ハイスクールD×D~アルギュロス・ディアボロス~短編劇場 作:Mr.エメト
今回は後の伏線が幾つかあるストーリーです。
=魔界中央・パンデモニウム=
青い肌に濃蒼な長髪をなびかせる女騎士レイハ・ヴォルフス。
鋼弥たちの師匠が一人で大剣を軽々使いこなし炎を操る剣士である。
今回、彼女は"とある調査"である。
「鋼弥たちが度々、行っている別世界の駒王町か……」
レイハはふむっと頷き、いざ異界ゲートへ入る。
◆◆◆◆
公園のベンチで休んでいた咲耶はため息をついていた。
理由は不意打ちとはいえウァラクにやられてレイナーレが攫われた時だ。
「情けないわね……」
ポツポツと雨が降ってきた。
雨宿りに屋根付きの休憩所へ向かう。
「止みそうにないわね……」
雨が止むまで待とうとするとが、傘を差さずに雨の中を歩いている少年がいた
降り注ぐ雨の中、目を瞑って浴びている。
「ねぇ、貴方……傘はどうしたの?」
「……雨が好きなんだ」
「雨が、好き?」
「雨は全てを洗い流してくる。だから、こうして浴びていたんだ」
「……そ、そう」
変わった少年だと思う咲耶。
容姿はイケメンで青い瞳が特徴だが―――その瞳は濁っているような感じだった。
◆◆◆◆
「ふむ、雨のようだな」
レイハは無事に到着し、人間社会に適した服装で街中を歩く。
生憎、雨が降っていて傘を差しながら歩いていく。
雨を見て、彼女は昔の事を思い出す。
「……元気にしているのだろうか」
学院に通っていたレイハはスポーツ万能で様々な大会に出ては優勝していた。
そんな中、同学年の魔術が得意な娘と友達になった。
対極的だが、仲が良く喧嘩もするが、それでも仲良しだ。
「卒業して、彼女は何処へ行ったのだろう……」
行方不明になった"彼女"。
探せば必ず手がかりがあると信じているレイハ。
フッと見ると若い男女……いや、堕天使、転生天使、純正天使のようだ。
あの三人が鋼弥たちと幾度も接触している人物だ。
「そこの二人、いいかな?」
崇仁、レイナーレ、アベルはレイハの方に振り向く。
崇仁は少し警戒しつつレイハに尋ねる。
「あの……貴女は?」
「私はレイハ・ヴォルフス。鋼弥たちの師匠の一人だ。
とは言っても、珠樹、アルス、ドルキーの担当をしていたよ」
「そんな人がどうしてここに?」
アベルが問う、悪魔がまた迷い込んだのかと不安になるが、
「悪魔を討伐しに来たわけではない。調べることがあってこちらに来たのだ」
「調べものですか……?」
レイハは頷き真っ直ぐな目で答える。
「私の友人を探しにな……」
◆◆◆◆
雨に濡れて風邪を引いてしまうのは悪いと思う咲耶は少年の手を引っ張って雨宿りすることに。
「とにかく、雨を浴び続けると風邪を引くからね」
「……大丈夫なんだけどね」
雨は降り続けて止みそうにない。
ザーザーと振り、カエルは鳴いている。
少年はただ、雨が降り注いでいる空を見続けている。
咲耶は少年の顔を見て、何か違和感を感じる。
……誰かに似ているという所でだ。
(何処かで……何処かで会ったような気がするけど……)
「あの、貴方は――――」
言いかけたその時、少年は左手で何かを掴む――――氷の矢だ。
「これは……!?」
「……そこにいるね」
現れたのは、皮膚が橙色、過半が蛇、上半身は女性だが蛇の頭髪を持つ怪物だ。
「鬼女ゴルゴンか。ギリシャ神話に登場する三姉妹の総称として現れる怪物」
ゴルゴンは蛇舌を出して、喰らう体勢をしている。
少年は臆することなく、両手には刀を持ち構えていた。
「無粋なものだね、せっかくの雨の日に―――斬るなんて」
走り出し、刀を振るうと水刃を飛ばしてゴルゴンを牽制する。
ゴルゴンは口から毒ガスブレスを放つが、少年は水のカーテンを創りだし毒ガスを防ぐ。
「退屈しのぎにもならないね……」
止めを刺そうかと思いきや―――背中に衝撃波が走る。
何かと思い振り向くと、蝙蝠の姿をした怪物カマソッソがいた。
先程の衝撃波はカマソッソがザンマを飛ばしたのだろう。
(二体か……先にどちらを倒すか)
飛行を先に倒すか、氷と毒を先に倒すか。
大技を使えば簡単に倒せるが――――あの女性を咲耶を巻き込むわけにはいかない。
カマソッソが牙を光らせて、噛みつきに掛かろうとするが―――炎刃が飛んできてカマソッソは緊急回避する。
「間一髪だな」
レイハは大剣を構えつつ、カマソッソの前に立つ。
遅れて崇仁、レイナーレ、アベルが現れた。
この隙に咲耶はアベルたちと合流する
「咲耶、無事でよかった」
「アベル、あの人は……?」
「鋼弥さんたちの師匠のレイハさんです。それに……あの少年は?」
「解らないけど……実力から見て私たちより上みたいね」
ゴルゴンと対峙している二刀の少年。
だが、崇仁はある違和感を覚える。
(あの人の戦い方、あの構え……どこかで)
少年は雨で塗れた地面に滑りを利用して、ゴルゴンに斬撃を幾つも入れる。
弱り果てたところで、止めを刺しに行く。
擦れ違いざまに斬り、ゴルゴンの反対側に立つ少年は口を開く―――。
「ワダツミ・死海」
刀を治めた瞬間―――ゴルゴンに頭部、上半身、下半身、蛇尾と四度の斬撃が入り斬り飛ばされた。
―●●●―
一方カマソッソと対峙するレイハ。
素早い動きで翻弄するカマソッソだが、レイハは微動だにせず構え続けている。
背後から強襲するが、振り向きざまにカマソッソの側頭部目掛けて蹴りを入れ、そして―――
「六炎撃!!」
六回の剣突でカマソッソを叩き、退治する。
大剣を振って、地に刺す。
◆◆◆◆
悪魔が二体乱入するというトラブルが起きたが無事に討伐した。
雨もすっかり止み、日差しが差し込み始める
少年は何も言わずに、立ち去った。
「怖い思いをさせてしまってすまなかった」
「いえ、大丈夫です」
「そうか。咲耶と言ったな?ここに来る途中、アベルたちから話を聞いたわ。
守れずに負けてしまうというのは辛い事だと思うが……、それは違う」
咲耶は顔を上げてレイハを見る
「本当に負けるというのは"心が折れる"ことだ。
私だって最初から負け知らずではないし、苦手なものもある。
だからこそ、弱い部分を鍛えて、鋼弥たちにも教えている。
少しの間だが、お前の事を鍛えてやるとしよう。いいかな?」
「は、はい!!お願いします!!」
咲耶は感謝のお辞儀をし、レイハは微笑する。
結局、レイハの探している者は見つからず帰還するまで時間があるのでここに留まるようだ。
一方、崇仁はあの少年の戦い方を見て"誰なのか"を思い出す。
(そうだ……あの戦い方って……タオさん)
ウァラク事件の時に崇仁を守りながら戦ったタオ・ライシェン。
あの人はタオとどういう関係なのだろうか。
◆◆◆◆
=???=
「お帰りなさい。どうだったかしら?」
「残念ながら見つけることはできませんでした」
報告を聞いた女性は目を瞑る。
「長旅お彼様です、西王。後の計画に北王と東王が動いています。貴方は次の任務を与えます」
「はい……教祖様」
面を上げたのは―――――濁った瞳を持つ男だった。
その視線の先には白い服を身に纏った金色の長髪、透き通るような水色の瞳を持つ神秘的な女性。
窓を見て、夜空に浮かぶ蒼い満月を見て、クスリッと微笑む。