魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第九十六石:エンジンを掛けろ!真の変化アクセルランス

 やけに眩しい緑色の炎。

 口からのブレスだけではなく、そいつの体中に纏う炎までもが俺を襲ってきやがるが、槍を回転させるだけであっという間に霧散してしまった。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 た、確かにコロナの言う通りだったな。

 あの炎をこんなにあっさり防げるとは思ってもみなかったが……なんてブルーランスを眺めていたとき、

 

『あうぅっ!』

 

 突然、俺の後ろに居るダッシュが悲鳴をあげた。

 

「なっ、どうしたんでぇい!?」

『わ、わからないしっ。いきなりあななの背中が爆発したし……』

 

 背中?

 と。そいつの背後を見てみるとそこにはメラメラと熱そうに燃えるクリスタルのようなものが浮いていた。

 

 白狐が纏っているような緑の炎。

 霊鳴石壱式のような緑色の宝石。

 

「なんだ……ありゃあ?」

 

 もしかして霊鳴を飛ばして遠隔攻撃しているのか?

 そう思ってシロツキの尻尾を見てみるが、依然として剣となった壱式をガッチリ掴んでいる。

 するってェと一体あれは――

 

『まさか、ファムルス!?』

 

 コロ美がいささかに驚いた声で言う。

 

「ふぁ、ふぁむ……なんだって?」

『多分ですが、あの炎石はファムルスという高レベル魔法なんです。コロナもお姉ちゃまから少し聞いただけで詳しくは知らないのです。でも、あれは魔法使いだけが使える魔法だったような……それに色んな制限がかかってるとか、なんとか』

 

 ふーむ。イマイチはっきりしねーな。

 とりあえずスゲェ魔法だってのは分かったぜ。

 だがね、と俺は炎のクリスタル――ファムルスとやらに向かって飛翔した。

 槍を両手でギュッと握り、

 

「この俺様のブルーランスにかかれば一発だぜっ!」

 

 横薙ぎ一閃。

 

「……やったか?」

 

 確かな手ごたえを感じて振り向いた瞬間、

 

『おまえさん、危ないっ!』

 

 目の前にダッシュが飛び出してきたかと思うと、俺を庇うようにバッと手を広げた。

 

「!?」

 

 その行為に、俺は慌ててファムルスのほうへと目を向ける。

 トライデントで真っ二つに割れたクリスタル。

 ……割れてはいるが、さっきより激しく燃えていやがるじゃねーか。

 

『パパさん、槍の物理攻撃ではファムルスを消すことは出来ないのです。完全にかき消すにはあの炎よりも強い水をかけるしかないのですっ』

「とは仰いますがねェ。あれを消せる水なんてそうそう出せねーぞ……」

 

 さすがに俺でも分かるって。あれは見た目以上に強い魔力を持っている。

 シャオやコロ美の言葉を借りれば、凄まじい魔気っつうものをピリピリ感じるぜ。

 実際、俺の体全体に流れている緑色のオーラ――もとい、水のベールを簡単に突き破ってきている時点で相当ふざけた火力だ。

 

『あううっ』

 

 ファムルスに怯えているのか、広げた手を震わせながら俯くだし子。

 背中にはさっきの爆発のせいだろう、体操服にぽっかりと穴が開いてしまっていた。

 

「…………」

 

 攻撃の予兆。

 キラッとクリスタルの先端が輝き始めたところで、

 

「……来い」

 

 俺は強引にダッシュの肩を抱き寄せた。

 そんでもって、そいつを抱きしめたまま槍を突き出して、

 

「ぷ~ゆゆんぷゆん、ぷいぷい、ぷぅ! すいすい、『スノウプリズム』!」

 

 ゆりなの放電を跳ね返したあの呪文を唱えてやる。

 杖でなく槍のまま詠唱した為か、あの時よりもかなり小さなプリズム壁が三叉の先端に現れた。

 それと同時にクリスタルの先から火炎が放射され――

 

「うわっちち!」

 

 な、なんて熱さでェい!?

 どうやらスノプリでは荷が重かったようで、炎を反射するどころか貫通しちまった。

 まあ、ある程度は軽減出来たみたいだけれども――それにしても尋常じゃない熱さだぜ。

 こんなの変身前に喰らってたら一瞬で灰になっていたな……。

 

 そう、涙目で氷の吐息を自分の体にフーフーと吹きかけていると、 

 

『……あうっ、おまえさん、どうして?』

 

 俺の腕の中で金髪娘がきょとんとした顔を上げた。

 

「あのよォ。いくらなんでも無茶し過ぎだって。毎回俺を庇ってたら命がいくつあっても足りねェぞ」

『……で、でもっ』

「でもも、すももも無いっつーの。それに、どうせ守ってくれるならアレのほうが良いだろ?」

『あれ?』

 

 首を傾げているそいつの手を持ち上げると、

 

『ふあっ……あのっ、お、おまえさん!』

 

 何故かポッと頬を赤らめているチビ鮫に、金の指輪を見せる。

 もちろん俺のダッシュリングじゃなく、だし子がはめている指輪の方だ。

 

「またあの融合変身……やってくれるか?」

 

 そう訊くと、そいつは俺の腕から抜け出してぶんぶんと赤いハチマキを揺らして首を振った。

 否定の合図。

 あんれま……。

 

「まあ、無理にとは言わないけれども――」

『おまえさん、忘れんぼさん。あなな、さっき言ったし。やってくれるか、じゃなくてやれって命令して欲しいし。あなな、おまえさんの命令だったら、なんでも言うこと聞くのっ!』

 

 ああ。そーいやァ、そんなこと言われたっけか。

 

『それに……』

 

 と。ダッシュが指輪をこちらに向けて、

 

『過去のあななもやる気まんまんだしっ』

 

 眩い輝きを放つゴールデンベリルに、俺は少しだけ笑ってしまった。

 本当に――まったくもって頼もしい奴らだねェ。

 

「オーケイ……いささかに融合変身の時間だぜ、ダッシュ・ザ・アナナエル! シャインと成って俺様を守りがやれッ!」

 

 そんな俺の命令を聞いた瞬間、

 

『我は――我は欲す。汝が纏う忌むべき力を! お願い、過去のあなな……力を貸して!』

 

 目を閉じて指輪を掲げるだし子。

 

『サクラヴィ、デュアルアゲインッ!』

 

 瞬く間に姿を変えていくその様をポカンと眺めているワケにもいかない。

 そいつがコスチュームに着替えている今もファムルスがこちらを狙っていた。

 

「恐縮だけれども、融合の邪魔はさせねェぜ……!」

 

 と、そいつへと跳躍したときだ。

 

『パパさんっ、弐式のグリップを左に何度も回して欲しいんですっ』

「あん? 突然なんでェい?」

『なんでも、ですぅ!』

「よ、よく分からねーが、分かりましたんで」

 

 ふよふよと浮かびながら、とりあえず言われた通りにランスのグリップ部分を回してみる。

 するとどうだろう、まるでエンジン音のような爆音と共に、槍先から大量の泡がブクブクと出てきたではないか。

 

「あんだこりゃ!? マジでバイクみてぇじゃねーか」

 

 グリップを回せば回す程、泡や水蒸気が槍から溢れ出てきやがる。

 それに、ブルーランスの表面に流れていた薄緑色のオーラもどんどんとデカくなっているような――

 

『ファムルスの魔気……! パパさん、上なんですっ!』

「チッ、色々試してやろうって時に……。少しくらい待ちやがれってェの!」

 

 言って、空高く槍を掲げて俺はグリップを左へと強く回す。

 その瞬間、明らかに音の質が変わり、槍全体が蒼く明滅しだした。

 

「も、もしかして完全にエンジンが掛かったってことか?」

 

 ……まあ、魔法さえ出りゃあ何でもいいぜ!

 

「ぷ~ゆゆんぷゆん、ぷいぷいー……ぷぅ! すいすい『スノードロップ』!」

『はわわっ!!』

 

 コロ美が驚くのも無理はない。

 なんせ、出てきたのはいつもの小さな飴玉ではなく、巨大な水泡だったからだ。

 勢い良く飛び出したそれは、ファムルスを包むとあっという間にかき消してしまった。

 炎が消えていく過程すらも無い――まさしく、一瞬。 

 

「ひゃー、なんて凄いんでしょ。スノードロップっつうより、ありゃあアクアドロップって感じだねェ」

 

 俺の想像や呪文をいささかに無視された気がするが、それでもあのファムルスをサクッと葬ってくれたのなら上出来だ。

 すっかり明滅が止まった弐式を俺は改めて持ち上げてみる。

 

「すっげぇなあ。アクアサーベル先輩には悪ィけれども、ブルーランスさんがここまで強いとは思わなかったぜ」

 

 そう感心していると、

 

『あっ、パパさんもう片方のファムルスの魔気がグングン上がっていってるんです! すぐ後ろなのですっ』

 

 へ? もう片方って……。

 

「し、しまった、そういや俺が増やしちまったんだった!」

 

 慌てて羽ばたこうとした次の瞬間。

 

『……融合開花、ラヴシャイン!』

 

 融合を終えたダッシュが長い金髪をなびかせて俺の背後に現れた。


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