甘粕正彦は勇者部顧問である   作:三代目盲打ちテイク

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文化祭の出し物決めて、うどんを食べて

「よぉーっし、それじゃあ、今年の文化祭の出し物について決めましょう」

 

 風が文化祭の出し物! とでかでかと黒板に議題を書く。そのあとは、全て東郷に書記をまかせるため、脇へとどいてさてどうしようかっと切り出す。

 

「去年はなにやったっけ?」

「ええと、なんだっけ?」

 

 うーん、と頭を捻る友奈。そこに甘粕が乱入した。扉を盛大に開け放ち、

 

「やあ、諸君!」

 

 堂々と中へと入る。

 

「全員そろっているようで結構結構。では、さっそく会議に入ろうではないか」

 

 東郷が黒板に議題を書いていく。もちろん、議題は文化祭の出し物についてだ。

 

「夏凜ちゃんは文化祭とかしたことある?」

「あるわけないじゃない」

 

 友奈は夏凜に聞いてみると、まあ当然の答えが返ってくる。大赦が所有する山の中であの狩摩と共に朝から昼まで訓練である。

 まったくもって地獄の日々だ。なにせ、あの狩摩と四六時中一緒なのだ。そりゃもう、イライラさせられっぱなしだった。

 

 それに、先輩方も厄介だったのだ。特に怪士面とか夜叉面とか、泥眼面だとか。特に狩摩の肝入りらしい三人が四六時中襲ってくるのだ。

 トイレ中だろうが、風呂の中だろうが関係なく。常在戦場とか大概にしろと言わんばかりの苛烈さで襲ってきた。

 

 本当、地獄の日々だった。まあ今も地獄の日々だ。なにせあの狩摩と二人暮らしだ。三人の鬼面衆と顔を合わせなくてよいのは良いのだが、家にいれば四六時中狩摩と顔を合わせなければならないと言う拷問の日々。

 

「思い出しただけでも腹立ってきた。まあ、いいけど今は普通だし」

 

 でも、絶対殴ってやる。そう夏凜は心に誓いながら、とりあえずは議題へと取り組む。悲しいかな下っ端精神は上官の命令には従順になってしまうのだ。

 

「で、決まらないなら、去年のを参考にすべきじゃないの?」

「ふむ、もっともだ三好夏凛」

「ええと、去年はなにやったっけ?」

 

 去年は色々と大変だったと思う。まだ甘粕が讃州中学に来たばかりの頃で、まだあのノリについていくのがやっとの頃だった。

 甘粕が来て連鎖的にそんなことを思い出していく。

 

「ええと、メイド喫茶!」

 

 確か喫茶店であることは間違いない。それも普通じゃない喫茶店だった。だからそんなことを友奈は言った。

 

「違うわよー、スチュワーデス喫茶。確か、スチュワーデスの園って名前じゃなかったっけ?」

 

 友奈と同じく去年の事を思い出しながら風がそういう。そう言えばそうだったと勇者部の面々がしみじみと思い出しながら微妙な顔をする。

 また、樹も思い出して顔を背けている。なぜか部外者だった自分までまきこまれたのだ。それでスチュワーデスの恰好をさせられて給仕をさせられた。

 

 未だにあれは黒歴史である。

 

「いやあーあれは楽しかったよねー」

 

 しかし、風からすれば楽しかったの一言で済むらしい。なんて胆力なのだろうか。

 

「うむ、あれは素晴らしいものであった。男のリビドーを刺激する良いものであった。だからとて、今年も同じことをするわけにはいかん。

 常に進歩せねばならないのだ。それが、先人たちへの手向けである。さて、そういうわけだ。今年は何をやる」

「だとすると去年みたいな出店は除くかな」

 

 出店はどうやったって似たり寄ったりになってしまうのだ。去年のスチュワーデスの園の売り上げが凄まじかったので今年はそういうところを真似する奴が出てくるだろうから同じことをやっても埋もれてしまう。

 そんなことは甘粕が認めない。やるならば一番を目指せ。その努力こそがもっとも価値のあるものだ。そして、前年度で優れたものを出したのだ。ならばそれを超えんでどうする。

 

「賛成。わたしはもうあんなかっこうやりたくないよお姉ちゃん」

「それじゃあ、何をしましょうか」

「うーん」

 

 そこで振り出しに戻ってしまうのだ。何か盛大な事をやりたいが、それが浮かばない。なにせ、勇者部は無駄に高スペックだ。いいや、廃スペックと言ってもいい。

 甘粕先生の指導を一年受け続け、その中でも最も彼の理論になじんだ猛者共がここにはいる。更に今回はYAMASODATIの夏凜が加入して戦力は無駄に高い。

 

 だからこそ、色々と出来るだけに迷うのだ。出店系を除くとなるとあとは必然的にパフォーマンス系になる。

 

「ダンスとか?」

「確かに、夏凜もいるからかなりハイクオリティなのが出来そうね」

 

 どっかの山奥で修行していたらしい夏凜の運動能力はあの友奈に迫るほどだ。

 

「神楽なら踊れるわよ」

「へえ、意外」

「魂鎮めの奴ね。まあ、苦手だけど」

「文化祭でやるもんじゃないわね」

 

 文化祭が厳かな儀式になってしまう。神樹様に捧げるという名目でやれば案外受けるかもしれないが、それだけだろう。

 受けない。それが全てだ。受けるものをやる。盛大に。特に風は今年が最後だ。だから、より盛大なものにしてやりたい。

 

 そう思うのは当然で、

 

「演劇とかどうかな?」

「ほほう、演劇。いいねえ」

 

 東郷が演劇と、黒板に書く。

 

「いつもやってますから出来ないことはないと思います」

「んじゃー、演劇で良い人ー」

 

 満場一致で可決。

 

「よしよぉし、んじゃあ内容を決めていきましょ」

 

 勇者部で演劇と言えば内容は決まっているも同然だった。

 

「柊四四八!」

「はーい、いつも通りワンパターン、だけど学校ではやったことないし、良いんじゃないかしら。東郷はどう思う?」

「そうですね。演劇部の力は借りられないのでアレンジはいると思いますがいいんじゃないですか? または、あれです。柊四四八の甘粕事件、その後とか」

「おお、それは面白そう!」

「幸い、詳しそうな人がいますし」

 

 全員の視線が夏凜に向く。

 

「な、なによ」

 

 全員に見つめらてたじろぐ夏凜。全員が知っている。この山育ちが古くから続く大赦にまつわる家系であり、柊四四八というかつての英雄に凄まじいまでの憧れを持っているということを。

 今更、と思うなかれこの四国が今も残っているのは彼のおかげとも言われているのだ。神世紀元年にその姿が目撃されただとか言われている。

 

 だからこそ、英霊として今でも祀られているわけで。彼女の家はそういうのに詳しい家なわけで。寝物語に聞かされ続けていたので憧れまくっているのである。

 

「夏凜ちゃーん、柊四四八に詳しかったよね」

「ま、まあね」

「ふっふっふ、観念なさいな。あんたの初恋が柊四四八だってことはみんなにばれてるのよ」

「や、な、なんで知ってんのよ!」

「え、マジで」

「うぐっ」

 

 冗談だったのにないわー、とか思ってると、

 

「わかるよ夏凜ちゃん!」

 

 わかる奴がいた。当然友奈である。

 

「ああ、俺もわかるぞ」

 

 そして、甘粕であった。友奈はまだしもなんで甘粕の初恋が柊四四八なんだよ。まさか、あっち系なのか。

 

「それは、気になります」

「いや、東郷、あんたのキャラじゃないでしょ」

「凄い気になる」

「樹まで!?」

 

 ホモが嫌いな女子はいません。いや、知らないけど。

 

「はいはい、ストップストップ。ここで脱線してたら進まないでしょうが。とりあえず、内容については私と夏凜で詰めいくから誰が主役やるかだけは決めましょ」

 

 とりあえず風が止めて、別の話し合いを進めていく。甘粕も絶賛参加する気満々な上に、誰かに電話までかけている。一体何を準備すると言うのだろうか。

 話し合いは脱線に脱線を重ねたりしながら、楽しくそう、とても楽しく。違和感すら感じるほどに楽しい――、

 

「じゃあ、今日はこれくらいにしましょ。うどん食べて帰ろー」

 

 ほーい、と全員でうどんを食べに行く。甘粕はまだ仕事があるのでそこで分かれて全員はいつものうどん屋へ。

 

「ぬお、なんじゃい。お前ら来たんか」

「うげ」

 

 そこにいたのは狩摩だった。

 

「なんじゃい、煮干し娘。保護者に向ってその反応。傷つくのォだはははは」

「あ、夏凜のお義父さんこんにちはー」

「おーう、勇者部のジャリども。今日もうどんか。かははは、太るで、まあ、男は少しくらいふっくらした女の方が好みじゃし、特に煮干し娘はもう少し胸をでこうせんと男にモテんでよ。たんまりくってけえや」

「関係ないでしょ!」

「そうですよ。女の価値は胸ではなく女子力です」

 

 東郷がそう言うが、説得力皆無である。

 

「そうよ。女子力よ」

 

 いや、うどんを女子力とか何を言ってるんだこいつは、という問題ではあるがとりあえずうどんを注文して食らう。食らう、食らう。

 

「かあー、おかわりー」

「本当、先輩の食べてるのを見るとお腹いっぱいになるよねえ」

 

 むしろどこにそんだけの量が入っているんだと言いたい。それなのに胸はそこまで大きくなっていないし。一体どこに行っているのだろうか。

 

「いいじゃないの、ようやく懸念事項が終わったんだし」

 

 演劇はこれからが忙しいし、脚本を書くことになっているので夏凜と共にこれからが大変だ。

 

「まっ、任せときなさいよ。ちゃーんと、私がやってやろうじゃないの」

「なんじゃい、文化祭なにかやるんか」

「演劇よ。そうだ、狩摩。あんた、柊四四八の資料持ってたでしょ。貸して」

「お前から頼みごとたァ珍しいのう。ええよええよ。つれない娘からの珍しい頼みじゃ、用意しちゃろう」

 

 かははは、と笑いながら電話をかける狩摩。大赦からでも取り寄せるのだろうか。まあ、なんにせよ資料が集まるのはいい。

 未だわからないことは多い柊四四八の半生であるが、これに対する一つの回答を用意することになるのだ。過去最大の脚本作業と演劇になるだろう。

 

 いいやするのだ。困難は多いが試練と壁は大きいほど燃えると言うもの。

 

「まあ、ほどほどにせい。人生ほどほど適当にやればどうとでもなる」

「それはあんただけでしょうが」

「かははは、そりゃァ知らんわい。お前も真面目に生き過ぎよ。もっと自由にやってみたらどうなら」

「あんたには絶対ならない」

「可愛くない娘じゃ。まあええわ。珍しいお前の頼みごとじゃ。さて、ついでにおごっちゃろう」

 

 そう言って狩摩が札を数枚渡して席を立つ。

 

「そいじゃあ、まあ、しっかりやりいィ。俺が出来るんはこれくらいじゃ。まったく、よいよたいぎぃことになりよってからに。

 抜け出すんは骨じゃぞ。うちの小獅子の方はまったく生娘じみた妄想しちょるし。たいぎぃのう。あとは大将に任せるわ」

 

 そして、そんなわけのわからないことを捨て台詞にからんころんと下駄を鳴らして去って行った。

 

「なんだったんだろうね」

「さあ、まっ、ただ飯になったのはラッキーだったわ。これだけは感謝ね」

「あんな奴に感謝しなくていいわよ」

 

 あとで絶対に後悔する。そういう夏凜の言葉にそりゃそうかも、とか笑いながら楽しい食事を終えて皆が帰路についた。

 

「はあ、おなかいっぱい」

「まさか万札が五枚もあるなんて思わなかったよね、お姉ちゃん」

「ふとっぱらよねー」

 

 それ全部使ってうどん食べた風も風である。

 

「……樹ー、今、楽しい?」

「いきなりどうしたのお姉ちゃん?」

 

 少し聞きたくなったのだ。今日はとても楽しかったから。妹はどうだったのだろうと、当然のように思っただけだ。

 いつも自分が彼女を引っ張って引っ張りまわしていたり、我慢させてきたとも思うし少しだけ聞きたくなったのだ。

 

「うん、楽しかったよ」

「そっか……」

 

 それは良かった。世は事も無し。万事何事もなく、世界は回り続けている。

 

「なら、良かったわ。文化祭成功させましょ」

「うん、がんばろうねお姉ちゃん!」

 

 きっと盛大なものになるだろう。主役はいつも通り友奈。きっと彼女なら熱演してくれるだろう。今から楽しみだ。

 中学最後の文化祭。盛大なものになればいい。楽しい日々がいつまでも続くように祈りを載せて。それはいつも祈っていたことだから。

 

「よおおし、脚本考えるぞー!」

「無理しないでねお姉ちゃん」

 

 走りたくなったので走って視たりして、吐きそうになったがまあ楽しいから良いか。そうとても楽しかった。とてもとても楽しかった。

 そうして、一日はおわりを告げて布団に入って眠る。満たされたままに。

 

 満たされて眠りについた……――これは誰の夢?

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 文化祭の出し物、うどん、楽しい楽しい勇者部の活動。勇者部としてみんなで楽しく過ごせていればよかったのだろう?

 

 外れていればよかったのだろう? みんなを巻き込みたくなかったのだろう? ほら、満たしてやったぞ、その欲求。だから、満たされたのなら眠れよ。

 寝た子は起こすな。満たされているのだ。起こすなよ、幸せに眠っているのだから。

 

 満たされ眠ってくれよ。幸せだろう。

 俺はお前で、お前は俺で。全ては俺で、俺は全てで。だから、満たされろ。満たされて安らかに眠らせてくれ。

 

――終段、顕象

 




夜会話でもしようと思ったらまったく別なことになったでござる。ああ、でも幸せだから良いか(阿片スパー)。

回れ、回れよ万仙の陣。
眠れ、眠れよ混沌。
捧げろ、助けてやろうな神樹です。

捧げろよ、力をやるぞ。いい加減供物プリーズ by神樹

さて、次回以降はあと二人分と、なんちゃら十字さんと樹ちゃんの奴か。
甘粕方式の執筆なので時間かかるかも。というか、休み終了なのでかかります。
ゆったりお待ちください。では、また次回。

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