魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第九十二石:壱式と咆哮

 鈍重な黒い雲が空一面に広がり、その隙間から赤暗い光の柱が地上へと降り注いでいる。

 小さいときに親父から教えてもらったのだけれども、こういった現象は薄明光線というものらしい。

 

 しかしながら。強い太陽光じゃなく、弱っちい月の光でこの現象が起きるたァ驚きだぜ。

 少しだけ顔をのぞかせている赤い満月を見上げたのち、俺はくるりと周りを見渡した。

 色という色を失った葉や木々。霧の中へ入るまではイヤというほど聞こえていた虫の声も、今は一切しない。

 

「や、やけに静かね……」

 

 珍しく不安混じりの声に、俺はふと隣を見た。

 キョロキョロとせわしなく辺りの様子をうかがっているシャオメイ。

 

「これはこれは。まさか、お前さん怖いのかィ?」

「うっさいわねぇ。あんたの方こそ、ぷるぷる震えてるじゃん。てか、あんた男なんだからあたしより先に進みなさいよ」

「い、いやはや。まことに残念ながら、今は女の子なんでさァ」

「チッ。女の子だったら、少しは可愛げってものを持ちなさいよね、まったく」

「……お前さんにだけは言われたくねェよ」

 

 そんな言い合いをしていると、またまた緑の玉が地面から浮き上がってきたではないか。

 

「!?」

 

 二人で声にならない悲鳴をあげ、ギュッと手を握りなおす。

 ジットリと汗ばむ手。一体、汗をかいているのはどちらなのか。

 つーか、どっちもだろうな。いささかに情けない話だけれども……。

 

「いったい何が始まるのかねェ」

 

 無数に現れた光の玉。それらがゆっくりと上昇していく様を固唾を呑んで注視していたとき。

 

「あら? これなにかしら」

 

 そう言ってその場に座り込むシャオ。

 手を繋いだまんまだから、それに引っ張られるように俺も座ってみたのだが――

 

「もしかして……墓か?」

 

 淡く光る玉のおかげか、薄っすらと照らされる墓石。

 とはいえ。そこまでしっかりした物でもなかった。

 手の平サイズの長細い墓石に、周りには葉っぱやら、ドングリやらが並べられている。

 かろうじて墓と分かるレベルという感じか。そもそもなんでこんな森のど真ん中に墓があるんだ?

 

「ふ~ん。ちんちくりんな墓ねぇ。死んだペットとかを埋めたのかしら」

「ああ、そうかもな。だったら、普通は墓石に何か名前が書いてあるハズだけれども」

「そうねぇ。暗くてよく見えないわ……よいしょっと」

 

 と。シャオが手をかけたとき、バランスが崩れたのだろうか、墓石が倒れてしまった。

 

「あーあ、なにやってんだか。罰当たりなヤツだねェ。こういうのはちゃんと戻しておいたほうがいいぜ」

 

 そう、俺が石を立てようと手を伸ばしたところで、

 

「……あはっ! 分かったわ、そういうことだったのね!」

 

 いきなり大声をあげたかと思うと、墓石をむんずと掴んで立ち上がるシャオメイ。

 お、おいおい……なにしてんだよコイツは。

 そんな俺の非難の眼差しに、

 

「バッカバカじゃん。あんた、まだ気付かないの?」

 

 ニヤリと、余裕たっぷりの笑みを返してきやがる。

 

「ご主人様より、あんたの霊鳴石のほうがよっぽど勘が鋭いみたいね」

「……へ?」

 

 ふと、立ち上がって右手を見てみると、いつの間にか弐式が宝石状態へと戻っていた。

 

「ど、どうしたんだァ?」

 

 思わず手を開いてみると、嬉しそうに蒼い光を放ち、ぴょんぴょんと跳ね回る弐式。

 そいつを見て、俺はようやく気付いた。

 

「まさか……それが?」

「そう――これよ、この墓石こそが壱式だったのよ……!」

 

 と、シャオが自慢げに灰色の石を天に掲げたその瞬間、低い唸り声とともにいきなり地面が揺れだした。

 

「な、なんだ!? シャオ、お前いつの間に壱式の封印を解いたんだっ」

「えっ! 違うわよ、あたしはまだ霊鳴と契約すら――きゃあ!?」

 

 あまりの揺れに足を取られたのか、すってんと転んでしまうシャオ。

 

「……ッ!」

 

 そいつの手から零れ落ちた壱式を俺は見逃さなかった。

 今だ……今しかねェ! あいつには悪いが、霊鳴を奪ってとっととこの場から退散させてもらうぜ。

 シャオより先に契約し、封印を解けば――壱式は完全に俺のモノになる……!

 そう、地面に転がっている墓石へと手を伸ばしたときだ。

 突然なにやらヘンなモノが視界に映った。

 

「……足?」

 

 白く、毛むくじゃらな巨大な足が、俺と墓石を遮るように音も無く置かれる。

 おそるおそる見上げてみると――

 

「うわああ!?」

 

 おそろしく巨大な白狐が俺を見下ろしていやがった。

 未だに地面から生まれている蛍のような緑色の光が、どんどんとそいつの体に吸い込まれていく。

 そのたびに巨体はますます凄まじい巨体へと成長していくワケで……。

 

「わわ……」

 

 腰砕けになり、あわあわと後退している俺には目もくれずに、そいつは墓石へと振り返ると、白い尻尾で器用に石を掴みあげた。

 そして――その石を自身の眼前まで持っていったかと思うと、青い瞳をスッと細める。

 

「い、一体何をしてるんだァ?」

 

 というか。この狐は何者なんだろう。

 そういえばさっきシャオが、あいつを鎮めるとか言っていたが……まさか、あいつってこの白狐のことなのか?

 微動だにしない狐を見上げながらそんなことを考えていると、

 

『お兄ちゃま……!』

 

 いきなりコロナが叫んだ。それと同時に目を見開く白狐。

 

「え、お兄ちゃまって、あの死んだシロツキとかいう霊獣――」

 

 言い終えるより前に、白狐……シロツキが甲高い遠吠えをあげた。

 途端、尻尾に巻きつかれていた灰色の墓石が淡い緑色の宝石へと色を戻し、続けざまに銃のような形へと変化した。

 その銃口から緑色の火炎が噴出したかと思うと、瞬く間に白い巨体を覆っていく。

 

「こ、こんな化け物を鎮めろってか……ムチャ言ってくれるぜ」

 

 やがて戦闘準備が整ったのか、シロツキは尻尾を――銃と化した壱式を振り上げると、とてつもない跳躍で俺に飛びかかってきた。


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