Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「忍び寄る影、隠された陰」


9. L'ombre approchante et un qui soient cachés dans mon coeur.

「むむ、むむむむ! はぁ……絶対にここだと思ったんですけどねぇ……気付かれたんでしょうか」

 

 学園祭準備期間の最後の土曜日。

 メイド服の貸し出しをしてくれるお店――先月やらかした@クルーズ――との最終調製があるという名目で学園を抜け出した私は三キロほど離れた場所にある空の貸しテナントの一室にいました。

 部屋はそれほど広くはありませんがISを展開できる程度はあり、しかも北東向きの窓からはIS学園の校庭が見えます。

 先月まではこの建物からIS学園までのラインを遮るようにアパートとビルが立っていたのですけどね……再開発のために取り壊され、ついに先日取り壊しが終了してしまいました。

 

「狙撃ポイントとしてはかなり都合がいいですし、なにより取り壊しが急すぎます。絶対にこの場所を使うためだと思ったのですが……」

 

 私のいる部屋がIS学園を狙撃できるライン上で一番高度があるのでこれ以上離れたところにアジトがある可能性はゼロ、そしてこれより近くなると学園のISコア管理用のセンサーに感知されます。

 本当はコアを盗難されたときに追跡できるようになのですけどね。

 ですがこの部屋、および他のテナントはまだ借りられていませんし盗聴機等の類いの工作もありません。

 空振りみたいですね。

 とりあえず定時の報告だけでもした方がいいですよね。

 

「……あ、もしもし」

『ミス・フワ……どうでしたか?』

「ええ、今のところ尻尾は掴めていません……取り壊しが相次いだのは偶然だったのかもしれませんね。衛星の映像はどうなりましたか?」

 

 電話の相手はフランス……ある組織に対抗するためだけに作られた秘密組織です。

 最近ではヨーロッパ各国以外とも協力関係が作られつつあるので、その分だけ外側への警戒を強めているんですよね。

 まぁ、亡国機業(ファントムタスク)をどうにかしたいのはどこの国も同じなので。

 

『ええ、イギリス・アメリカ両国にも確認してもらいましたが、やはり一昨日から昨日にかけてスイス-日本間を超高空飛行をしていたISはイギリスの第三世代型であるサイレント・ゼフィルス、アメリカの第二世代型ISのアラクネであることは確実のようです』

「機影を捉えた衛星はロシアの実験型IS衛星ですよね?」

『はい、あれ以外の衛星で確実なISの座標を捉えることはできませんから」

 

 IS衛星――通称・夜鷹の星(コゾドイ・ゼヴェスディ)は実験的にISコアを組み込んだ衛星。通常のセンサー類ではISは捉えられないということを逆手にとった、対IS用の衛星ということになります。

 ある意味、束さんの宇宙進出という目的も達成されたと言っていいのかもしれません。

 今のところ表向きには(・・・・・)ISコアの無人稼働はできないはずなのですがハイパーセンサーに限りスタンドアローンで使用することを可能にしたようです。

 

「……むしろハイパーセンサーしか無人稼働させられなかったからこそのIS衛星なのでしょうか?」

『さぁ……映像で捉えるだけならば各国の軍事衛星でも可能なのでコアの無駄遣いという見方もできますが……』

「アメリカの軍事衛星を誤魔化せるレベルの光学ステルスとなると白騎士か私達の第三世代だけでしょうしね」

 

 逆にいえばフランスが開発中の幻狼(ミラージュ・ガルー)を捕捉できうる唯一の衛星とも言えますね。

 海で私がアメリカの軍事衛星とリンクして銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の座標を弾き出したのと同じように、幻狼の座標を夜鷹の星で探り、その情報をISとリンクされてしまったらステルスの意味もありませんし……開発室にはなにか対策を考えておいてもらいましょう。

 

「それにしても第三世代型と第二世代型が一機ずつ……アラクネは実働機ですしサイレント・ゼフィルスも試験機なので何も起きていない現状でスペック情報の開示請求を出しても通りませんよね……」

『開示して結局戦いませんでしたとなると大損ですからね』

「狙いが学園だとしたら……人に紛れ込むことができる学園祭当日でしょう。学園には敷地内に存在するコアの座標を視覚的に管理できる設備もありますが亡国機業が対策をしていないとは思えません」

 

 飛行機などを使わずに堂々とISを飛ばしたのも警戒させておいて、当日にはコアの反応がないからと油断させるためとも考えられます。

 もしかしたらISすら囮で実動部隊はあくまで人間という可能性もあります。

 

「こちらでも気を付けますけど当日はあまり動けないので……」

『活動支援員として人員を派遣しましたが、チケットの関係上学園祭に参加できるのは三人です。他の国からも同数、もしくはそれ以下というところでしょう』

 

 ……軍事関係者などにもチケットが配布されるとはいえ、彼らの目的は生徒の能力評価のためではなく企業としてのIS周辺機器――平たくいえば武器の売り込みと操縦者のスカウトです。

 企業・学園・生徒、その三者にそれなりのりえきしかないため学園祭のチケットはあまり配布されないんですよね。

 そもそも生徒が知人に渡すためのチケットも一枚のみと両親を呼ぶことすらできない厳しさですし。

 

『そういえばミス・フワからチケットが届かないと博士が嘆いていましたが……?』

「だって送ってませんから」

 

 正直、パパは親バカ過ぎて……恥ずかしいです。

 私がメイド服を着てるところを見られたらきっとかなりの量の写真を撮られてしまいますし、なにより私が第二世代であるのに戦闘成績が一年生内で上位に位置しているため、カゲロウを開発したチームのリーダーであるパパもかなりの有名人ですからね。

 きっと軍事関係者仲間に自慢しまくります。

 

「というか一時期はISへの対抗手段を考えてた人ですから亡国機業が網を張っているかもしれない学園には呼べませんよ」

 

 そのノウハウを目的にしている亡国機業に拉致られるかもしれませんし……場合によっては亡国機業以外からも狙われる可能性が……

 

『そういえば前日博士の研究データの一部が盗まれたことは知っていますか?』

「え!?」

『幸い、それによって我々がダメージを受けることはないそうですが……』

「はぁ……それならいいですけど。ちなみになんのデータを盗まれたんですか?」

『詳しくは……ただ、コアと機体の結合力を強めるための研究データだと聞いています」

 

 その内容なら確かにダメージにはなりませんね……ただ、気になることが一点あります。

 

「それ、私達のISに実行されましたよね?」

『はい』

「あの、痛いやつですか?」

『操縦者の皆様はとても痛かったと口々に……』

 

 ……あれですかー。

 まぁ、確かにビリビリして痛かったですが、あれならフランスにとって大したダメージにはなりませんね。

 ただ亡国機業を介して同じ技術が他国に渡った場合は……操縦者の皆さんにご愁傷さまと言わざるをえません。スゴく痛いのに利用するだけの価値はありますからね……

 

「とりあえず潜伏場所の心当たりはいくつかあるので学園祭に来られない方に張ってもらってください」

『分かりました。ミス・フワの情報をこちらでも精査して警戒にあたります』

「お願いします。それで場所はまず私がいる川井ビルの十二階以上のテナント、学園から西北西に四キロの位置にある廃棄された製紙工場、学園から――」

 

 ◇

 

「ただいま帰りました」

 

 色々と考えることが多かったためついつい帰りが遅くなっちゃいました。

 まぁ今日の夕食当番は鈴ちゃんなので慌てるほどでもないんですけど……あれ、キッチンから漂ってくるのは中華の香りじゃなくないですか?

 

「今日の夕食は中華じゃ――」

 

 ないんですね、と言おうとキッチンに頭を出したところで思考が固まりました。

 キッチンにはいつもの定食屋のような前掛けをした鈴ちゃんではなく――

 

「あっ、アリサ!? え、えっと、えっと……ちょ、ちょっと待ってね!?」

 

 薄いオレンジ色のフリルエプロンを身に付けたシャルが薄焼き卵を焼いていました……いったい何を……いえ、ここは私の推理で当ててみせましょう。

 ……微かに薫る胡椒と焼いた鶏肉の匂い……ということはオムライスですね!

 右側のガス台で暖めていたご飯を左側の薄く伸ばした半生の卵に移してフライパンの持ち手をトントンと叩くようにして卵でご飯を包んでいます。

 無意識なのでしょうけど口で小さくトントントンと呟いているのがらぶりぃです。

 晩御飯を作りながら仕事帰りの私を待つシャル……うん、これはもう新婚さんと言っても過言ではないですよね!

 やっぱりあれでしょうかね……二木さんが言っていた料理中の恋人に後ろからイタズラを実行すべきでしょうか?

 

「うん! 綺麗にできた! ねぇアリサ、見て見て――っきゃ!?」

「もう我慢できません。シャルー! 愛してます!」

 

 シャルがフライパンから手を離すと同時に抱き付きました!

 

「わ、わ、わぁ!?」

 

 シャルも一瞬持ちこたえましたが結局耐えられずに倒れちゃいました。

 まぁ、私、この身長で五十キロ近いですし仕方ないんですけどね。あ、脂肪じゃなくて筋肉です。これ重要ですから。

 

「あ、アリサ危ない!」

「ふぁっ!?」

 

 私がシャルを押し倒していたのが半回転してシャルが私に馬乗りになりました。

 いえ、馬乗りというよりは私を抱き締めて庇っているような……?

 

「あ……」

 

 ガス台に乗っていたフライパンがぐらりと傾いて私たちの上に……中身が入っていない方なのでバランスが崩れたんですね。

 シャルはきっとそれから私を守ろうと……でも、そんな簡単に守らせてあげません。

 学園ではシャルがお姫様で私が騎士らしいですからね。

 シャルをぎゅっと抱き寄せてから右足を伸ばし親指と人差し指の間でフライパンの持ち手を挟み取りました。手でいうとチョキに近い形です。

 

「ふぁ……あれ?」

「シャル、もう大丈夫ですよ……」

 

 …………というかフライパンを挟んでいる指がつりそうなので可能な限り早く退いてください!

 いや、やっぱり退かないでください!

 シャルに覆い被さられているシチュエーションはかなりレアですからね。フライパンは私がどうにかしてガス台に戻します!

 

「よっ! ほっ! えいっ! ふぅ……よし! とにかく! 私を守るなんてダメですよ?」

「むぅ……アリサは守られたくないの?」

「そうですね。お姫様を守るのが騎士の仕事で、それが私たちの配役(ロール)ですから……」

 

 私も女の子ですけど、シャルより強い女の子なんです。

 私の一番の価値はやっぱり戦うことですから……その一番をシャルのために使いたいんですよね。

 そのためなら乙女な私なんていりません。白馬の王子様を待つんじゃなくて囚われのお姫様を助け出すんです。

 

「シャル……私が守りますからね」

「……うん!」

 

 シャルは危ないことしないでいいんです。

 だから亡国機業のことも伝えません。シャルには純粋に学園祭を楽しんでほしいですから……メイド喫茶にしたのも先月のデートの時のことがあったからですし。

 楽しそうに接客していたのにあんなことになってしまいましたからね。

 

「と、とりあえずご飯にしよっか?」

「今日の夕飯は~……オムライスとハンバーグ、さらにキノコクリームスープですか」

「うん。学園祭でだすメニュー、僕も作れた方がいいと思って」

 

 シャルなら練習しなくても上手に作れると思いますけど……まあ、真面目さんですからね。きっと万に一つも失敗したくないのでしょう。

 やっぱりこれだけ楽しみにしてるなら学園祭を邪魔させるわけにはいきません。

 亡国機業の目的がISなのか私なのか織斑君なのか……もしかしたら他のことなのかも分かりませんし動かれる前に叩きたいですね。

 

「でもどうしてシャルが私達の部屋に?」

 

 ご飯も食べ終わってそろそろ九時になるという頃に気になっていたことを切り出しました。

 シャルがいるならもっと早く帰ってきたのに……

 

「あ、あー……ほら一夏が執事やるでしょ? それで鈴が拗ねてるというか怒ってるというか……」

 

 あ~、やっぱり鈴ちゃんのライバル心を刺激するだけでは長持ちしませんでしたね。

 まあこうなるのも予測済みだったというか、むしろ私からも織斑君を使う代わりに寮内での便宜を図ると伝えようと思っていたんです。

 結構自由に見える学園の寮ですが規則が無いわけじゃないんですよね。

 午後七時以降は学園敷地外に出ては行けませんし、その一時間後には寮にいなければいけません。もちろん他の人の部屋に泊まるなんてことはダメですし、まして織斑君の部屋なんてもっての外です。

 そしてだいたい九時頃に寮管が部屋に見回りに来ます。

 

「不破さんいますかー?」

「いまーす」

 

 来ましたね。

 

「凰さーん、いますかー?」

「あ、鈴ちゃんトイレ入ってます~。ちょっと待ってくださいな」

 

 えっと、MP3プレーヤーの……トイレなので今日は十二番ですね。

 再生っと。

 

『あー、ごめんなさい。凰鈴音いまーす』

「はい、騒いじゃダメですよ~?」

 

 これでよし。

 代返で誤魔化せる相手じゃないので鈴ちゃんと私の声を録音したものを常備しているんです。

 シャルが驚いてますけど……どうしたんでしょう?

 

「よ、よく思い付くね……」

「え? じゃあシャルはどうしてるんですか?」

「あぁ、うん……ラウラに頑張ってもらってる……」

 

 バレるのも時間の問題ですね……いえ、見回りが着てから部屋移動をすればいい話でもあるんですけど。

 

「あ、そうだ……アリサって古文得意……?」

「ええ、まぁ人並みには。課題ですか?」

「うん、ちょっと分からないところがあって……」

 

 シャル、顔が赤いですよ?

 古文の小森先生は調べれば解ける課題しかだしませんしシャルがその手間を惜しむなんてことあり得ないです。

 ということは……そういうこと、ですよね。

 

「ええと、ノートは起きっぱなしなので……隣、いいですか?」

「う、うん……もちろん」

「え、えっと、ではノートを……」

 

 ただ隣に座って手を繋ぎ会うだけ、というのに最近はまってる私達です。

 

 ◇おまけ◇

 

「り、鈴……さっきからなに怒ってるんだよ?」

「怒ってない」

「怒ってるだろ」

「怒ってないって言ってんでしょうが!」

「怒ってる怒ってる」

「一夏がしつこいからよ!」

 

 今は怒ってるけどさっきまでは本当に怒ってなかったんだから!

 その、理由ができたと思って勢いで部屋に来ちゃったから恥ずかしかっただけで……

 ひ、久しぶりのお泊まりなんだから少しくらい察してくれても……

 

「あー……いや自慢じゃないんだけど俺は鈍い」

「……そうよね」

 

 一夏が恥ずかしそうに言うけどそんなのは小学生の時から知ってるわよ。

 

「全肯定かよ……まぁ、だから言いたいことがあるなら聞くから。言ってくれないと分からないことの方が多い」

「ダメ男……」

 

 だいたい鈍いのを理由にしようとする根性も気にくわないわ。調教してやろうかしら。

 そうね、私の目線ひとつで私が何してほしいか分かるようになるくらいは……

 

「だから、話し合おうぜ?」

 

 むぅ……笑顔で言われたら許さないわけにもいかないわよね。私は心の広い女だし?

 

「……私は――」

「肉体言語でな?」

「は? ってちょ! きゃぁ!」

 

 いきなりお姫様だっこなんて……!

 ~~~~~~~~っ!

 一夏はそのままベッドの方に歩いていく。

 

「電気消すぞ」

「ま、待って!」

 

 さすがにこのまま本番ってのはムードが――!

 

「鈴、愛してるぞ」

「っ! な、なによ、全然鈍くないじゃない……」

「じゃ、消すからな」

 

 ぱちん


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