魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第九十三石:シャクヤクvs墓守の白狐

「くっ……!」

 

 すんでのところで避けたはいいが――なんてスピードでぇい。

 チッ。俺の羽だけじゃあ、いささかに心もとないぜ……。

 こうなったら、だし子を呼んで加速するっきゃねーな。

 とにもかくにも弐式が無いと始まらないので、

 

「こっちに来い、霊鳴っ!」

 

 右手を前方にかざして叫ぶ。

 そんな俺の呼ぶ声に慌ててすっとんで来たサファイア宝石を掴み、

 

「再会してすぐに壱式と戦わせてワリィな……試作型霊鳴石弐式、起動。イグリネィション!」

 

 杖へ変化させてすぐさま、

 

「コロナが魂よ、我に翡翠の水を宿せ! ぷ~ゆゆんぷゆん、ぷいぷいー、ぷうっ! すいすい――」

 

 水付与とともに呪文を唱えつつ、俺は口をモゴモゴと動かした。

 二、三回噛むと、口の中にメロンソーダ味のガムが現れる。

 さらに噛み続けて、ぷく~っと巨大なフーセン状態まで膨らませると、その中にネバっこいシャボン玉をたくさん入れるようイメージする。

 そのイメージ通りに緑色のフーセンガムの中に無数のシャボン玉が詰められたところで、俺はフーセンをちぎり、

 

「おらよ、受け取りやがれ! 『バブルガムフェロー』ッ!」

 

 睨み上げているシロツキに向かって力まかせにぶん投げた。

 後方へ飛び、尻尾をくねらせて壱式――散弾銃でバブルガムを打ち落とすそいつに、俺はニヤリと笑う。

 

「いっひっひ。予想通りってねェ!」

 

 そのまま杖を掲げて、

 

「すいすい、『エメラルドダスト』!」

 

 杖先から凄まじい勢いで噴出る水蒸気。

 それが空へと昇りかけたところで、シロツキが俺めがけて猛突進してきた。

 

「へっ。この大魔法のヤバさに気付いたのかもしれないが……阻止しようたって無駄だぜ」

 

 言った直後、ガクンと勢いを落とす白狐。

 そいつの足元にはさっきのフーセンガムが付着していた。

 ネバネバと、まるで粘着シートに引っかかってしまったネズミのように身動きが取れずにいる。

 

「いやはや。こうも上手くいくとはね。どうでぇい、俺様のバブルガムは?」

 

 唸り声をあげながら必死にもがくそいつに、俺はフゥっと息をついた。

 へへっ……溜め息が震えちまっているぜ。

 ま、そりゃそうか。シャオの手前、余裕ぶって見せてはいるが、正直言って本当に成功するとは思ってもいなかったもんで……。

 

『わわっ。パパさんの魔法面白いんです。なんか発想が凄いんです。ワクワクするのですっ』

「……んな褒められるような魔法でもねェって。昼に行ったファミレスのレジ前にガムがあっただろ? あれとコロ美と飲んだメロンソーダをテキトーに組み合わせただけでぇい」

『なるほど、なのです。じゃあ、次はコロナが貰った飛行機のおもちゃで何か創って欲しいんです』

「あのなあ……。こちとら遊びで創ってるんじゃねーんだぞ」

 

 というか。死んだお兄ちゃまが襲ってきてるっつう、とんでもない状況なのに、なんでそんなにあっけらかんとしてやがんだァ?

 普通は少しくらい動揺しそうなものだけれども……。

 なんて思っていると、霊鳴がピカッとフラッシュして発動準備完了の合図を俺に送った。

 

「おっ、もう雲が出来てるじゃねーか。早い、早いっ」

 

 そろそろバブルガムの粘着効果も切れそうだし、これ以上魔力を込めてらんねーな。

 よしっ、と。杖を振り下ろしたその瞬間、シロツキの尻尾に巻きつかれていた壱式が散弾銃から拳銃のような形へと変化した。

 

『パパさん、デネブ――じゃなくて、リボルバーモードの壱式はショットガン時より飛距離が伸びるんですっ』

「言われなくったって……そんなことっ! すいすい、口から泡マシンガンっ、『バブルガムフェロー』!」 

 

 もう一度口から小さなバブルガムを出しまくり、そのまま羽ばたいて後ろに飛び退る。

 細氷を喰らいながら撃ってるためか、やたらめったらにぶっ放される銃弾。

 ダストが氷を撃ちつくすのが先か。それとも、壱式の銃弾が切れるのが先か……。

 

『否定。霊鳴に銃弾の制限なんてないんです。無限なのです』

「そ、そりゃそーか。普通の銃じゃねェもんな……っと、うわわっ」

 

 目の前で弾けたバブルガムを見て、俺は慌てて大樹の後ろへと退避した。

 ……ふへえ。あぶねー、あぶねェ。

 たまに来る流れ弾をガムがなんとか防いでくれてるっつう状況だからまだマシだが、狙いを絞られたら一瞬で蜂の巣だぞこりゃあ。

 とにかく、ダストが時間を稼いでくれてるこの隙に!

 

「出番だぜっ、だし子!」

 

 小指にはめられた金の指輪――ゴールデンベリルにキスをする。

 ……が、一向に出てくる気配が無い。

 

『パパさんの魔力レベルだと、簡易召喚はまだ出来ないのです……』

「うっ」

 

 すっかり忘れてたぜ。呼ぶなら完全召喚じゃねーと俺の場合ダメなんだったな。

 レベルが低いっつうんなら、どっかで効率の良いレベル上げでも教えて欲しいものだけれども。

 とりあえず気を取り直し、

 

「我は欲す。汝が纏う忌むべき力を! 来やがれ、ダッシュ・ザ・アナナエルッ!!」

 

 呪文を最後まで唱え、キスをすると、

 

『おまえさん、あなな、会いたかったしっ!』

「うぐぇっ!?」

 

 ギュッと、後ろからチョークスリーパーよろしく首に抱きつかれてしまった。

 

「な、なにしやがるんでぇい、このバカ鮫! げほっ、ごほっ」

 

 咳き込みつつ、背後のそいつの頭にフロストチョップをかましてやる。

 

『あう~っ、痛いしぃ。あなな、バカになっちゃうぅ』

「……大丈夫だって、お前さんはこれ以上バカになんねーよ」

『ほっ。良かったし!』

 

 と。八重歯を見せて笑うこいつは、俺の第一の下僕であり、正式名称は確か……第八番模造魔宝石ダッシュ・ザ・アナナエルとかだっけか?

 なんとも長ったらしい名前に加え、語尾によく「だし!」をつけているから、だし子というあだなで呼ぶことにしている。

 

 バカにされてるのも分からないほどのおバカなガキんちょだけれども、これが色々と凄かったりする。

 巨大な鮫に変化してシャークドライブを楽しむことも出来れば、GFシールドっつう金色の盾を出したり、挙句の果てには俺と融合してパワーアップまでしてくれるっつう。

 

 ランクEなのに、これがまた凄まじく頼りになる模魔なワケで。

 まあ。ネム曰く、俺のために色々と無理して力を出しているみたいだけれども。

 ……うーむ。

 

「殴って、わりィ」

 

 なんとなくフワフワの金髪を撫でておく。

 すると、そいつは「えへへ」と言って照れくさそうに俯き、

 

『あなな、へーき、よゆう』

 

 お決まりの文句が書かれたメモ帳を俺に突き出した。

 ショートカットの金髪に、水色のおおきな瞳。人型時は、おそらく七、八歳くらいだろうか。

 それよりも特徴的なのは、どこかの運動会の帰りなのかと聞きたくなるほどの格好だ。

 赤いハチマキに、赤いブルマ。白い体操服の端っこには、小さく『あなな』と書かれたゼッケンが縫われている。

 

「改めて見ると、ヘンテコな格好してるよなァ、お前さん」

『……あうっ?』

 

 指を咥えて首を傾げるチビ鮫を見ていると、

 

『パパさん、のんびりお話している暇ないんですっ! 強い魔気が近づいて来るんです……!』

 

 やにわにコロ美が叫んだ。

 

「オーケイ、わかりましたんで。だし子、相手は大霊獣様だけれども……戦えるか?」

『戦えるか、じゃなくて、戦えって命令していいし! あなな、おまえさん、ゼッタイ守るっ』

「いっひっひ。頼もしい限りだねェ、まったく」

 

 シロツキ――エメラルドダストから抜け出したか……。

 だが、時間は稼がせてもらった。だし子さえ召喚出来てしまえば、こっちのモンだぜ。

 

 いつでも来いとばかりに身構えていると、いきなり上空にブラックホールが開いた。

 そんでもって、その中からシャオメイがのっそりと現れた――のだけれども。

 

「うげっ。ここが東福の森ぃ? 薄気味悪いところねぇ。本当にこんなところに霊鳴石壱式があるのかしら」

 

 そう言いながら軽い身のこなしで地面へ着地すると、そいつは赤いツインテールを手で払い、

 

「あら、バカてふ。このあたしを呼び出すとはいい度胸してるじゃない。お望み通り来てあげたわよぉ? ふふっ、夜紅様は逃げも隠れもしないんだから」

 

 と。髪の毛を指先でクルクル弄りだした。


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