僕達が女だったから出会えたし好きになれたんだもん。
僕が男だったらデュノアに呼び戻されることはなかったし、アリサが男でもやっぱりISを通じて知り合うことはなかった。
あんまり多くを望んじゃダメなのかな……もちろんいまだって幸せだけどね。
「アリサは、もっと幸せにならないといけないよ……だって、ずっと辛い目にあってきたんだもん」
昔は僕と違って両親がいるなんて思ってたけど、結局僕には親ができた。今は二人ともよくしてくれてる。
アリサは友達がいなくて、苛められてて、唯一の居場所だったデュノア社でも僕の目を気にしなくちゃいけなくて……学園では僕のせいでいろいろあった。
「何かしてあげられることないかなぁ?」
アリサが本当に嫌がるからもう謝らない。
でも、その分幸せにしてあげないといけないはずなんだ。
償いとか罪滅ぼしとかそういうのじゃなくて僕がそうしたい。
今だって人見知りは直って誰とでも話せるようにはなったけど一組以外にアリサの友達はいない。その一組でだって親しい友達は半分程度。
そんなの絶対にアリサにとってよくないから僕が何とかしないと。
「よし、着替え完了……どうかな?」
姿見の前で一回転して身だしなみをチェック……あ、わざと変なところを残してアリサに直してもらうってのもいいかも。
それで、そんなに慌てちゃうほど私に会いたかったんですか、なんて呆れながら笑われちゃったりして……
うん、そうと決まれば……うーん、スカートの裾をちょっとだけ裏返しちゃおっと。
「よし……!」
なんて、こんなことしなくても話せるのにバカみたいだね。
でもこういうちょっとした悪ふざけもアリサとなら楽しいから困っちゃうよ。
「アリサー、お待たせー」
あれ?
隠れてるのかな?
「アリサ……? デートの時間なくなっちゃうよ?」
いない……もう一年生の廊下はだいぶすいてきてるしアリサのピンク色の髪の毛はよく目立つ。
そうじゃなくても僕がアリサを見逃すわけがないのに……それでも見つからない……
「あ、スカート折れちゃってますよ?」
不意に背後から聞こえた声。
「アリ――がとうございます……」
振り返ってみたらただの親切な人だった……アリサ、どこ行っちゃったんだろ?
トイレかな?
◇
「あー、もう! もっと速く走れないんですか!?」
「そ、そんなこと言ってもしょうがないじゃない!」
「逆ギレする暇あったら足動かしてください!」
もう!
シャルとのデートだったはずなのに!
せめて急用ができたって直接伝えたかったですけど……どうしてこんなことに!
「ってカゲロウ更衣室に忘れてるじゃないですか!」
「バカじゃないの!?」
「バカって言ってる暇あったら走れっていってるじゃないですか! だいたいどうして私が貴女を助けないといけないんですか!」
「私だってあんたに助けられたくなかったわよ!」
くぅぅ~!
ほんっとにああ言えばこう言う人ですね!
「「ほんっとに大っ嫌い!」」
ハモらないでください!
って見つかっちゃったみたいです!?
「もう、貴女のせいですからね!」
「いいから早く助けなさいよ!」
ムカつく!
全くどうしてほんとにこんなことになったのか……
背後を走っている彼女――キャサリン・ジェファソンは私が一番嫌いな人なのに!
でも仕方ないじゃないですか!
だって本当に強面の男の集団に追われてるんですもん!
半泣きで助けてって言われちゃったんですもん!
あれを無視できる人はきっと世界のどこにもいません!
「とりあえずこの部屋に!」
「命令しないでちょうだい!」
「助けてあげてるのになんですかその言い方は!」
普通ならもっとしおらしくしたり、そういうのがあってもいいんじゃないですか!?
せめてありがとうの一言くらいいってもばちは当たりませんよ!?
そうこうしている内にも厳めしい男性の群れが近寄って来ているので
もちろん私は廊下にいるままです。
「ふぅ……何が目的かは知りませんけど怪しきは罰します」
亡国機業関係かもしれませんし。
「別口なら今日行動起こしたことを後悔するんですね」
「もう取り囲んでいる! 抵抗するな!」
あら、お優しいことで。
どうやら私の逃げ道を塞ぐ以上のことはしないでくれるようですね。
「もちろん抵抗なんてしませんよ?」
「がぁっ……!」
だって、抵抗するのは弱い方の特権じゃないですか。
先頭の男性の腹部にめり込んだ拳を引き、動かなくなった体を横合いに転がします。
キャサリンさんが立て篭っている部屋は扉が一つしかありません。攻めるに難く守るに易し、というところですかね。
「……痛い目見てもらわねぇといけないみたいだなぁ? 俺は女相手にも容赦しないぜ?」
「結構ですよ? 私も弱者相手でも容赦しませんし?」
「上等ぉっ!」
下品な吠え声とともに柳の葉のような形のナイフが飛んできました。
うん、まぁまぁいい腕ですね。私も投擲用ナイフを使えるので刃の尖端をぶれさせずに投げることの難しさは知っています。
「ただ、残念ながら遅いですね……もっと沢山投げた方がいいんじゃないですか?」
最小限の動きでナイフの刃を摘まみ取ります。
この程度のスピードだったら私でも対応できますよ。ママは銃弾を掴みとれるくらいなんですから。
「大した度胸だな」
「あなたは虚勢を張るのが得意みたいですね?」
「一本を取れても四本ならどうだっ?」
ええ、とれません。
というか無駄なことせずに避けさせてもらいます。
どうも忘れているようですけど……ここは一直線の廊下で、しかも私は挟み撃ちにされているんですよね。
だから標的を失ったナイフはそのまま私のは以後で廊下を塞いでいる彼らの仲間に突き刺さるだけです。
「いてぇぇぇぇっ!」
「なにすんだよアニキ!?」
どうやら幸運なことにナイフはちゃんと二人の男性に刺さったようです。
一人は腕に、もう一人は手に刺さっているということは咄嗟に体を庇ったんでしょうかね。
「てめぇ……」
「避けただけで睨まれても……あ、そうだ、これ返しますね」
右足を前に出し、そのまま腰を回転させ、その勢いを肩から肘、肘から手首、手首から指へと伝導させ最初に掴んだ投げナイフを投げ返します。
私の投げたナイフは少しのブレもなく持ち主の肩へと突き刺さりました。
「ってぇ……! このクソ
「片腕だけでどうにかできるつもりですか? 私、甘くないですよ?」
膝の力を抜いて瞬間的に体をすとんとしゃがむように落とすことで重さを減らします。
それと同時にリノリウムの床を掴み、一気に体を蹴り出します。
七メートル程の距離を一歩で移動し肩口を抑えて私を睨む男性に一発。それで終わりです。
どうやら先の二人がリーダー格だったようで残りは烏合の集でした。
「腕前がいいだけで、ただの素人だったみたいですねぇ」
とりあえず全員やっつけて、窓から外に捨てたあとキャサリンさんを押し入れた部屋に入ります。
彼女は傷どころか埃すらも付いていない私に驚いているみたいですね。
「……だいたい、どうして私を助けるのよ。私、あなたを苛めたのよ? 孤立させようとしたのよ?」
「…………」
確かに、その通りです。
シャルが転校してきたばかりの頃、偶然私とシャルの歪な関係を知った彼女は事実をさらにねじ曲げ噂を流し、私を悪女にしたて上げました。
他にはお弁当を教室の床にぶち撒けられたりもしましたね。
理由は確か私が気に入らなかったからです。
で、その後いろいろあって彼女は退学処分にされました。
「それに、私はまだあなたが大嫌いなのに……なにか企んでるの?」
少し目を細めて私を睨んできます……まったく、この人は何も分かってませんね。
「あなたを使って企めることなんてたかが知れてますよ。私があなたを助けようと思ったのは……」
「思ったのは?」
「……シャルならそうすると思ったからです」
「あ、そう」
あー、呆れられました。
いや、自分でもどうかと思いますけどね?
「それに私は今幸せなので。終わりよければ、じゃないですけど悪かった過程なんて気にする以前に思い出したくもないです」
今が幸せ。
それでいいじゃないですか。
私の隣にシャルがいる……これだけあれば十分ですよ。