甘粕正彦は勇者部顧問である   作:三代目盲打ちテイク

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甘粕正彦は讃州中学体育教師である

 讃州中学勇者部は人々が喜ぶことを勇んでやる部活動。そんな勇者部最大の活動であるところの幼稚園での交流会の日。

 勇者部謹製の演劇は最終幕を迎えていた。すなわち魔王(勇者部顧問)と勇者役である少女結城友奈(ゆうきゆうな)の最終対決である。

 

「おまえの愛を俺に見せろォ――――神々の黄昏(ラグナロォォォク)ッッ!」

 

 そう叫ぶ勇者部顧問。そこにナレーションが告げられる。

 

「あらゆる地域のあらゆる神々を——しかも主神級ばかり混ぜ合わせた形容不可能な混沌だった。本来、敵対関係どころか何の繋がりもない者同士を甘粕はその驚異的な意思で無理矢理に従え、争わせている。

 ここに現れた神の最終戦争はデタラメ極まりない代物。それだけにどうしようもできはしない。

 果たして勇者はどうするのでしょうか」

 

 東郷美森(とうごうみもり)のナレーションと共に演劇部と勇者部顧問が用意した物凄くクオリティの高い背景装置が切り替わる。

 犬吠埼樹(いぬぼうざきいつき)が音楽を流し、その音楽は場に最高の盛り上がりを与える。

 

 神々の黄昏が如く世界の滅びを想起させる。全世界規模の破壊。まさしく正しく魔王が生み出した最高にして馬鹿げた一撃。

 

 それに対して阿頼耶識役など数多の役を兼任していた犬吠埼風(いぬぼうざきふう)が勇者に告げるのだ。魔王を殺す為の力をやろうと。

 

「絶体絶命だよ! 応援してあげて!」

 

 そこに入る東郷のナレーション。

 

「がんばれー!」

 

 幼稚園児たちの応援が飛ぶ。劇は進む。

 

「お断りだ」

 

 友奈がそう言う。力などいらないと。それだけでなく、今、この状況に置いて対応することのできる自らの力すらも投げ捨てたのだ。

 人類を思い、人類を滅ぼす選択をした馬鹿とそれを止めるために力を捨てた馬鹿がここにいた。

 

 友奈は神々の奔流の中に身を投じる。どうあがこうとも人間如きでは進むことすら出来ない暴風の中を少女は確かに進んでいた。

 

「夢に頼っている限り、おまえの勇気は超えられないッ!」

「――――!」

 

 それだけの力を得るために使った時間も、努力も何もかもを捨てた。それは生半可なことではなく、同時にだからこそ魔王を超えることができるのだ。

 

「世の行く末を憂うなら、自分の力でどうにかしてみろォォッ!」

 

 最後の一撃が放たれた。

 

「これで間違いではないのだろう」

「ああ」

「ならばよし。悔いもなし! 認めよう、俺の負けだ」

 

 辛気臭く死を迎える趣味などなく、人は泣きながら生まれる以上、死は豪笑を以て閉じるべきだと決めている。そんな男は再び場面を想起しながら笑みをつくる。

 魔王のくせになんて楽しそうな笑みなのだろう。

 

「俺の宝と、未来をどうか守ってくれ。

 おまえにならすべてを託せる。万歳、万歳、おおおぉぉォッ、万歳ァィ!」

 

 

 こうして劇は終わり、客席は大歓声に包まれ、めでたく幕は降りた。いや、本当勇者より魔王の方が楽しそうな劇である。

 そんな魔王を演じた男、勇者部顧問はとても楽しそうであった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 讃州中学で最も有名な先生と言ったらおそらく生徒に聞けば皆が皆一様に体育教師の名を答える。男子からは途轍もない絶大の信頼と人気を得ており、女子からもおおむね慕われている名物先生だ。

 そんな男、体育教師甘粕正彦の授業は体操着に着替える休み時間から始まっている。

 

 今日の順番である男子生徒たちを目の前に体育教師の証たる熱血の赤ジャージを身にまとい、大外套の如く棚引く上着を肩に掛けて、帽子をかぶった男は竹刀を手にして今日も今日とて男はその謎理論を振りかざすのだ。

 

「我らがぽらいぞ(女子更衣室)は目の前だ。思春期の男であるならば、覗くことこそが健全である。そこに異論はないな?」

「はい、先生!」

 

 男子生徒一同、誰からも異論が上がらない。ちなみに覗きは週によって男子が覗くか女子が覗くか変わる。

 

「結構」

「でも、先生。それPTAに止められたんじゃ? 校長先生にも言われてたような」

「その程度問題ない。壁が高ければ高いほど、燃えるというものだろう。

 犯罪? 笑止! 男の熱いリビドーを抑え込み、牙を抜き無害な草食系が尊ばれる世の中など間違っている。そんなものは男ではない。俺は断じて認めん。男ならば、女子更衣室を覗く気概を俺に見せろォォ!」

 

 男であるならば覗け。女は見られても恥ずかしくないよう美しくなれ。それでこそ人は輝く。

 無論、そんなことが普遍的な事実であると述べるつもりは断じてない。だが、甘粕という男にとっては事実であった。見るのならばみられる覚悟もまた当然ある。

 

 ようは覚悟の問題なのだ。見られたくないなどというのは甘えである。常に見られていると意識し、己を磨くことことが肝要であるのだ。

 常に、己を磨き上を目指す。諦めず夢に向かうように。それこそが人。我も人、彼も人。己はやっている。ならば、相手もそうだろう。

 

 もちろん、それは女子たちも同じで故にありとあらゆる手を使って防衛するように言っている。そのための武力も教え込んでいる。その守りはまさに鉄壁。壊されるべき女子更衣室の扉は鋼鉄の防火扉と同等になっている。

 だが、それでも覗く。窓からなど笑止。男ならば正面から女子更衣室に乱入くらいして見せろ。それでこそ男ではないのか。

 

 そして、女であるならばそれでもつつしみを忘れずにしかし、その磨き上げた肉体を晒して見せるが良い。その分壁は高いだろう。

 だが、壁が高ければ高いほど燃えるではないか。それでこそ健全。女の着替えを前にして己の牙を抑え込むなど不健全である。

 

 だからこそ、行くのだ。PTAがどれほど役に立つというのか。あれらほど害悪なものはありはしない。ゆえに、それの言葉などこの男は聞くはずがない。

 むしろこれをするようにしてから男子も女子も自分磨きに余念がなく、容姿、運動能力が学業共に大幅な上昇をしているとあれば彼を辞めさせようとする声も黙殺できる。

 

 さらに生徒からも慕われているのであればたとえPTAだろうとも生徒の署名のおかげでどうしようもできないというほどだ。

 しかもこいつ生徒指導部長である。

 

「諦めなければ夢は必ず叶う! 行くぞ、我らが楽園(ぱらいぞ)はすぐそこだ!」

『おおおお』

 

 とまあ、そんなこんなで男子生徒共に女子更衣室へ向けて突撃を敢行する。その瞬間、開くのはその直前と部屋の扉。

 待ち伏せ。そこから飛び出したの1人の少女。赤い髪をした体操着の少女はその拳を振り上げている。

 

「よく来た、結城友奈。まず来るのはお前だと思っていたよ」

「勇者パンチ!」

 

 無論相対するのはこの男である。一番槍上等。己の背を見てついてくるが良い雄々しい男たちよとでも言わんばかりに先頭を走る甘粕だ。

 もちろん女子相手加減はするがそれでも本気である。竹刀は使わないもののあの手この手で彼女を倒そうとする。

 

 それでも結城友奈はそれに追従する。対した才能である。もちろん甘粕が教え込んだ武術もあるが、元々武術が得意だったのでそれが更に伸びているわけだ。

 

「良いぞ、だが俺の相手ばかりしていていいのかね?」

「大丈夫です! 東郷さんがいますから」

「ほう」

 

 確かに女子更衣室の前に車いすで腕組みしているのは黒色の長髪の少女だ。

 

「さあ、来るなら来なさい」

「これが俺の自慢の拳だあああああああ!」

 

 とそんな声と共に向かってきた男子どもを器用に車いすだというのに投げ飛ばしているではないか。合気道を教え込んでいたので相手の力を利用してのそれだが、車いすでやるとは流石としか言いようがない。

 もちろんできるようにしたのは甘粕なのだが。

 

「なるほど、確かにあれは突破できん。だが、それで諦めるほど男子は諦めが良くはない。諦めなければ夢は必ず叶うと信じているのだ」

 

 まあ、そんなことをしている間にチャイムがなって授業時間。あれほどやる気満々だった男どもも即座に撤収し運動場へ出る。

 女子たちも同じくだ。

 

「では、授業を始める。今日は――」

 

 そして授業が始まる。今日も今日とて、甘粕節は健在。限界ギリギリのギリギリまで身体を酷使する体育と言うなの修業とも言うべき授業。

 しかし、二年目となる彼らの中に脱落者はいない。車いすの東郷は一年目なのだが初回以降は普通についてきている。

 むしろ余裕なくらいだ。

 

 甘粕はそれを見ながらお前たちならやれる、諦めるな。諦めなければ必ずできると大声を張り続けていた。これを一日続けられるのだから、こいつの喉はどうなっているのだろうか。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 そんな体育の授業も佳境。その時、甘粕の携帯が鳴り響くとともに全ての時が止まる。

 

「来たな。やはり、我が勇者部が当たりであったか」

 

 全てが結界に覆われていく。光に包まれ、樹海と呼ばれる空間が創界される。神樹の創界が成る。そこにいるのは甘粕を含めて四人。友奈、東郷、風、樹。

 風以外は何が何だかわからないと言った表情をしている。ある程度の説明はされたようではあるものの半信半疑、信じられないと言ったところか。

 

「甘粕先生! 大丈夫先生も大赦の人間よ」

「説明ご苦労、風。さて、諸君。生憎と説明している時間はない。あれを見ると良い」

 

 現れる化け物(バーテックス)

 

「今すぐ、あれと戦うかどうか決めるが良い。何、強制などはしない。お前たち自身で決めると良い。俺はお前たちの選択を尊重しよう。ああそれと、勇者システムについては聞いたな?」

 

 頷く三人。

 

「あんなものは使う必要はない」

「え?」

「護国の為を思い立ち上がるのであるならば、自らの力で立ち上がらないでどうする。真に勇者であるならば、他人から貰った力で戦うなどもってのほかだ。

 力がない? あんな化け物と戦えない? なぜそこで諦める。やる前から諦めてどうするのだ。やってみなければわからないだろう。

 諦めるな。諦めなければなんとかなる。勇者部五箇条を忘れたか」

 

 一つ、仁義八行を尊ぶ

 一つ、夢を諦めない

 一つ、できないじゃない、やるんだよ

 一つ、護国の大志を忘れない

 一つ、なせば大抵なんとかなる

 

 甘粕と勇者部一同によって定めた五箇条である。

 

「勇者の力など必要ない。己の力で守ってこそ勇者である。なに、信じられないのならば括目して見るが良い。人の手本となるのが教師の務めだ」

 

 そういう甘粕が羽織っていたジャージを放り投げた瞬間、姿が変わる。それは変身ではなくただの早着替え。それによって軍装へと変わり、竹刀は軍刀となっている。

 大外套を翻し、勇者(馬鹿)は向かってくるバーテックスに立ちふさがった。

 

 そして、数日後、そこには勇者システムに頼らずバーテックスを蹂躙する勇者部と甘粕の姿があったとかなかったとか。

 




一応、甘粕の設定では本編グランドルート後の甘粕なので夢の力は使わずに自分の力だけでなんとかする超勇者スタイル。
たぶんワンパンマン化してます。あいつの意思力ならそれくらい行く気がしないでもない。

まあ、一発ネタです。思いついただけです。
リアル忙しすぎて息抜きしたかったんです。


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