Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

100 / 148
エピローグ「ソラへ」

色々含めてジャスト100話

これにて物語は一旦の完結を迎えます。
いわゆる第一部・完


Un épilogue / Il va à l'univers.

「見られてるなぁ……」

 

 ここまであからさまに見られるのはデュノア主催でのパーティーだからかな。

 視線にもいろいろ意味があるけど、今僕に向けられているのは総じて不快で粘つくような視線。

 アリサ以外には、見詰められたくないのに……

 

「嫌な感じ……」

 

 何度かダンスにも誘われたけど……全員に下心を感じたから断った。

 背中も胸元もそれなりに露出があるから仕方ないけど……でも、嫌だ。

 だいたい僕がアリサのものだってのは周知の……いや、顔が赤くなっちゃうから考えないようにしないと。

 でも、そういう下品な視線だけじゃなくて……まぁ、男装をしてた代表候補生なんて僕だけだからそういう意味で注目を浴びるのは仕方ないね。

 

「来たぞ」

「あれが……」

「相変わらず……」

 

 突然、周囲が騒めきだした。

 理由は明白で……アリサが現れたから。そんなことくらい見なくても分かる。

 IS適性が最高ランクのS+にもなるかもしれないって言われてたアリサはISを降りたことで僕たちの中でも特に有名になったからね。

 今日は軍事用としてのIS開発をやめてから初めて世界中の要人を招いて開かれたパーティー。その中心はデュノアが開発を続けていた従来のものとは趣を異にする……でも本当は原点に帰っただけのIS。

 

「アウトサイダー……」

 

 誰かが呟く。

 かつて宇宙を夢見た篠ノ之博士。

 そのためのISは宇宙に飛び立つための翼を折られ、兵器に転用され、文字通り人間にとっての成層圏を無限のものとしてしまった。

 だから、その無限の成層圏(インフィニット・ストラトス)外側(アウトサイド)に辿り着くための新機体……それがアウトサイダー。

 今日は、そのお披露目パーティー。

 

「シャル、どうぞ」

「ありがと」

 

 アリサがグラスを二本持ってきてくれる。片方はシャンパンでもう一つはシャンメリー……アリサ、まだ飲めないから。

 アウトサイダーの開発自体は思っていた以上に早く終わった。

 それというのもアリサが篠ノ之束本人をデュノアの研究チームに誘致したから。

 束さんは相変わらず雲のように捉えどころがないけど、それでもそのときばかりはフランスに留まって協力してくれた。

 僕達がIS学園を卒業してから四年……他国に気付かれないようにテストをしていたから、開発が終わってからずいぶん長い時間がたった。

 

「もう、七年も経ちますね」

「七年?」

「ええ、私がシャルと結ばれてから……そして、束さんが再び宇宙を目指し始めてから七年です」

「そっか、あのドイツ旅行の直後だったもんね」

「今日は皆さんも来るはずですよ」

 

 学園を卒業してから、やっぱり僕達は会いづらくなった。

 例外は一般人のアリサと鈴だけ。

 アリサは結局、大学に進むこともしないでパティシエの修行を。

 鈴は学園の卒業と同時に候補生を半ば強引に辞退、一応は操縦者としての立場も保持してるけど……鈴の立場をあえて言うなら一夏の奥さん、かな?

 セシリアやラウラとは一年に数回会えるかどうかってだけ。それも結構無理して予定を調整してやっとってところ。

 身軽なアリサはたまに思い付いたみたいに会いに行ってるみたいだから、それは少し羨ましいかな。

 

「相変わらず、アリサは目立ってるね」

「悪目立ち、というべきなのでしょうが」

「……でも、僕はいいと思うよ?」

 

 目立つ理由はアリサが着ているドレス。

 アリサは公的な場では必ず黒しか着ない。例外は髪留めにあしらわれてる青い花飾りだけ。

 多分、喪服なんじゃないかな。

 

「私のワガママで、あの子は……」

「…………」

 

 あの子、というのはアリサの人生で最も長い間連れ添っていたかもしれないパートナー……コアナンバー〇四九、オンブル・ループともミラージュ・ガルーとも呼ばれたアリサの専用機のこと。

 アリサは鈴と違って何のペナルティも負わずに操縦者としての立場を完全に捨てることができたから当然アリサの専用機も要らなくなった。

 やっぱり、アリサにとってスゴく大事な存在だったみたいでふとした時に寂しそうな顔をする。

 アリサの喪服もアリサの決断によって壊されてしまったパートナーのためのもの……

 

 と、アリサは思ってる(・・・・・・・・・・)

 

 ◇

 

「あの子は……カゲロウは私が辛いときにも守ってくれましたから」

 

 だから忘れないようにこうして黒のドレスを着るんです。

 周囲には分かりやすく喪服だと言っていますが……私にとっては黒という色自体がカゲロウの象徴になっていたので着ているまでです。

 私の成長に合わせて成長してくれたカゲロウ……そんな優しい意思すら感じさせていたのに、私は私のためにカゲロウを棄てました。だから、せめて忘れないように黒のドレスを……

 

「アリサ……」

「あ、ごめんなさい。しんみりする場面じゃないですね」

「そうだよ。せっかく皆に会える日で、その上、束さんの夢が叶う瞬間で……それに……」

「それに?」

「あ、ううん、内緒!」

 

 内緒て……まぁ、でもそろそろでしょうか。

 今日という日はシャルと私にとっても大事な日だったんです。

 というのも、この宇宙開発用IS――通称アウトサイダー――の開発が一段落するまではPACSも結ばないというのが二人の間での約束でしたから。

 それに私もまだ一人では美味しいケーキが作れませんしね。パティシエの師匠(せんせい)は私がトラウマによってケーキが作れなくなっているのを知ってくれているので甘く見てくれていますが、そもそもの私の夢がケーキ屋さんなのでいつまでもぬるま湯に浸かっているわけにはいきません。

 それに最近はブラウニーくらいなら最後まで気分悪くならないんですよ?

 あれはクッキーの一種、なんてつまらないこと言わないでください。

 

「ん、僕ちょっと挨拶に行ってくるね。アリサにお客さんも来たし」

「私に?」

「あ、姉ちゃんだ」

「え? ……天羽? なんでこんなところにいるんですか?」

 

 今年で十五歳の弟です。

 もう身長も抜かれちゃって……もう圓明流だけでは勝てないでしょうね。それにあと三年もしたら私よりも強くなるでしょう。

 今は武者修行と称してドイツのシュヴァルツェア・ハーゼに預けています。

 圓明流の業の殆どはもう受け継いでいますからあとは経験を積ませるだけなんですよ。

 

「あ、ということは……」

「お姉……様?」

「やっぱり……エリーちゃん、元気でしたか? 久し振りですねぇ」

「今日お姉様に会えると知って、もう二ヶ月も前から準備していました」

 

 エリーちゃんとは卒業してから会っていなかったので四年ぶりくらいでしょうか?

 あの頃のエリーちゃんはいろいろと知りすぎていたために基地から出ることは許されていなかったんですけど……今はIS学園の生徒会長を務めているそうです。

 あの頃から強かったので不思議ではありませんけどね。

 

「いくつになりました?」

「今年で十七歳です。お姉様もお変わりなく」

 

 こ、これでも身長は二センチ伸びたんですからね……!

 それにしてもエリーちゃんが五つも年下だと知ったときの私のショックといったら……せいぜい二つか三つ違いだと思ってましたから。大人っぽいのずるいです……

 で、でも私だって最近は艶っぽいって言われるんですからね! シャルと一晩過ごした翌日限定ですけど!

 

「それで、天羽とはどうですか?」

「ど、どうとは……?」

「それはもちろん……」

「な、なんのことやら……」

 

 あー、もう!

 目を逸らさないでくださいよ。いけずですね。天羽に惚れちゃいましたかって聞いてるんです!

 ほら、天羽は私に似て優しいですし?

 それに私くらい強いですからエリーちゃんとお似合いだと思うんですよ。そもそもそのために苦渋と辛酸を飲み干しつつドイツに送り出したんですから!

 お姉様じゃなくてお義姉様と呼ばれるのはいつになることでしょう。

 

「天羽、ファイトです」

「ん? あー、うん。で、姉ちゃん飯は?」

「この子はまた話を聞かない……向こうのテーブルにありますから。遠慮して食べるように……」

 

 天羽が来たので料理も増やしてもらわないといけませんね。それにしても色気より食い気……まぁ、この年なら仕方ないとも思いますけど。

 でも、もうとびきり美少女のエリーちゃんがいるのに……いえ、私やシャルもいますけど流石に二十歳過ぎて美少女というのはおこがましいというか……年をとるって嫌ですね……

 

「お姉様はまだ十七でも十分通じますよ」

「それはそれで嫌ですね」

 

 エリーちゃんはすらっと綺麗に成長したのにどうして私は未だに寸詰まりなんですか……?

 未だに150に届かないんですよ?

 

「エリーちゃんが天羽のお嫁さんになったら私の小ささが目立つかもしれませんね……」

「だからどうして、」

「天羽、嫌いですか?」

「いえ、好きとか嫌いとかではなく……アモーはまだ十五歳ですし……」

 

 ほほう……?

 まぁ、実のところクラリッサさんにお願いしてドイツでの様子は聞いているのですが……

 

「あ! アモー、ゲストだからっていくらなんでも取りすぎですっ! 少しは遠慮を……! お姉様、失礼します!」

「あらあら」

 

 世話焼きさんですねぇ。

 それに私よりも先に気付くなんて余程気にしていたみたいですね……エリーちゃんが義妹になる日も遠くはないようです。

 

「エリーは休みを使ってドイツに帰ってくると真っ先に天羽に会ってるぞ」

「ええ、クラリッサさんから聞いています」

「ほう……だが、あいつも人のことばかりではなくそろそろ自分の相手も……」

 

 甲斐甲斐しく天羽の面倒を見てくれているエリーちゃんの背中を見ていたら背後からラウラさんが話しかけてきました。

 クラリッサさんもそろそろ三十路ですからね……ストレスも多いみたいで会うときは必ず眉間にシワよってますし。

 できればいい人を紹介してあげたいのですが……残念ながら年上の男性に知り合いはいないもので……

 

「そういえばラウラさん、ドイツ代表、おめでとうございます」

「礼を言う……だが複数いる中の一人というだけだ。エリーだって大学を出たら代表に選ばれるだろう……にしても、アリサは本当に乗っていないんだな……」

「カゲロウ以外に乗る気はありませんよ。それにあの子ももうありません」

「……ふむ」

 

 皆さんは口々に勿体無いと言ってましたがね。ミラージュ型がフランスの第三世代として正式採用はされましたが未だに私以上に乗りこなせる人は現れていません。

 練度の低い人だとステルスシステムを完全に掌握できていないのか音や廃熱が垂れ流しで生身の私でもどこにいるか分かってしまうレベルです。酷い人は姿を消すと転んでしまったりする人までいたり……

 それでも見えないというのは大きなアドバンテージなんですけどね。

 

「アリサが降りてからフランスはレベルが下がったと聞いているぞ」

「仕方ないですよ。もともとは私のために開発されていた機体ですから……次世代ラファールに積む予定だった多目的ビットはシャルと私以外にはまともに使える人もいませんでしたからね」

 

 シャルの高速切替(ラピッド・スイッチ)か私の並列処理(マルチ・サーキット)のような生まれもっての特殊技能が必須だったようです。

 結果、消去法的にラファール型ではなくミラージュ型がフランスの第三世代として正式採用されたわけです。

 本当は両方ともかなり癖のある機体なんですけどね。

 

「そういう意味では高校最後の一年がフランスにとっても最盛期だったかもしれませんね」

「最後の一年間はお互い以外には勝率九割で勝ち越しだったか?」

「いえ、セシぃだけは私にもっと沢山の黒星を付けてます。偏光ビームを使われるとステルスが歪みますから」

 

 セシぃには二年生の始めに何度も負けて勝ち越されていた分を三年生で取り返した形ですね。三年間を通しての最終的なスコアは273戦136勝136敗1引き分けで見事に五分五分でした。

 セシぃは最後まで私のライバルでいてくれましたね。

 

「シャルロットとは?」

「四回しか戦ってませんからね……シャルと私が戦うとアリーナが壊れちゃいます」

 

 やったのは新入生歓迎集会でのデモンストレーションと初夏と晩秋の個人トーナメント、それに全校対抗サバイバルゲームの時だけです。それ以外の時は教師陣からお願いという形で禁止されていましたし。

 ……アリーナを壊していたのは主にシャルなんですけどね。私も爆弾は使っていましたが被害は最小限に押さえてましたし……

 

「あの頃は悔しかったな。鈴は一夏と幸せそうにしていたし、その一夏と箒は第四世代持ち。そしてアリサとシャルロットはその二人をも圧倒していて、そんなお前に必死に食らいついていたのはセシリア……私だけ置いてかれていたような気がしていたよ」

「相性の問題でしたけどね」

 

 その証拠に私達の代の候補生全員が候補生以外には負けていませんでしたし。

 それに候補生の中で一番不遇だったのはやっぱり楯無先輩の妹の(かんざし)さんですよ。

 私達に勝つために苦労してマルチロックオンシステムを完成させてすぐに私はロックオンできないシステムを、そしてシャルはそれ以上の火力を手に入れたわけですから。

 ……私もロックオンされても多分平気でしたが、これは本人には言わないことにしています。泣いちゃいそうですから。

 

「まぁ、私はもう降りましたけど……最近のシュヴァルツェ・ハーゼはどうですか?」

「そうだな……天羽が来てから身嗜みに気を付ける隊員が増えたな。それと格闘術が強くなっている」

「やっぱり女の子ですね。ジゴロとかにならなければいいんですけど……」

「そこはエリーが目を光らせているから問題ないだろう」

 

 あと八年くらいすればエリーちゃんと天羽の子供も見られるかもしれませんね……iPS細胞技術でシャルと私の子を、と思って研究所に依頼したのですがダメですって言われちゃいましたし……

 シャルと私の子供なら確実に可愛くて産まないなんて人類にとっての大きな損失だと思うんですけどねぇ……

 

「……と、私は大臣に会ってくるよ」

「そうですか……お祖父さんによろしく言っておいてください」

「……祖父ではなく大臣だ」

 

 それにしても……あの人も随分長いこと大臣やってますよね。よくもまぁ女尊男卑の世界でああも逞しくいられると感心しちゃいます。

 私もパパとママのところに行って、

 

 ピト

 

「ふぁっ!?」

「相変わらず感度いいわねぇ、アリサ」

 

 り、鈴ちゃん!

 せっ背中に、それも火傷痕に冷えたグラスを押し当てられたら誰でもああいう声出るに決まってます!

 

「ああいう声って?」

「な、なんでもないです……」

「でもアリサってああいう声で啼くんだぁ……」

 

 なぁっ!?

 に、ニヤニヤしながら……もう!

 

「昔から思ってましたが鈴ちゃん親父っぽいです……」

「んなこと言ったって……耳まで真っ赤になっちゃって、かーわいー」

「んみゃぁぁ! ほっぺをつつかないでくださいっ!」

 

 鈴ちゃんは最近ますますベタベタしてきます……嫌じゃないんですけど。

 やっぱり、なかなか会えないからですかね……でも、もう学生じゃないんですからこういうことは恥ずかしいです!

 

「って、鈴ちゃん? 真面目な顔しちゃってどうしました?」

「んー? アリサも頑張ったんだなぁって」

「へ?」

 

 つつーっ……

 

「ふぁっ、ふぅ……んぁ……」

 

 こ、堪えました!

 鈴ちゃんの唐突な背筋つーっ攻撃に屈することなく声を我慢できました!

 できましたよね!?

 周りの男性客が赤い顔で目を逸らすのはきっと酔ってるからです。

 

「アリサ、色っぽい」

「というかなんなんですかぁっ!」

「いやー、だからさ。背中の火傷痕、もう気にならなくなったんでしよ?」

「ふぇ? あぁ……うん、気にならなくなりましたね」

 

 シャルと一緒にいるようになってから少しずつ……でも今ではもう全く気になりません。

 どれくらい気にならないかと言うと……私のドレス、背中どころか腰までざっくり開いてます。その上今日の髪型はアップスタイルなので火傷痕は露となっています。

 見たいなら見ろ変態、とそういうスタンスです。

 

「ところで織斑君は……?」

「あぁ、篠ノ之博士に白式見てもらってるわ。だから私の今日の連れは……と、噂をすれば」

「アリサさん、お久しぶりですわ」

「セシぃっ!」

「きゃっ! ちょ、アリサさん!?」

 

 えへへ、つい抱き付いちゃいました。

 セシぃはなかなか会えませんでしたからね。

 というのもBT兵器の適性が高い操縦者がイギリスにはセシぃしかいないのでイギリス代表としていろいろと忙しいらしいです。

 

「そういえばモンド・グロッソでは射撃部門優勝者(ヴァルキリー)になったそうですね。おめでとうございます」

「あんなのアリサさんとシャルロットさんが参加していなかった時点で消化試合でしたわ」

 

 もう、そんなこと言って。

 ライバルとしては実力を認められているようで嬉しいですが……

 

「私が出ても結果は残せませんでしたよ」

「そうは思いませんわ。白兵戦部門、高速機動部門、索敵部門、継戦能力部門、それぞれでアリサさんが出ていれば、という声がちらほらとありましたから」

「私がISから降りたことを知る人は少ないですならね」

 

 それに出ていたとしても総合優勝者(ブリュンヒルデ)にはなれなかったでしょうし。

 なんと言ってもその場合の相手は、

 

「アリちゃん久しぶり★」

「この人ですもんねぇ……楯無さん、お久しぶりです。それともブリュンヒルデと呼んだ方がいいですか?」

「いやぁ、アリちゃんがいない時点で消化試合みたいなものよ」

「皆さん私を過大評価しすぎです……」

 

 私はただのか弱い女の子で近所の男の子の憧れのケーキ屋さんのお姉さんですよ?

 

「ですが聞きましたわよ? なんでもケーキ屋に現れた強盗グループを一人で叩きのめしたとか」

「う……」

「それがきっかけでフランスの格闘家雑誌から取材を申し込まれているとか」

「なんでそんなことまで……」

 

 まさかうちのケーキ屋さんに雑誌者の人が来ていたなんて思いませんでしたから……それに拳銃を持っていたので私がどうにかしないとお客様に危害が……

 

「で、オチはやりすぎでフランス警察から厳重注意、よね?」

「鈴ちゃんまで知ってるんですか!?」

「うん。ほら、ISの特集ばっかのイギリス雑誌……なんだっけ?」

「IS TIMESですわ」

「そうそれ。それにあの人は今、みたいな企画で月に一回はアリサのこと書かれてるわよ?」

「掲載許可どころか取材された記憶もないんですけど!?」

「そこの代表が許可出してるそうよ」

 

 なんですって……!

 これは私が直々に文句を言わないといけませんね!

 

「セシぃ、そこの代表って誰ですか!? イギリスのことなら知ってますよね!?」

「え、えっと……し、シリマセンワ?」

「じー…………」

「そ、そんなに見詰められても知らないものは、」

「あー、IS TIMESの代表さんならセシリアちゃんだよねぇ?」

 

 本音(のほほん)さん本当ですか!?

 どこから現れたのかはこの際気にしません!

 そういえば虚さんは蘭ちゃんのお兄さんと付き合っているそうですがそれも今は些細なことです!

 

「セシぃ、どういうことですか!」

「……わたくし、調べろとは言いましたが雑誌に載せろ何て言っていませんわ……」

「そんな言い訳が通ると思ってるんですか! 雑誌の記事を書くのが仕事の人に調べろなんて言ったら書けってのと同義ですよ! まったくもう! 次からはちゃんとうちのお店の広告も載せておいてくださいね! そろそろ新作も出すので!」

「それでいいの!?」

「さすがアリちゃん。未だに強かさは健在ねぇ」

 

 いや、別にそんなことは……あ、でもまだ返して貰っていない貸しも有りましたねぇ……

 

「特にアメリカのは必ず返してもらわないといけませんよね……ふふふ」

「あー、アメリカのってあれ? 一年の夏休み最後の時の」

「それですよ……まったく。未だに怒れちゃいます!」

「ですけど、あれってアメリカは関係無かったのでは……?」

「それでも無理矢理貸し付けるアリちゃんなんだよね★」

 

 いや、そんなことは……あったような気がしないでもないですけど。

 でも私だけじゃなくてシャルや他の人まで危険な目にあいましたし、計画的反抗だったらしいので……

 

「ふぅん……あ、そういえば一松さんたちもさっき見かけたわよ? 行かなくていいの?」

「え? 来てるんですか?」

「先程あちらの方で少し話しましたわ……おそらく、まだいるのではないですか?」

「ありがとうございます。じゃあ私行ってきますね!」

 

 一松さんたちとはメールでやり取りしているので久し振りという感覚も薄いのですが実は卒業してから一度しか会ってないんですよね。

 三人とも二年生の時に整備科に進んだので学校でも少しだけ疎遠になっちゃいましたし。

 今は有名な研究室で働いているとか言っていましたけど……日本の有名どころといえばやはり織斑君の白式と簪さんの打鉄弐式を作った持技研でしょうか。

 ただ、倉持技研なら秘密にする必要もないですよね?

 私を驚かすにしてはパンチが効いてませんし……

 

「と、いたいた……一松さん、久しぶりですね」

「不破さん! わぁー、久しぶり!」

「二木さんと三好さんも」

「不破ちゃんおひさー!」

「不破はいつまでも若いねぇ」

 

 三好さん?

 それは私が成長していないって言いたいんですか?

 聞きましたよ!

 なんか今度のミスユニバースに出るとかなんとか!

 

「私は気乗りしないんだけどねぇ」

「みぃちゃんは絶対出るべきだよ!」

「応援くらいならしますよ?」

「んな暇ないっての」

 

 やはり研究室というのは忙しいものなのでしょうか?

 私が知っている研究者は毎日定時で帰宅するパパだけなので研究室の忙しさというものが想像できません。

 

「というか結局どこで働いてるんです?」

「んー、どこっていうよりは……ねぇ、ふたちゃん?」

「そだね。世界中を飛び回ってるかな」

「へ?」

 

 研究者って普通は一つの土地に留まって研究するものじゃないんですか?

 まぁ散歩感覚で気ままに世界中を飛び回ってる人もいますけどね。

 

「それで皆さんは結局誰と働いてるんですか?」

「ん、あんまり言わない方がいいことなんだけど……まぁ、不破なら平気かな」

「というか私は不破ちゃんが知らなかったことが意外だよ!」

 

 まぁ、私はIS関係の立場を捨てたわけですからわざわざ調べることもないだろうと思ったんですよね。

 ですが皆さんの言っていることから判断すると私と近い関係にある人のもとで働いてるんですか?

 私の知り合いで世界中を旅して回る研究者なんて一人しか思い当たらないのですが……

 

「あ、お披露目始まるみたいだよ?」

「いやー、あれの一部を私らで作ったって考えると感慨深いよね」

「えっ……それって」

 

 もしかしなくても……

 

「れっでぃーすっ、あーんど、じぇんとるめーん! この天才束さんが本気で開発したアウトサイダーのお披露目だよー!」

 

 束さんですか!?

 え、え、そんなの全然聞いてませんよ!?

 う、うーん……意外なところで意外な人たちが繋がっていたんですねぇ……

 

「驚くのはまだ早いと思うよ?」

「え?」

 

「じゃあ、まだデュノアの社員すら見たことがないアウトサイダーのご開帳!」

 

 意気揚々とマイクパフォーマンスを続ける束さんの背後に真っ黒のシルクの布がかけられた塊が現れました。

 床下からせりあがって来たように見えたのですが……デュノアのパーティー会場にあんな設備はなかったはずなんですけど……

 

「じゃぁ、いくよー! いち、に、さーん!」

 

 束さんの掛け声とともにシルクがばさっとどかされました。

 

「……ぁ」

 

 先程までかけられていた真っ黒のシルクよりも黒いクロムメタルの装甲。

 操縦者を守る気がないようにすら見えるほど肌の露出は多く、その代わり腰部はフレアスカート上になっていて女性らしさを協調しています。

 手甲には三角錐が取り付けられていて背中側からは翼を象った小型スラスター郡と二本の尻尾のような中型スラスターがついています。

 

「……カゲ、ロウ?」

「だいせいかーい! 第一世代型アウトサイダー……銘は影狼だよ!」

 

 いえ、カゲロウは既に廃棄されているはずですからあれは似せて作っただけのものでしょう。

 確かにカゲロウの高エネルギー効率と優れたハイパーセンサーは宇宙探索に置いて有用な特性です。

 ですがカゲロウは私の専用機……コアをフォーマットしない限り、私以外の人が乗るためのISに転用できるわけがありません。そしてフォーマットしたらエネルギー効率もハイパーセンサーも初期化されてしまいます。

 ……なのに……どうして……

 

「私のだって分かっちゃうんでしょう……?」

「お、不破が感動して泣きそうだ」

「な、泣きませんよ! ……意味が分かりません……」

 

 どうして解体されたはずのカゲロウがアウトサイダーになってるんですか?

 細部は変わっていますけどあれはカゲロウだと確信できます。

 

「本当はカゲロウをベースにするつもりなんてなかったんだけどね」

 

 一松さんが少し申し訳なさそうな顔で呟きました。

 ……それはそうでしょう。カゲロウには私以外乗れないので改造しても意味がありません。

 いえ、束さんのことですから裏技的な方法で誰にでも乗れるようにしたのかもしれませんけど……

 

「よっ、ほっ、とぁー!」

 

 噂をすれば、というより噂をしたからなのでしょう。束さんが研究者のくせに体操選手も真っ青な動きで私の隣に着地しました。

 その手には未だにマイクが握られていて……悲しいことに束さんが言おうとしていることも分かってしまいました。

 

「そして! ここにいるのがIS界隈でも有名なあーちゃんこと不破あーちゃんだよ!」

「……アリサです」

 

 こと、とか言うならちゃんと紹介してくださいよ……

 

「知ってのとおり、あーちゃんはブリュンヒルデにもなれるかもしれない操縦者だったんだけどケーキ屋さんになるために操縦者をやめちゃったんだよ。もったいないよねー」

 

 束さんの言葉を起点に、周りでも頷きに似たため息が起こります。

 いや、なんかいつの間にかブリュンヒルデになれる、みたいなことが受け入れられてますけど無理ですからね!?

 ブリュンヒルデって世界一ISを乗りこなせる操縦者のことなんですよ!?

 というか周りの方々も勿体ないみたいな感じに頷かないでください!

 

「で、あーちゃんが乗ってたカゲロウも私が直々に作った第四世代IS・紅椿より高エネルギー効率でハイパーセンサーも優れてるっていうスゴい機体だったんだよね」

 

 いえ、だから皆さん?

 おぉー、とかそんな通販番組じゃないんですからわざとらしく感心しないでくださいよ……

 

「ということで、私、篠ノ之束は閃いちゃったんだよ。あーちゃんもカゲロウももったいないならカゲロウを宇宙に行けるようにして、あーちゃんに無理矢理乗らせればいいんじゃない?」

 

 だから!

 なるほどー、とか口を揃えて言ってますけど束さんの言ってることメチャクチャなんですからね!?

 無理矢理ってなんですか!?

 私、宇宙に行くほどの暇はないんですからね!

 そんなことしてたらパティシエの先生に怒られちゃいますよ……

 

「もちろんあーちゃんはISを乗らないって決めちゃったから嫌がったら乗せないよ? 開発が楽だったからっていうのもカゲロウを使った理由だからね」

「わ、私は乗りませんよ?」

 

 もう、ISはいいんです。

 私にとってISはシャルを守る手段であって目的ではなかったのですから。デュノア家の家族仲がよくなった以上、もう、必要ないんです……

 

「ほんとに?」

「…………」

「六年間、一緒に育ってきたカゲロウ(相方)をそんな簡単に切り捨てるの?」

「でも、私には……」

 

 ケーキ屋さんになるという夢が……

 ISもケーキ屋さんも、なんて欲張りは許されません。中途半端な覚悟なら辞めろと先生にも言われてますし……

 シャルと家族になれるという幸せにも片手がかかっているのに……だから残った私の片手はどちらかしか掴めません……

 

「あーちゃんに宇宙に行ってもらいたいのは私のワガママだけじゃないよ?」

「え?」

並列処理(マルチ・サーキット)……まだ人間にとって未知の宇宙に行くなら複数のことを同時に考えられるあーちゃんは適任なんだよ。何が起きるかわからないからね」

 

 人類の新しい一歩のために、というところでしょうか?

 確かに可能性としては私が行く方が安全で、宇宙開発も捗るかもしれませんね。

 ですが……

 

「私は、私の近くの人たち以外のためには何もしないって知ってますよね……?」

 

 自分勝手な、とか名誉なことなのになんて溜め息がいくつも聞こえてきます。

 でも、別にいいじゃないですか。

 

「私じゃないといけない理由はないんですし……」

「……本当はカゲロウに乗ってあげたいくせに」

 

 それは……そうです。

 私が躊躇しているのはその一点だけです。

 一度ならず二度までもカゲロウを捨ててしまっていいのか……カゲロウとただのモノと言ってしまえばそれまでですが……

 

「あと、一押しあれば覚悟も決められそうなんですけどね」

「……押してあげようか?」

「シャル……?」

 

 そうですね……シャルに押してもらえれば……でもそこまでしてもらうわけには……

 

「いつか全部、半分ずつ背負うっていったよね?」

「…………はい」

 

 言ってもらったのはいつでしたっけ……なんだか随分と昔のことのような気がしますね。

 

「アリサ、僕知ってるんだよ?」

「何をですか?」

「アリサが束さんと約束したこと」

「へ?」

「皆で宇宙に行きましょう……ってね」

 

 ……そんな約束、しましたか……?

 したような、していないような……それに……押す方向が真逆じゃないですかぁ……

 

「僕は、アリサに後悔してほしくないよ? だから、僕はアリサのためになると思うことを勝手にやる。約束は、守らないといけないよね?」

「うぅ……でも、」

 

 私、バカなのかもしれません……

 宇宙に行くってことはケーキ屋さんになることが難しくなるだけじゃなくてシャルと一緒にいられる時間も減るってことなのに……

 それなのに、シャルの言葉が嬉しくて、涙が出そうになります……

 

「あーちゃん、どうする?」

「…………行きます」

「どこへ?」

 

 ……そんなの言うまでもないじゃないですか。

 

宇宙(ソラ)へ、です!」




まぁ、あとストック40話あるんだけどね!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。