魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記) 作:あきラビット
まさしく一刀両断といった具合。
時間差で大木から緑色の炎があがり、そして同時に壱式の刀身が巨大に膨れ上がっていく。
「まさか、周りの炎を吸っているのか?」
『肯定……。壱式は自分が燃やしたモノの魔気を吸えば吸うほど火力があがっていくんです』
「へぇ。それはそれは。まさか、弐式ちゃんにもそんな特別な仕様があったりするのかィ?」
『残念ですが、否定するです。あれは壱式だけなのです』
「……さすがは正式採用型大センセイといったところか」
『うーっ。確か、壱式は正式採用型じゃなかったハズなんです。でも弐式のような試作型とかじゃなくって……ええっと』
それっきり考え込んでしまうコロ美。
とにもかくにも。今はそんなことはどうでもいいワケで。
「まずは、シロツキお兄ちゃまをなんとかしねェとな……」
一回りも二回りも大きくなってしまった眩いエメラルドソードを雑に引き抜き、その裂け目から顔を覗かせる巨大な白狐。
そいつを前にして、シャオは目を丸くして一人ごちた。
「これは……。チューズデイ? いえ、でも確かピース様が言うには今のチューズデイは小さな女の子だったハズ。それに、なに? なんなのよ、この奇妙な感覚は――何者なのよ、コイツ」
酷く動揺している様子のシャオメイを見て、俺は一つ質問を試みる。
「おい、シャオ。あの化け狐の尻尾が掴んでいる刀。あれに見覚えねェか?」
「な、ないわよ……」
「……あれが霊鳴石壱式ってヤツでぇい。さっきお前さんが見つけたんじゃねーか。ほら、墓石を持ち上げてさ」
「知らないってば! あんた、なに言ってんのよ。夕方の四時くらいに取りに来るから、奪えるもんなら奪ってみろって言ったのバカてふでしょ?」
続けて、ファミレスから帰った後にパーカーの腹ポケットから手紙を見つけたことや、リスたちに飴をあげた覚えも無いことを俺に話すシャオ。
「なるほどねェ、そういうことかィ……。ようやく合点がいったぜ」
「ど、どーゆうことよ! 一人で勝手に合点いってんじゃないわよっ」
と。その時、凄まじい咆哮とともにシロツキが尻尾を振り上げたではないか。
『来るんですっ、パパさん!』
「オーケイ、わかりまし――」
「ひゃっ!?」
大狐の迫力に驚いたのか、ぺたんとその場に座り込んでしまうジュゲムなんとやらさん。
らしくない……と言うほどこいつを知っているワケではないが、それでもやはりおかしいと思うもので。
「なにやってんだァ? とっととシャドーを召喚したらどうなんでぇい」
「…………」
しかしながら、返答は無い。
ガタガタと震えながらシロツキを見上げているそいつに、俺は心の中で大きく舌打ちをした。
なんなんだァ? 本当にどうしちまったんだか。
『パパさん、あの人を心配してる場合じゃないんですっ!』
『おまえさん、回避はあななが頑張るから、今は攻撃に専念して欲しいしっ』
「わ、わーってるって」
そりゃあ、ここでこいつを見捨てるのは簡単だけれども。
簡単、だけれども――
次の瞬間、こめかみに鋭い痛みが走り、モノクロ映像が俺の頭の中に入ってくる。
くそっ、またかよ。
ダッシュ戦でゆりなが捕獲呪文を唱えたときにも似たようなことがあった気がするぜ。
とりあえずその映像を観ていたのだが……なんだ、こりゃあ。
俺が槍みたいなのを持って巨大な狐と戦っている映像――いつも愛用しているアクアサーベルっつう曲刀じゃなく、まるで神話に出てくるような三叉の槍を振り回している。
それよりも。俺の背後で震えているツインテールの少女は……もしかしてシャオか?
狐がその少女に近づこうとする度に、サイドテールを揺らして俺がそいつを撃退する。
無音で繰り広げられるその映像に、ただただ夢中になっていたとき、
「ウソ……知らないハズなのに、なによ、この懐かしい匂いのする魔気は。夜紅だからそう感じるの……? それとも――」
にじり寄ってくる白狐を見つめながら呆然と呟くシャオメイに、俺はハッと顔を上げた。
シロツキの放つ精神攻撃のせいなのか何なのか知らないが、まったくもって無防備な状態のシャオ。
女の子座りのまま呆けているそいつと、全身を激しく燃やして威嚇するシロツキ……そいつらを交互に見て、俺は下唇をギュッと噛んだ。
「ちくしょう、どうすりゃいいんだ……」
シャオは俺たちの敵だ。
こんなクソみてぇな性格のヤツなんざ、生かしておいてもロクなことになんかならない。そんなのは百も承知の助だ。
しかし、映像の俺はこいつを庇っていた。
……あんな不可解な映像なんざに従うつもりは毛頭も無いが、もしもチビ助がこの場に居たら、きっとこう言うだろう。
『しゃっちゃん、一緒にシャオちゃんを守ろうよっ!』
と。
そこまで考え、俺は頭をボリボリとかきむしった。
「だぁあ、クソめんどくせェ!」
言いながらシャオの前に羽ばたいて、上空へと杖をぶん投げる。
「……いいか、勘違いするんじゃねーぞ。俺はテメェを守るんじゃねェ。テメェを守りたいっつう、ゆりなの気持ちを守るんだからなっ!」
手を掲げて杖を掴むと同時に、俺はあの映像を思い出すべく目を閉じた。
え~っと、あの槍の形はどんなんだっけか……。
まあいいや、とりあえずテキトーにイメージしてそれっぽい名前をつけとけってなモンで!
「ぷ~ゆゆんぷゆん、ぷいぷい、ぷぅ! すいすい、『ブルーランス』ッ!」
呪文を唱えた途端、慣れた動きで即座に三叉の槍へと変化する弐式。
な、なんつーか、アクアサーベルのときよりもスムーズに変わったような気が……あれ?
『わ、すっごいデカイ槍さんなのですっ』
『ホントだし……。なんか、剣よりもゴージャスでかっちょいいし!』
チビチビとだし子がキャッキャと感想を言っている中に俺も加わりたいところだったけれども。
それよりも気になった点がある。
それは持ち直してみて気付いたんだが、槍の持ち手部分――柄が、まるでバイクのグリップのような感じになっているのだ。
もしかして、単純明快だったサーベル時とは違って、何かギミックみたいなものがあるのかねェ。
ううむ……いささかに不思議だぜ。そんなイメージなんかしていないハズなんだけどな。
普通だったら自分の想像そのままに武器や魔法が創れるんだが、この槍の場合は――
『……来るっ! おまえさん、はやく槍を構えて欲しいしっ!』
背後のだし子の声に慌ててシロツキの方へと視線を移すと、まさに口から炎を吐き出す寸前だった。
『パパさんっ、お兄ちゃまのファイアブレスは威力よりも目くらましがメインなんです! 炎だけだったら槍でなんとか防げると思うのですっ』
「オーケイ……わかりましたんでっ!」
そんなコロ美のアドバイスに一つ首肯し、俺は三叉槍――『ブルーランス』をぶんぶんとその場で大きく振り回した。